欧州を動かした役者大統領

今日はこの話題です。
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1.交渉継続で合意した


2月28日、ロシアによるウクライナ侵攻で、両国の代表団はベラルーシ南東部ゴメリ州で停戦交渉を行いました。

停戦交渉は約5時間にも及びましたけれども、結論は出ず、近く次回協議を行うことで合意しました。

ロシア側代表団トップのメジンスキー大統領補佐官は「交渉継続で合意した」と発表し、露代表団のスルツキー下院国際問題委員長も「次回協議が数日中にも行われる」と述べました。

一方、ウクライナ代表団のポドリャク大統領補佐官も協議後、ツイッターに「交渉は困難だったが、強制的な最後通告はなかった」と投稿しています。

交渉の詳細は明らかになっていませんけれども、この日、プーチン大統領が電話会談したフランスのマクロン大統領に対し、紛争終結にはウクライナの「非武装化」「中立化」と「非ナチス化」に加え、2014年にロシアが併合した南部クリミア半島に対するロシアの主権を認めることが不可欠と伝達したことから、これらを停戦条件に挙げたのではないかと見られています。

「非武装化」は降伏、「中立化」はNATO加盟断念を意味しますし、「非ナチス化」はゼレンスキー政権の排除などを指すとみられ、さらにクリミアに対するロシアの主権承認はウクライナにとって到底容認しがたい内容でしょう。

ウクライナメディアによると、ゼレンスキー大統領は交渉後、「交渉はロシア軍の爆撃と砲撃という圧力の下で行われている」と表明。対等な交渉をするためにロシアは攻撃を停止させるべきだと訴えていますけれども、停戦交渉中も、ロシアは攻撃を続けています。


2.キエフテレビ塔をロケット攻撃


実際、ロシア軍は3月1日にウクライナの首都キエフにある「キエフテレビ塔」をロケット攻撃しています。

このロケット攻撃により放送設備が破壊され、一部のウクライナ国営放送が停止したのですけれども、今後は他の放送施設を使って放送を続けるようです。

こうしたロシア軍によるキエフ攻撃について、京都橘大学客員教授の立澤賢一氏は、ウクライナ政府に対する「脅し」として行っていると指摘しています。

立澤氏は、親ロシア派が支配するドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国は、ロシアとの国境に近く、首都キエフからは離れ、クリミア半島も首都キエフからは遠い地域であることを指摘。首都から遠い地域で、限定的な攻撃があったとしても、ウクライナ政府はそれほど大きく動揺しないだろうとして、ウクライナ政府に「ロシアの本気」を示すために、首都キエフへ攻撃することでウクライナ政府の譲歩を引き出そうとしていると述べています。

そして、立沢氏は、ロシアが求めているのは、ウクライナがNATO側に寝返らないことと、その保証に他ならないとし、その方法として「ミンスク合意」の履行を引き出そうとしていると述べています。

筆者もそう思います。




3.EU加盟申請


当然ながら、ウクライナもこのロシアの「脅し」に対抗すべく動きました。

2月28日、ウクライナのゼレンスキー大統領はEUへの加盟の申請書に署名する映像を公開し、「特別な手続きで直ちに」EU加盟を認めるよう求めました。

ウクライナ大統領府のシビガ氏によると、既に申請文書はEU本部のあるベルギーのブリュッセルに向かっているとのことです。

ウクライナはEUと自由貿易協定などの「連合協定」を結んでいますけれども、正式なEU加盟候補国ではありません。また、EUに加盟申請したとて直ぐに加盟できるものではありません。

無論、ゼレンスキー大統領もそのことは十分分かっていると思います。要するに、ロシアが軍事圧力で交渉を優位に進めようとするなら、こちらはEUを味方につけて対抗するぞ、という外交メッセージの意味合いが強いと思います。

ゼレンスキー大統領が署名・申請したのはEUであって、NATOではありません。これはつまり軍事的に対立する積りはないというメッセージも込められているのではないかと思います。


