

1.ロシアを襲う新たな現実
3月16日、ロシアのプーチン大統領は、政府当局者らとのビデオ会議の前での発言で「これら新たな現実を受けてわれわれの経済は大幅な構造変化が必要になるが、容易ではないことは隠さない、一時的には物価や失業率が上昇することにつながる」と、ウクライナ侵攻を受けた欧米諸国の制裁が自国経済に大きな影響を与えていると認めました。
プーチン大統領は、ロシアに対する西側諸国の「経済ストライキ」の試みは失敗したとしつつも、ロシアへの圧力を強めることは今後もあり得ると警告しました。
既に、制裁の影響はロシア全土に波及し、工場の閉鎖、雇用の喪失、金利の倍増、ルーブルの下落を引き起こしています。
ロシア統計機関の発表によると、3月11日の週の消費者物価は2.09%上昇し、年初からの上昇率は5.62%に達しています。また、ルーブルは、ウクライナ侵攻以来、対ドルで約18%の値下がり。今月上旬には40%以上下落し、その後戻しています。
プーチン大統領は、ここ数週間の欧米企業のロシアからの撤退に言及し、まだ自国内でビジネスを行っている多国籍企業に対し、「アメリカとその属国からの許しがたい圧力にもかかわらず、わが国で事業を継続している外国企業の地位を評価する。今後、彼らは確実にさらなる成長の機会を得るだろう」と述べました。
そして、年金受給者や国家公務員への支払い増、最低賃金の引き上げ、企業への財政支援など、さまざまな措置を講じることを約束しました。
2.ソ連時代にもなかった孤立
この国際的な対ロシア制裁について。ロシアのゲオルギー・クナーゼ元外務次官が産経新聞の電話インタビューで次のように述べています。
国連総会の緊急特別会合ではロシア非難決議が141ヶ国の賛成で可決された。反対したのは、ロシアとベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの5ヶ国のみだ。主要な国際機関が圧倒的多数でロシアの行動を非難した。ロシアが完全な孤立にあることを示している。このような孤立はソ連時代にもなかった。たいへん深刻な事態であり、今後のロシアの発展に大いに影響する。
ロシアはウクライナでの行動の罰として最大級の国際的制裁も受けた。これはソ連に対する制裁よりも重い。ソ連時代には社会主義圏があり、生産能力や必要な技術、知識を圏内諸国から得ることができたが、今では旧社会主義諸国がロシア非難の先頭に立っている。
ロシアを支持するベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアはいずれも国際社会の「外れ者」であり、何もロシアに与えることはできない。ロシアの「信頼するパートナー」であり、事実上の同盟国である中国がロシアを支持しなかったことにも注意してほしい。
正に四面楚歌。はっきりと反対した5ヶ国は国際社会の「外れ者」であり、ロシアに資するものはないというのですね。そして、事実上の同盟国である中国ですら支持しなかったことも指摘しています。
ロシア非難決議では、5ヶ国の反対国と35ヶ国の棄権がありました。その棄権35ヶ国は次の通りです。
アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、バングラデシュ、ボリビア、ブルンジ、中央アフリカ、中国、コンゴ共和国、キューバ、エルサルバドル、赤道ギニア、インド、イラン、イラク、カザフスタン、キルギス、ラオス、マダガスカル、マリ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、セネガル、南アフリカ、南スーダン、スリランカ、スーダン、タジキスタン、ウガンダ、タンザニア、ベトナム、ジンバブエ棄権35ヶ国には中東・アフリカ・南アメリカなど資源国が目立ちます。
資源国がロシアに敵対せず、それら資源を手に入れることが出来たとしても、工業生産できなくては国民生活や、経済はかなり厳しくなります。これら35ヶ国で高度な工業生産という意味では中国以外これといった国は見当たりません。
