プーチンの世界構想と相手にならないバイデン

今日はこの話題です。
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1.制裁は西側に跳ね返る


3月10日、ロシアのプーチン大統領は、政府の会議で、ロシアがウクライナで行っている特別軍事作戦に代わるものはなかったと発言しました。

そして、ロシアは短期的な経済的利益のために主権を妥協することを受け入れることができなかったし、ロシアへの制裁はどのような場合でも課されただろうとした上で、「疑問や問題、困難があっても、われわれは過去に克服してきたし、今回も克服する。最終的にこれはすべて我々の独立、自給自足、そして主権の拡大につながるものだ」と述べ、ロシアは、欧州で天然ガスの3分の1を供給する主要なエネルギー生産国だが、各国地域から包括的な制裁を受けながらも、契約上の義務を果たし続けるとしました。

更に、プーチン大統領は、アメリカがロシア産原油の輸入を禁止したことで「物価は高止まり、インフレは前代未聞の高さとなって歴史的な水準に達している。彼らは自分たちの過ちの結果をわれわれのせいにしようとしているが、われわれは全く関係ない……我々は冷静に対応しながら、諸問題を解決していくことに疑いの余地はない。人々はいずれ我々が閉鎖して解決できないような出来事は単純に存在しないことを理解するだろう」と、ロシアに対する制裁は食料やエネルギー価格の上昇といった形で西側諸国に跳ね返るという考えを示しました。


2.各国企業のロシア撤退加速


同じく3月10日、ロシアとウクライナはトルコのアンタルヤで1時間半にわたり外相会談を行いました。ロシアのウクライナ侵攻開始以来、最も高位の当局者による両国の直接会談だったのですけれども、進展はなく、ウクライナのクレバ外相によると、ロシアは要求が満たされるまで攻撃を継続すると通告したとのことです。

この日、ウクライナでは4都市から合わせて約1万3600人が退避。ベレシュチュク副首相は南東部の港湾都市マリウポリの支援確保が最大の課題だと述べていますけれども、民間人への被害が広がっているようです。

この会談後、EUはフランスのベルサイユで首脳会議を開催し、ウクライナのEU加盟プロセスを迅速に進めるかどうかを巡って議論したのですけれども、結論には至りませんでした。

既にEUを始め、世界各国はロシアに対する制裁を強めています。

アメリカのゴールドマン・サックス・グループはウォール街の大手金融機関で初めてロシア撤退を発表。JPモルガン・チェースもロシア事業の縮小を表明しました。また、自動車メーカーのステランティスもロシアとの輸出入を全て停止するとし、その他、ディズニーのロシア国内の全事業停止やJTのロシアでの新規投資・マーケティング活動を一時停止など、西側や日系企業の間で撤退や事業停止が相次いでいます。

この事態に、ロシアのペスコフ大統領報道官は、記者団との電話会議で「国内経済は現在、衝撃的な影響に見舞われており、負の結果が出ているが、今後、最小限に抑えられる」と沈静化と安定化に向けた対策がすでに導入されつつあるとしたものの「これは全く前例がない。わが国に対して始められたような経済戦争は過去に例がない。このため、何事も予測が非常に難しい」と苦境に陥っていると漏らしました。


3.ドル覇権に対するプーチンの挑戦


現在、ロシア経済は、西側の経済制裁によってガタガタになっています。通貨ルーブルの相場は2月半ば頃まで1ドル=75~80ルーブルで推移していたのが急落し、3月7日には過去最安値となる一時151ルーブルをつけました。

更に、国債などの格付けも下がっています。

この状況に経済評論家の山本伸氏は「最大の経済制裁といわれるSWIFT排除も想定済みだったはず。自国経済がボロボロになってまでムチャなことができたのは、ロシアが大人民元構想に参加、つまりは中国など反米国家とともに東側経済圏を築く確約があるからではないか。そう考えると、さまざまなことが合点がいく」と述べています。

