

1.3月22日の停電回避
3月22日、経済産業省は東京電力と東北電力の管内で懸念された停電が同日中に起きる事態は回避できる見通しだと発表、大規模停電はなんとか回避しました。
京電力管内の需給は、前日夜の時点で極めて厳しくなる見込みがあったことから、政府は初となる「電力需給逼迫警報」を出して節電を呼びかけ、東京電力管内の需給は、朝9時の段階では147万KW程度の節電を行っていました。
けれども、電力供給に対する使用率の割合は、正午を挟んだ数時間にわたって100%を超え、東北電力管内も午前に一時100%に達し、午後3時頃の見通しでは、両電力管内で早ければ午後8時台に広範囲な停電が発生する恐れがありました。
この事態に、萩生田経産相が午後3時前に緊急の記者会見を開き、午後8時までの節電の上積みを要請。鉄鋼や非鉄金属といった素材産業や自動車関連などの大口需要家が一段の節電に取り組んだところ、16時台の需要が当初の想定需要である4840万kWを481万kW程度下回り、結果として停電を回避できたということです。
2.復旧は4月以降
そもそもなぜ、急に電力不足という事態に陥ったのかというと、3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震により、東北電力の火力発電所が被災したことに加え、この日に季節外れの寒波が襲ったため、電力需要が高まったからです。
震源域に最も近い相馬共同火力発電の新地発電所は設備が損壊し、原町火力も停止しました。いずれも東京電力管内へ送電しており、東電の供給力に打撃を与えることとなりました。
新地発電所は相馬港に隣接し、石炭燃料の1、2号機はいずれも出力100万キロワットあるのですけれども、地震発生時は1号機が運転中で強い揺れで自動停止。その後の調査で、専用埠頭に4基ある揚炭機のうち2基が大きなダメージを受けたことが分かりました。この設備は輸送船から石炭を陸揚げする重要な設備で、復旧見通しは4月上旬頃ということです。
また、石炭火力2基がある原町火力も運転中の1号機が地震で自動停止し、ボイラーや燃料用設備の被害が判明しています。こちらの復旧は5月上旬頃になるとのことです。
つまり、4月5月迄は、また同じような電力が逼迫する事態となれば、大規模停電が起こる可能性があるということです。
3.電力と周波数
火力発電が被災すると、電力の調整機能は大きく失われてしまいます。
ご存じの通り、家庭用などの一般の電気は、電圧のプラスとマイナスが交互に入れ替わって、波のように流れてくる「交流」です。
この波には1秒間に何回起こるかという、所謂「周波数(Hz)」があるのですけれども、この周波数は発電所の発電機の回転数と同じになっています。
電気は基本的に貯めることができないため、発電と消費が同時に行われています(同時同量)。けれども、当然のことながら電気の使用量は24時間365日いつも一定ということはなく、一日の間でさえ大きく変動します。
その為、発電側は、刻々と変動している電力消費量に合わせて供給する電力量を常に一致させ続ける必要が出てきます。もし、一致させなければ、使う電気が大きくなった場合、発電機を回す力がそのままだと、回転速度が遅くなって回転数が減って周波数が下がり、逆の場合には回転数が増え、周波数が上がることになります。畢竟、周波数変動を起こす不安定な電気を供給することになり、種々の電気設備の故障にも繋がりかねません。
こうしたことから、電力会社は、予測される需要(電力消費)に応じて発電計画を決め、発電所の稼働や出力を調整して需給バランスを保っているのですけれども、発電といっても、発電量の調節が効くものと効かないものがあります。
今はやりの太陽光や風力発電等の再生可能エネルギーは、当然ながら、天候や時間によって大きく発電量が変動します。従って発電量の調節には使えません。
また、原子力発電や水力発電は調節しようと思えばできなくもありませんけれども、燃料棒の細かい制御や、事前にダムに水が溜まっていないといけないなど、多少の手間がかかります。
その点、火力発電はくべる燃料を調節すればよく、比較的それが容易なことから、電力供給の調整に使われています。

4.発電機の安全装置
3月16日の福島県沖地震で各地の火力発電所が停止した際には、首都圏で最大210万軒の停電が発生しました。この時の停電は、約3時間でほぼ復旧したのですけれども、これは、火力発電所がぶっ壊れたのではなく、発電機の安全装置が働いて、発電がストップしたからです。
先程、発電側は、変動する電力消費量に合わせて供給する電力量を常に一致させ続ける必要があると述べましたけれども、もし、一致させずに放置するとどうなるか。
例えば、使う電気が大きくなっても、発電機を回す力がそのままだと、発電機の回転速度が遅くなって周波数が下がり、逆の場合には回転数が増え、周波数が上がってしまいます。畢竟、周波数変動を起こす不安定な電気を供給することになり、種々の電気設備の故障にも繋がりかねません。
東京電力は、こうした電力需給のバランスが崩れた場合に備え、各変電所に「UFR(周波数低下リレー)」と呼ばれる安全装置を設置しています。
この「UFR(周波数低下リレー)」は電力需給バランスが崩れたときには自動的に作動し、一部地域への送電を停止するようになっています。そのため、局地的な停電はあっても東電管内全域を巻き込むようなブラックアウトは発生しないとしています。

5.天の意思を聞く力
このように、電力の安定供給に尽力している電力会社ですけれども、そもそもにして、全体の電力そのものが不足すること自体に問題があるといえます。
いくら火力発電が健全であったとしても、フル稼働してなお電力が足らなければ、電力量の調節もへったくれもないからです。
なぜ、そのようなことになっているのかというと、その理由はなんといっても原発が止まっているからです。
こちらの原子力規制委員会のサイトに国内の原発の運転状況が記載されていますけれども、どこもかしこも廃炉か停止中のオンパレードです。
3月22日、経団連の十倉雅和会長は定例記者会見で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に絡んで「エネルギー安全保障の重要性が再認識された……安全性の担保された原発に関しては、速やかに稼働しないと大変なことになる」と強調しました。
十倉会長は昨年12月23日に、日本経済新聞社、テレビ東京ホールディングス、日本経済研究センターが主催する「2021特別講演会」で脱炭素社会に対応するグリーントランスフォーメーション(GX)を「官民一体で推進し、日本の意識の遅れを取り戻す必要がある」と述べる一方で「今のままなら原発は50年に23基、60年には8基だけになる。安全性が確認された原発の再稼働は避けられない。コストを抑える点でも、既に投資した原発を活用することが求められる……将来を見据えて小型炉の開発などにも取り組まなければならない。何もしないでいれば、我が国の技術も人材も失われてしまう危機感がある」と訴えました。
環境先進国とされる欧州でも、既に原発は「クリーンエネルギー」として扱うことになりましたからね。原発を再稼働して、供給できる電力全体を嵩上げしておかないと、今後またいつ大規模停電が起こるか分かりません。
震災で火力発電所が被災し、桜の開花宣言が出た後に、いきなりの寒波なんて、筆者には「天意」が働いているとしか思えません。
岸田総理には人の意見だけでなく、「天の意思」にも聞く力を発揮していただきたいと思いますね。

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