核戦争の懸念と中露の選択

今日はこの話題です。
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1.ウクライナが燃えている


3月14日、国連のグテーレス事務総長は報道陣に対し、ロシアによるウクライナへの侵攻について「ウクライナが燃えている。世界が見守る中、国が壊滅状態になっている……ロシア軍の攻撃を受け、道路や空港、学校が荒廃している……事態は悪化の一途をたどっている。結果がどうであれ、この戦争に勝者はなく、敗者だけがうまれる」と語り、敵対的行為のさらなるエスカレートに強い危機感を示しました。

また、ロシアが核戦力を含む抑止力を「特別態勢」にしたことについて「背筋も凍る」とのべ、「核戦争が起こる見通しは、考えられないという時期もあったが、いまでは可能性があるものに戻ってしまった」と核戦争の可能性の高まりに警戒感を示し、核関連施設の安全性を保つ必要性も訴えました。


2.ロシア・ウクライナ戦争の可能性と中国の選択


今のところ、国際社会ではっきりとロシアの味方をしているといえるのは中国と北朝鮮くらいだとは思いますけれども、その中国でも、政府系シンクタンク幹部の政治学者が、習近平指導部に対してロシアのプーチン大統領と「早急に手を切るべきだ」と訴える文章を綴り、それが国外サイトに掲載されたことで波紋を広げています。

この文章を書いたのは、政府の諮問機関である国務院参事室公共政策研究センター副理事長の胡偉氏。胡偉氏は政治学を専門とし、共産党幹部養成機関である上海市委員会党校の教授です。

件の文章は、3月5日付の「ロシア・ウクライナ戦争のあり得る結果と中国の選択」と題したもので、11日に国外の論壇サイト(ChinaDigitalTimes)に中国語で発表されました。

これは、中国国内のSNSでも拡散されたのですけれども、習近平指導部の外交姿勢とは一致せず、文章は次々に消去されているそうです。

文章の概要は次の通りです。
・ロシア・ウクライナ戦争は、第二次世界大戦後最も深刻な地政学的紛争であり、9.11同時多発テロよりも大きな影響を世界に与えるだろう。

Ⅰ.ロシア・ウクライナ戦争の方向性の予測

1.プーチンは期待された目的をほとんど達成できない。 プーチンの行動の目的は、電撃戦によってウクライナ問題を一挙に解決し、それによって国内の危機をそらすことであった。 しかし、電撃戦は失敗し、国内外の情勢はますます不利になる。 この軍事行動は取り返しのつかない過ちを犯してしまった。

2.戦争はさらに拡大する可能性があり、最終的に西側諸国が戦争に関与する可能性も否定できない。 プーチンの性格と力では、その確率は安泰ではなく、ロシア・ウクライナ戦争はエスカレートして核攻撃のオプションまで含める可能性がある。

3.仮にロシアが自重して渋々ウクライナを手に入れたとしても、ロシアには重い負担が残る芋づる式になる。

4.プーチンの電撃作戦の失敗でロシアは勝利の望みが薄くなり、反戦・反プーチン勢力が結集しつつあり、ロシアで政変が起こる可能性は否定できない。 もしプーチンが内乱やクーデターなどでカーテンコールをすれば、ロシアの大国としての地位は終わりを迎えるだろう。


Ⅱ.ロシア・ウクライナ戦争が国際情勢に与えた影響について

1.現在、世論は、ウクライナの戦争は、アメリカの覇権の完全な崩壊を意味すると考えているが、ドイツは軍事予算を大幅に増やし、スイスやスウェーデンなどの国々は中立を放棄した。 “Nord Stream II “プロジェクトも無期限延期となり、欧州のアメリカ産ガスへの依存度は高まる一方だ。 米国と欧州は運命共同体として緊密化し、米国は西欧世界の指導的地位を回復することができる。

