ゼレンスキー演説とロシア製天然ガス交換券

今日はこの話題です。
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1.日本に合わせてマイルドに


3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領は国会でオンライン形式の演説を行いました。

会場には岸田総理や衆参両院の議長、ウクライナのコルスンスキー駐日大使のほか、各党の衆参の国会議員およそ500人が出席。会場に設置された2台の大型スクリーンにゼレンスキー大統領の姿が映し出されると、出席者からは拍手が起こりました。

ゼレンスキー大統領の演説全文は色んなところで紹介されているので、取り上げませんけれども、原発事故や住まいを追われた人々の存在といった「両国共通の経験」を滲ませるなど、これまでの英米などでの演説と比べると随分とマイルドなトーンでした。

事前には、日本の姿勢を批判するのかそれとも支持するように煽ってくるのかなどと一部では注目されていましたけれども、終わってみれば、無難な内容ではなかったかと思います。

それにしても、ロシア軍による化学兵器攻撃が示唆されている状況を挙げ、「地下鉄サリン事件」に言及するなど、日本のことを良く調べていることが伺えます。

戦争真っ只中のウクライナでこのような演説が出来るとはよほど優秀なスタッフがついているのではないかと思わせます。



2.共感スイッチは原発


ゼレンスキー大統領の演説について、欧州政治に詳しい慶応大准教授の鶴岡路人氏は次のように述べています。

どこまで日本向けにアレンジしたのか分かりませんが、他国での演説と比べても非常にソフトな内容でした。あえて言えば無難だったかもしれません。

もう少しきつい言い回しなどがあるかと懸念しましたが、非常にマイルドで、日本のこれまでの役割に感謝するというトーンが強かった。

要求の部分では、各国での演説とほぼ一緒で、制裁の強化、禁輸、企業のロシアからの撤退。この辺りの受け止め方は様々だと思いますが、中身は非常に穏当。想像の範囲内でした。

議会で演説する目的は、国民の代表である議員を通じてその国の国民に訴えかけ、それぞれの国民のウクライナに対する「共感スイッチ」を押すことです。

日本での「共感スイッチ」は原発の話。チェルノブイリの事故から話を始めて、かなり長めに触れていました。福島への言及はあえてしなかったのだと思います。「日本人は、原発事故は一緒に懸念してくれるよね」という前提だったのではないでしょうか。

このように鶴岡准教授は、内容は穏当としながらも、日本国民のウクライナに対する「共感スイッチ」を押すものは原発の話だと指摘しています。

なるほど、確かに原発の話であれば、先日のアメリカでの「真珠湾発言」とは違って、賛否が分かれることもないと踏んだのかもしれません。

更にネットでは、日本は「察する文化だ」という分析をした上で、「福島と言わずに」チェルノブイリの話をし、「広島・長崎という単語を使わずに」核兵器の話をするというぐあいに日本人の〝察する力〟に期待した演説であり、実に言葉の使い方が上手いという意見もありました。なるほどと頷かせる指摘です。


3.日本の報道で注目されていない重要な論点


一方、鶴岡准教授は、マスコミ報道についてツイッターで「演説がマイルドだったのをよいことに(?)、円満演出系の見出しが多い印象。制裁継続も求めましたが、貿易禁輸や企業の露撤退にも触れていましたので、明確に制裁「強化」の要請でした」と述べ、日本の報道で注目されていないものの重要な部分として次の2つを指摘しています。
①「重要なことは、現在、戦争を起こすことで強力な罰が生じ、戦争は始めるべきではない、平和を破壊すべきでないということを、地球上の全ての侵略者、明らかな侵略者にも潜在的侵略者にも、確信させられるかどうかにある」

②「ロシアへの禁輸が必要だ。ロシア軍にお金が行かないように、ロシア市場から企業を去らせねばならない。私たちの国、ロシア軍を止める私たちの防衛者、私たちの戦士への更なる支援が必要だ」
鶴岡准教授はゼレンスキー大統領の演説は「完全にマイルドなのではなく、しっかりエッジも効いています」というのですね。

確かに、戦争を起こすことで発生する強力な罰によって、地球上の全ての侵略者が戦争を始めるべきではないと確信させるために、「ロシアへの禁輸」と「ロシアからの企業の撤退」を訴えています。今以上に制裁してくれ、と要請している訳です。


4.生殺与奪の権を他人に握らせるな


3月24日、西側諸国はベルギーの首都ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)、主要7ヶ国(G7)、欧州連合(EU)の各首脳会議を行うとしていますけれども、異例の集中開催を行うことで、軍事的、経済的に同時に制裁を科す積りなのだと思われます。

前日23日、カナダのトルドー首相は、欧州議会に「独立主権国家に侵攻するという決定は、プーチン氏とロシアに破壊的代償がのしかかる戦略的失敗だという理解を徹底させる必要がある」と述べ、また、アメリカのバイデン大統領はEUと共にロシアへの新たな制裁や現行の制裁強化措置を発表すると説明しています。

これは要するに、ゼレンスキー大統領が訴える「強力な罰によって、侵略者に戦争を始めるべきではないと確信させる」為の制裁だということです。

尤も、EUの外交筋は大規模な追加制裁にはならないとの見方を示しています。というのも一部の加盟国はロシア産エネルギーへの依存度が高いため、禁輸措置に抵抗しているからです。

「生殺与奪の権を他人に握らせる」とこうなる訳です。


5.ルーブルで支払え


西側諸国から経済制裁を受けているロシアですけれども、プーチン大統領は、天然ガス供給という「生殺与奪の権」を使って対抗しようと画策しています。

3月23日、プーチン大統領は「非友好国」に対し、天然ガスの支払いをルーブル建てで行うよう要求しました。プーチン大統領はテレビ放映された閣僚会議で「ロシアは当然、これまでに締結された契約通りの量と価格で天然ガスの供給を継続する……今回の変更はロシアルーブルに変更される支払い通貨にのみ影響する」と述べました。

1月27日時点で、ロシアの天然ガス大手ガスプロムは、欧州などへの天然ガス輸出の決済は、58%がユーロで、39%がドル、ポンドが3%でした。

ロシアの天然ガスは欧州の総消費量の約4割を占め、EUのロシアからのガス輸入は今年に入ってから1日2億~8億ユーロの間で推移しています。

今回、プーチン大統領のルーブル建支払い発言を受け、ルーブルは対ドルで一時1ドル=100ルーブルを超えて値上がりし、一時94.9875ルーブルを付けています。

これについて、コンサルタント会社ライスタッド・エナジーのシニアアナリスト、ビニシャス・ロマーノ氏は「額面通り受け取れば、今回の措置はルーブル相場を下支えするため、天然ガスの購入者にルーブル買いを強制しているように見える」と述べていますけれども、その通りだと思います。

ロシア産天然ガスが欧州の総消費量の約4割にも及ぶとなると、そう簡単に輸入ゼロにできるはずもありません。

それを考えると対露制裁が長引けば長引くについて、返す刀で西側諸国も少なからず傷つくことになるかもしれませんね。




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