北京冬季五輪と鳴りを潜めるスポンサー

今日はこの話題です。
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1.盛り上がらない北京冬季五輪


2月4日、とうとう北京冬季五輪が始まってしまいました。

テレビでその模様を伝えているものの、いまのところ、昨年夏の東京五輪のような盛り上がりは見られず、淡々と協議だけ進んでいる印象を受けています。

普通だと、テレビでもバンバン五輪スポンサーのCMが入るところなのですけれども、殆ど見かけません。

アメリカでは今回、国際オリンピック委員会(IOC)やアメリカ・オリンピック委員会(UOC)などの公式スポンサー企業約20社はいずれも影を潜めています。1月26日までに放映が始まった関係広告はわずか2本。どちらも開催国に触れておらず、選手に焦点を絞った内容だったそうです。

過去の五輪では、五輪の平和と友愛の精神と一緒に開催国の文化をたたえる広告が中心でした。例えば、2008年夏季北京五輪ではコカ・コーラ社はコカ・コーラ飲料からストローを鳥たちが取って「鳥の巣」の形をした競技会場のレプリカをつくっていくアニメ映像を流しましたけれども、今回はそんな広告はありません。

専門家によると、今回は世界の大舞台で競う選手に焦点を絞った広告にするのが企業にとって最も無難な戦略だと見なされているそうで、IOC公式スポンサーのブリヂストンの広告は、アジア系アメリカ人のフィギュアスケート男子のネーサン・チェン選手を起用し、「出身国や人種を一切想起させない」スケート競技そのものに焦点を当てる構成になっています。

また、チームUSAの公式航空会社のデルタ航空はスノーボード選手とフィギュアスケート選手が出てくる2種類の広告を流し、北京五輪には触れていません。

更に、メキシコ料理チェーンの米チポトレ・メキシカン・グリルは大会期間中、「本物のアスリートのための本物の食事」をうたう広告を打つ予定だそうで、クリス・ブラント最高マーケティング責任者は、「地政学的な含みは一切排除したい」と述べています。

また、アメリカの広告代理店ディマッシモ・ゴールドスタインの創業者マーク・ディマッシモ氏は、バイデン政権が昨年12月に北京五輪・パラリンピックの外交ボイコットを発表した直後、顧客企業は「友愛心」、「世界の結束」、「良きスポーツマンシップ」といった伝統的な五輪のテーマは広告で打ち出さないことを決めたと話しています。

これでは、ただの世界大会と変わりません。


2.鳴りを潜める北京五輪スポンサー企業


今や、五輪スポンサー企業はじっとなりを潜めています。

東京五輪では、オフィシャルワールドワイドパートナーあった多くの名だたる企業は、ソーシャルメディアコンテンツをプッシュし、オリンピックを盛り上げていました。例えば、フランスのハイテク企業であるAtosは、準備期間中に何十回もツイートし、大会が始まるまでの数ヶ月、数週間、数日間を示すコンテンツを定期的に投稿していました。

ところが、BBCの分析によると、オリンピックのグローバルスポンサーからの北京冬季五輪に言及するツイートは、昨年の東京大会と比較して劇的に減少しているそうです。

BBCは中国の人権侵害の非難について13のオリンピックパートナーすべてにコメントを求めたのですけれども、どの企業も回答していないとのことで、2008年の北京オリンピックで、アメリカオリンピック委員会の元最高マーケティング責任者であったリック・バートン氏は、「グローバルブランドとして、中国政府を侮辱する余裕があるとは思えませんし、その気もないでしょう」と述べ、多国籍企業は「綱渡り」をしていると述べています。

また、Enodo EconomicsのチーフエコノミストであるDiana Choyleva氏は、「VisaやCoca-Colaなどは、マーケティングのプロファイルを異常に低く抑えています」とし、その理由は、アメリカの外交的ボイコットだと指摘しています。



3.ポリティコ・チャイナウォッチャー


2月2日、政治メディア「ポリティコ・チャイナウォッチャー」は専門家パネルを招集し、2022年冬季北京五輪に影響を与える問題について討論を行っいました。

出席者は民主党のジェフ・マークリー上院議員、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国ディレクターのソフィー・リチャードソン氏、米オリンピッククロスカントリースキーヤーのノア・ホフマン選手、2008年の北京夏季オリンピックを報道したジャーナリストのメリッサ・チャン氏。

パネルのおおよその内容は次の通りです。
□北京大会についての主な懸念は何か?

