激しく異なる米欧の思惑と譲歩するゼレンスキー

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2022-03-29 184801.jpg


1.権力の座にとどまることはできない


3月26日、アメリカのバイデン大統領は訪問先であるポーランドのワルシャワで演説しました。

バイデン大統領は、民主主義諸国は世界の安全保障と自由に対する脅威として独裁的なロシアに立ち向かうことが急務になっていると主張。

バイデン大統領は、プーチン大統領に対する戦いを「自由のための新たな戦い」と位置づけ、「絶対的権力」へのプーチン大統領の欲望はロシアにとって戦略的失敗であり、第二次世界大戦以降に広く行き渡った欧州の平和に対する直接的な挑戦だと述べました。

そして「西側は今、かつてないほど強く、結束している……この戦いは数日や数ヶ月で勝てるものでもない。これからの長い戦いに備え、気を引き締める必要がある」と強調し、プーチン大統領は「権力の座にとどまることはできない」と述べて締めくくりました。

この演説でバイデン大統領が、プーチン大統領を「虐殺者」と呼んで、ロシア批判を強めたことから、アメリカがロシアに対する態度をエスカレートさせたとの見方が高まりました。

その一方、「権力の座にとどまることはできない」と述べたことに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「バイデン氏が決めることではない。ロシア大統領はロシアの国民によって選出される」と反発。ホワイトハウス当局者も、ウクライナを巡る紛争長期化に備えるよう世界の民主主義国に呼び掛ける意図があり、ロシアの体制転換に言及したものではないと火消しに回りました。


2.米波首脳会談


この日、バイデン大統領はポーランドのドゥダ大統領と会談しました。

会談冒頭でバイデン大統領は「ヨーロッパの安定はアメリカの国益や世界にとって極めて重要だ……プーチンが、NATOを東側と西側で分断できると考えたことは明らかだが、そうはできなかった」と述べ、ロシアの試みはNATOの結束を前に失敗に終わったと強調しました。

そのうえでNATOの加盟国が攻撃を受けた場合、加盟国全体への攻撃とみなして反撃などの対応をとる集団的自衛権の行使を定めた条約を踏まえ「われわれは北大西洋条約第5条を神聖な義務だととらえている。信頼してもらってかまわない」と述べ、ポーランドの防衛に責任を果たすと強調しました。

これに対しドゥダ大統領は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて国防予算の増額を決めたことを伝え、アメリカが開発した高性能の武器を自国に配備したいと要望したようです。

この会談について、ホワイトハウスは次のような声明を出しています。
バイデン大統領とポーランドのドゥダ大統領との会談について
2022年3月26日

ジョセフ・R・バイデン大統領Jr.は、本日、ワルシャワでポーランドのアンドレイ・ドゥダ大統領と会談した。

両首脳は、ウクライナへの不当かつ無謀な攻撃を行ったロシアに強力な制裁を課すための国際的な取り組みが進行中であることについて議論した。

また、ウクライナ政府および国民を引き続き支援するという共通のコミットメントについても話し合った。バイデン大統領は、ドゥダ大統領とポーランドの人々が、困っている隣人に家と心を開いてくれたことに感謝し、こうした人道支援活動をアメリカが引き続き支援することを約束した。

バイデン大統領は、アメリカが5条とすべてのNATO加盟国の安全保障に揺るぎないコミットメントを有していることを強調した。

さらに両首脳は、強固な二国間防衛協力、ロシアのエネルギーへの依存を減らし、気候変動に関する目標を達成するための欧州の努力に対するアメリカの支援、大西洋横断関係の基礎となる民主的価値について議論した。
先日、ポーランドがミグ29戦闘機をドイツにあるアメリカ軍基地を経由させる形でウクライナに提供したいと申し出たのに対し、アメリカが、ロシアを過度に刺激しかねないと拒否したことで関係悪化が懸念されたのですけれども、この会談で連帯をアピールする形となりました。

3月27日のエントリー「G7が主導するロシア排斥とランド研究所のレポート」で、アメリカの対ロシア戦略は、ランド研究所のレポートに沿っていると述べましたけれども、レポートの中で、「戦闘機を爆撃機よりも目標に近い場所に配置し、出撃率を上げることは、爆撃機の配置転換よりもモスクワの関心を引くと思われるが、成功の可能性は低く、リスクは高い」と指摘されています。

