ウクライナの徹底抗戦が引き出すロシアの妥協

今日はこの話題です。
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1.どんな譲歩ですか


3月13日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」で行われたジャーナリストの櫻井よしこ氏と橋下徹元大阪市長との論争が話題になっています。

橋下氏は、現地の映像を指して「一部の国会議員とかが、ゲーム画面を見ているように『ウクライナなかなか抵抗している』って、そうじゃない。現実はこれだ……圧勝できればいいが、ウクライナの犠牲を考えたとき、NATOが入るぞと言う姿勢を示し、いきなり軍事介入とはいきませんから、NATOがロシアと政治的妥結をはかる努力をすべき」と主張しました。

これに対し、櫻井氏は、「もっと大きい円の中で見る必要がある。とりわけ日本は。プーチンが目指しているのは戦後体制の大転換で旧ソビエト連邦の復活ですよね。それを支えているのが中国で、ここでNATOと全面的な戦争になったときにお互いにもの凄く消耗し、核戦争にもつながりかねない……そのときに世界全体がどうなるか。一番得をするのは中国。わたしたちの一番の脅威は中国ですよ。ウクライナにあらゆる支援を行いながら、しかし全体的に、5年10年先の世界戦略を考え、中国に絶対に得をさせない、中国的な価値観の勢力を伸ばさないことに重点を」と指摘しました。

橋下氏は現状を「犠牲を容認し、微々たる支援で止まっている……櫻井さんの考え方は、ウクライナをある意味犠牲にしながら、全体秩序を守っていくということになる」と述べると、櫻井氏は「ウクライナを犠牲にするとか、事の本質はそうではない。ウクライナが戦う姿勢を見せている。ゼレンスキーは諦めないと言っている。これはウクライナの国としての意思ですから、これを私たちがとやかく言うのはおかしい」と反論しました。

更に櫻井氏は「例えば、日本が中国に攻め込まれ、私達が"最後まで戦う"という時に他の国に『妥協しなさい』と言われたらどうか」と問いかけると、橋下氏は「ウクライナの安全を守るための政治的妥協もある」と答えると、櫻井氏は「ウクライナは絶対に領土を譲らず、ロシアは絶対に欲しい。現実的にどんな妥協するのか?」と反論。これに橋下氏は答えることはできませんでした。

橋下氏は6日、同じくフジテレビの番組で、自民党の高市早苗政調会長と論争したときにも、ロシアに対する経済制裁について、中国を取り込まないと制裁の効きが弱いともいわれている……中国に頭を下げてでも、こっちに付いてもらう必要があるか……何かしらの譲歩がないと中国は乗ってこないじゃないか」と問いかけ、高市政調会長から「どんな譲歩ですか」と不快感を示され、「経済制裁は効いてくると思う。特にロシアの中央銀行に対する取引停止と、SWIFTからの排除は最も効果的な経済制裁だ」とやり込められる一幕もありました。

全体に、橋下氏の論は、妥協しろ、頭を下げろ、といった具合に、ウクライナに譲歩あるいは降伏を促すもので、国を護る意識に対する希薄さを感じました。




2.徹に抜け落ちている歴史認識


こうした考えについて、早稲田大学教授の有馬哲夫は、完全に抜け落ちている視点や歴史認識があると指摘しています。

有馬教授は、プーチン大統領が求めているのは「非武装化」と「中立化」であり、それは「なんでもいうことをきけ」という無条件降伏だと指摘し、フィンランドとリトアニアの2つの例を挙げています。

1939年8月23日、ソ連がフィンランドに侵攻したとき、フィンランド軍は激しく抵抗し、一時ソ連軍を大敗させたました。けれども、時間の経過とともに劣勢となり最後には領土の一部を譲る条件で講和を結ぶこととなります。その後、ドイツが進軍してきたときは、ドイツ側につき、奪われた領土を取り返したものの、ドイツ軍が敗退すると、再びソ連と戦って大打撃を与えたあと、ドイツの敗戦前にソ連との休戦に持ち込みました。これにより東欧諸国のような共産化と属国化は免れたのですね。