2.西側諸国は、民主主義と独裁主義の闘いとして定義するだろう。 西欧民主主義と反西欧民主主義の間の生死をかけた決闘である。アメリカのインド太平洋戦略は強固なものとなり、日本などの国々はさらにアメリカにしがみつくことになるだろう。 米国は、民主化のために前例のない広範な統一戦線を構築する。

3.西側のパワーは大きく成長し、NATOは拡大を続け、非西側世界における米国の影響力は増大する。 露・ウクライナ戦争後、世界の反西欧勢力を著しく弱めるだろう。1991年のソ連東部の劇的変化の後のシナリオが繰り返され、西側を受け入れる第3世界諸国が増える可能性がある。 欧米は軍事的にも価値観や制度の面でも「覇権主義」を強め、新たな高みに到達することになるだろう。

4.中国はより孤立していくだろう。 中国が積極的な対策を講じなければ、米国や欧米からさらなる包囲網を敷かれることになる。 中国は、米国とNATO、QUAD(米国、日本、インド、オーストラリアの四極同盟)、AUKUSによる軍事的包囲網だけでなく、欧米の価値観や制度からの挑戦にも直面しているのだ。


Ⅲ.中国の戦略的選択

1.中国はプーチンと結ばれてはいけない、一刻も早く切り離すべき。 ロシアと欧米の対立が激化することは、アメリカの関心を中国からそらすことにつながり、プーチンを支持してもいいはずだが、それはロシアが倒れない場合に限られる。中国は自国の利益のために2つの悪のうち小さい方を選び、一刻も早くロシアの荷を降ろすしかないのだ。 中国が迅速な決断を迫られるまでには、まだ1~2週間の猶予があると推測される。

2.両極端を避け、中立性を保つことをあきらめ、世界の主流の立場を選択することだ。 現在の中国の国際的な姿勢や選択は、形式的には両端を怒らせない中道を歩もうとしている。 しかし、この立場は実際にはロシアのニーズを満たすことができず、ウクライナとその支持者、シンパを怒らせ、世界の大半と対立する立場に立っている。中国が国家主権と領土保全の尊重を常に唱えていることを考えると、これ以上孤立しないように世界の大多数の国の側に立つしかない。このポジションは、台湾問題の解決にも有益だ。

3.欧米からこれ以上孤立することなく、できるだけ戦略的に脱却することだ。 プーチンとの関係を断ち、中立の立場を捨てることで、中国の国際的なイメージを高め、さまざまな努力によってアメリカや欧米との関係を緩和する契機とすることができる。米国内ではすでに、中国の方が重要であり、米国の最大の目標は、中国がインド太平洋地域の支配勢力になるのを阻止することだ、という声が上がっている。米国の中国に対する敵対的な態度を改めさせ、それによって孤立を脱するためにあらゆる手を尽くすかが、中国にとっての最重要課題だ。

4.世界大戦、核戦争の勃発を阻止し、世界平和にかけがえのない貢献をする。ロシアとウクライナの戦争は制御不能になる可能性が高い。 中国はプーチンに寄り添うだけでなく、決定的な行動をとり、プーチンの可能な冒険を阻止するために最大限の努力を払うべきだ。プーチンは中国の支持を離れて初めて戦争を終わらせるか、少なくとも戦争をエスカレートさせる勇気はないだろうという見込まれる。その結果、中国は国際的に高く評価され、孤立を免れるだけでなく、世界平和の維持の先頭に立つことができ、そこから米国や欧米との関係を改善する切っ掛けをつかむことができる。
このように、胡偉氏は、プーチン大統領を損切りしろと述べていますけれども、その考え方は西側諸国のそれに近く、妥当なものであると思います。ただ、全体の論調はロシアが負けるという前提があってのものであり、戦争自身もロシア・ウクライナ戦争の枠内に留まり周辺国を巻き込んでの世界大戦になるという予測には至っていないように思えます。

それでも、エスカレートすれば核戦争の可能性があるとしているのは気になるところです。


3.「ゴルディアスの結び目」作戦


一方、戦争はウクライナだけで終わらないという意見もあります。他ならぬロシア自身の見立てです。

3月9日のエントリー「選択肢を失いつつあるプーチン」で、ロシア連邦保安庁(FSB)の内部告発文書について取り上げましたけれども、その第2弾が公開され話題になっています。

