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1.ポーランドとブルガリアへのガス供給停止
4月27日、ロシアのエネルギー大手ガスプロムは、ポーランドとブルガリアへのガス供給を停止しました。ロシアのウクライナ侵攻以来、ガス供給を停止するのは両国が初めてのことです。
ガスプロムによると、ポーランドとブルガリアはルーブルでのガス代金支払いがなかったため供給を完全に停止したと説明。更にドイツ、ハンガリー、セルビアに供給するパイプラインを持つポーランドとブルガリア経由のガスが不法に取られた場合には供給が切断されると警告しました。
もっとも、欧州のガス会社10社は、ロシアの要求に応じてルーブルでガス代を支払うためにガスプロムバンクに口座を開設し、うち4社は既にルーブルで支払いを済ませたと、社ガスプロムに近い関係者が明らかにしています。この関係者によると、ロシアはEUの制裁違反を回避できるような決済メカニズムを欧州のガス購入企業に提案。26日に設定された支払期限に対し、ポーランドとブルガリアは拒否したため供給が停止されたということのようです。
ポーランドとブルガリアの両政府は供給停止について、ガスプロムによる契約違反だと反発。更に、EU欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、「不当であり容認できない」と表明し、EUが協調して対応する意向を示しました。フォンデアライエン委員長は声明で「ガスプロムが欧州の顧客へのガス供給を一方的に停止すると発表したことは、ロシアがガスを脅迫の道具として使おうとする新たな試みだ……ガス供給国としてのロシアの信頼性の低さを改めて示している」批判し、EUはガス供給停止に備え、ガスの代替供給と貯蔵量を確保するための作業を継続するとしています。
2.変動するロシア産原油輸出
一方原油のほうも輸出が伸びているようです。
世界の石油タンカーの運航の情報をもとに流通の状況を調査している、ベルギーの民間企業「KPLER」の分析によると、ロシアから輸出され、タンカーで各国に到着する一日当たりの原油の量は、侵攻直後の落ち込みから回復し、4月26日の段階で昨年平均をおよそ7%上回っているそうです。
もっとも、国別にみるとかなりのばらつきがあり、大幅に減っているのは、アメリカのマイナス83%、フィンランドのマイナス81%、ドイツがマイナス79%、そしてイギリスがマイナス70%などとなっています。
その一方、インドは8.4倍、トルコが2.4倍、イタリアが2.1倍などの他、中国が13%増となっています。
KPLERのマット・スミス主任原油アナリストは「ロシア産原油の価格が割安になっていることから、インドなどは買い増す機会と捉えている。ヨーロッパでも禁輸の措置がない国の中には購入を続けているところがある」と、現時点では制裁の影響は限定的だと指摘しています。
アメリカは先月、ロシア産の原油の輸入を禁止する経済制裁を発表し、カナダやオーストラリアも輸入の禁止を決めたほか、イギリスも輸入を段階的に減らして年末までに停止するとしています。またEUもロシア産原油の輸入禁止を目指しているのですけれども、西側の足並みは必ずしも揃ってはいません。
ただ、細かく見ると、一部で原油の買い手がつかないという事態も起こっているようです。
ロシアの国営石油最大手ロスネフチは、先週、企業を招いて、5月、6月積みのウラル原油など650万トンの原油売却入札を実施したのですけれども、25日迄に応札がなかったと、事情に詳しい5人のトレーダーやウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が確認した文書で明らかになっています。
ロスネフチは先週、原油の落札代金は全額ルーブルで前払いにすると発表していたのですけれども、これまで大半の原油をトラフィギュラやビトルなど大手資源商社と長期契約で売却していて、入札を行うことは滅多にありませんでした。それが入札をするまでに追い込まれた今後の変動を予感させなくもありません。
3.脱ロシア依存に動き出したドイツ
エネルギーのロシア依存からの脱却を志向し始めたEUですけれども、中でもドイツはいち早く手を打ってきました。
