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1.三度目の停戦交渉も合意できず
3月7日、ロシアとウクライナの3度目の停戦交渉がベラルーシのポーランド国境で行われました。出席したロシアのメジンスキー大統領補佐官は終了後、合意に至らず結論は次回以降に持ち越されたと述べたとロシア主要メディアが伝えています。
停戦交渉が行われているにも関わらず、交戦は各地で続いているようです。
同じく7日、アメリカ防総省高官はロシア軍による都市部の民間地域へのミサイル攻撃などが増加していると述べ、ロシア軍は国境に集結させた戦力のほぼ100%を投入。ミサイル625発以上を発射したとの分析を明らかにしています。
こちらに、キエフに住む男性が、現地のニュースを日本語に訳し、SNSのTelegramで発信しています。この男性は3日の夜、オンラインで取材に応じ、「いつまで更新できるか分からないが、たとえ私がいなくなっても友が更新をしてくれる。愛する日本の人たちに、私の目の前で起きている真実を知ってほしい」と述べています。
この男性は「北東部の都市ハリコフの状況は、本当に地獄。ロシア軍は容赦なく、誰でも攻撃している。学校もマンションもミサイル攻撃を受けた。もうキエフにも安全な場所はない……日本にも、数日後にはオフィシャルなメディアを通じて情報や映像が届くのかもしれない。でも、きっとそれは『やさしく』された情報。ウクライナの真実はもっと残酷」とその悲惨さを伝えています。
3月6日、トルコのエルドアン大統領はプーチン大統領と電話会談し、「即時停戦によって地域の人道上の懸念が緩和されるだけでなく、政治的解決策を模索する機会も与えられる」と述べ、停戦を実現して人道回廊を設置し、和平合意に署名するため緊急に対応する重要性も強調したようです。
これに対しプーチン大統領は「軍事行動を止めるのはロシアの要求が満たされた場合のみだ」とロシア側は一切、妥協しない考えを強調し、ウクライナへの軍事侵攻が「作戦通りだ」と順調であると伝えています。
けれども、プーチン大統領の要求はウクライナへ無条件全面降伏を迫るものであり、現状ではほぼ無理だと思います。
ウクライナの政治評論家であるアンドリー・ナザレンコ氏が「ゼレヌスキー大統領が降伏を発表したところで、より多くの国民が立ち上がり、全土で無規律な徹底抗戦を始める。爆破、放火、奇襲、パルチザン戦。ウクライナ人を大人しく占領を受け入れる民に思っているなら、貴方はウクライナの何も知らない。」とツイートしていますけれども、これほど士気の高い国民の戦意を折ることは簡単ではありません。
それこそ、ウクライナを焦土にして、人っ子一人いないくらいでないと駄目なのではないかとさえ。
ゼレヌスキー大統領が降伏を発表したところで、より多くの国民が立ち上がり、全土で無規律な徹底抗戦を始める。爆破、放火、奇襲、パルチザン戦。ウクライナ人を大人しく占領を受け入れる民に思っているなら、貴方はウクライナの何も知らない。 https://t.co/HlIeN7FyWX
— ナザレンコ・アンドリー🇺🇦🇯🇵 (@nippon_ukuraina) March 7, 2022
2.時空間
今回のロシアによるウクライナ侵攻について、ロンドン大学キングス・カレッジ戦争学部のローレンス・フリードマン教授は、3月6日、「空間と時間 ‐戦費がかさみ、軍隊が混乱する中、プーチンは選択肢を失いつつある‐」という論考をネットに挙げています。
その論考の概要を筆者なりにピックアップすると次の通りです。
・私たちは、無生物のチェス駒ではない。動かされる側にも、それぞれの視点と主体性、動機と不安がある。このようにフリードマン教授は、ロシア軍が当初の目標を達成できておらず、初期の作戦が失敗だとした上でオデッサを獲れるかがポイントになると指摘。プーチン大統領が国際的なリーダーとの対話を増やしていることから外交的な解決策を模索し始めている可能性があると述べています。
・この戦争がどのように終わるかは、多くの人々の決断によって決まる。
・ウクライナが非常に大きな国(603,548 km2、ちなみにイギリスは242,500 km2、フランスは543,940 km2)であることを思い起こさせる。この広大な領土の多くが戦闘で消費されているが、大部分はそうではなく、ロシアが引き受けた挑戦の巨大な規模を物語っている。
・ロシアは現在、2月24日以前にウクライナ周辺に集結した大規模な兵力の90%以上を投入しているが、初期の目標を達成することはおろか、達成できたとしてどのように占領し、統治するかを考えることもできないでいる
・住民の忠誠心は断固としてウクライナ人のままであり、ロシアの占領に対する彼らの憤りを示すだけでなく、効果的な支配の欠如が反乱に転じればロシア軍に致命的な結果をもたらしかねないことを警告している
・輸送船団への攻撃は、ウクライナの戦略の中核をなしてきた。つまり、大規模な戦闘を避け、待ち伏せや補給線への攻撃を優先させたのである。