ポーランドがミグ29をウクライナに提供することは正にこれに該当し、故にアメリカは必死になって止めさせたと思われます。従って会談でも、バイデン大統領はウクライナに戦闘機を提供するなと再度、釘を刺したことは十分考えられますし、一方、ドゥダ大統領は、そういうなら、もっと高性能の武器を寄越せと応じたのではないかと思います。

バイデン大統領はこの日、ウクライナのクレバ外相およびレズニコフ国防相と会談しており、クレバ外相によると、防衛協力の強化に向けた追加支援の確約をバイデン大統領から得たと述べていますから、今後何らかの武器供与があるのではないかと思います。

それにしても、会談でバイデン大統領が、NATOの加盟国防衛を定めた第5条を「神聖な義務」だとし、「信頼してくれ」と訴えなければならなかったということは、それだけNATO加盟国のアメリカに対する不信感が高まっていることの現れではないかと思わせます。


3.激しく異なるアメリカと欧州の思惑


今回のバイデン大統領のポーランド訪問について、ポーランドのヤチェク・チャプトヴィッチ元外務大臣は、ニュースサイト「ジェチュポスポリタ」のインタビューで次の様に答えています。
・「この男は権力の座に留まることはできない」。アメリカ大統領の訴えは、何を意味するのでしょうか。

バイデン大統領の訪問は、世界的、歴史的な側面をもっていた。王城の中庭で行われた演説は、歴史の新しい章を開くためのものだった。この演説で、アメリカ大統領は新たな冷戦を宣言した。それは、1946年にウィンストン・チャーチルが行った「鉄のカーテン」についての演説に例えることができる。アメリカ大統領のスピーチは、現実の認識を変えるような内容を提示した。それがポーランドで、しかもウクライナ人のいるところで行われたことも大きい。ポーランドは重要な位置を占めている。


・アメリカ大統領の演説の時、王城にいたんですね。しかし、バイデンのスピーチは、あまりにも一般的で具体性に欠け、失望させられたのではないでしょうか?

とてもポジティブに受け止めた。ブリュッセルで行われたEU首脳会議の結果を受けて、講演前は悲観的な見方をしていた。もう救いようがないのではと思っていた。しかし、バイデンは、アメリカがまだ後塵を拝していることを示した。歴史的な演説になると発表され、実際その通りだった。もし私たちが誰かを犯罪者や肉屋と呼んだら、その後その人と食卓を共にすることはないだろうということは知られている。これは、欧州の人たちに「戦略を変えろ」というシグナルなのだ。もはや、ロシアによるウクライナ侵略以前の状況に、すぐに戻る可能性はない。私たちは、長期的な対立に狙いを定めている。この戦争の結果、アメリカは世界の主導権を握り、ロシアと対立を始める。アメリカにとって、最大の問題は中国だが、ロシアは脇に置いて、中国に集中しようと考えたのだろう。アメリカは、ウクライナ紛争を手放せば、もはや主導権を取り戻すチャンスはないと理解していたのだ。バイデンは、プーチンは失敗しなければならないとストレートに言ったが、これで、欧州諸国が期待していた様々な妥協はできなくなってしまった。


・バイデン氏の保証は、ポーランドに十分な安全保障を与えますか?

ポーランドは安全である、これは確認されており、論争の対象にはならない。最大の問題は、ウクライナを次にどうするかということだ。ジョー・バイデン氏は、グローバルな関係のさらなる発展をどのように想像しているのだろうか。アメリカの立場からすれば、権威主義・寡頭政治国家の世界と対峙することになる民主主義世界のリーダーシップをとろうとするものだ。バイデンはまた、アフガニスタンからの屈辱的な撤退で国内政治的に批判されている中で、リーダーシップを発揮したかったのだろう。彼の目的は、この対立の中で民主主義国家を団結させることだ。これは、ウクライナにとっても非常に難しい状況だ。ブリュッセルでは、軍事的には-欧米は-ウクライナを守らないと言われていた。アメリカはロシアとの長期的な対決を考えているが、その対決は軍事的なものではなく、経済的なものであると想像している。その結果、制裁とアメリカを中心とした統一がカギとなる。しかし、そう簡単にはいかないことは、ブリュッセルを訪問した際に明らかになった。


・新冷戦は何のためにあるのでしょうか?

