マーチ・オン・ファイア

今日はこの話題です。
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1.民間人を人間の盾にしている


3月3日、ロシアのプーチン大統領は、ロシアの安全保障会議で、プーチン大統領は「我々はまさにネオナチと戦っている」とし、ウクライナ側が「幼稚園や病院にも戦車・大砲を配置している」と述べ、ロシア軍はウクライナの非武装化と非ナチ化のために戦っていると主張しました。

要するに、ウクライナ側が「住宅街に重火器を配備し、民間人を『人間の盾』にしている」と批判した訳です。

また、プーチン大統領は、死亡したロシア軍人に約700万ルーブル(約730万円)の弔慰金を払うことも明かし、「特別軍事作戦は計画通りに進んでいる」と強調しました。

こうした「ウクライナのナチズム」について、この日、プーチン大統領と電話会談したフランスのマクロン大統領は、「現実には存在せず、攻撃を正当化できるものではない」と反論したようです。


2.ウィンター・オン・ファイヤ


一方、この日、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオメッセージで、ウクライナ軍はロシアからの攻撃を良く持ちこたえているとし、「ロシア軍は甚大な被害を与えられなかった」と述べ「我々全員が怯み、降伏すると考える人がいるなら、その人はウクライナのことを何も知らないのだ」と徹底抗戦の意思を示しました。



ほんの8年程前、ウクライナは親欧米派の民主化デモにより当時のウクライナ大統領であったビクトル・ヤヌコビッチ氏を解任したという過去があります。

この民主化デモは、親ロシア派だったヤヌコビッチ氏がウクライナのEU入りを勝手に反故にしたことに抗議する学生達のデモとして始まりました。これは思わぬ広がりを見せたことで政府が警察から特殊部隊のベルクト、さらに犯罪者集団なども投入して、暴力をもって鎮圧にかかりました。

ところが、それが更に火に油を注ぎました。反大統領勢力は拡大し、デモ隊は独立広場に立て籠もりました。現場は、政府側の鎮圧部隊がどんどんデモ参加者を撃ち殺していくといった凄惨なものだったのですけれども、それでも、デモ隊はまったく引かずに立ち向かいます。

こうしたデモ隊の頑強な抵抗により最後には、ヤヌコビッチ氏がロシアへ逃亡して民主化デモは終息します。

ウクライナの人が、こうした成功体験を持っていることを考えると、ゼレンスキー大統領とてロシアに降伏するなどと簡単に言える筈もありませんし、停戦交渉の早期妥結は相当厳しいだろうと思わざるを得ません。




3.ウクライナには真の国家としての伝統がない


では、プーチン大統領が主張するウクライナのネオナチとは何なのか。

2月21日、プーチン大統領は、ロシア国民に向けてビデオ演説を公開しました。これは、いわゆる「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家承認する際に行われたもので、その中でウクライナのネオナチについて触れている箇所があります。その部分を引用すると次の通り。
ウクライナ社会が、極右ナショナリズムの台頭に直面し、それが攻撃的なロシア恐怖症(ロシア嫌い)とネオナチズムに急速に発展したのは、驚くことではありません。

その結果、北コーカサスのテロ集団に、ウクライナの民族主義者(ナショナリスト)やネオナチが参加し、ロシアに対する領土主張がますます声高になっています。

この一翼を担ったのが外部勢力であり、彼らはNGOや特殊部隊の縦横無尽のネットワークを使って、ウクライナで顧客を育て、彼らの代表を権威の座に就かせたのです。

ウクライナには、実際には、真の国家としての安定した伝統がなかったことには留意する必要があります。 そのため1991年には、歴史やウクライナの現実とは何の関係もない、外国のモデルを無思慮に (mindlessly) に模倣することを選択しました。

政治政府機関は、急速に成長している一派と、彼らの利己的な利益に合わせるように何度も調整されましたが、それはウクライナの人々の利益とは何の関係もありませんでした。

【中略】

一方、急進派(過激な派)は、行動をますます恥知らずにし、年々要求を強めていきました。彼らは、弱い当局に彼らの意志を押し付けるのは簡単だとわかりました。弱い当局は、ナショナリズムと腐敗(汚職)のウイルスにも感染し、人々の真の文化的、経済的、社会的利益、およびウクライナの真の主権を、さまざまな民族的思惑や形式的な民族的属性 (formal ethnic attributes) に、巧みにすり替えているのです。

ウクライナでは、安定した独立国家の状態が確立されたことはなく、選挙やその他の政治手続きは、さまざまな寡頭制の一派の間で、権力と財産を再分配するための隠れ蓑、スクリーンとして機能しているだけです。

