

1.キエフ近郊でロシア軍が数十キロ後退
ウクライナでロシア軍が苦戦しています。
3月23日、アメリカ国防総省の高官はウクライナ首都キエフ東方20~30キロで待機を続けていたロシア軍がウクライナ軍の攻撃により約55キロ地点まで押し戻されたことを明らかにしました。
どうやら、キエフ包囲を狙う地上部隊が補給不足や強力な反撃で停滞し、一部で後退を余儀なくされたようです。
この高官によると、キエフ北方チェルニヒウの包囲を目指す部隊もウクライナ側の攻撃で一部が後退。要衝オデッサに近い南部ミコライフ郊外では激しい戦闘によりロシア軍に再配置の動きがみられるそうです。
また、ロシア軍は、東部マリウポリとその北方のイジュムを結ぶ一帯での戦闘に集中しつつあり、東部ドンバス地方を支配する親露派武装勢力と戦闘を続けるウクライナ軍を封じ込める狙いがあるとしています。
マリウポリでは激しい爆撃や市街での戦闘が継続していて、近郊のアゾフ海沿岸で揚陸艦から車両を上陸させて補給する動きが確認されているようです。
それでも、ロシア軍の損耗は激しく、NATO高官によると、侵攻から約1ヶ月でロシア軍側の死者が7000人から15000人に上るとの見積もりを示したとAP通信が伝えています。
15000人といえば、アフガニスタン侵攻の旧ソ連の戦死者に匹敵する数字です。これがわずか1ヶ月で失ったとすれば大変なことです。
2.ロシア軍の命運は二週間
目下の戦況について、ロシア軍の内情を知るアゼルバイジャンの軍事評論家アギーリ・ルスタムザデ氏はロシア語の独立ニュース動画サイト"Newsader"で、次のように分析しています。
◆ウクライナでの戦闘の現状と懸念このように、ルスタムザデ氏は、ロシア軍はあと2週間ほどでミサイルすら底をつくものの、今の程度の経済制裁では、まだ戦えると述べています。
・現状での懸念はベラルーシ軍が参戦し新たな戦線をキエフの北西部で開くことだ。
・ロシア軍について言えば、この20〜30年、シリア以外では精密誘導などの最新鋭兵器を使ったことがない。
・歩兵と戦車隊中心の第二次大戦と同じ戦術だ。
・現在の劣勢は、戦争計画段階での失敗の結果だ。航空機を使った通常の攻撃であれば全く別の結果になっていたはず
・この「特別軍事行動」は失敗する。ウクライナの民衆とウクライナ軍の抵抗を計算していなかった。
・ロシア軍は北と南から侵攻しているが、北は損害も大きく、防衛に入っている。近いうちに敗北するだろう。南のロシア軍は補給が堅実だ。クリミアや海岸部から兵器が補充されている。
◆経済制裁で弱体化するロシア
・ロシアは強力な経済制裁にさらされ、日々弱体化している。平時と戦時では軍の費用は10倍違う。ロシア経済はそれに耐えられないだろう。
・ロシア軍は、精密誘導兵器の数が限られている。通常兵器はやまほどあるが、精密誘導兵器は少ない。精密誘導兵器は主に核弾頭を装填して使う想定で、通常弾を載せることは想定されていない。
・巡航ミサイルは最も高価な武器だ。システムが複雑で、一発がパイロットのいない一機の航空機のようなものだ。
・平時に軍が1万発の発射訓練を行っていると仮定すると、戦時には最低でもその100倍の弾薬を使う。
・旧式の兵器弾薬はまだ1カ月は持つだろうが戦車のエンジンの交換、保守、大砲の交換が必要になる。巡航ミサイルがもっと必要になっても短期の補填は不可能だ。
・ロシア軍参謀本部では、弾薬生産などの現場の尻を叩いているが、それは侵攻前にやるべきことで、もはや手遅れだ。
◆予備兵まで前線に 兵員の補充を進めるロシア
・ロシアが動員令を発令しない場合、海外にある基地の要員を呼び戻しても、せいぜい3~4万人だ。3~4万人の追加と言っても、ロシア国内の基地でも人員は必要で、全部をウクライナの前線に振り分けられるわけではない。最終的には総動員令を出すか、停戦協議に応じるしかない。
・ロシアはアルメニアの第102基地からロシア兵を転戦させる計画を立てている。招集だけでなく、現地の志願兵募集を行った。
・シリアからの傭兵についていろいろ言われているが、彼らは戦車などの正規軍に組み込まれて戦うことは不得意で、ゲリラ戦用だろう。
・ロシアでは軍学校の学生もすでに前線に送り出されている。その部隊がウクライナで殲滅されたようだ。
・軍学校の学生でも2、3年生なら十分戦える。招集兵よりましだ。
・ロシアでは志願兵の数は実はあまり多くないのだ。いまや大部分が招集兵だ。志願兵の割合は50%を切るだろう。・兵員数からすれば、今のロシア軍はもうアップアップだ。
・遅かれ早かれロシア軍は負ける。
・ウクライナ軍は装備も兵器も弾薬も豊富だ。ウクライナ軍の志願兵はよく訓練されている。この8年でドンバスなど紛争地帯をローテーションで回り戦闘経験も積んでいる。
◆あらゆる常識に反する作戦
・ロシア軍の兵士や将校は何のために自分たちが戦うのか、疑問を持っている。何のために死ぬのかがわからなければ、士気が上がるわけがない。
・ロシア軍の死者は1万から1万2千人だと思う。
・人員の損失については、兵員を補充して何とかするだろうが、兵器の損害は短期では補えない。
・兵器の破損によって、イニシアチブはウクライナ側に移りつつある。
・航空戦力の援護がなければ、歩兵、戦車部隊の攻撃能力も防御力も大きく落ちる。飛行士の訓練だけでも1年はかかる。
・ヘルソンではウクライナ軍によってロシア軍の7機のヘリコプターが攻撃されたが、爆発の小さな破片が機体に当たるだけでもヘリコプターは修理が必要になる。実際の損害はもっと大きいはずだ。
・ウクライナ軍のスティンガー地対空ミサイルは、高度6千メートルまでの空域を部分的に閉鎖することに成功していると言える。
◆電子部品も底をつく
・あと2週間もすると、ロシアはミサイルさえ打てなくなるかもしれない。
・ロシア軍は台湾製のGPS受信装置を使っているが、ロシアでは生産できないので、もう補充の手段がない。電子部品はほとんどが台湾製と中国製だ。ストックを使い果たしたら終わりだ。
・いまの経済制裁下では、ロシアはまだ戦える。ロシアは巨大な国だから、貧しくなっても10年はもつだろう。
・経済制裁以上に効果があるのが、エネルギー関連の完全禁輸措置だ。本当に戦争を止めようと思ったら、エネルギー関連の完全禁輸しかない。
◆限定核使用の可能性…報復なら"死の手"
・ロシアが小出力の限定核を使用する確率は五分五分だと思う。
・もしロシアが戦術核を使ったら、ウクライナにもNATOにも防御の手立てはない。
・たとえロシアが限定核を使っても、NATO諸国は手を出さないと思う。エネルギー全面禁輸をかけるだろう。そうなればロシアは一年で崩壊する。
・米国でさえ核による報復はしないだろう。なぜならロシアが核攻撃を受けた場合、〈死の手〉というシステムで、アメリカだけではなく全世界に向けて核ミサイルが発射されるシステムになっているからだ。
・ソ連という国を思い出してみて欲しい。ほとんど外の世界から切り離されていたが、なんとか存在は可能だった。北朝鮮が生き延びているように、孤立したままロシアは生き残るだろう。
◆ウクライナ侵攻の出口は…
・もしウクライナ軍が北部や北東部、南部でロシア軍を撃退できてもドネツク地域のあるウクライナ南東部では、ロシア軍を撃退することは難しい
・北部と南部で撃退された場合、ロシアは停戦を申し出るだろうが、南東部は手放さない。その時、ウクライナは妥協するのか、最後まで戦うのか。ロシアが総動員令を発した場合は、長い戦争になる。
そして、近々の停戦はウクライナ側が北部と南部でロシア軍を撃退することが条件だというのですね。ただし、その場合でも、ウクライナ側が妥協して、ロシア軍が進出した南東部をそのまま差し出すのかどうかがポイントだとしています。
3.キエフ陥落かロシア軍撃退か
3月24日、アメリカ国防総省の高官はウクライナ情勢について、ロシア軍はこれまで準備していた巡航ミサイルや空中発射式の巡航ミサイルの「かなりの量」を使い果たしており、ミサイルの「在庫問題」に直面し始めているとの分析を明らかにしました。
そして、精密誘導兵器の一部は発射出来ず、標的に命中せず、さらに着弾時点で爆発しない欠陥も露呈しているとし、このことが標的の正確な破壊能力を有しないほかの種類の爆弾の使用頻度が増えている理由になっているとしています。
また、同じく24日、アメリカのヌーランド国務次官は、キエフ安全保障フォーラムの会合「ウクライナをめぐる闘い」にて、「初めてこのプーチンの戦争の計画について知った時、それはまだ秋だったが、軍人は彼に対して、キエフは5日間で取れると述べていた。軍事司令官は彼に、ウクライナの支配を2週間で得られると述べていた」と発言した上で、ウクライナ国民一人一人の行動のおかげで、それは実現しなかったし、ロシア軍は現在ほぼ止まっていると指摘しました。
これらアメリカの分析は、先のルスタムザデ氏の見解を裏打ちしているように思います。
ウクライナ軍参謀本部の情報によると、ロシア軍は、ナチスドイツに対する勝利の日としてロシアで広く祝われている5月9日までに戦争を終結しなければならないと言われていると明かしたそうですけれども、あと1ヶ月半くらいあります。
それまでにキエフが陥落してウクライナ側が降伏するか、それともルスタムザデ氏の見立てのとおり、ウクライナ側が北部と南部でロシア軍を撃退して、ロシアから停戦を申し込んでくるかとなると、なんともいえません。あるいはミサイルや大砲を打ち尽くし、膠着状態で睨み合ったまま長期戦に突入するかもしれませんね。
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