中露首脳会談と分断する世界

今日はこの話題です。
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1.中露首脳会談


2月4日、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が北京市の釣魚台迎賓館で会談し、両国の結束を国際社会にアピールしました。

プーチン大統領は北京冬季オリンピックの開会式に出席するため訪中しており、両氏の対面での会談は2019年11月以来のことです。

両国の発表によると、習主席は「中露は両国の根本的利益を守る努力を断固として支持する」と表明。「昨年の中露の貿易額は過去最高の1400億ドル(約16兆円)に達した」とも述べ、経済的接近を強調しました。またプーチン大統領も「中露関係は前例のないものとなった」と応じ、次世代エネルギーとして開発が進む水素を中国に供給する計画が進んでいると表明しました。

両国は、首脳会談に合わせ、ロシアから中国への天然ガスと石油の供給を拡大する契約などを結んでいます。

両首脳は会談後「新時代の国際関係と持続可能なグローバル開発に関する中華人民共和国とロシア連邦の共同声明」に署名したのですけれども、この共同声明で筆者が気になった部分を抜き出すと次の通りです。
新時代の国際関係と持続可能なグローバル開発に関する中華人民共和国とロシア連邦の共同声明

一、

・両当事者は、民主主義が全人類に共通の価値であり、少数の国のものではないこと、及び民主主義の促進及び保護が国際社会の共通の目的であることに同意する。

・民主主義と人権の擁護が他国に圧力をかけるための道具として使われることがあってはならないと固く信じている。 双方は、民主主義と人権を守るという口実で主権国家の内政に干渉し、世界に分裂的な対立を引き起こすために、いかなる国も民主主義の価値を乱用することに反対する。

・双方は、国連憲章と世界人権宣言が、人権という世界的な大義のために高い目標と基本原則を設定し、すべての国がこれを遵守し実践すべきであると指摘した。 同時に、国によって国情、歴史、文化、社会制度、経済・社会発展の水準が異なるため、人権の普遍性と各国の実情を組み合わせ、その国情や国民のニーズに応じた人権保護が必要である。


二、

・双方は「一帯一路」とユーラシア経済連合の協力を積極的に推進し、中国とユーラシア経済連合の各分野における実務協力を深化させる。

・双方は、北極圏の持続可能な開発に関する実務的な協力をさらに深めていくことで合意した。

・双方は、持続可能な輸送の分野における協力を強化し、世界の疫病からの回復を助けるために、インテリジェント輸送、持続可能な輸送、北極航路の開発と運用を含む輸送能力開発と知識交換に積極的に取り組むよう、各国に呼びかけた。

・双方は、新型コロナウイルスの追跡は科学的な問題であり、グローバルな視点に基づき、世界の科学者と協力して行うべきであると強調し、追跡問題の政治化に反対した。 ロシア側は中国とWHOが行った共同トレーサビリティ調査を歓迎し、中国とWHOの共同トレーサビリティ調査の報告書を支持する。

・双方は、互いの核心的利益、国家主権および領土保全に対する強い相互支持と、両国の内政に対する外部勢力の干渉に反対することを再確認しました。


三、

・ロシア側は、一帯一路の原則を堅持すること、台湾を中国の不可分の領土と認識すること、いかなる形の「台湾独立」にも反対することを再確認した。

・中国とロシアは、共通の近隣地域における安全と安定を損なう外部勢力、いかなる口実であれ主権国家の内政への干渉、および「カラー革命」に反対しており、これらの分野における協力を強化する予定である。

・双方はNATOの継続的な拡大に反対し、NATOに対し、冷戦時代の思想を捨て、他国の主権、安全、利益、また文明、歴史、文化の多様性を尊重し、他国の平和的発展を客観的かつ公正に見ることを求める。

・双方は、アジア太平洋地域における閉鎖的な同盟システムの構築と対立の創出に反対し、米国が追求するインド太平洋戦略が地域の平和と安定に及ぼす負の影響に強く警鐘を鳴らしている。 中国とロシアは、アジア太平洋地域において、第三国を標的としない平等でオープンかつ包括的な安全保障システムを構築し、平和、安定、繁栄を維持することに常にコミットしてきた。

・双方は、米国、英国及びオーストラリアの間の三国間安全保障パートナーシップ(AUKUS)の構築、特に原子力潜水艦等の戦略的安定に関連する分野における協力について重大な懸念を表明し、上記の行動はアジア太平洋地域の安全及び持続的発展を確保するという目的に反し、地域の軍拡競争の危険を悪化させるとともに核拡散の重大な危険性をもたらすものと考えている。

・双方は、米国の世界的な対ミサイル計画の進展と世界各地への対ミサイルシステムの配備、および先制攻撃などの戦略的任務を遂行できる高精度の非核戦力の強化について懸念を表明した。