腐敗は、ロシアを含む多くの国にとって、確かに課題であり問題であるが、ウクライナでは通常の範囲を超えています。それは文字通り、ウクライナの国家体制、システム全体、そして権力のすべての部門に浸透し、腐食しているのです。

【中略】

マイダンはウクライナを、民主主義と進歩に近づけることはありませんでした。クーデターを成し遂げて、民族主義者と彼らを支持した政治勢力は、結局ウクライナを行き詰まりに追いやり、内戦の奈落の底に突き落としたのです。8年経って、国は分裂しています。ウクライナは深刻な社会経済危機と闘っています。

【中略】

ウクライナには独立した司法機関はありません。キエフ当局は、西側の要請に応じて、最高司法機関である司法評議会と、裁判官高等資格委員会のメンバーを選任する優先権を、国際機関に委ねたのです。

さらに、米国は、国家汚職防止庁、国家汚職防止局、汚職防止専門検察庁、汚職防止高等裁判所を直接支配しています。これらはすべて、汚職に対する取り組みを活性化させるという、崇高な口実のもとに行われています。よいでしょう、しかし、その結果はどこにありますか。汚職はかつてないほど盛んになっています。

ウクライナの人々は、自分たちの国がこのように運営されていることを認識しているのでしょうか。自分たちの国が、政治的・経済的な保護国どころか、傀儡政権による植民地に落ちていることに気づいているのでしょうか。

国は民営化されました。その結果、「愛国者の力」と称する政府は、もはや国家の立場で行動することはなく、一貫してウクライナの主権を失う方向に押し進めています。
このようにプーチン大統領は、ウクライナには、真の国家としての伝統がなく、外国のモデルを無思慮に模倣したが、政治は腐敗し、攻撃的なロシア恐怖症とネオナチズムが拡がった。しかし、ウクライナの人々はそのことすら知らないというのですね。


4.ウクライナ人が知らない極右勢力


ウクライナの極右過激主義者について、BBCが2014年12月に「ウクライナは紛争において極右の役割を過小評価している」という記事を掲載しています。

一部抜粋すると次のとおり。
ウクライナの2月の革命以来、クレムリンはキエフの新しい指導部を、ネオナチと反ユダヤ主義者からなる「ファシスト政権」とみなし、ロシア語を話す人びとを根絶しないまでも迫害するものだと訴えてきた。

これは明らかに誤りだ。極右政党は、国会入りするための5%の壁を越えることができなかったが、もし彼らが票を分散させずに団結していれば、おそらくその壁を越えていた可能性はある。

政府閣僚で民族主義政党とつながりがあるのは一人だけだが、彼はネオナチでもファシストでもない。ヴォロディミル・グロイマン国会議長はユダヤ人である。彼は大統領、首相に次いで3番目の権力をもつ地位にある。

しかし、ウクライナ政府関係者や多くのメディアは、別の極論のなかで過ちを犯している。彼らは、ウクライナの政治は完全にファシズムフリーだと主張する。しかし、これも明らかな誤りなのだ。

ウクライナにおける極右の存在は、依然として非常にデリケートな問題であり、政府高官やメディアはこの問題から目を背けている。誰もロシアのプロパガンダマシンに燃料を供給したくないからだ。

しかし、このような全面的な否定は、超国家主義者たちの存在を察知しづらくする危険を孕む。多くのウクライナ人は、ネオナチやファシストの存在に気づいてもいなければ、それが何者で、何をしようとしているのか、知らずにいる。

【中略】

超国家主義者たちは、ロシアが支援する分離主義者やロシア軍(そこにはロシアの極右勢力も多く含まれる)との東部での残酷な戦いにおいて、効果的かつ献身的に戦士であることを証明した。

その結果、ほとんどのウクライナ人が彼らの本意を知らないまま、その存在が社会に受け入れられるようになった。ボランティアで構成される「アゾフ大隊」がその好例だ。

アゾフ大隊は、ユダヤ人やその他の少数民族を「人間以下」とみなし、キリスト教白人による十字軍を呼びかける過激派組織「パトリオット・オブ・ウクライナ」が運営し、その徽章には、狼煙、黒い太陽(または「ハーケンゾンネ」)、SSが使っていた「黒軍団」という3つのナチのシンボルが掲げられている。アゾフは東部で戦う50以上のボランティア団体のひとつに過ぎず、その大半は過激派ではないが、一部の政府高官から特別な支援を受けているとされる。

【中略】

ウクライナのメディアは、この件に関して沈黙を守っている。

【中略】

この沈黙には大きなリスクがある。専門家によれば、西側で広く報道されたアゾフ大隊は、ウクライナのイメージを損ない、ロシアの情報キャンペーンを強化するものだという。

また、ウクライナはファシストによって運営されていないことを強調しているが、極右の過激派は同国の警察のように別の手段で進出しているようだ。

ウクライナの国民は、このことについて著しく情報不足だ。問題は、なぜ誰も彼らに伝えようとしないのか、ということだ。
この記事では、ウクライナ内部に極右勢力が存在しているが、それを政府やメディアが国民に知らせていないというのですね。