バイデンがプーチンを犯罪者、虐殺者と非難し、この対立を善と悪の戦いと表現したのは、ロシア側との接触を断ち、孤立させようという意図が読み取れる。冷戦時代もそうだった。そして、この圧力によって、ソ連は競争に敗れたのだ。しかし、EUはさらなる制裁を導入する用意はない。SWIFTシステムが残りの銀行を停止させるという問題には対処していない。また、ロシアからのガスや石油の輸入阻止も進展していない。ウクライナはロシアへの交通輸送を制限することを期待したが、これも拒否された。同様に、ロシア船を西側諸国の港に入港させるべきではないとの提案もある。また、ウクライナのEU加盟は、主にドイツが原因で受け入れられなかった。欧州理事会については、プーチンが勝者だ。化学兵器の使用という形でさらにエスカレートした場合に備えて、制裁を延長することはないだろうと言われていた。プーチンは、空爆、ウクライナの破壊、軍事作戦を行うことができ、化学兵器を使用しなければ、ヨーロッパは制裁を強化しないというシグナルを与えられている。アメリカは、ウクライナ紛争が長期化し、かつてのアフガニスタンのようにロシアが長期的に敗北するほどコストがかかることを期待しているのだ。このことから、ウクライナは紛争が長期化し、非常に深刻な損失を被ることを覚悟しなければならない。


・ウクライナにとって、これは残念なことではありませんか?

確かにそうだ。すでにNATOでのゼレンスキー大統領の演説の中で、ウクライナ人がこの態度に非常に失望していることを強調していることからも、それが窺える。ウクライナの状況は、武器を約束されたまま放置されているため、悲劇的なものとなっている。バイデン大統領は、ウクライナが持ちこたえてくれることを期待しているし、アメリカの力関係を考えれば、おそらくチャンスはある。
また、EU諸国は、すぐに何らかの合意が得られ、ウクライナに影響を与え、譲歩に同意させることができると考えていたので、これは非常に難しい状況だ。歴史になぞらえれば、EU諸国はウクライナに「スデーテン」を返還させ、通常の協力の方式に戻したいのだ。

マクロン大統領は、今年に入ってからすでに15回もプーチン大統領と対話していることを思い出してほしい。その結果、Auchan、Leroy Merlin、Decathlonなどの企業が、ウクライナとの連帯を示すためにロシア市場から撤退した企業からロシア市場を引き継ぎ、ロシアでの事業を強化している。同様に、ベルギーの企業は、ウクライナの市民を爆撃するのではなく、ロシアの顧客との連帯を選択した。だから、まったく違う展望や視点が見えてくるのだ。

それに加えて、欧米の政治的な責任もある。ノルマンディー方式はウクライナの危機を克服するためのものだったが、ドイツとフランスがウクライナの安全を犠牲にしてロシアとビジネスをするために利用されたのだ。ウクライナは、Nord Stream 1、そして後にNord Stream 2で仕上げると繰り返し言っている。これは、軍事協力にも当てはまる。ロシアの飛行機、ヘリコプター、戦車には、夜間攻撃が可能なフランスの装置が搭載されている。この戦争を引き起こした責任が誰にあるのか誰も問わないが、これらの国々は加担しているのだ。したがって、これはEUにとって非常に厄介な状況なのだ。また、正義、国際法の尊重、弱者への連帯、攻撃された人の防衛など、ヨーロッパの価値観についても話している。残念ながら、今日、ヨーロッパの価値観はEUによってではなく、むしろアメリカと英国によって体現されている。欧州統合支持者にとって、この道徳的不協和は耐え難いものだ。また、欧州の政治家の信頼性にも大きな影響を与えている。


・ヴィクトル・オルバンは、ロシアとウクライナの戦争において、ハンガリーはハンガリーの側に立つと発言しましたた...

ハンガリーはドイツの真似をして、ドイツがやっているのに、なぜロシアと精力的に協力しないのか、と言っている。もちろん、ハンガリーの批判は正当なものだ。しかし、ハンガリーはEUの中であまり発言権がなく、すべてはロシアとの協力関係を壊したくないドイツの手に委ねられている。Nord Stream 1とNord Stream 2、そしてロシア軍のための近代的なトレーニングセンターを建設し、その結果、戦闘能力が向上したのはドイツだ。また、ウクライナをEUに加盟させるかどうかは、ドイツが最終的な決定権を持つことになる。ゼレンスキー大統領は、「いずれはドイツもそうなることを期待している」と述べた。ハンガリーもドイツも恥ずべき役割を演じていると言ったドナルド・トゥスクの意見に賛成だ。しかし、ウクライナ人は、対ロシア制裁やEU加盟を妨害しているのはドイツだと感じている。


・なぜ、ドイツはこのような態度をとるのでしょう?