・双方は、宇宙空間の平和利用の重要性を強調し、宇宙空間における国際協力の推進、宇宙空間における国際法の維持・発展、宇宙活動の規制における国連宇宙空間平和利用委員会の中心的役割をしっかりと支持し、今後も宇宙活動の長期的持続性や宇宙資源の開発・利用など、相互の関心事項に関する協力を強化する。

・中国とロシアは、化学兵器の破壊を完了していない唯一の締約国である米国に対し、化学兵器の備蓄の破壊を加速させるよう求めた。

・双方は人工知能のガバナンスの問題を非常に重要視しています。 双方は、人工知能の問題に関して交流と対話を強化する用意がある。

・双方は、中華人民共和国政府とロシア連邦政府との間の国際情報セキュリティの保護分野における協力に関する合意(2015年5月8日署名)を基礎として、国際情報セキュリティの保護分野における二国間協力を深化させ、近い将来、この分野における両国の協力計画を採用することに同意した。


四、

・双方は、第二次世界大戦の勝利の成果と戦後の国際秩序を断固として守り、国際連合の権威と国際的な公正・正義を断固として守り、第二次世界大戦の歴史を否定、歪曲、改竄しようとする企てに反対する。

・双方は、相互尊重、平和共存、ウィンウィンの協力という新しいタイプの大国間関係の構築を提唱・推進し、中国とロシアの新しいタイプの国家間関係は、冷戦時代の軍事・政治同盟関係のモデルを超越することを指摘した。

・双方は、国際経済協力の主要なフォーラム及び危機対応の重要なプラットフォームとしてのG20の役割を支持し、G20の連帯と協力の精神を共同で推進し、国際的な疫病対策、世界経済の回復、包括的かつ持続可能な開発の促進、公正かつ合理的な世界経済ガバナンスシステムの改善において主導的な役割を果たし、グローバルな課題に共同で取り組んでいくことを表明。

・双方は、途上国・新興市場国、地域統合機構、組織との対話のための効果的なメカニズムとして、BRICS+モデルとBRICSダイアログにコミットしている。

・双方は、安全保障上の課題や脅威に対する上海協力機構(SCO)加盟国の対応を改善するための合意を実施することが重要であると考えており、そのためにSCO地域反テロ対策機構の機能拡大を支持する。

・双方は、地域の主要な多国間経済対話プラットフォームとしてのAPECの役割を引き続き強化し、APECブトラジャヤ・ビジョン2040の実施に関する協力を強化し、自由、開放、公正、無差別、透明、予測可能な地域貿易・投資環境を構築し、ニューカッスル肺炎の流行への対応強化に注力し、経済回復を促進し、様々な分野におけるデジタル変革を促進し、遠隔地の経済を活性化させる。

・双方は、中露印メカニズムの枠組みの中で協力を継続し、東アジアサミット、ASEAN地域フォーラム、ASEAN国防相会議などのプラットフォームにおける協力を強化する。
一読して、中露双方の言い分を互いに支持し、それぞれ相手の後盾を得るような内容であるという印象を受けました。

まず、民主主義といってもそれぞれの国の実情を加味せねばならず、押し付けの道具にしてはならないと、西側諸国による対中包囲網を牽制。続いて、一帯一路とNATO不拡散を支持。北極圏開発と宇宙開発。そしてBRICSと上海協力機構改善と、内政、外交に渡って中露がかなりの部分で共同歩調を取るかのような内容に見えます。

予想以上に中露が接近していると見てよいのではないかと思います。


2.世界が責任ある大国に期待すること


これに対し、2月4日、アメリカのクリテンブリンク国務次官補は電話記者会見で、中露首脳会談について言及し、ロシアに自制を求めず、理解を示した中国の姿勢を批判したと報じられています。

そのやり取りはおそらく国務省の「オーストラリア、フィジー、ハワイへの長官出張に関するブリーフィング」のことだと思いますけれども、ブリーフィング名で分かるとおり、中露首脳会談について国務省自ら会見した訳ではなく、記者質問に答えたものです。

そのやり取りを抜粋すると次の通りです。
質問者:みなさん、こんにちは。 ジャリナさん、ありがとうございます。皆さん、ありがとうございます。 ちょっとだけ。 今日のロシアと中国の発表を踏まえて今回の出張の重要性についてお話いただけないでしょうか。 また、米国はインド太平洋地域における統一戦線の強化に取り組んでいますが、今回の訪問があなたの優先事項に加える課題、あるいは緊急性はどの程度でしょうか? また、台湾とウクライナの観点から、この新しい協定についてコメントいただけますか? また、台湾とウクライナの観点から、この新しい協定についてコメントをいただけますか? また、その点についてはどうお考えでしょうか? ありがとうございました。