プーチン大統領は、ロシア経済について「大幅な構造変化が必要」と述べていますけれども、それには、中国との関わりがカギを握るように思います。
3.ロシア戦力の中枢に打撃を与えた日本
3月18日、アメリカのエマニュエル駐日大使は、日本が新たにロシア政府幹部ら15人と9団体の資産凍結を発表したことを受けて「国防省や諜報機関の幹部に加え、国営武器輸出企業も対象とすることで、ロシアの戦力の中枢に打撃を与えるものだ」とする声明を発表しました。
エマニュエル駐日大使は、ロシアのウクライナ侵攻について「丸腰の市民、女性、子供を含むウクライナ国民への非合法な攻撃」と厳しく非難し、「岸田文雄首相と日本政府が講じた最新の制裁措置を歓迎する」と述べました。
声明では日本の制裁対象となった「個人と団体は200を超えた」と指摘し、プーチン大統領の「圧政に抵抗していることを明確に示すものだ」と評価しています。
4.ロシア富豪たちの国外脱出
3月16日、プーチン大統領はテレビ演説で「マイアミやフランスのリヴィエラに別荘を持つ人々、またはオイスターやフォアグラや『ジェンダーの自由』がなければ生きていけない人々」に向けて、「問題は彼らの精神がここロシアに、ロシア人と共にあるのではなく、あちら側にあることだ」と警告。西側はロシア内の裏切り者を利用してロシア社会を分断しようとしており、「ロシアの破壊を狙っている」と主張。その試みに対抗するため、国民に「自浄」を呼びかけました。
これについて、著名なジャーナリストで歴史家であるアン・アプルボーム氏は、「自浄の呼びかけはスターリン時代の『粛清』を思い起こさせる」と、かつての暗い記憶を思い起こさせることで、人々の手足を縛ろうとしていると非難しました。
このプーチン演説を受けて、ロシア富豪たちの「国外脱出」が始まったとの指摘もあります。
翌17日、アナリストのオリバー・アレクサンダー氏は、ロシアから複数のプライベートジェットが離陸したことを発見し、これらの追跡データをツイッター上に公開。「今朝もまたモスクワからドバイへ向かうプライベートジェットの大規模なエクソダスが」とコメントしました。
アレクサンダー氏は、これまで「みんなモスクワからウラル山脈に遠足に出かけているようだ」、「飛行機に、実際には誰が搭乗しているかは分からないが」、「モスクワから北ウラル山脈やシベリアに向かう、ロシア連邦上空における活動が激しくなっている」といった情報を投稿してきたそうで、ロシア富豪達の「国外脱出」が本当であれば、プーチン大統領打倒ではなく、逃げることを選択したことになります。
5.民主化できるロシアと民主化できない中国
既に3週間にも及ぶロシアのウクライナ侵攻ですけれども、これが長引けば長引くほど、ロシアの世界からの孤立化が進むことになると思います。
当たり前ですけれども、西側メディアはプーチン大統領を厳しく批判しています。とりわけアメリカのバイデン政権は、ロシアを中国と一緒くたに独裁政権だとして批判しています。
けれども、小説家で歴史研究家の井沢元彦氏は、ロシアは民主化できるが中国は民主化できないと興味深い指摘をしています。
井沢氏は、キリスト教、すなわち神の存在を認めることによって民主主義の母体が出来ると述べています。
つまり、人間を超越した存在である神の御前では、人間同士の優劣など誤差にしか過ぎない、故に「一人一票」でよい、民主主義の母体が出来上がる。他方、中国の朱子学は無神論であるが故に、人の優劣が絶対となり、優れた人が国を治めることに正当性が与えられる。万人平等の思想がないが故に、民主主義は出来ないというのですね。畢竟、無神論国家である中国も民主主義国家にはなれないという訳です。
井沢氏は、ロシアについて、一時期共産主義にかぶれたものの、根本にキリスト教があるが故に、今の民主主義レベルは低いものの、キリスト教の「万人平等」の思想により、時間はかかるけれども民主主義国家に生まれ変わると述べています。
鋭い指摘です。
井沢氏は、台湾、香港が民主化できた理由を、外国に占領されたことで外国のマインド、キリスト教の思想が移植されたからだとし、そして日本については、徳川家康が朱子学を導入したのに民主国家になれたのは、明治に天皇陛下を神の座に押し上げることで、陛下の臣民という形で「万人平等」の思想を定着させたが故だと述べています。