・ウクライナの空軍はまだ飛行中であり、ドローンや対空・対戦車兵器の増援を受けている。対照的に、ロシア空軍はメンテナンスと補給の問題に悩まされているようで、自軍を支援するために比較的低い高度で飛行する必要があるため、かなりの数の航空機とヘリコプターをウクライナの防空網に奪われている。
・ロシア側は、予備役の召集や傭兵の増員、ロシアの他の地域から部隊を呼び寄せるなどして、ギャップを埋めるための余剰戦力を確保する方法を模索しているようにみえる。……準備の整っていない軍隊を動員し、前線に押しやれば、補給線にさらなる負担がかかる。ベラルーシが、さまざまなシグナルが飛び交った末に自軍の投入を見送ったことは注目すべきことで、指定された部隊が反乱を起こしているとの指摘もある。一方、ウクライナは民兵で兵力を増強している。
・南方では、戦争の様相が異なる。ロシア軍は兵站上の問題に直面しておらず、ウクライナの黒海沿岸の港に攻め入ることができた。……ロシア側は、打撃によって犠牲者が軟弱になり、都市を容易に奪えると考えているはずである。実のところ、ロシア軍はいくつかの町に入ったが、降伏したケースはまだない。
・大きな問題の一つは、重要な都市であるオデッサに対して、近いうちに行動を起こすかどうかである。ロシア軍司令官にとって、オデッサは大きな象徴的な賞品となり、攻勢にまだエネルギーと意欲があることを示すのに役立つだろう。しかし、これまでのところ、隣接するミコライフの奪取に失敗し、地上での進展はほとんどない。
・ロシア軍がいつまでこの状態を維持できるか……大規模な補給がない場合、3週間以内とされている。……戦争が長引くのは、当初の計画で想定されていたことが原因であることはほとんどない。通常は、初期の作戦失敗が原因である。
・戦争はお金がかかるものだ。1日にかかる費用の見積もりは、5億ドルから200億ドルの幅があると公表されている。10億ドル強が妥当なところだろう。……戦争は不確実なビジネスであることを強調し続けなければならない。
・私たちは、この破滅的な冒険を始めた人物の心理について考えさせられる。そして今、彼がどんな面目を保とうとも、それを中止するかどうかを決めなければならない。……最近ではイスラエルのナフタリ・ベネット首相との会談など、国際的なリーダーとの対話が増えており、外交的な解決策を模索し始めているのかもしれない。……プーチンは最大の目標から遠ざかることを余儀なくされ、最小の目標が優先されるようになるのだろうか。
3.この戦争は完全に失敗に終わる
また、ロシア内部から見ても、今回のウクライナ侵攻は失敗だったと見られているという内部告発があったという話も出ています。
3月7日、イギリスの「ザ・タイムズ」紙は「この戦争は完全に失敗に終わる、とFSBの内部告発者(This war will be a total failure, FSB whistleblower says)」という記事を掲載しています。
ロシア連邦保安庁(FSB:Federal Security Service of the Russian Federation)は、KGBの後継機関なのですけれども、このFSBのアナリストによるものと思われる報告書に記された内容の概要は次の通りです。
・FSBが、侵略の事前警告がなかったにもかかわらず、モスクワ軍がウクライナに大きく前進できなかった原因として非難されている。報告書というか、生々しい口振りの愚痴だらけといっていいような内容なのですけれども、ロシアのセキュリティサービスの専門家であるグロゼフ氏が、2人の現職または元FSBの関係者にこの報告書を見せたところ、「同僚が書いたものであることは間違いない」と言われたと述べており、グロゼフ氏自身も、「彼の関係者は必ずしも報告書のすべての主張に同意しているわけではないが、その出所には確信がある」とツイートしていることから、本物の可能性は高いものと思われます。
・電撃作戦は失敗した。もし、最初の1-3日でゼレンスキーと政府高官を捕らえ、キエフの重要な建物をすべて押収し、降伏命令を読み上げていたら--そう、抵抗は最小限にとどまっていたはずだ。
・でも、次はどうする? ゼレンスキーを解体したら、誰と協定を結ぶのか。OPZJ(野党OPZJ政治評議会)は協力を拒否した。メドベチュク(「プーチンの代理人」とも呼ばれる親露派の野党政治家)は臆病者だ、逃げたんだ。第二のリーダー、ボイコがいるが、彼は我々と一緒に仕事をすることを拒否している。
・ウクライナ人の抵抗を最低限に抑えたとしても、補給や物流の作業員を除けば50万人以上の人員が必要だ
・50万人の動員を宣言できない理由は2つある。
1) 大規模な動員は、政治、経済、社会といった国内の状況を弱体化させる
2)現在、我々の物流はすでに過密状態だ……ウクライナは国土が広大だ。そして今、私たちに対する憎しみのレベルは桁外れだ。我々はこのカオスを管理することは出来ない
この2つの理由は同時に抜け落ちているが、1つでもあればすべてが失敗に終わってしまう。