山本氏によると、SWIFTからの排除はロシアにとって西側経済圏との決別を意味するのですけれども、これをきっかけにロシア国内の通貨を人民元とし、中国の「大人民元構想」に参加。ロシアと中国のほかにインド、ブラジル、ベネズエラ、イランなどを参加させて、新興5ヶ国であるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のうち南アフリカを除く4ヶ国が参加する東側経済圏が誕生するというのですね。

山本氏は「中国は政治的には一国二制度の50年保証を破って、実質的に香港を力で吸収。経済面では開放市場経済から共産主義への回帰を図っていて、分かりやすいところでは巨大な富を成した大企業を国有化するなど、西側諸国とはかけ離れた政策を始めた。またドル基軸通貨体制に不満を持つ中国にとって、大人民元構想の実現は悲願。よく状況を見ると、ロシアの行動とのリンクが偶然とは思えない」と指摘しています。

このように山本氏は、プーチン大統領は東側経済圏の確立を狙っていると述べているのですけれども、これは要するにドル覇権に対する挑戦なのではないかと思います。


4.BRICイスラム・アフリカ資源経済圏


2月26日、ロシア国内向けメディアのRIAノーボスチが誤って、ウクライナ侵略についてのロシア側の勝報を掲載していたことが明らかになりました。

件の記事はすぐに削除されたのですけれども、全文がインターネットアーカイブに保存され、こちらから確認できます。

記事では、「ウクライナはロシアの手に戻った」とか、「ロシア、ベラルーシ、ウクライナの3つの州が地政学的に単一の存在として行動している」とか「我々の目の前に新たな世界が生まれた」などとロシアの勝利を祝っているのですけれども、筆者が注目したのは最後の一文です。それは次の通りです。
中国とインド、ラテンアメリカとアフリカ、イスラム世界と東南アジア - 誰も西洋が世界秩序を支配しているとは思っていないし、ましてやゲームのルールを決めているわけでもない。ロシアは欧米に挑戦しただけでなく、欧米の世界支配の時代が完全かつ最終的に終わったことを示したのである。新しい世界は、すべての文明と権力の中心地によって、当然ながら、西洋(統一されているかどうかにかかわらず)と共に築かれることになる。
はっきりと、ロシアは欧米に挑戦し、欧米の世界支配を終わらせた、と書いています。そこには、ドル覇権を崩し、別の経済圏を作ろうという願望が浮かんでみえます。

そして、そのロシアが作る経済圏には、おそらくは、記載しているとおりに「中国、インド、ラテンアメリカ、アフリカ、イスラム世界と東南アジア」を取り込むのでしょう。しかもこれらには、ラテンアメリカ、アフリカ、イスラム世界という資源国と中国、インド、東南アジアという消費国、大市場国がどちらも含まれています。

確かにこれらすべてをロシアの新経済圏に取り込むことが出来れば、経済をこの中で回していける可能性があります。


5.プーチンの軍事プレゼンス


では、本当にそれが実現できるのかというと、ないとは言い切れません

2月16日、プーチン大統領はブラジルのボルソナロ大統領とモスクワで首脳会談を開いています。ロシア大統領府によると、首脳会談では協力関係をさらに深めるための共同声明を採択したとのことで、プーチン大統領は「グローバルな問題などでは、多くの点でロシアとブラジルの立場が近い、あるいは一致している」と強調しています。

今回のロシアのウクライナ侵攻についても、3月2日に国連総会の緊急特別会合で「ロシアに対して軍事行動の即時停止を求める決議案」が採択され、ブラジルは賛成票を投じたものの、ボルソナロ大統領は、3月3日付の現地政府系メディア「アジェンシア・ブラジル」で「ブラジルはバランスの取れた立場を維持する。この問題をブラジル単独で解決することは難しいが、可能な限り平和のために尽力する。戦争は両国いずれにも、ましてやその他世界の国々にも利益をもたらさない」と述べ、具体的な制裁の意向を示さず、中立の立場を取ることを示唆しています。