バイデン大統領は、ドイツとヨーロッパはロシアからのガス輸入に依存していると述べた。それは確かに重要な理由だ。また、生活水準が低下することへの不安、経済的な利害もある。ウクライナの子どもたちの価値観や生活などどうでもいい--結局のところ、私たちはお金を稼がなければならないのだ--とフランスやベルギーの企業は公然と宣言している。

また、EU諸国はエリートが腐敗しているから、ロシアに依存するようになったという人もいる。しかし、これは決定的なものではないと思う。

また、地政学的な要因もある。フランスとドイツは、ロシアが列強協定の一員であり、独自の影響圏を持つ権利を認めている。ロシアは欧州の秩序と協力に不可欠な存在と見なされている。これは、ロシアがウクライナに対して何らかの権利を持っていることを認めたことになる。地政学的な議論は、歴史に深く根ざしている。また、ドイツは、ロシアがドイツ統一に同意してくれたことに感謝している。また、ロシア、フランス、ドイツのエリートが、何世紀も前からここにある、侵すことのできない影響圏について暗黙のうちに合意したとも読み取れる。したがって、ドイツがウクライナのEU加盟を受け入れるには、まずドイツのエリートの意識改革が必要なのだ。短中期的には実現しそうにない。これは、国際法とウクライナ人の自己決定権が決定的であるアメリカのビジョンとは根本的に異なっている。


・チェコの国防相は、ハンガリーの政治家が「ウクライナの子どもの血よりも石油の方が大切だ」と言っていると非難し、ヴィシェグラード・グループ諸国の閣僚会議への出席を拒否しました。オルバン党の選挙勝利はポーランドの利益になるのでしょうか?

ハンガリーの政策は驚くようなものではなく、ずっと同じものだ。チェコの国防相はそのようなジェスチャーをする権利があり、それは通常の政治だ。モラヴィエツキ首相は、チェコと争ったときのV4(チェコ・ハンガリー・ポーランド・スロバキア)会議にも行かなかった。しかし、ヴィシェグラード・グループ(V4)のメンバー間の利益共同体は、特にEUに対して依然として強力だ。ポーランドの政治家たちは、国家間の関係を、国益というプリズムではなく、イデオロギーというプリズムを通して見るという過ちを犯してしまったのだ。ハンガリーはイデオロギー的にPiS(ポーランド与党「法と正義」)に近いと見られていたが、国家の利害は全く別問題であることを忘れてはならない。アメリカとの関係でも同じことが起こっている。しかし、当初は躊躇していたバイデン大統領も、国家の利益は変わっておらず、ポーランドは以前と同じアメリカの同盟国であるとの結論に達した。


・オーストリア議会は、ウクライナ大統領を演説に招待することを望んでいない。これは中立性の侵害にあたるという驚くべき主張が通用している。NATOの平和維持活動の話題は、ジョー・バイデン氏の発言でも取り上げられることはなかった。これはどういうことでしょうか?

欧米やNATOは、リスクを取りたくないので、軍事行動を起こすための準備をしていない。経済的な対抗意識をむき出しにしているわけで、バイデン氏の訪問の意味もそう読み取れる。自分が提案したことが必ず受け入れられるとは限らない。ポーランドがこの提案を出したことは、ポーランドが先のことを考え、連帯感を示していることを示すものであり、素晴らしいことだった。軍事行動でなければ、経済的な対立が残り、それをジョー・バイデンが選択したのだ。EUの主要国が対立し、ロシア市場から完全に撤退する覚悟があるのかどうか疑問が残る。ポーランドが間違いを犯すとは思っていない。おそらく、ヨーロッパの価値観やウクライナ人を守ることもあきらめず、ドイツやフランス、ハンガリーと対決することになっても、アメリカを支持するのだろう。


・プーチンはウクライナへの侵略に誰をあてにしているのでしょうか?

