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1.相互の懸念事項を交渉する用意がある
2月6日、アメリカのサリバン大統領補佐官は、複数の米テレビのインタビューに応じ、ロシアがウクライナに軍事侵攻した際に中国がそれを支持すれば「何らかの代償を伴うことになる」と警告しました。
ABCの「This Week」で、サリバン大統領補佐官は「ロシアが前進することを選択した場合、ロシアにとって戦略的コストがかかるだけでなく、中国がそれを支持したと見なされた場合、世界の目、ヨーロッパの目、そして今見ている他の国々の目、戦争よりも外交を好むという明確なメッセージの中で、中国にもコストがかかるだろう」と述べ、「Fox News Sunday」では、中露首脳会談での共同声明に、ウクライナという言葉がないことも注目に値すると指摘し、「中国はウクライナに関するロシアの応援にそれほど乗り気でないことを示唆している」と述べました。
また、サリバン大統領補佐官は、「我々は、同盟国やパートナーと共に、ヨーロッパの安全保障に関して、相互の懸念事項を交渉する用意がある。さらに透明性を高め、海や空で事故が起きたときに間違いやエスカレートの可能性を減らすメカニズムも含まれる。我々は、冷戦時代やそれ以降の過去数十年の間に行ってきたように、そのすべてを行う用意がある……ロシアがそのテーブルにつきたいのなら、同盟国やパートナーを伴ってやってきて、その線で結果を交渉する用意がある……もしロシアが別の道を選ぶのであれば、我々はその準備もできている」と述べました。
過去を振り返ると、冷戦真っ只中の1962年のキューバ・ミサイル危機の際、アメリカは米ソ核戦争の危機を回避するために、アメリカがキューバを攻撃しないという条件で、ソ連側がミサイル撤去に同意し、更にトルコにあるミサイルの撤去も密約として両国間で合意したことがあります。
それを考えると、サリバン大統領補佐官の「冷戦時代やそれ以降の過去数十年の間に行ってきたように、そのすべてを行う用意がある」という物言いは、妥協するというサイン、つまりウクライナのNATO加盟に賛成しない、させないという密約を結ぶ用意があるというメッセージではないかとも思えてきます。
2.5000個のヘルメット
サリバン大統領補佐官は、ウクライナ国境付近に展開するロシア軍について「今すぐにでもロシアは軍事侵攻できるし、数週間後かもしれない」と危機感を示していますけれども、EUは対ロシアで一枚岩という訳ではありません。
エストニアを含むバルト3国はロシアの脅威を深刻視し、これらの国に備蓄されている対戦車ミサイルなどのアメリカ製武器のウクライナへの再輸出を認めるよう要請し、アメリカはこれを承認しました。またイギリスやポーランドも武器供与を進めています。
その一方、消極姿勢を貫いている国もあります。
ウクライナはドイツの軍艦や防空システムの供与を求めているのですけれども、1月18日、ドイツのショルツ首相は「ドイツは致死的な兵器を輸出しない」と明言。ドイツはエストニアが旧東独製の榴弾砲をウクライナに送ることも許可しなかったとアメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じています。
また、イギリスがウクライナに武器供与する際、最短ルートとなるドイツ領空の通過を避け、あえて迂回ルートをとった事実も報じられています。イギリス国防省は武器空輸に際し、ドイツに領空通過の許可を求めなかったことを認めており、表立って許可を求めれば事態が複雑化することを察し、配慮したとみられています。
もっともドイツはウクライナに対し、何もしていない訳ではありません。
1月26日、ドイツはウクライナにくヘルメット5000個を供与すると発表。ドイツのランブレヒト法務相は、ウクライナへの連帯を示す「非常に明確なシグナルだ」と述べました。確かに連帯は別として"武器は供与しない"という明確なシグナルだとは思います。
これにウクライナは激怒。首都キエフのビタリー・クリチコ市長はドイツ日刊紙ビルトに対し「言葉を失った……我々が対峙しているのが装備の整ったロシア軍で、いつ侵攻が始まってもおかしくないことを理解していない……ヘルメット5000個なんて冗談もいいところだ……次は何を送るつもりだ? 枕か?」と皮肉交じりに批判しました。
3.ドイツは信頼できる同盟国ではなくなった
こうしたドイツの対応に、アメリカは不信感を募らせています。
