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1.ロシアの人民元シフト
3月13日、ロシアのシルアノフ財務相は、国営テレビのインタビューで「保有する6400億ドル分のうち、約3千億ドル(約35兆4千億円)分が現在使えなくなっている」と述べました。
これは、ロシアの中央銀行が保有する外貨準備と金のうち、3千億ドル分を米欧日などが経済制裁として、各国中銀などが預かるロシアの外貨準備を凍結しているためです。
シルアノフ氏は人民元建ての資産もあるものの、その使用を制限するよう米欧が中国に圧力をかけているとの見方も示した上で、「中国と協力を維持するだけでなく、拡大することができる」と述べ、中国との経済関係の強化が進むとの見通しを示しました。
そして、翌14日、シルアノフ財務相は、米ドルやユーロへのアクセスを遮断されたため、ロシアは外貨準備から中国人民元を利用すると表明しています。
また、3月9日には、ロシア外国貿易銀行は新たな最高年利率8%の人民元預金業務を開始すると発表。新たな貨幣種類の預金業務は『オンライン対外経済銀行』を通じてリモートで利用可能にすることができ、最低預金金額は100元(1元=約18.4円)で、高利率の預金期間は3-6ヶ月だとしています。
ロシア外国貿易銀行は、人民元は世界中で最も便利かつ最も前途有望な資金配置プランの一つであり、人民元業務は収益が最も大きい預金の選択肢になるだろうと述べ、ほかにもロシアの銀行6行が人民元決済口座と普通預金口座の開設の可能性を検討しているといわれています。
このようにロシアは、人民元シフトへの動きを始めています。
2.インドの対ロシア決済検討
また、インドも強かな動きを見せています。
2月25日、インド政府および銀行筋は、対ロシア制裁の影響緩和の為、ロシアとの貿易のためのルピー支払いメカニズムを設定する方法を模索していると述べました。
関係者によると、ロシアの銀行や企業がインドのいくつかの国営銀行に貿易決済のために口座を開設する計画があるようで、「これは、紛争がエスカレートし、多数の制裁措置が実施される可能性があることを前提とした積極的な動きだ……この場合、ドルでの取引を決済することができないため、検討中のルピー口座を開設するための取り決めが提案された」と、情報筋は述べているそうです。
関係者によれば、ロシアの銀行に対する制裁措置の影響で、インドの輸出業者に対して、約5億ドル(約584億円)の支払いが保留されていて、インド準備銀行のほかインドステイト銀行(SBI)なども協議に加わっているそうです。
このような手段は、制裁の衝撃から身を守るため、これまでも国によって、しばしば使用されており、インドでも核兵器プログラムで西側の制裁を受けた際、イランに対してこの方法を使ったようです。
2021年、ロシアのインドへの輸出額は69億ドルで、主な商品は、鉱油、肥料、粗ダイヤでした。一方、インドは2021年に33億3000万ドル相当をロシアに輸出し、主な商品は医薬品、紅茶、コーヒーとのことです。
ロシアは中国、インドを相手に貿易を続けていく腹積もりのようです。
これらの動きは3月12日のエントリー「プーチンの世界構想と相手にならないバイデン」で取り上げたプーチン大統領の新・東側経済圏構想を意識した動きに見えなくもありません。
3.中国のロシア支援
この中国のロシア支援に関して、アメリカは神経を尖らせています。
3月13日、アメリカの複数のメディアはアメリカ政府高官の話として、ロシアがウクライナ侵攻後に中国に軍事・経済的援助を要請していたと報じました。
そして、翌14日にはイギリスのフィナンシャルタイムズなどが、アメリカ政府当局者の情報として、「中国がロシアへの軍事支援や経済支援について前向きな姿勢を示している」と報じました。
既に、アメリカ政府から、北大西洋条約機機構(NATO)やアジアの同盟国にこの情報が伝えられたということで、ロシアが求めた支援には、地対空ミサイルやドローン、装甲車などが含まれているとのことです。
特にロシアはドローンについて中国に問い合わせをしてそうなのですけれども、アメリカ当局によると、ロシアは、ウクライナがこの紛争でドローンを配備することを想定していなかったようです。
ウクライナは特にトルコ製のTB2ドローンを非常に効果的に使用して、偵察だけでなく攻撃にも使い、効果を上げているとのことで、未だに数多くのドローンの在庫があるようです。
CIAによると、当初プーチン大統領は「作戦開始後2日以内にキエフを奪取する」つもりだったそうなのですけれども、そうはいきませんでした。
ロシアが侵攻前にウクライナの国境周辺にあらかじめ配置していた15万人以上の兵力の100%を投入してもなお、キエフは健在です。
これがロシアが中国に支援を促したのではないかとも見られているようです。
アメリカ国防総省が最近発表した「中国の軍事力」によると、中国がロシアから購入している軍事品は戦闘機や地対空ミサイルなどで、ロシアの装備を使って、ロシアでの訓練に参加しているとなっていますから、中国兵も一緒にとはいわないまでも装備の融通は可能だと思われます。
アメリカ国防総省の高官は実際の軍事支援の動きについて「話せることはない」としながらも、「動きを注視していく」と警戒感を示しています。
この報道について、中露双方は否定しています。
