

1.蔓防全面解除
3月16日、岸田総理は記者会見を開き、21日に期限を迎える武漢ウイルス対応の蔓延防止等重点措置について、18都道府県で全面解除する方針を表明しました。
新規陽性者数はピーク時の半分程度で、病床使用率や在宅療養者数も明確な低下傾向にあるとして全面解除に踏み切ると見込みで、岸田総理は会見で、オミクロン株の感染力を踏まえて「最大限の警戒」を継続しつつ「可能な限り日常の生活を取り戻す」と強調しつつも、当面は「平時への移行期間」と位置付けています。
また、社会経済活動の回復に向け「感染防止対策がされた一般の事業所では濃厚接触者を特定しない」と述べ、高齢者施設や家庭内などに限定する考えを示し、「GoToトラベル」の再開をにらみ、都道府県が行う住民向けの旅行割引支援「県民割」を4月1日から地域ブロックに拡大するとしました。
2.自粛生活、もう耐えられない
蔓防だの緊急事態だの、たまに解除など、濃い薄いは別として、ここ2年余りずっと自粛が続いているのですけれども、そろそろ国民も限界に近づいてきているようです。
読売新聞が行った全国世論調査で、自粛生活にあとどのくらい耐えられると思うかを5段階で聞いたところ、最も多かったのは「1年程度」が42%。次いで「半年以下」が19%、「2~3年」が16%、「3年以上」が13%、「もう耐えられない」が9%となり、「もう耐えられない」「半年以下」「1年程度」を合計した「自粛生活は最大1年」と考える人は70%にも達しています。
男女別、年代別にみると、いずれも最も多い回答は「1年程度」で、年代別では、18~29歳では「もう耐えられない」が19%と、70歳以上の4%を大きく上回るなど、若い世代ほど自粛生活に強い拒否感を示す人が目立ちつつも、50歳代から上の世代も「半年以下」と「1年程度」が計63~70%となっていて、「3年以上」の回答は若い世代より少ないという結果になっています。
一方、武漢ウイルスに感染して重症化する不安を感じるかとの質問では、「大いに」「多少は」を合わせた「不安を感じる」の回答は、「1年程度」の人が80%、「3年以上」の人が66%で、感染防止と経済活動のどちらを優先すべきかとの問いでは、「もう耐えられない」と答えた人を除いて、いずれも感染防止優先との答えが経済活動優先を大きく上回ったとなっています。
経済を犠牲にしてでも感染防止優先が民意なのであれば、これまでやっていた蔓延防止措置がそもそもにして有効だったのかについての検証がもっと必要なのではないかという気がします。
2月10日のエントリー「岸田総理のオミクロン対策を戦略の階層で分析する」で、岸田政権の武漢ウイルス対策の分析をしたことがありますけれども、国民の重症化への不安を解消するためには、個々人で武漢ウイルスに対応できるように手を尽くすべきではないかと思います。
3.感染状況と支持率は連動している
3月11~14日に時事通信が行った3月の世論調査で、岸田内閣の支持率は前月比6.8ポイント増の50.2%、不支持率は4.2ポイント減の21.1%で、「分からない」は2.5ポイント減の28.7%となりました。
2月の世論調査では、前月比8.3ポイント減の43.4%。不支持率は6.6ポイント増の25.3%でしたから、少し盛り返した形です。
2月の調査では武漢ウイルスに対する政府の取り組みについて「評価する」は前月比6.3ポイント減の38.9%、「評価しない」が6.5ポイント増の37.9%と賛否が拮抗していましたから、武漢ウイルスの感染状況と支持率は未だに連動しているように見えなくもありません。
ただ、時事通信は3月の調査で支持率が上がった理由として、ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する制裁への賛成は7割を超えたことから、岸田内閣の厳しい対ロ姿勢が評価されたと分析しています。
もっとも、厳しい対ロ姿勢といっても、ロシアへの追加制裁について、カニやサケなどのロシア産水産物については、国民生活への影響が大きいとして、輸入禁止措置は実施しないとか、極東サハリンでの原油・液化天然ガス事業「サハリン2」は、「長期的・低価格で調達する権益を我が国が持っている。エネルギーの安定供給上、我が国にとって重要なプロジェクトだ」として撤退しないとか、支持率や選挙に響きそうなところは巧みに避けています。
4.トリガー条項
そのエネルギーに関して目下注目されているのが原油価格です。
3月16日、自民、公明両党に国民民主党を加えた3党の幹事長が会談し、原油価格の高騰対策として、ガソリン税を一時的に下げる「トリガー条項」の発動に向けた調整に入りました。
岸田総理は2022年度予算案の成立後、トリガー条項の発動を含めたエネルギー対策などを柱とする大型の追加経済対策の策定を指示する見通しとされています。
政府はガソリン価格を全国平均で172円程度に抑えるため、石油元売り会社への補助金を3月までの時限措置として支給しているのですけれども、原油価格の高騰は長期化するとみられることから補助金を4月以降も継続するとともに、更なる価格抑制策が必要だと判断したとしています。
トリガー条項については、これまで筆者も何度か取り上げたことがありますけれども、2月24日のエントリー「リスクを取って名を上げた国民民主と岸田総理の毛針」で、「原油価格が今の様に高止まり、あるいは更に上昇するのかどうかが一つのポイントになる」とし、先延ばししているうちに原油価格が下落すればトリガー条項を発動しないのではないかと述べましたけれども、今のところは前者の方向で考えているようです。
ただ、先日原油価格の大幅下落もありましたし、法案策定や協議でモタモタしている間に原油価格が落ち着いて、結果トリガー条項発動見送りなんてこともないとはいえません。
はっきり言って、その時その時の状況で方針がコロコロ変わる岸田政権ですから、安心はできません。
5.現状維持第一
岸田政権発足以来の政権運営を見ていると、どうもリアクション政治というか、「現状維持第一」を指針にしているように見えて仕方ありません。
何もしなければ、失敗もない。だから、何もしないで様子を見る。何か要望されても、まずは否定して、世論の様子をみて、流れをみてから舵を切る。そんな感じです。だから全てが後手に回る。
けれども、今の世界情勢で、それが通用するのかというのはまた別だと思います。
なぜなら、既に世界では、「力による現状変更」が幅を利かせているからです。
ウクライナ侵攻しかりや武漢ウイルスパンデミックしかり、武力やウイルスという力は世界に現状変更を敷いています。そんな中で「現状維持」するには、何らかの対策、アクションをおこさなくてはなりません。
故に岸田政権も渋々かどうかは分かりませんけれども、対策をするほかない。けれども、目標を「現状維持」に置いている限り、全ての対策はリアクションにしかならず、うまくいっても「現状維持」で頭打ちになります。畢竟、国益を伸ばすなど望むべくもありません。
まぁ、岸田政権の世界観がそこまでしかないといってしまえばそれまでかもしれませんけれども、平時ならまだしも有事で「現状維持」という方針はちょっと危ない。
ロシアのウクライナ侵攻で、憲法9条やエネルギーなど、これまで「現状維持」を支えてきたとされていたいたものが音を立てて崩れていっています。
有事において、何もしないで「現状維持」はあり得ない。
岸田総理は、国会答弁で「注視する」「検討する」ばかりで「検討使」と一部で揶揄されていますけれども、「検討」をただの「時間稼ぎ」に使っているのだとしたら、それは非常に危険なことなのではないかと思いますね。
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