2月27日、ドイツのショルツ首相は、連邦議会での演説で、エネルギー戦略について次のように述べました。
そして私たちは方向転換を行っていきます。個別のエネルギー供給元への輸入依存を克服するための方向転換です。この数日、数週間に起きたことが示しているように、責任ある、先見性のあるエネルギー政策は、私たちの経済や気候保全のためだけでなく、私たちの安全保障のためにも決定的に重要なのです。ですから、再生可能エネルギーの拡充は、早ければ早いほどよいのです。
私たちは正しい方向に向かっています。先進国として2045年までのカーボンニュートラル達成を目指しています。この目標を見据えつつ、石炭やガス備蓄の増強など、重要な決断を行っていく必要があります。ですから、天然ガスは、いわゆる長期オプション経由で、備蓄量を20億立米拡大することを決めました。さらに、EUとの調整のもと国際市場において天然ガスの追加購入を行います。そしてまた、ブルンスビュッテルとヴィルヘルムスハーフェンの2か所に、液化天然ガス(LNG)ターミナルを速やかに建設することにしました。ハーベック経済大臣の尽力には心から感謝したいと思います。
短期的に今必要な措置を、長期的なエネルギー転換のためいずれにせよ必要であった措置につなげていくことは可能です。LNGターミナルは、今はガスの備蓄に使いますが、将来的にグリーン水素の備蓄にも使っていくことができるのです。
このようにドイツは液化天然ガス(LNG)のターミナル建設と備蓄、そして将来的な水素エネルギーへの転換について述べています。これは、ロシアがウクライナ侵攻を始めてからわずか3日後の演説です。いまや原発から離れてしまったドイツが、如何にエネルギー安保に神経を尖らせているかよくわかります。
そのショルツ首相は、4月28日、首相就任後初めて来日し、水素エネルギーにおける日本との連携を強調しています。
ショルツ首相は、この日に行われた、在日ドイツ商工会議所設立60周年を記念した「日独ビジネス・ダイアログ」イベントに出席。ドイツ商工会議所連合会のアドリアン会頭や経団連の東原敏昭副会長ら約150人が出席する中、演説を行いました。
ショルツ首相は演説で、西側諸国の結束した対露制裁が「ロシアに大きな打撃を与えている。プーチン露大統領は各国がここまで連携するとは思っていなかっただろう」と指摘。G7やNATOはウクライナに必要な支援を行うと同時に「ロシアが他国に侵攻を拡大しないよう注意しなければならない」と語りました。
そして、ロシア産原油などの輸入依存が国内外から非難されているエネルギー問題について、「水素は将来、ガスに代わるものだ……製造業の生産プロセスで発電に使う石炭や天然ガスを水素に置き換えていく……日独が技術面で交換していくことで繁栄につながる」と、脱炭素社会の実現に向けて国際的な連携の枠組みが必要だと指摘し、日本の参画にも期待を示しています。
4.世界各国で進む水素戦略
水素については欧米を中心に水素戦略やロードマップが発表されており、今年に入ってから、世界でも水素関連の報道が続き、科学的な検証や極所的なコストの問題も徐々に議論されるようになってはいるのですけれども、まだまだ本格的な動きにまでは至っていません。
水素は元素の中で最も軽く、宇宙で最も多く存在する元素ですけれども、地球では、気体の水素は大気中にわずか約0.00005%含まれるのみで、その殆どは海水などの化合物の状態で存在しています。従って水素を生産するためには、その水素化合物を還元して水素を取り出す必要があります。
よく知られているのは、水を電気分解する方法だと思いますけれども、それ以外にも石炭を蒸し焼きにしたり、石油や天然ガスに含まれるメタン、エタン、プロパンなどの炭化水素を水蒸気によって分解して水素を得る方法があります。
けれども、水を電気分解するために、石炭や石油を燃やす火力発電からの電気を使ってしまえば、水素とてクリーンエネルギーとは言えませんし、また、
水を電気分解するために使われる電気が石炭や石油を燃やす火力発電によって作られたとしたら、水素はクリーンエネルギーとは呼べません。また、炭化水素を分解する方法にしても、その工程で二酸化炭素が生成されてしまいますから、これもクリーンではありません。