マークリー上院議員:中国が北京大会を主催することで、オリンピック精神が変質してしまうこと、そして国際社会がオリンピックという華やかさによって、ウイグル人に対する虐殺や香港における民主主義の冒涜という恐ろしい行為から世界の目をそらさせてしまうことを非常に懸念している

ホフマン選手:オリンピックとその開催地に責任を持つ組織である国際オリンピック委員会が、アスリートに対して責任と説明責任を果たさなければならない。これは、"このままではオリンピック・ムーブメントが成り立たない "と訴える機会だ。

チャン氏:IOCとNBCは、開催地について考え直さなければならない。オリンピックを開催するのは本当に難しくなってきており、また費用もかさんできている。権威主義的な国家にとっては、オリンピックを開催することで正当性が与えられ、ナショナリズムを支え、強化することができるため、あらゆるインセンティブが存在する。


□国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏が大会に出席したことについてはどうか?

マークリー上院議員:国連は基本的にここでの人権の役割に失敗しており、グテーレスが大会に出席するのは恥ずべきことだ。もし彼が大会で立ち上がり、中国の人権問題に注意を喚起するなら、それは勇気の瞬間となるだろうが、私は期待していない。国連はこの件に関して本当に失敗しているし、彼のリーダーシップも失敗している。

リチャードソン氏:習近平や他の人道に対する罪の罪を犯していると私たちが知っている政府高官がフリーパスを取得することを懸念している。グテーレスはこうした虐待を声高に非難することもなく、国連人権高等弁務官が長年の約束であった新疆ウイグル自治区におけるウイグル人などを標的とした残虐犯罪に関する報告書の発表を進めてもいない。その報告書を発表するときが来たのだ。今こそ、中国政府高官に残虐行為の責任を負わせるという難しいが不可欠なプロジェクトを推進する時だ。


□アメリカの選手たちは、北京大会にどのような気持ちで臨んでいるのか

ホフマン選手:私のかつてのチームメイトや今大会に向かうアスリートたちと話していて最も印象的だったのは、今回のオリンピックに向けて、彼らはスポーツやパフォーマンス、自分たちの競技に焦点を当てたチームミーティングを一度も行っていないことだ。彼らは、自分たちの価値観に全く反する政治的目的のために、ただ犠牲になっているように感じている。


□北京大会を報道する上で、メディアの制約はあるか?

チャン氏:バブルの中にいる外国人ジャーナリストは、中国をうまく取材することができない。先日オープンした北京大会のプレスルームの写真をネットで見ていた。「習近平思想」の本が山積みになっているようだが、そういうところにも目を配ってほしい。ジャーナリストとして、中国を語るには、ジャーナリストがありのままを報道することが必要だと感じている。


□北京大会の論争において、企業スポンサーはどのような役割を担っているか。

ホフマン選手:私達は、アスリートが利用されているだけで、IOCが下した決定によって絶えず損害を被っていることを何度も何度も目の当たりにしている。NBCのようなスポンサーや放送局は、中国でのオリンピック開催時に人権侵害を訴える責任があるだけでなく、このようなことが二度と起こらないようにオリンピック・ムーブメントの構造に変化を迫る責任がある。
このようにパネルでは、権威主義的な国家はオリンピックを開催することで自らを正当化し、アスリートは利用されるがままだ。国連も役に立たない。スポンサーや放送局は、中国でのオリンピック開催において、人権侵害を訴える責任があるのみならず、二度と起こらないよう圧力を掛ける責任がある、と述べているのですね。

日本の新聞、テレビといったオールドメディアでは、殆ど聞いたことのない議論です。けれども、正論であり、本来はメディアで取り上げられてしかるべき論点だと思います。

精神が失われ商業化した大会にどういう意味があるのか。権威主義国家の権威付けに使われ、アスリートがそれに利用されるのは本来の姿からはかけ離れていると思います。

北京冬季五輪開催については、IOCの対応を含めその闇が結構炙り出されてきた感があります。

オリンピックそのものが無くなるとは言いませんけれども、今後、そのあり方についての見直しというか、揺り戻しが出てくるのではないかと思いますね。


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