5.ネオナチ組織「アゾフ大隊」


このBBCの記事で取り上げられている「アゾフ大隊」なのですけれども、他の過激派グループと国際的につながるのみならず、彼らを戦闘員として訓練もしているという指摘もあります。

日本の公安調査庁の「国際テロリズム要覧2021」の中の「極右過激主義者の脅威の高まりと国際的なつながり」というレポートでは次のように述べられています。
2014年,ウクライナの親ロシア派武装勢力が,東部・ドンバスの占領を開始したことを受け,「ウクライナの愛国者」を自称するネオナチ組織が「アゾフ大隊」なる部隊を結成した。同部隊は,欧米出身者を中心に白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘したとされ,同部隊を含めウクライナ紛争に参加した欧米出身者は約2,000人とされる(注2)。

他方,白人至上主義組織が運営する軍事訓練に欧米出身者が参加しているとの指摘もある。米国国務省が2020年4月に白人至上主義組織として初めて特別指定国際テロリスト(SDGT)に指定した「ロシア帝国運動」は,ロシア西部・サンクトペテルブルグで軍事訓練キャンプを運営しているとされ,ドイツやスウェーデン,フィンランドの出身者が同キャンプに参加したと報じられた。訓練を修了した者の中には,ウクライナ紛争に参加した者もいるとされる。このほか,ネオナチ思想を有する者が主催する音楽コンサート,総合格闘技等のイベント会場も,極右過激主義者が接点を持つ場所として指摘されている。
このように「アゾフ大隊」は白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘し、訓練を施したというのですね。

これについてアメリカのタイム紙は昨年1月の記事「白人至上主義者の民兵がFacebookを使用して新しいメンバーを急進化させ訓練する方法」という記事で次のように述べています。
アゾフはカリフォルニアからヨーロッパ、ニュージーランドにいたるまでの過激派グループネットワークの中心的な役割を担っている。と同時に、戦闘経験を求める若者を惹きつける役割を担っている。アゾフについて調査を続ける安全保障コンサルタントで元FBI捜査官のアリ・スーファンは、過去6年間の間に50カ国から1万7000人以上の外国人戦闘員がウクライナに渡ったと推定している。

その大半は、極右思想との明確につながっているわけではない。しかし、スファンはウクライナで行われている過激な民兵の勧誘方法を調べていくうちに、憂慮すべきパターンを見出した。それは、ソ連軍が撤退し、米国が治安の空白を埋められなかった1990年代のアフガニスタンを思い起こさせるものだった。「すぐに過激派に支配された。タリバンが支配していた。そして、9.11が起こるまで我々は気づかなかった」とスファンは『TIME』に語る。「同じことがいま、ウクライナで進行している」

2019年にニュージーランドのクライストチャーチで発生した51人の大虐殺の発生後、アゾフ運動の組織は、テロリストのマニフェストを印刷物やオンラインで配布し、その犯罪を美化して、他の人びとが後に続くよう鼓舞していた。米国政府が2017年に発表した報告書によると、9.11のテロ事件後の16年間、米国内で起きた85件の過激派による死亡事件のうち、4分の3近くを極右グループが担っていたことが明らかになっている。

2019年に国務省に宛てた書簡の中で、米国の議員たちは「アゾフと米国内でのテロ行為の関連性は明らかだ」と指摘している。ウクライナ当局も注目している。ウクライナの治安当局者2人のコメントを引用した『BuzzFeed News』の報道によると、彼らは10月に「戦闘経験」を積むためにアゾフと協力しようとしていたアメリカに拠点を置くネオナチ集団「アトムワッフェン師団」のメンバー2人を国外退去させたという。
このタイム紙の記事の通りであれば、ある意味、ウクライナはテロリスト養成所にもなっているということであり、軽視してよい問題ではないように思われます。

前述のBBCの記事では、ウクライナでは極右政党は少数派に過ぎない一方、ウクライナの政治が完全にファシズムフリーという訳でもないと指摘していますけれども、アゾフ大隊の存在といい、闇の部分を少なからず抱えているのではないかと思えてきます。

まぁ、ロシアのウクライナ侵攻は全く正当化されるものではありませんけれども、ウクライナ国内でのネオナチの存在と彼らが政権に関わっているかの有無については、ウクライナメディアを含む各国メディアも掘り下げ、その是非を問うところもあってよいのではないかと思いますね。





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