その全訳はネットなどで見られるのですけれども、筆者なりに概略を纏めてみると次の通りです。
・第三次世界大戦が始まったようだ。我々の仲間はシャンパンを開けている。イランとアメリカの戦争によって核取引は混乱し、ロシアの石油をイランの石油で代替する能力は遮断される。ホルムズ海峡の封鎖により、原油は高騰する。ロシアとイランの間に何らかの合意が存在するとさえ囁かれるが、それを裏付ける事実は一つもない。

・迫り来るロシアの「出口」についての情報を伝えたい。

「ゴルディアスの結び目」作戦

第1段階:ロシアのコナシェンコフ国防省首席報道官が、ブリーフィングで、欧州と「西側集団」は、武器と傭兵を使ってウクライナ紛争に介入し、同時に経済面でロシアを攻撃(制裁)することによって、ロシアに宣戦布告したと公式に発表する。
戦争は軍事行動にとどまらず、相手に直接的な損害を与えることを目的とした一連の攻撃的行動を含むものであるとし、西側の行動が事実上、世界大戦を引き起こした。コナシェンコフ報道官は「第三次世界大戦が始まった」と宣言する。

第2段階:西側の反応の見極め。1~2日を要する。

第3段階:プーチン大統領は演説を行う。彼は、現代世界は以前とは違う、戦争には今やサイバー攻撃、生物学的攻撃の準備、直接攻撃、テロリストと破壊工作員の訓練、経済に壊滅的な制裁を課すことが含まれると宣言する。彼は戦争を望んでいないが、西側諸国はすでにロシアに対して戦争を始めている。プーチン大統領は、西側がすでにやったことを許す用意があるが、それは24時間以内に制裁を解除し、ウクライナへの援助をすべて停止し、NATOが拡大しないことを保証する場合に限られると宣言するはずだ。そうでなければ、ロシアはあらゆる手段で対応するしかない。

第4段階:ロシアと西側諸国との間で激しい交渉が行われる。プーチン大統領の示威的な私用電話は、ロシアが賭けている国の指導者から始まる。セルビア、ハンガリー、中国、アラブ諸国、アフリカ諸国、アジア諸国だ。他国の大統領はプーチンの側近と議論することを余儀なくされるか、あるいは全く議論しない。

西側諸国の対応態勢を見極め、政治的影響力のあるエージェントが動き出す。彼らは、「ロシアの正当な要求を直ちに実現し、世界を新たな戦争に引きずり込まないように」と呼びかける。ここでの課題は、「戦争は西側によって放たれたが、ロシアは答えないわけにはいかない」というメッセージを素早く伝播させることだ。
恐るべき計画です。西側諸国を完全に敵に回すことを想定しています。

なにせ作戦名が「ゴルディアスの結び目」です。絶対に解けないとされた結び目をぶった斬って解いて見せた故事に倣ったとすると、何が解くべき「結び目」なのか。

それはおそらくは、NATOそのものです。


4.遥かなるソビエト連邦


この内部告発とされる文書では、前述の4段階の後に、最終段階として次のようになるとしています。
第5段階:今後24時間の情勢判断に基づき、以下の選択肢が考えられる。

1) 西側が驚いて局所的な譲歩を用意する場合:プーチン大統領は、数日間の交渉期間を設け、その後に「決断」することになる。実質的に残るのは、西側から最大限の譲歩を引き出すことであり、それが最も重要であることが判明するはずだ。最大の目的は、世界的な性質を持つ新しい国際条約に署名することだ。

2)欧米は応じないが、公然と戦争を望んでいない場合:「軍事目標」が実証的に特定される。ポーランドとバルト三国。さらに、これらの国々で「限定目標」を特定し、これらの対象物に近づかないよう一般市民に呼びかける。この直後から集中的に交渉が行われる。ここでは、西側によるウクライナへのあらゆる支援と「ウクライナの和平への強制」を拒否させることが重要な目標になる。