一方、リトアニアは1939年9月28日にソ連の勢力圏に入れられた後、翌1940年6月14日、ソ連が一方的に押し付けた相互援助条約を誠実に守らなかったと言いがかりをつけられ、政権交代を要求されました。リトアニア政府はこの圧力に抗しきれず、内閣は総辞職し、その後大統領のアンタナス・スメトナはドイツに亡命しました。その後、共産主義者ユスタス・パレツキスを首班とする傀儡政権が生まれ、以後、徹底的にソ連による属国化が行われ、再び独立を回復するのは50年後の1990年3月11日でした。

有馬氏は、今、ウクライナ人は、リトアニアではなくフィンランドがした選択をしていると指摘します。

そして、有馬氏は第二次大戦で敗れた日本が「国体護持」という条件つきで降伏できたのは、当時の日本軍が硫黄島、沖縄で死を恐れぬ戦いを見せたことで、アメリカ側が本土上陸作戦時の被害予測の大きさに震え上がったからだと述べています。

何でも、1945年6月18日のアメリカ軍幹部と政権幹部の合同会議で、九州上陸作戦が行われれば、作戦に加わった19万人のアメリカ将兵のうち、約30%のおよそ6万3000人が死傷するという試算が示されたそうで、この数字は硫黄島、沖縄での死傷率から弾き出された数字でした。戦争初期のそれが15%前後だったことを考えると、これは、本土に近づくにつれより抵抗が激しくなったことを示しています。

つまり、日本軍の戦いぶりが「国体護持」の条件付き降伏案を引き出したのだというのですね。これはその通りだと思います。

有馬氏は橋下徹氏のような考えをする人は、日本が「国体護持」の条件を獲得するために最期まで戦ったことを知らないからだと断じていますけれども、これは教育の問題でもあるし、たとえば、国防の話をしようものなら、途端に軍国主義だなんだと騒ぐあっち界隈の人達の亡国の綱に引っ張られているということでもあると思います。


3.なぜ戦うのか、それ以外では民がいなくなるからだ


では、当のウクライナはどう考えているのか。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、外国報道機関とのインタビューで次のように述べています。
なぜ戦うのか。なぜなら、それ以外では、民がいなくなるからだ。それは気持ちの話ではない。他に出口がないという話だ。ウクライナが存在し続けて欲しいと願うなら、あなたは防衛しなければならない。私たちにとってこの戦争の勝利とは、ウクライナとウクライナ人が存在し続けることであり、人々が生き残ることを指す。勝利とは、私たちのネイションを維持することなのだ。それは、感情的に言えば、自分を守るためのであり、私たちが今防衛している価値を持って、自由な人間であり続けるためである
このようにゼレンスキー大統領は、「ウクライナとウクライナ人が生き残るために戦うのだ」とはっきり述べています。これは裏を返せば、戦わなければ生きることすら出来ないと認識しているということであり、この段階で既に橋下氏の言が如何にウクライナの人の心と掛け離れているかが分かります。

また、ゼレンスキー大統領は、ロシア国民について「私は、あなたが自分が誰であるかについて恥を感じるというのが、最も恐ろしいことだと思っている。その点で、彼らは負けたのだ」と、ロシアの政権は既にこの戦争に歴史的な敗北をしたと述べました。

ただ、ゼレンスキー大統領は、勝利とは、対話に左右されるものだと注釈をつけつつ、ウクライナの人々は、この戦争で勝利を勝ち取るために、あらゆることを行っていくと発言しました。

これは、まぁ、当たり前のことですけれども、停戦交渉の成り行きによって、得られる成果は変わってくると予防線を張ったと同時に、交渉がどんな結果に終わろうとも、「ウクライナは勝利した」と宣言する積りでいるのではないかと思わせます。もしかしたら、停戦交渉の合意が近いのかもしれません。


4.勝利とは対話に左右される


ロシアとウクライナの停戦交渉は、ゆっくりながらも進展はしているようです。

3月11日、プーチン大統領はベラルーシのルカシェンコ大統領との会談で「ウクライナとの交渉はほぼ毎日行われている。私への報告では交渉は一定の進展がある」と述べたと伝えられています。

そして、13日、アメリカのシャーマン国務副長官はFOXニュースで、「圧力が効果を発揮し始めた。真剣な交渉をする兆しが見えてきた」と語っています。

この日、ロシアとウクライナの当局者は停戦交渉でこれまで最も進展があったとの認識を示しました。

ロシア側代表団の一員である下院議会のレオニード・スルツキー国際問題委員長が「協議開始の頃と比べれば、大きな進展があった……私の個人的な期待としては、この進展が強まり、数日内に双方の共通の見解、文書の署名につながるかもしれない」と述べたとロシアのインターファクス通信が伝えています。

一方、ウクライナのポドリャク大統領顧問もネットに投稿した動画で「我々は原則的にいかなる譲歩もしない。ロシアは今やこれを理解している。ロシア側は我々の提案に注意深く耳を傾けている……まさに数日内に何らかの成果を出せると考えている」と述べています。

如何なる譲歩もしないといいながら「原則的に」という枕詞をつけています。先のゼレンスキー大統領の「勝利とは対話に左右される」という言葉と合わせて考えると、ウクライナ側も何らかの妥協案を提示したと見てよいのではないかと思います。


5.妥協的な対話が行われている


このウクライナのポドリャク大統領顧問はテレビ番組に出演した際、停戦交渉について詳細を語っています。それは次の通りです。
現在、イスラエルやトルコといった仲介の役割をパートナーの支援を受けて、私たちは、安全の保証の観点から協議を実施するに適した場所を模索しているし、また、重要なことは、ウクライナの立場のみを考慮した合意(案)パッケージも作成している。私たちにとって重要な合意(案)だ。それが作成されて、暫定合意に至った際には、大統領たちが会って、最終的な平和に関する立場についての作業が行えるようになる。私は、その会談は開かれると思うし、そこに辿り着くまでにはもうそれほど長くかからないと思っている

首脳会談が開催されるのは今後2、3日の話ではなく、ある程度時間がかかることだ……できるだけ早く開催されるように努力していく。なぜなら、私たちは一人一人の命を支持しているし、私たちは人々、特に民間人が殺されて欲しくないし、軍人も殺されて欲しくない。私たちのインフラも歪められて欲しくないからだ。ロシア人には、命は価値を持たない……その点において、ウクライナの人々とロシアの人々の精神的な違いがある……ウクライナ人にとって命は価値あるものだが、彼らにとっては命は誰かに圧力をかける手段だからだ。私は、彼らもまた、もう大統領の直接二者間協議に移行して、効果的な合意に署名したいと思っていると思う……ウクライナは自らの立場を譲らない……私たちには協議プロセスにおいて具体的な目的がある。それは、戦争の終結、ロシア軍の速やかな撤退などだ。私は、もうこのプロセス全体についての理解があり、妥協的な対話が行われているのを目にしている
はっきりと「妥協的な対話が行われている」と述べています。これを聞く限り、ロシアとウクライナの停戦交渉は双方妥協点を探っている段階なのではないかと思われます。

ただ、これも、ロシアの計算を覆すウクライナ側の必死の抵抗があってこそです。もし、ロシア軍侵攻後直ぐに、降伏してしまっていたら、西側諸国のウクライナ支援も、対ロシア経済制裁もなかったかもしれません。

そうなったら、100%ロシアの言いなりになって、それこそ、ウクライナという国が無くなっていたかもしれません。

それを考えると、圧倒的兵力の敵を前にしても、死を賭して抵抗することに意味がないなどとは到底思えません。

太平洋戦争で、日本軍の戦いが「国体護持」の条件付き降伏案を引き出したのと同じように、ウクライナも、国を失わない条件での合意案であることを望みます。


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