6.試されるプーチン
こうしてみると、思想が如何に国家に影響を与えたのか分かりますし、ロシアと中国の違いはここにあることになります。つまり、中露に楔を撃つとしたらこの点になるのではないかということです。
2016年にフランスで行われたノルマンディー上陸作戦70周年記念式典で、原爆映像が流れた際、アメリカのオバマ大統領が拍手していたのに対し、プーチン大統領は十字を切っていた動画が最近ネットの一部で話題になっていますけれども、プーチン大統領は敬虔なロシア正教徒として知られています。
その意味では、プーチン大統領と習近平を唯の独裁者だと同じ扱いにするのは不適切かもしれません。
もっとも、広島・長崎に原爆投下したことについて、アメリカは戦争を終わらせるために必要だったという理屈を立てていますけれども、今回、プーチン大統領は、ウクライナを降伏させるために核を使うのかどうか逆に試されているともいえます。
ただ、非戦闘員への殺害は戦時国際法違反ですけれども、戦闘員はそうではありません。
3月3日、ウクライナは「民間人によるロシア兵の殺害」を合法化する法案を可決していますけれども、これでウクライナの民間人が戦闘員として定義され、ジュネーブ条約に基づく保護が適用されなくなるという指摘もあります。
これは、ロシア側に、ウクライナには民間人はおらず、全て戦闘員であるという口実を与えることになり、非常に危険なことだと思います。
また、日本は対ロシア制裁によって、ロシアから非友好国としてリストアップされました。今後、ロシアからも何らかの報復があると思われます。
それを考えると、「罪を憎んで人を憎まず」ではないですけれども、国としての態度と人としての接し方を分ける。国としては互いに対立しても、個人としては悪くないという関係を作っておいて損はないような気もします。
奇しくも岸田総理は広島出身です。それを考えると、原爆被害者に十字を切って祈ってくれたプーチン大統領に「個人」として謝意を伝えることで、若干なりともパイプを繋いでおくと同時にウクライナで、民間人を殺傷するという「非人道的」行為はしないよな、という牽制を入れておくという手も考えてよいかもしれませんね。
この記事へのコメント
後の強請りネタ「国交」
日本が教える事を、躊躇も違和感もなく理解し吸収していった。
彼らの良心に背く内容の押しつけがなかったと解釈していいだろう。
日本人の道徳・生き方などに共感して、メキメキと向上していった。
・・・片や、アイゴーヘイゴーの方は
いや書くことも憚られるお粗末。台湾より血税かけてもどれだけ細やかに教えても変わらず。
素養(DNA)も良心も理解もへったくれもない始末。関わっては駄目な相容れない物体。
と、絶対に相容れないのだと、むしろ日本側に言いたい。
国交続ければ日本国民が疲弊と損害を被る。現に、今も非常識な言動を続け犯罪をしに来る始末。
案外、断交してやった方が早く目覚めるかもね。今の状態では「犯罪推奨」「足抜け無理」状況。
夢のメトロ
彼らは、欧米により荒廃させられたイラクやリビアなどから来ています。
(だから中東は内心ロシアびいき)
富豪が富豪である以上、その富を増やし、家族や親族のために使うでしょう。
ロシアが欧米との戦争で負けなければ、富豪はまたロシアに戻ると思います。
ロシアが経済的な植民地にならなければ、ロシアのために財産をなげうって復興を
図るでしょう。
ウクライナの実態を知ってウクライナを応援できる人は人道に劣ると思います。
https://twitter.com/sofimari21
金 国鎮
政治的内容は一切ないがロシア人の心情に訴える内容であった。
彼らがソビエトの時代を耐えて今日の立場を築いた努力には頭が下がる。
多くのロシア人を代表しているのはロシア正教である。
さてプーチンはロシア正教と共に歩めるだろうか?
正念場が来たのかもしれないがプーチンは信仰の世界を知っている。
ソビエトの時代と比べればロシアは信仰の自由を許している。
信じられない進歩だね。