キエフから撤退するロシア軍とプーチンの落としどころ

今日はこの話題です。
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1.キエフ周辺から一部撤退開始


3月29日、アメリカ国防総省のカービー報道官は記者会見で、「ロシアはキエフ制圧に失敗し、ウクライナを支配下に置くという目標も達成できなかった」と断言しました。

そして、キエフ包囲を目指して進軍していたロシア軍部隊の一部が戦線を離れ、北に移動しているとする分析結果を明らかにしたものの、後退を始めた部隊は小規模にすぎず、「本当の撤退ではなく再配置だ」と強調。東部ドンバスなど他の地方での作戦に戦力を集中するための動きだとの見方を示しました。

また、カービー報道官は、「キエフに対する脅威が終わったわけではない……ロシアが突然、キエフに対する作戦を縮小し全面撤退すると宣言しても、鵜呑みにすべきではない」と警戒を緩めない姿勢を示しました。

一方、ロシア軍は25日に、作戦の重点をキエフなどから南東部マリウポリなどに移すと発表。更に29日には、ロシアのフォミン国防次官が、ウクライナ北部の首都キエフとチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決めたと明らかにしたと、ロシア通信などが伝えています。

もっとも、停戦交渉でロシア代表団を率いるメジンスキー大統領補佐官は、決定は停戦を意味しないとの認識を示していますけれども、停戦交渉の最中に部隊を後退させるということは、合意に前向きな意思の表れと解釈することが出来るかと思います。

実際、メジンスキー大統領補佐官は、29日に行われたウクライナとの停戦交渉を「建設的」と評価しています。


2.NATOより強力な安全保障


3月29日、停戦交渉でウクライナ代表団の団長を務めるダビッド・アラクハミア氏は、ウクライナ側の要求について、「ブダペスト覚書の過ちを繰り返さないために、署名し批准した安全保障に関する協定であるべきだと主張している」と述べ、「NATOの第5条よりも強力な安全保障を求めている」ことを明らかにしました。

ブダペスト覚書とは、ウクライナが旧ソ連から得た核兵器を放棄する代わりに、アメリカ、イギリス、ロシアは、ウクライナに軍事力を行使しないことを誓約するものです。

ところが、2014年から2022年にかけてロシアがウクライナに侵攻して覚書に違反し、他の保証国もウクライナを保護することができませんでした。

3月29日にウクライナが提案した保証では、保証国は軍事侵略やハイブリッド戦争の開始後、3日以内に互いに協議しなければならないとし、協議後これらの国は軍隊を派遣し、武器を供給し、ウクライナの空を守ることでウクライナを支援しなければならない、とするものです。

アラクハミア氏は、この保証国には、アメリカ、イギリス、中国、ロシア、フランス、トルコ、ドイツ、カナダ、イタリア、ポーランド、イスラエルが含まれる可能性があり、その他の国も参加できるだろうと述べています。

また、ゼレンスキー参謀本部顧問でウクライナ代表団のメンバーであるミハイロ・ポドリャク氏は、ウクライナ政府は安全保障に関する協定に署名するのは、それが全国民の投票で批准された場合のみだと述べ、ゼレンスキー大統領の憲法裁判所代理人であるフェディール・ベニスラフスキー氏は、その国民投票はロシア軍が撤退した後にしか行えないと指摘しています。

また、ポドリャク氏は2014年からロシアに占領されているクリミアの地位について、15年以内にウクライナはロシアと交渉を行うことも提案。ルハンスク州とドネツク州のロシア占領地の地位は、ゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領との直接交渉で決定するよう提案されていると付け加えています。


3.プーチンの落としどころ


では、ルハンスク州とドネツク州についてどう見られているのか。

これについて、27日、ウクライナ国防省の情報総局トップが、ロシア軍による軍事侵攻について「キエフ攻略作戦は失敗していて、もはやウクライナ政府を転覆させることは不可能だ……すでにロシアの作戦の焦点はウクライナの南部と東部に移っている」と指摘した上で、プーチン大統領が制圧した地域との間に分断ラインを設置して、「ウクライナを韓国と北朝鮮のように二つに分割することを考えている可能性がある」と発言しています。

けれども、そもそもキエフ攻略作戦が失敗したのは、キエフ攻略部隊がウクライナ軍と民兵に撃退されたからです。また、仮に分断ラインを引こうとしても、ロシア軍が制圧した地域を奪還しようとウクライナ軍が反撃するなど、完全に制圧したとは言い難い状況です。

23日、ウクライナ軍参謀本部はロシア軍の死者は約1万5600人で、航空機101機、ヘリコプター124機、戦車517両、武装車両1578台、大砲システム267門、多連装ロケット砲80門を破壊したと発表しています。

また、政権寄りのロシアのタブロイド紙コムソモリスカヤ・プラウダは、20日、ロシア国防省発表としてロシア軍の死者9861人、負傷者1万6153人と報じましたけれども、こちらはすぐに削除されたようです。

このように、数千人とも1万人以上ともいわれる死傷者を出している状況で、分断ラインを引こうとしても、どれだけ兵力が必要になるか見当もつきません。

真偽不明の内部情報暴露も続いています。

メッセージアプリ「テレグラム」で、2020年9月に開設された「対外情報局(SVR)の将軍」という名のチャンネルでは、そうした内部情報のリークが続けられているそうです。

例えば、3月15日の投稿では「プーチン氏はロシア国民に勝利として提示できる条件でウクライナと協定を結び、一歩後退して二歩前進するため力を蓄える選択肢に傾いている」と指摘。作戦をウクライナの軍事・民間インフラの徹底破壊に切り換え、協定にウクライナが署名すれば「降伏した」と非ナチ化の成功を宣伝できるとしています。

たしかにこのあたりから、ロシア軍はミサイルを遠くから打ち込む「ロングレンジ攻撃」に切り替えている印象があります。

また、22日の投稿では「昨日、プーチン氏はロシア連邦安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記とセルゲイ・ショイグ国防相、ヴァレリー・ゲラシモフ軍参謀総長、アレクサンドル・ボルトニコフ連邦保安局(FSB)長官とテレビ会議を開いた。ロシア軍の損害についてゲラシモフ氏が『本質的な大きさだ』と報告した」のに対し、「プーチン氏は『本質的な、とはどういう意味か』と下問したが、答えを待たずに『3万~5万人の犠牲は許容範囲だ。勝利の後に達成される目標に比べれば何でもない』と言い放った上で、プーチン氏は『勝利』の新たな期限を5月7日にし、『人的損失は度外視して、装備を大切にしろ』と命じた」と綴っているそうです。

3月11日のエントリー「ウクライナ侵攻の終わらせ方と認知戦」で、プーチン大統領はロシア軍の「現在の犠牲」を小さく見積もっているのではないかという識者の見解を紹介しましたけれども、もしも、この情報の通りプーチン大統領が、3万~5万人の犠牲を許容しているのであれば、確かに、死亡者一万数千人という「現在の犠牲」など何でもないのかもしれません。

逆に言えば、プーチン大統領が、万単位の犠牲を払ってでも手にいれようとしている「勝利の後に達成される目標」がそれだけ大きなものだということになります。

では、その目標とは何か。

以前のエントリーで、プーチン大統領は「東側経済圏」の構築を目標としているのではないかと述べたことがありますけれども、いずれにしても、これだけの犠牲を払って尚、お釣りがくる目標が、軽いものである筈がありません。

果たして、ウクライナがロシアに提示したとされる条件が、プーチン大統領が飲めるものであるのか。要注目ですね。


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