3月15日、中国外務省の趙麗健報道官は「アメリカは悪意を持って中国を標的にした偽情報を流している……ウクライナ問題に対する中国の立場は一貫しており、明確である。和平交渉の推進に建設的な役割を担ってきた」などと述べ、ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官も、ロシアが中国に軍事支援を要請したというのは事実かとの質問に対し、「いや、ロシアは作戦を継続する独立した可能性を持っており、我々が言ったように、それは計画に従って発展しており、時間通りに完全に完了するだろう」と否定してみせました。
4.サリバン・楊会談
無論、そんな中国の言い分を素直に受け取るアメリカではありません。
3月14日、アメリカのサリバン大統領補佐官は、中国外交部門トップの楊潔篪政治局員とローマで会談しました。バイデン政権高官によると、サリバン補佐官は楊氏に対し、中国とロシアの密接な関係について懸念を伝え、中国が対ロ支援をした場合にはアメリカが対抗措置を取ることを示唆しました。
会談後、バイデン政権の高官は記者団に対し、会談は「7時間の濃密なセッションだった」と語り、サリバン補佐官がが、現時点での中国のロシアとの連携に米国が深い懸念を抱いていることを率直に伝え、行動には結果が伴うと伝えたそうです。
一方、中国外務省によると、楊氏は「ウクライナ情勢の今日の状況は、中国も見たくないものだ……ウクライナ問題の歴史的経緯を考慮し、すべての当事者の合理的な懸念に対応する必要がある……中国は和平交渉の促進に力を入れており、国際社会が情勢をできるだけ早くトーンダウンさせるべきだ。大規模な人道危機を防ぐべきで、中国はすでにウクライナに緊急支援を提供している」と答えたとしています。
サリバン補佐官が伝えたとされる「行動には結果が伴う」という言葉が意味するものは、中国に対する経済制裁のことだと思われます。
アメリカは対ロシア制裁について、セカンダリーサンクション(二次的制裁)を適用すると宣言しています。
セカンダリーサンクションとは、経済制裁を受けている国と取引する第三国の個人・企業・金融機関などに対する制裁のことで、もし中国がロシアに軍需装備品の支援を行ったら、セカンダリーサンクションで、中国企業が制裁をかけられる可能性が出てきます。
実際、3月8日、アメリカのレモンド商務長官は、ロシアに発動したハイテク輸出規制をめぐり、ロシアの制裁逃れを手助けした中国企業にも厳罰を適用すると明言しています。
レモンド商務長官は中国の半導体受託生産最大手「中芯国際集成電路製造(SMIC)」を名指しした上で、SMICが保有する米国製半導体をロシアへ横流しすれば、「SMICも米国製の製造装置やソフトウエアを使えないようにする」と語っています。
これは半導体関連製品ですけれども、軍需装備品の支援では、さらなるセカンダリーサンクション、それこそSWIFTからの人民元の排除だってないとはいえません。
5.両天秤の中国
3月13日のエントリー「ウクライナが呼び込む世界大戦の足音」で、ジャーナリストの鳴霞氏が、中国と北朝鮮がロシアを後方支援しており、中国はロシアに食糧援助していると明かしたことを紹介しましたけれども、当然ながら、ジャーナリストが分かる情報くらいアメリカも知っている筈です。
あるいは、サリバン補佐官は楊氏との会談でそのことも指摘したかもしれません。けれども、中露を結ぶ列車をアメリカが臨検することは出来ないでしょうし、スパイ映画よろしく、食糧を入れた袋に銃火器を忍ばせていることだってあり得ます。
果たして、アメリカがどこまで掴んでいるか分かりませんけれども、NATOやアジアの同盟国に、中国がロシアに経済・軍事支援する意思があると伝えている以上、それなりに証拠を掴んでいる可能性はあります。
これについて、国際政治学者の三浦瑠麗氏は15日に出演したテレビ番組で「アメリカは今回ロシアに対してもそうですが、インテリジェンスとしてわかったことを早目に出してしまうことによって、相手にこれを否定できないという立場に追い込むということなんですけど、中国としてはやはり今回、NATO、日本、韓国が大規模なロシアへの制裁に踏み切って、NATO諸国が軍備の装備をウクライナに提供することに対してバランスをとろうとして、ロシア側に加担する見込みだと思う……ただ、全体として中国はロシアの大規模侵攻が長引いたり、制裁が長引くことは国益にはならないはず。ですから、本当は中国には生産的な役割を期待していたのですが、それは無理だということなので、我々としてはなんとかウクライナ側を優勢にもっていって停戦交渉するとしか、そういう選択肢しかないですよね」と述べています。
筆者が見る限り、中国は勝ち馬に乗るというか、ロシアと西側諸国と両天秤にかけて様子見をしているように見えるのですけれども、確かに長期になれば不利になってきます。
筆者としては、このカードを上手く使って、中国とロシアの分断にまで持っていければよいと思いますけれども、先に述べたインドなど、ロシアとの関係を続けようとする他国の扱いをどうしていくのかという問題もあります。
日本とて極東ロシアのガス開発事業「サハリン2」を抱えています。岸田政権にも難しい舵取りが要求されると思いますね。
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