戦略航空と核の三位一体が発動され、これらの国の上空にロシアによる「飛行禁止区域(No Fly Zone)」が宣言されるかもしれない。成功の可能性は、極めて現実的であると考えられる。そうでなければ、局地的なミサイル攻撃はほぼ避けられないだろう。

3)西側が応じず戦争準備を行う場合:このシナリオは、極めて可能性が低いと考えられている。この場合は西側諸国の重要なインフラ施設に対してサイバー攻撃が行われる。ロシアは直接的な責任は取らないが、三軍を積極的に「動かす」だろう。このような展開では、西側が軍事的手法で対応するリスクは無視できると評価され、ロシアには間接戦争を行い、経済総崩れのリスクを伴う西側にとって受け入れがたい状況を作り出す工作を行う余地がある。この後、交渉は避けられず、上記2)のシナリオになると思われる。

4) 許容範囲と評価される明確な宥和シグナルがない場合:ロシアの行動は上記シナリオ2)に類似したものになるだろう。

5)プーチン大統領が割り当てた時間内に西側諸国が根本的に崩壊する場合:NATOから数ヶ国が脱退し、それらがロシアに敵対行動はとっておらず、戦争にも加担していないことを個別にアピールする。その後、上記のシナリオ1)に戻るが、ロシアの立場の強さは旧ソ連と同等になる。将来的には、ロシアはソ連の一部であった多くの国々を政治的に支配することができるようになり、NATOは存在しなくなる。

6)西側諸国が根本的に崩壊するが、いくつかの国(ポーランドとバルト)が他の国の穏健な立場から明確に切り離される場合:西側諸国の「親ロシア派」は、これらの国々(ポーランド/バルト)を、"我々の政府を他人の紛争に巻き込むな "という要求と共に紛争煽動で非難することになる。このシナリオにおけるロシアの目的は、穏健な立場にある西側諸国に対して最大限の圧力をかけ、「侵略者(ポーランド/バルト)には無謀な行動をさせないように」と要求することだ。この状況では、3日から7日の期間内に、穏健な立場の西側諸国は、根本的に不和な国(ポーランド/バルト)への局所攻撃を受け入れる準備ができ、その後、彼らに対してミサイル攻撃が開始されることになる。直接の歩兵による侵攻は容認されるが、可能性は低い。

上記シナリオすべてにおいて、これらの想定は極めて蓋然性が高いと評価される。
このように、計画の最終目標はポーランドとバルト三国をNATOから引き剥がすのみならず、新しい国際条約を締結するとしています。これはソビエト連邦復活の一歩であり、新東側経済圏の構築のように見えなくもありません。


5.情報操作の可能性


ただ、筆者が気になるのは、1度ならず2度までも、こんなロシア情報機関の内部告発文書がリークされるなどあり得るのか、という点です。

今回のリーク文書は、前回のように愚痴に満ちた文体ではなく、淡々と今後の作戦を述べています。まぁ書いた人が違うのかもしれませんけれども、大分ニュアンスが異なります。

あるいは、これは、リークではなく逆の情報操作、情報戦の一環としてわざとリークさせた可能性もあるのではないかと思います。

その狙いは、西側各国および世論の反応を見るという目的です。

今回のロシアのウクライナ侵攻にしても、当初ロシア側は電撃戦で直ぐにキエフを落とせると見ていたと言われています。また、バラバラと見ていた欧州、アメリカ等が団結して素早い経済制裁を行った。これは想定外だったのではないかと思います。

故に、今後西側がどういう反応をするのか探るために、わざとリークしたのではないかという気もします。

勿論、本当のところは分かりませんけれども、内容がぶっとんでいる上に、停戦交渉をしているタイミングでのリークですからね。当然警戒は必要でしょうけれども、その真偽については、眉唾半分くらいでみていて良いかもしれませんね。


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