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1.プーチンは苛立っている
3月8日、アメリカのバーンズCIA長官は下院情報特別委員会で、ロシアのウクライナ侵攻についてプーチン大統領の当初の想定通りには進んでいないとの見方を示し「プーチン氏は憤り、苛立っている」と述べ、ロシア軍が市民の巻き添えを顧みずに攻勢を強める恐れがあると警告しました。
同じく、ヘインズ国家情報長官も証言し、プーチン氏はウクライナの抵抗や欧米の制裁を受けても侵攻を思いとどまる可能性は低く、侵攻をさらに加速させるかもしれないと分析していると明らかにしました。
では、戦況はというと、朝日新聞記者の高野遼氏によると、アメリカ国防総省は次のように分析しているとのことです。
【全体情勢】このように、現時点では、ロシア軍の消耗度合いは限定的で、制空権をめぐってもロシアが優位性を得つつあるとしています。
・ロシア軍の戦闘力の95%は使用可。破壊・使用不能となった戦車などは一部
・ウクライナ軍の戦闘力も大半が使用可
・ミサイル発射は総計670発
・全体の制空権は争いが続くが、特に北部でロシアが優位性を確保
・ほぼ全土がロシアの地対空ミサイルの射程圏内にある
【キエフ情勢】
・ロシア軍は3方向からキエフ包囲を目指す
・1)北西からはホストメル空港付近、2)北からはチェルニーヒウで停滞、3)新たに北東スムイ方面からの部隊がキエフまで60キロ地点に前進
・郊外からのミサイル攻撃も交え、確実に圧力を強めている
【南部情勢】
・北部より進展が目立つ
・ムィコラーイウには郊外からの攻撃続く。制圧後は水陸両面でオデッサに向かう狙いか
・マリウポリは孤立し、南北から攻撃を受けている
・ロシア軍は黒海に10~11隻の戦車揚陸艦(LST)。待機する上陸部隊の規模は不明
【米国の動きなど】
・直近に表明した3.5億ドルの軍事支援はほぼ到着。異例のスピード
・人道回廊。侵略者であるロシア側に向けた退避ルートの設定に、ウクライナが怒るのは理解できる。米国は交渉には関与せず
・米ロ間の軍レベルでのホットラインは機能。開通確認のみ継続中
2.暗殺を恐れるプーチン
苛立っているのはプーチン大統領だけではありません。
プーチン大統領周辺とロシアの世論について、筑波大学 中村逸郎教授は「政治的判断がおかしくなっているというところに、多くの人々が既に気づき始めています。プーチン大統領は今、非常に弱ってるので、暗殺が起こる可能性がとても高くなってきています。彼自身、テロとか暗殺とか、そういうものを非常に警戒していますので、一つの場所にずっと居続けるっていうことは考えにくくて、場所が特定されないように転々と居場所を変えていると思います」と暗殺の可能性に触れています。
また、ウクライナ侵攻への影響についても「プーチン大統領はやることが全て誤算、そして、周りの人がどんどん離れていくということで、かなり焦っているのかなと思います。今一番、私が注目しているのは、ロシア軍の中でさえプーチン離れというのが起きていることです。ですから、現場の兵士たちの士気も下がってきている。こういった国民の動き含め、プーチン大統領にとっては非常に痛い所です」と求心力の低下も指摘しています。
実際、プーチン大統領のロシア国内での支持率も、ロシアFOMの調査で侵攻前の2月20日には64%だった支持率が、侵攻後の27日には71%となっているものの、中村教授は、一般的な世論調査では70%ある一方、インターネットの世論調査では10%未満だとし、「世論調査では、名前や住所など特定されますが、そういった調査になると、かつてのプーチン大統領に強権的なイメージがありますので、やっぱりプーチン支持があるのですが、若い人たちはインターネットを遮断されたりして、プーチン政権に対する不満というものが吹き出してきています」と述べています。
また、アメリカの元CIA諜報員で、プーチン大統領がKGBに所属していた頃から知るジョン・サイファー氏も「プーチン氏は暗殺を恐れていると思います。引きずられ、撮影され、血まみれになることを恐れていると思います。私はプーチン氏がモスクワから避難したとは思いません。彼は長年、自らを守る体制を作ってきました。取り巻きの多くが元KGBなので、プーチン氏には忠実です……彼の行動はエスカレートすると思います。彼はウクライナの抵抗を誤って判断してしまったことを恥じていると思います。国際社会で恥をかいたので、ウクライナを破壊するためにできることをすると思います」と指摘しています。
3.言い訳の準備を始めた中国
この状況を見ている中国はロシアから少し距離を取り始めました。
中国外務省の趙立堅副報道局長は、3月8日の会見で、記者からロシアはウクライナを『侵攻』したのか明確に答えてほしいと問われ、しつこく聞く意味があるのか?この質問にはすでに何度も答えた。次の質問は?」と逆切れしてみせ、あくまで「侵攻だ」との認識は示しませんでした。
これまで、ロシアの主張に理解を示し批判を避けてきた中国ですけれども、国際社会からロシア寄りと指摘されることに警戒を強めているとみられています。
そんな中国のブレに対し、ロシアも微妙な反応をしています。
3月7日、ロシア政府は、48の国や地域について、ロシアやその企業、国民に対する「非友好的な国・地域」に指定したと発表しました。ロシアの企業や個人が、これらの国や地域と行う取引や決済にはロシア当局の許可が必要になるなどの制限がかけられるとしています。
この日発表されたリストには、ウクライナ侵攻に伴う対露制裁を実施している国や地域が掲載されており、事実上の対抗措置とみられるのですけれども、日本、アメリカ、欧州連合(EU)加盟27ヶ国、英国、韓国にならんで台湾も指定されています。