4.私達はヨーロッパの理想のためにここで死につつある


ただ、欧州はウクライナに同情的です。

欧州メディアによると、これまでポーランドやブルガリアなど11加盟国がウクライナのEU加盟を支持。欧州議会は3月1日に採択した決議案で、EU各機関に対し、「EU条約に沿ってウクライナにEU候補国の地位を与えるために取り組むこと」を要求しました。

更に、欧州議会にオンラインで参加したゼレンスキー大統領が「あなたたちが私たちを見放さないことを証明してほしい」と演説すると、議場ではスタンディングオベーションが起きたそうです。

欧州各国は相次いでウクライナへの武器供与を表明し、SWIFTからロシア金融機関排除を決めました。ドイツに至っては、武器供与はもとより、ドイツとロシアを結ぶ新しいガスパイプライン計画(ノルドストリーム2)の事業を認可しない方針を表明するほどにまでなっています。

最初は、ウクライナを傍観するに等しかった欧州がなぜ態度を変えたのか。

その理由の一つとしてゼレンスキー大統領の演説が指摘されています。

ワシントンポストの記事によると、EUで対ロシア制裁についての緊急首脳会議でロシアの大手銀行数社に対する制裁は承認されたもののSWIFTからの排除についてはドイツ、オーストリア、イタリア、キプロスが慎重論を唱え話は停滞したのだそうです。

そのとき、ゼレンスキー大統領が電話会議で参加し、5分間のスピーチを行いました。

ゼレンスキー大統領は、食糧、弾薬、燃料、制裁措置、そのすべてを提供されることが必要だと訴え「見てくれ、私達はヨーロッパの理想のために、ここで死につつある(Look, we are here dying for European ideals.)」と述べ、最後に「私が生きて皆さんに会えるのはこれが最後になるかもしれない」と淡々と告げたそうです。

ゼレンスキー大統領のこのスピーチを聞いた欧州首脳達は涙を目に溜め、スピーチの説明を受けたある欧州当局者は「非常に、非常に感情的だった」と語ったそうです。

この演説が決め手となって、西側各国首脳が一斉に対ロシア制裁とウクライナ兵器支援に踏み切ったそうなのですね。

わずか5分の演説で、各国首脳の心を動かし、対ロシア制裁を引き出してみせた、ゼレンスキー大統領は大統領であると同時に"役者"だったということです。




5.キエフは五日以内に陥落する


ただ、筆者は、これで、逆に事態がより長期化、あるいは悪化することを危惧します。

EUからの全面支援を受けたウクライナは抵抗を続けることになりますし、ロシアはロシアで、カタを着けるために、大量破壊兵器を出して一気に殲滅に掛かることも在り得るからです。

兵站が続いていても、戦闘が終わるケースは何かというと、その兵器が使えなくなることです。つまり、大統領が暗殺されて指揮者がいなくなるか、それとも兵士が士気を失うか全滅するかです。

現在、士気が高いとされるウクライナ軍をそのような状況に追い込むために、ロシアが大量破壊兵器による無差別破壊に足を踏み入れない保証はありません。

既に、ロシア軍は、第2の都市ハリコフでも激しい砲撃を加え、州政府庁舎などをミサイルで攻撃したと伝えられています。ウクライナ当局によると、ロシア軍はハリコフへの攻撃で少なくとも10人が死亡、35人が負傷したようです。

3月1日、アメリカの国防総省の高官は国境近くにいたロシア軍の80%以上がウクライナに投入され、これまでに400発のミサイルが使われたとの見方を示しました。

また、焦点のキエフ侵攻について、国防総省がアメリカ政府関係者に行った説明では、「5日以内にキエフが陥落する可能性が高い」と厳しい分析を示しているそうです。

次の停戦交渉がどうなるか分かりませんけれども、一刻も早く合意して停戦されることを望みます。


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