ちなみに、プーチン大統領とボルソナロ大統領との会談では並べた椅子の間に小さなテーブルがあるくらいで両者の距離は非常に近く、フランスのマクロン大統領との会談で使われた無茶苦茶長~いテーブルとは好対照を為しています。これにもある種のメッセージが込められているとみてよいように思います。

また、ウクライナ支援や高騰する原油価格の抑制の為、アメリカのバイデン大統領は、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の首脳との電話会談を手配しようとしたのですけれども、いずれも拒否されています。

こうしてみると、ロシアは中国はいわずもがな、BRICSやイスラム世界との距離を縮め、プーチン大統領が狙うロシアの新経済圏を構築する可能性はゼロとはいえないと思います。

この観点から、今回のウクライナ侵攻をみると、現状でのロシア軍の撤退などありえず、ウクライナが降伏するまで攻撃を続けるのではないかと思われます。

なぜなら、将来のロシア新経済圏を構築したとき、その傘下に入るであろう国々に対し、軍事プレゼンスを見せておかなければならないからです。いざというときに助けてくれない国の経済圏にホイホイと入る国などありません。安全が保障されていないと投資や利益が吹き飛ぶリスクを負うからです。

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6.力の信奉者とは力で交渉する


昨日のエントリーで、戦争終結の形態として、防衛省防衛研究所主任研究官の千々和泰明氏の「紛争原因の根本的解決と妥協的和平のジレンマ」を紹介しました。千々和氏はプーチン大統領について、何が「将来の危険」と考えているのか判然としないと述べていますけれども、ウクライナ侵攻に失敗することが、そのままロシア新経済圏構築の失敗に繋がると考えているのならば、これこそが「将来の危険」と考えているのではないかと思えてきます。

本当にプーチン大統領がここまでの構想を描いているかどうか分かりませんけれども、もしそうだとしたら、ロシアによるドル覇権への挑戦が行われているのだという認識に立たない限り、プーチン大統領を止められないのではないかと思います。

具体的には、ポーランドなどのロシア周辺のNATO諸国にモスクワを直接狙える長距離核弾頭を配備し、地中海または黒海で核ミサイル搭載の原潜を含む空母打撃群での大規模演習を行う。

力の信奉者には力で対抗する。それくらいして初めて"互角の交渉"に持ち込める。そこまでやってようやく現状維持できるのではないかということです。

おそらく、バイデン大統領にそんな決断は出来ないでしょうし、それ以前に、そこまでの構想は描けてないのかもしれません。

まぁ、構想力において、プーチン大統領とバイデン大統領とでは天地の差があると言ってしまえばそれまでなのかもしれませんけれども、認識の段階で少なくとも、プーチン大統領と同じ高みに立てない限り、正しい対応は出来ないのではないかと思いますね。


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この記事へのコメント

  • 名乗るほどの何者

    プーチンの夢はかなわないと思います。バイデンが無能なのは我らが岸田と同じで決断力が無い事です。そのくせ余計な発言(ウクライナに軍を送らない)は熟慮せずしてしまう。制裁に対しては早かった印象だが侵攻させてしまった事は無能すぎる。プーチンが侵攻するぞ!と脅していたときに国連とは関係ない平和維持軍をNATOや自衛隊から作ってウクライナに入れるべきでした。出来る出来ないではなくやっていれば別の展開になっていたはずです。たらればなのですが…。とにかくバイデンは無能ですがプーチン構想に中国などが米国に本格的にケンカ売ってまで深く入り込むことは利益で動く中国にとって旨味がないからです。中国にとってもう少し時間が欲しかったと思います。インドはしたたかです。米国とロシアの間で上手くやっていきたいと思っているのでプーチンに全乗っかりはするはずが無いと思います。とにかくプーチンは死の道しかないと思います。
    2022年03月12日 09:56

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