1月24日、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙は「ドイツは信頼できるアメリカの同盟国ではない」という寄稿を掲載し、「ドイツは、ロシアの利益を欧米側の利益よりも優先するという、異なった対応を示している……ドイツはもはや信頼できる同盟国ではなくなったということだ。ドイツにとっては、安価なガス、中国向け自動車輸出、そしてプーチン氏を怒らせないことが、民主主義に支えられた同盟諸国の結束よりも重要なように見える」と厳しく批判しています。
それでも一応、ドイツはロシアに対し経済制裁を警告し、独ロ間をつなぐ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働について、関連企業の法令順守基準がクリアされるまでは認可しない方針をロシア側に明示したとされています。
けれども、現実にこれをやり過ぎてしまうと、今度は自分の首を絞めてしまうことになります。
現在、ドイツは過去最悪の電力不足とそれに伴う電気料金の高騰に直面し、平均世帯の電気料金が2022年に前年比60%超値上がりする見通しとされています。そんな中、メルケル前首相時代に決まった石炭火力発電と原子力発電を廃止する計画を実行に移しました。
こんな状況で、果たしてドイツが貴重な天然ガスパイプラインを止め続けることが出来るのかどうか疑問が残ります。
実際、ドイツは「ノルドストリーム2」を凍結するとは公の場で確約していません。しかも、外交筋によると、西側諸国が対ロシア追加制裁の発動に踏み切る場合でも、ロシア産ガスの購入を継続できるよう、ドイツは例外扱いすら求めているそうです。
なるほど、これではバイデン政権が日本などに対し、天然ガスをEUに回してくれ、と奔走する訳です。
4.世界はバイデンを相手にしなくなった
ドイツに限っていえば、軍もやる気はないようです。
1月22日、ドイツ海軍のカイ=アヒム・シェーンバッハ司令官は、ウクライナ情勢に関する自らの発言が物議を醸したとして辞任しました。
シェーンバッハ司令官は1月21日、インド・ニューデリー訪問中に現地の防衛シンクタンクで講演した際、ロシアがウクライナを侵攻しようとしているなど、馬鹿げた発想だとし、プーチン大統領は、西側から対等に扱われたいだけだと述べました。
シェーンバッハ司令官は、プーチン大統領について「彼が本当に求めているのは敬意で、それを与えるのは簡単なことだし、おそらくあの人は敬意を払うに値する」とも発言し、ロシアが2014年に併合したクリミア半島について、「あそこはもう失われた、もう二度と戻ってこない」と述べたそうです。
ところが、この講演の動画がユーチューブに公表されると大騒ぎになりました。
ウクライナ外務省は「絶対的に容認できない」と強く反発し、ドイツ大使に抗議するなどの事態となり、シェーンバッハ司令官は「これ以上の悪影響を避けるため」、辞任することになった訳です。
このようにドイツは、ウクライナ政府から「ウクライナへの兵器移転を拒否し、NATO加盟国による提供も阻止しようとするなど、ドイツ政府が西側の連帯を阻害している」と非難されているのですけれども、これについて、評論家で『インターネットテレビWiLL増刊号』編集長の白川司氏は、裏ではロシアと繋がっている反ロシアっぽい国であり、中国に対しては蜜月であるとし、誰の敵にも誰の味方にもならない外交を通じて、実質、親露・親中になっていると指摘しています。
更に白川氏は、元々対露軍事同盟であったNATOは、対露から対中に組み替えようとしているものの、対露のままで残したいとする内部勢力とウクライナ問題を通じて、駆け引きが行われているのだとも述べています。
これを聞く限りでは、ロシアがウクライナを進攻するという単純な構図ではないことになります。
とすると、このタイミングでアメリカが、わざわざ、中国を名指ししてロシアを支持したら代償を払うことになると釘を刺した狙いも見えてきそうな気もします。
それは、「もしも中国がNATOの分裂工作をしていたのなら、ただでは済まさないぞ」とか、あるいは、「ウクライナ問題は、ロシアと交渉して妥協する積りでいるが、だからといって台湾などで変な真似するんじゃないぞ」とか、脅しというか、牽制している面があるのではないかということです。
とはいえ、このような状況で、果たしてアメリカのバイデン大統領がリーダーシップを発揮できるのか。
これについて、認知科学者の苫米地英人氏は、世界各国は、既にレームダックとなったバイデン大統領を相手にせず、その次の"トランプ大統領"を相手に交渉する積りで色々動き出していると述べていますけれども、あるいはそうなのかもしれません。
だとすると、バイデン大統領は、今後、何もできずに終わることになります。2024年まであと2年。それまでは世界の不安定化が加速するかもしれませんね。
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