・死傷者については、何人かはわからない。誰も知らない。最初の2日間はまだ統制がとれていたが、今は誰も何が起こっているのかわからない。間違いなく死者数は数千人だ。1万人かもしれない。
・今、ゼレンスキーを殺し、捕虜にしても、何も変わらない。私たちに対する憎悪のレベルはチェチェン並だ。今や私たちに忠誠を誓っていた人たちまでもが反対している。上辺だけの計画を立てていたからだ。私たちは当初、ウクライナ国内でゼレンスキーに対する抗議行動を準備していた。
・民間人の犠牲者は指数関数的に増えるだろう。そして、我々に対する抵抗も強まるばかりだ。すでに歩兵による都市への進出を試みているが、20の上陸部隊のうち、暫定的に成功したのは1つだけだ。
・ウクライナのいくつかの都市を包囲下に置く?ここ数十年の同じヨーロッパでの軍事紛争の経験によれば、都市は何年も包囲され、機能することさえある……ヨーロッパからの人道的輸送隊が到着するのは時間の問題だ。
・ロシア軍がウクライナの攻略に成功するための「暫定的な期限」を6月としているが、それまでもたないだろう。6月には経済も何も残らないからだ
・この国には出口がない。単純に、勝利の可能性のバリエーションがない、負けたら終わり、もうダメだということだ。
・プラス面では、「立派な兵士」を大量に前線に送り出すようなことがないように最善を尽くしたことだ。短所は、軍隊の士気が単に下がることだ。そして、敵はやる気満々、怪物のようなやる気だ。彼らは戦い方を知っているし、中堅の司令官も十分にいる。
・クリミアでのロシアの春という話題から欧米人の注意を引く必要があった。ドンバス危機はすべての注目を自分に集め、交渉の材料になるはずだった。
・あとは、どこぞのクソ顧問が、制裁の引き下げを要求してヨーロッパと対立を始めるよう、上層部を説得するのを待つだけだ。断られたら?1939年のヒトラーのように、本当の国際紛争になる可能性も否定できない。
・局地的な核攻撃の可能性はあるか? そう、軍事目的ではなく相手を威嚇するために。
・ロシアの対外情報機関であるSVRは、先制攻撃を正当化するために、ウクライナが核兵器を製造したという証拠を見つけようとしている。
・私はプーチンが全世界を破壊する赤いボタンを押すとは思っていない。
1)まず、決断を下すのは一人ではなく、そこには多くの人がいる。『一人用の赤いボタン』は存在しない。
2)すべてが機能しているかどうか疑問がある。透明性と管理性が高ければ高いほど、欠点を発見しやすくなる。誰がどのようにコントロールしているのかはっきりしないのに、赤いボタンのシステムが宣言通りに機能しているかどうか不安だ。プルトニウムの装荷は10年ごとに交換しなければならない。
3)最も近い代表者や閣僚を自分に近づけさせない人物の自己犠牲の覚悟を、私は個人的に信じてはいない。コロナウイルスや攻撃を恐れて、最も信頼できる人を近づけるのが怖いのなら、どうやって自分や愛する人を滅ぼす勇気が出すのだろう。
この報告書で、筆者が気になったのは「ウクライナの攻略期限を6月に設定していた」ことと「立派な兵士を大量に前線に送り出すようなことがないように最善を尽くしていた」ことの2点です。
攻略期限が6月というのは、先般リークされたと噂になった作戦計画での15日間とは大分差があります。あるいは単なる軍事行動終了期限ではなく、親露暫定政権樹立とウクライナの一定程度の安定までを見込んだ期日なのかもしれません。
4.ウクライナ亡命政権
そんな中、英米の情報機関と軍特殊部隊の混成チームがウクライナに派遣され、ゼレンスキー大統領の首都キエフからの退避に向けた準備を完了させたとイギリス情報筋が明らかにしたと報じられています。
その中身は、ゼレンスキー大統領や主要な当局者がウクライナ西部のリビウに移った場合の支援から、ゼレンスキー氏や側近がウクライナからの避難を余儀なくされ、ポーランドやイギリスのほか、NATO加盟国ではないスウェーデンに亡命政権を樹立することまで含まれているようです。
けれども、西側当局者は亡命政権についてゼレンスキー大統領と直接協議することについては慎重とのことで、その理由はゼレンスキー大統領自身がキエフにとどまることを望んでいて、ロシアに対する戦闘でウクライナを支援すること以外に重点を置いた話し合いを拒絶しているからだそうです。
米欧による協議のなかには、キエフが陥落してゼレンスキー氏が脱出を望まなかったり出来なかったりした場合に備えて、ゼレンスキー政権のメンバー1人以上を外部に送り、そこで政府を樹立するというものもあるようですから、何が何でも現政権を残そうとしていることが伺えます。
今回のウクライナ侵攻がいつ停戦されるのか分かりませんけれども、ゼレンスキー大統領が亡命して終わるという決着にはならなさそうですし、また仮にゼレンスキー大統領が暗殺されても、ナザレンコ・アンドリー氏が指摘するように、ウクライナ全土で無規律な徹底抗戦が始まるのであれば、その決着は遠い先のことになるかもしれませんね。
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