国連での採決では、中国やインドなどの大国が棄権したことが明らかになり、ロシアは彼らをあてにしている。また、サウジアラビアやUAEなどの湾岸諸国は、アメリカよりもロシアに近くなっており、エネルギー資源の供給拡大の可能性にマイナスの影響を及ぼしている。また、プーチンはドイツ、フランス、ベルギー、ハンガリーといった、これ以上の制裁を望まない国々を当てにしているようだ。バイデン氏は、NATOは結束していると言ったが、これはそれほど明白なことではない。アメリカの外交は、この西側の結束を実際に維持するための大きな課題に直面している。
中々凄いことを述べています。特にアメリカと欧州の思惑がかなり違っているとの指摘は重要だと思います。

アメリカはウクライナ紛争を長期化させることで、ロシアを孤立化して疲弊させ、アフガンのときの様に敗北させることを狙っているのに対し、欧州はロシアをこれ以上制裁する気がないどころか、フランス、ベルギー企業はロシア市場に更に踏み込んでいる。そして欧州は、ウクライナに「ズデーテン」のように領土割譲させて、今まで通りに戻したいとさえ考えているというのですね。

そして、更に、チャプトヴィッチ元外務大臣は、フランスとドイツは歴史的にロシアがウクライナを含む「独自の影響圏」を持つ権利を暗黙のうちに認めているのだと指摘しています。それは、国際法とウクライナ人の自己決定権が決定的であると考えるアメリカとは根本的に異なっているのだ、と。

この話を聞いて、確か、麻生副総裁が、その昔、アメリカからもっと中国と仲良くしたらどうかとアドバイスされたとき「過去1500年、日本と中国の仲が良かったことなどなかった。ほっといてくれ」と答えたら、「1500年…」と絶句してたという逸話を聞いたことがあったように記憶していますけれども、それを思い出しました。

歴史が堆積している欧州と歴史の浅いアメリカとでは、その辺りの感覚の違いというものが底流にあるのかもしれません。


4.ゼレンスキーの譲歩


チャプトヴィッチ元外務大臣が触れた「ズデーテン割譲」というのは、ドイツのヒトラーが、チェコスロバキアのズデーテン地方の割譲を要求した際、これ以上の緊張拡大を避けたい英仏などがチェコスロバキアの意向そっちのけで、ドイツの要求を受け入れた苦い歴史のことです。

ただ欧州各国はこうした経験からこの「ズデーテン割譲」を再現したくないという潜在意識があるという指摘もあります。

欧州の安全保障情勢に詳しいチェコ・カレル大学社会学部講師の細田尚志氏は「ウクライナのいないところで、ウクライナの運命を決めてはいけない、というのが欧州の共通認識だ」と述べています。

であれば、EU諸国の本音の"望ましい"シナリオは「ウクライナが自らの意思で、ドンパス地方の割譲、あるいは独立・自治を認める」ことで事を収めて欲しいというものなのかもしれません。

当然のことながら、このことはウクライナのゼレンスキー大統領も知っている、あるいは感づいていると思います。

3月27日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの独立系メディアとのインタビューで、「安全保障の確約と中立性、非核保有国の地位。われわれはこれに向かって進む用意がある」とロシア語で答えました。

今後の意向やウクライナの軍事的勝利のイメージについて聞かれたゼレンスキー大統領は、「ロシアに領土を完全に解放させることは不可能であり、それは第三次世界大戦につながることを理解している。私は全てを完璧に理解し、自覚している。すべてが始まった場所に戻り、そこでドンバスの問題、複雑なドンバスの問題を解決しよう」と提案しました。

ゼレンスキー大統領は、和平合意は第三者が保証し、国民投票にかける必要があるとの考えも示していますけれども、もしこれで、ドンパス地方の自治あるいは独立が「国民投票」によって成立するのなら、先に述べたEU諸国が本音で望んでいることに殆ど近くなります。

あるいは、徹底抗戦をしようと世界各国に支援を求めたものの、代理戦争をさせられるばかりで、欲しい支援など手に入らないのだ、と見切ったのかもしれません。

こうした感覚はウクライナの人も感じているようで、ロシアによる攻撃から逃れてきた人達が押し寄せているウクライナ西部の主要都市リビウからの報告では「「地上戦用の武器は十分支援してもらっていると思いますが、必要なのは戦闘機や飛行禁止区域の設定です。そうすれば、私たちはもっと戦えると思います」との声や「欧米からの支援は十分ではないと思います。私たち、ウクライナ人が最前線でポーランドやドイツを守っているようなものです……欧米の国々は助けてくれると言っていたのに今となっては『こんなことになって申し訳ない』としか言ってくれない」と憤っていることなどが報じられています。

果たして停戦交渉が纏まるのか。纏まる場合はどの線で落ち着くのか。要注目です。


  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック