孤立するロシアが探る抜け穴

今日はこの話題です。
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1.ロシアの金準備凍結


世界のロシアに対する金融制裁が進んでいます。

3月24日、先進7ヶ国(G7)と欧州連合(EU)は、ウクライナに侵攻したロシアへの経済制裁として、ロシア中央銀行が保有する金準備に関連した取引を禁止すると表明しました。

既にドルやユーロ、円などの外貨建て資産は凍結済ですけれども、ロシアがルーブルを買い支えるために金を売却する「抜け道」を封じるのが狙いです。

ロシア中銀は侵攻前に約6300億ドル(約77兆円)の準備資産を保有していたのですけれども、2014年にウクライナ南部クリミアを併合した後に経済制裁が強化されたことから「脱ドル依存」を進め、2020年に金とドルの比率が逆転。2021年6月末時点の構成比は最も多いユーロが約32%、金は約22%、ドルが16%となっています。

ドル、ユーロ、そして金での決済が禁止されると、ロシアの外貨準備として残るのは人民元とその他通貨の合わせて29.6%です。つまり、持っていた外貨準備の実に7割が封じられたわけです。

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2.仮想通貨決済


こうした金融制裁にロシアが足掻いています。

3月24日、ロシア政府が「天然ガスや石油などの天然資源を友好国に輸出する際の支払い手段として、ビットコイン(BTC)などによる仮想通貨決済を受け入れること」を検討していることが複数メディアの報道で明らかになりました。

ロシアの地元メディアRBCは、ロシア連邦議会エネルギー委員会の委員長であるパヴェル・ザワリヌイ氏は「中国やトルコなどの圧力をかけてこない「友好国」に関しては、ルーブルや人民元などの自国通貨による支払いに切り替えるよう以前から提案している。トルコの場合はリラやルーブルになる。様々な通貨があり得るし、それが標準的なやり方だ。彼らがビットコインを望むのであれば、我々はビットコインで取引を行う。西側諸国と取引する場合、彼らはハードマネーで支払うべきだ。ハードマネーとは金であり、彼らは"我々にとって便利な通貨"で支払わなければならない」と伝えていますけれども、ザワリヌイ氏は、ロシアは、既に中国とトルコの代表とすでにエネルギー輸出の決済オプションとして通貨変更について議論していると説明したようです。

これについて、アメリカのFBI長官らは「ロシア政府が仮想通貨を制裁回避に使用する可能性は低い」の見解を示すなど、ロシアと仮想通貨に関しても注目が集まっていたのですけれども、今後は「ロシアとロシアの友好国の天然資源取引」でも仮想通貨が活用されていく可能性がでてきました。

西側はこれにも規制をかけてくるのか。注目していきたいと思います。


3.キャンセルカルチャーとの戦い


西側諸国のロシア排除は金融以外の分野にも及んでいますけれども、プーチン大統領はこれについて批判しています。

3月25日、プーチン大統領は、主要な文化的人物とのテレビ会議で「キャンセルカルチャー」についての演説を行いました。

プーチン大統領はウクライナについて一切触れなかった代わりに「キャンセルカルチャー」とは、「現代のテンプレートに当てはまらない人々、たとえそれが本当に不合理なことであっても、公的に排斥し、ボイコットし、完全に黙らせることである」と定義し、「不要な文学を破壊するためのそのような大規模なキャンペーンが最後に行われたのは、ほぼ90年前のドイツのナチスによるものだ…本は広場で燃やされた」とナチスの蛮行に擬えました。

更に、プーチン大統領は「国内文化は常にロシアのアイデンティティを守ってきた……しかし、欺瞞的で儚いもの、精神的価値や道徳的原則、歴史的記憶の連続性を破壊するようなものは拒絶してきた」と述べ「今、西側諸国は、芸術や歴史、特にナチス・ドイツの敗北に対するロシアの貢献を含めて、ロシアそのものを『抹殺』しようとしている」と訴えました。

尤も、今のところ、欧米の芸術団体がロシアの作品や出演者をキャンセルした例は散見されるものの、大半はロシア文化を大きく取り上げ続けています。

例えば、北米最大のクラシック音楽組織であるメトロポリタン・オペラは3人のロシア人アーティストを起用したチャイコフスキーの「オイゲンオネーギン」のリバイバル公演を開幕させました。ニューヨーク・フィルハーモニックはショスタコーヴィチの交響曲第9番を演奏しました。また、シカゴ交響楽団も、チャイコフスキーばかりを集めたコンサートを行っています。


4.アメリカの虐殺行為をなかったことにしようとしている


このプーチン大統領の演説について、日本のメディアは、日本の歴史教科書について触れた点を取り上げています。

プーチン大統領は、「日本では追悼の日にも誰が原爆を落としたのかは言わないことになっている……日本の教科書ではアメリカによる虐殺行為という真実をなかったことにしようとしている」と述べました。

勿論、日本の歴史教科書にアメリカが原爆を投下したことが記載されています。

果たして、プーチン大統領が何をもって、日本の歴史教科書が「アメリカによる虐殺行為という真実をなかったことにしようとしている」としているのか分かりませんけれども、日本、中国、韓国、台湾、アメリカの歴史教科書を徹底比較したスタンフォード大学の「分断された記憶と和解」プロジェクトによれば、日本の歴史教科書は「愛国主義的であるどころか、愛国心をあおることが最も少ないように思われる。戦争を賛美せず、軍隊の重要性を強調せず、戦場での英雄的行為を語ってもいない。物語的な記述をほとんど省いた、無味乾燥ともいえる年代記となっている」と評価しています。

これについて、日本近代史を専門とする著名な歴史学者であるピーター・ドウス氏は、日本の教科書に戦争をたたえるような記述がない最大の理由は、「日本が戦争に負けた」からだと指摘しています。敗者に歴史を"叙情する"ことが許されないのは、残念ながらその通りだと思います。

一方、歴史を綴る側の勝者たるアメリカの歴史教科書はどうなのか。

同じく、スタンフォード大学の「分断された記憶と和解」プロジェクトによると、アメリカで最も広く使われている教科書「アメリカン・ページェント」では、アメリカが世界的大国へと成熟する上で戦争が決定的な転換点になったとし、日本については「貪欲な侵略者として、そしてアメリカを日本の不当な裏切りによる罪なき犠牲者」として明確に描いています。

アメリカの世界史教科書は、日中戦争および真珠湾攻撃に至るまでの日米間の緊張の高まりなど、太平洋戦争開戦の状況をより詳しく記述している一方で、アメリカ史の教科書は戦争は真珠湾攻撃によって始まり、原爆投下によって終結したと述べているそうです。

それでも、アメリカの教科書は、原爆投下の決定をめぐる賛成、反対の立場を学生に伝えようと努めているとしています。

大枠として、アメリカの教科書は、アメリカの外交政策の原則となってきたリベラルな国際主義と保守派の介入主義のいずれとも矛盾がないように書かれ、アメリカの大衆文化とほぼ同様に、第2次世界大戦を「善い戦争」と称えています。

今回、プーチン大統領が日本の歴史教科書で「アメリカによる虐殺行為という真実をなかったことにしようとしている」と述べたことについて、マスコミは、プーチン大統領自らが日本への認識を示し、「アメリカに過度に配慮している国」だとロシア国民にアピールしたい意向があるとみられると分析しています。

けれども、日本の歴史教科書が「物語的な記述を省いた年代記」となった背景を考慮すると、プーチン大統領は、日本に対して、いい加減に敗者としての自虐史観から抜け出せとケツを叩いているような気さえします。

まぁ、ロシアにしてみれば、日本がアメリカ追従の外交を止め、独自の外交を取るようになるのなら、今の状況とは多少は違った形になっているかもしれません。


5.北方領土というカード


もっと穿ってみれば、今回のプーチン大統領の日本の歴史教科書への言及は、今後ロシアが完全孤立した場合に備えて、抜け道を用意する仕込みを始めたのではないかとさえ筆者は疑っています。

今のG7の動きを見る限り、たとえ、今の時点でロシア軍がウクライナから撤退したとしても、直ぐに対露制裁が解除されるとは思えません。

3月15日、アメリカの連邦議会上院はプーチン大統領を戦争犯罪者として非難するとともに、国際刑事裁判所(ICC)や各国による戦争犯罪捜査を奨励するとの決議を全会一致で採択し、翌16日、バイデン大統領はプーチン大統領について、「戦争犯罪人だと思う」と非難しています。

戦争犯罪人といった以上、なんらかの処断をせねばならないのですけれども、ロシアは国際刑事裁判所(ICC)の非加盟国であることから容疑者の引き渡しや捜査への協力に応じる可能性は極めて低いと見られています。

畢竟、その落とし前を付けるためには、ロシア自ら白旗を上げるまで圧力を加え続けることが考えられ、それまでずっと制裁が続く可能性があります。

もっとも、今の対露制裁に、世界の全ての国々が参加している訳ではありませんから、ロシアは制裁を受けてもなんだかんだで生き残っていくのかもしれませんけれども、もし西側諸国に風穴を開けて制裁解除の糸口を掴もうと考えた場合、日本が標的になることもありえます。G7の一員である日本を落とせば、ロシア対世界という構図からロシア対欧米という構図に書き換えることが出来る可能性があることと、ロシアには日本に対する強力なカードを持っているからです。

それは北方領土です。

例えば、プーチン大統領が、北方領土を返還する代わりに、制裁を止めろ、と持ち掛けてきたらどう対応するのかということです。

当然、国内は沸騰するでしょう。またアメリカを始めとする西側諸国からは、制裁解除するなという圧力が掛かるだろうと思います。

そのとき日本が「アメリカに過度に配慮している国」のままでは、その取引が実現する可能性は限りなく低いと思われます。けれども、逆に、日本が独自外交をし、なおかつ二分する国内世論をまとめあげられるだけのリーダーが居たならば、また別の道も見えてくる可能性も出てきます。

まぁ、これは安全保障に関わる大きな決断であることには間違いありませんし、そのときの日本の総理が誰なのか。そこまでの決断ができるのかという大きな問題もあります。少なくとも「人の話」聞くだけは到底決められないのではないかと思いますね。


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