クリテンブリンク国務次官補:質問ありがとう。 ブリンケン長官が今回の訪問に踏み切った最大の理由は、まず、米国と米国民の繁栄と安全保障にとってインド太平洋地域が重要であることを示すためであることを、最初に強調しておきたい。 インド太平洋地域は、わが国の国益にとって絶対的な中心であり、やはりわが国の安全と繁栄に大きな影響を与えるだろう。

次に、長官はインド太平洋地域、特にこの地域の最も重要なパートナーや民主的同盟国に対する米国のコミットメントの強さと信頼性を示すことになる。 冒頭で述べたように、私たちは、私たちのパートナーシップが、自国民とこの地域の人々に実際的で実質的な利益をもたらしていることを示すつもりだ。

さて、本日北京で行われたプーチン大統領と習主席の会談に関するご質問だが、繰り返しになるが、私は今日、特にそれに答えるためにここに来たわけではない。 むしろ、インド太平洋に対するアメリカの長期的なコミットメントと投資に焦点を当てるために来たのだ。 ただ、今回の会談と、あなたが言及された声明について、2つほどコメントをさせて欲しい。

プーチン大統領と習主席の会談、そしてロシアと中国の共同声明は、両国が以前からとってきたアプローチ、つまりより緊密に連携していこうという姿勢を反映していると言ってよいと思う。 しかし、ロシアがウクライナの主権と領土を直接脅かし、国境に10万人以上の軍隊を配置している中での会談であることに注意する必要がある。

この会談は、中国がロシアに対して、ウクライナにおける外交と非エスカレーションを追求するよう促す機会となるはずだった。それこそが、世界が責任ある大国に期待することだ。 もしロシアがさらにウクライナに侵攻し、中国がそれを見て見ぬふりをするならば、中国は、ウクライナを強要するロシアの努力が、北京を困らせ、ヨーロッパの安全保障を損ない、世界の平和と経済の安定を脅かすものであっても、容認あるいは黙認しようと考えていると示唆するものだ。 残念ながら、我々はこのような事態を以前にも経験している。 ロシアが北京オリンピックの開催中に主権国家に対する侵略をエスカレートさせたのは、今回で2度目だ。 前回は2008年の北京オリンピックの開会式中にロシアがグルジアに侵攻した時だ。 アメリカは、ロシアがこの危機を作り出して以来、同盟国やパートナーと200回近く外交的な関わりを持ってきた。 ロシアがさらにウクライナに侵攻した場合、インド太平洋を含む同盟国やパートナーと協力し、断固とした対応をとることに注力している。

先ほど台湾のことも聞かれたが、台湾については、私は、台湾問題に対するアメリカの政策は明確であり、長年にわたるものだと思う、とだけ申し上げておきたい。アメリカは、台湾関係法、3つの共同声明、台湾への6つの保証に基づく「一つの中国」政策を持っている。 我々は、台湾海峡の平和と安定の維持に努めており、アメリカの政策は今後も一貫していくだろう。 ありがとう。
このやり取りを見る限り、アメリカの主張は「この会談は、中国がロシアに対して、ウクライナにおける外交と非エスカレーションを追求するよう促す機会となるはずだった。それこそが、世界が責任ある大国に期待することだ」の部分であると思われます。

つまり、習近平主席はプーチン大統領に対しウクライナ進攻するなと忠告すべきであったのに、そうしなかったと非難しているのですね。

けれども、米中対立し、対中包囲網を引いている最中、中国にしてみれば、中国包囲網に入っていないロシアを味方に引き込むよう動くことは当然であり、容易に想像できることです。

よもや、それさえも分からないアメリカではないとは思いますけれども、中国と対立するのにロシアも敵視してしまっては、中露が近づくことは自明の理です。むしろロシアを西側に引き入れることで、より中国をがっつり包囲していく戦略を描くことができなかったのが現状を招いているのではないかと思います。


3.中露を分断すべし


自民党の青山参院議員は、ロシアが全体で28万の陸軍のうち、十数万をウクライナ周辺に展開することが出来たのは、極東をがら空きにしても問題ないようにした、すなわち中国を手を握っているからだ、と指摘しています。

昨年11月、中露海軍が日本列島を一周して騒ぎになったことがありましたけれども、この文脈で考えれば理解できます。

もし、ロシアを中国側に追いやることがなければ、プーチン大統領は大兵力をウクライナに振り向けることが出来なかったことになりますから、今のウクライナ情勢も起こっていなかったのかもしれない訳です。

青山氏は、かつて岸田総理が林芳正氏を外相に据えたのは、米中の仲介を期待したからだと、述べていましたけれども、対中包囲網を考えれば、仲介すべきは米露であると思います。

岸田総理にそれができる甲斐性があるとは思いませんけれども、少なくとも、これ以上中露を近づけさせないような何等かの手立ては考えておくべきではないかと思いますね。




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