タス通信は台湾の指定について「Taiwan (considered a territory of China, but ruled by its own administration since 1949.:中国の領土とされるが、1949年以降は独自の政権によって統治されている)」と表記しています。
要するに、建前は中国の領土だが、事実上独立している、といっている訳です。
これは中国の態度に対する苛立ちともいえるし、また、さっさと台湾に進攻して、ロシアに対する世界の圧力を分散させろ、と催促しているようにも見えます。
もっとも、中国とてただロシアの催促をスルーしている訳でもありません。
3月7日、習近平主席が、全人代の軍と武装警察の分科会に出席し「海外関連の軍事活動に関する法治作業の加速」を指示したと新華社通信が伝えています。
この分科会で、習近平主席は「国防と軍隊建設の法治化の水準を高める必要がある……全軍が戦争準備をしっかり進め、各種の突発状況に適時かつ有効に対処し、国家の安全と安定を維持する必要がある」と述べたそうなのですけれども、中国軍を海外に派遣して活動させる根拠法の整備を進める意向とみられています。
これは裏を返せば、今のままで台湾進攻しても、世界から袋叩きにあって孤立してしまうから、"言い訳"できるように法的な理論武装をもっとやっておくように、という危惧の現れではないかと思います。
4.衝撃と御粗末作戦
今回のロシアのウクライナ侵攻は、世界に「ロシア軍の弱さ」を世界に見せつけることになりました。
ジャーナリストで元米陸軍情報分析官のウィリアム・アーキン氏は「ウクライナ侵攻の最初の3日間でわかったことは、ロシア軍が西側の脅威にはなりえないほど弱かったことだ」と述べ、その原因として大きく「ロシアが自軍の戦力を過大評価していた」ことと「ロシア軍の練度の低さ」を挙げています。
前者について、ロシア軍は当初、意図的に民間人や民間施設を攻撃しないことで、国際社会との親善の姿勢を少しでも維持しようとした可能性があったことと、ウクライナに侵攻しているロシア軍の規模は総計15万人であるものの、約15ヶ所から分かれてウクライナに侵攻しているため、個々の攻撃の威力は分散されており、これらは、自国の軍事力を過大評価してウクライナをすばやく占領できると考えたロシア側の誤算を示していると指摘しています。
そして、後者については、装備の数ではロシアが圧倒しているにも関わらず、アメリカ情報筋によると、戦闘が始まってから3日後に、ロシア軍は1日に約1000人の死傷者を出し、ウクライナ軍もほぼ同程度の死者を出していると見られていることやロシア軍からは戦闘開始から数日で脱走兵が出始め、戦わずに降伏する部隊が出ていることが報告されていることを挙げています。
更に、ロシアによるミサイル攻撃についても、侵攻開始後の3日間にロシア軍が狙いをつけた照準点の数は、イラク空爆開始時にアメリカ軍が狙いをつけた照準点約3200ヶ所余りの4分の1にすぎなかったこと。アメリカ情報機関の初期分析で、ロシア軍は1万1000個の爆弾とミサイルを撃ったにも関らず、照準点に命中したのは820個で、命中率は7%程度だったことを挙げています。
命中率についていえば、2003年のアメリカ軍のイラク侵攻では80%を超えていたことと比べるとあまりにもお粗末です。
あるアメリカ空軍の退役将校は、ロシア軍の命中率の低さでは「一連の攻撃による相乗効果が得らない」とし、「ロシア軍はばらばらの攻撃に終始しているようだ……連携のとれた攻撃は、彼らには複雑すぎて実施できないのだろう」と述べたそうです。
5.住民なき非武装
2月27日、プーチン大統領は核抑止部隊に「戦闘任務の特別態勢」に入るよう命じましたけれども、西側観測筋は、これは核戦争に対する備えを一段と引き上げることを意味し、ロシアの軍事作戦が失敗した場合に備え、考え得るあらゆるNATOの介入を事前に封じるため核をちらつかせたのだろうと分析しています。
ウクライナとの停戦協議もプーチン大統領が作戦の失敗に備えて打っている手の一つであり、軍事に詳しい観測筋は、プーチン大統領にとって最善の軍事的な成果は、キエフとハリコフ、そしてクリミア半島に隣接する地域を交渉の切り札にして、ウクライナは西側同盟に加わらない、公然と「中立化」を宣言する、NATOと連携しないなど「安全保障上の保証」を取り付けることだと見ているようです。
前述のアーキン氏は、「いま求められているのは封じ込め、国家を弱体化させる経済戦争、核軍縮協議だといえるだろう。だが一方、ロシアの視点に立てば、軍隊の弱さが露呈したことで、核保有が自国の真の強みだという認識が強まったはずだ。国家を維持する、少なくとも現在ロシアを支配している政治体制を維持するためには、核の威力がかつてなく重要な意味を持つ」と述べていますけれども、核に対する警戒は何も核ミサイルだけではありません。
先日、ロシア軍はウクライナ南部のザポリージャ原発を攻撃し、占拠しましたけれども、これについて嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、占拠した原発を意図的にコントロールしない(冷却しない)ことで、原発を暴走させてわざと原発事故を起こさせる可能性を指摘しています。
その狙いは周辺を放射能汚染することで誰も住めないようにすることで、結果としてウクライナの「非武装化」と「中立化」を実現するというのですね。
核ミサイル使用とならぶ最悪のシナリオです。
★3/10 7:00現在、チェルノブイリ原発の電源喪失したというニュースがあるようです。
停戦交渉がどうなるか分かりませんけれども、ロシアとウクライナのどちらか、あるいは両者が妥協する余地があるのかどうか。非常に厳しい状況が続くことは覚悟しないといけないかもしれませんね。
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