そうしたことから、現在、世界各国において「いかにクリーンで安価な水素を製造するのか」といった研究開発・実証が行われています。
このように水素は、その製造方法によって環境影響が異なるため、最近では、水素を色分けした呼び名を用いています。その6~7色あるそうなのですけれども、主なものは次の4つに大別されています。
グレー水素(Gray Hydrogen):現在、世界全体で工業用に生産されている水素は、99%が天然ガスを原料として生産されている「グレー水素」だとされていますけれども、先に紹介したドイツの議会でショルツ首相が、エネルギー戦略としてLNGターミナルを将来的にグリーン水素の備蓄に転用すると述べているように、2050年のカーボンニュートラルへ向けた水素エネルギー製造には、グリーン水素またはブルー水素を中心に検討が進んでいるようです。
天然ガス(中のメタン)を高温の水蒸気と混合し、触媒化学反応(水蒸気改質反応:SMR(Steam Methane Reforming)によって生成される。製造工程では、化学反応により水素と同時に二酸化炭素(以下、CO2)が生成され、発生したCO2は大気中に放出される。この方法が最も安価かつ大量に水素を製造できるが、世界の水素戦略の対象からは外れている。Forbsの2020年6月2日の「Estimating The Carbon Footprint Of Hydrogen Production」のレポートによると、1kgの水素を得るために製造工程全体で発生するCO2は約9.3kgになる。1kgの水素と同じ燃焼エネルギーを得るために必要なガソリンは約3.8リットルで、ガソリン3.8リットルが燃焼時に発生するCO2の量は9.1kgと、水素を生成する際に発生するCO2のほうが多い。
ブルー水素(Blue Hydrogen):
グレー水素と同じSMR工程で製造されるが、製造工程で生成されたCO2を回収し貯蔵する事で、CO2をほとんど大気中に放出しない。炭素の回収貯蔵装置は、Carbon dioxide Capture and Storage(CCS)技術として知られており、開発が進められている。しかし、CO2の回収率は90%程度で、また、地下に貯蔵するためにコストが掛かる。さらに、CO2の搬送や運搬時のコストも課題として残っている。一方、ブルー水素はグレー水素よりも炭素排出量が少なく持続性が高いことから、グレー水素の代替手段として議論されている。
グリーン水素(Green Hydrogen):
水を電気分解することにより、水素分子と酸素分子に分離することで得られる。この時製造に使用する電気エネルギーについて、風力や太陽光発電など炭素を排出しない再生可能エネルギーを利用することから、グリーン水素と呼ばれる。ただし、電気分解で1kgの水素を得るためには、効率が100%と仮定しても 39.4 kWhの電力が必要となる(現在の設備の効率では48 kWh程度が必要と言われている)ため、この電力は、そのまま使用した方が効率が良いという議論が常に存在している。電気分解槽や設備が高額なことや、再生可能エネルギー源である太陽光や風力発電の供給能力にも問題があり、現時点では商業ベースで製造するためにはハードルが高い状況となっている。ただ、現在の世界各国の水素戦略で対象としている主な水素は、このグリーン水素である。
ピンク水素(Pink Hydrogen):
原子力エネルギーを利用した電気分解によって生成される。高温の原子炉の熱を利用してメタンの水蒸気改質を行う方法も検討されているが、現状具体的なプロジェクトがほとんどない。
5.原発が生み出すピンクの水素
4月26日、岸田総理はテレビ東京の番組で、原子力発電所の再稼働について「原子力規制委員会の新規制基準に適合し、国民の理解を得ながら再稼働を進めていくという基本的な方針は変わならい。安全は譲れない」と述べつつ、ウクライナ情勢による原油高などで、エネルギー供給が不安定になっていることに触れ、電力の逼迫やガス料金の高止まりへの懸念を示しました。
岸田総理は「電力やガス料金の値段の高まりを考えるときに、原子力についてもしっかり考えなければならない。原子力発電所を1基動かすことができれば、世界のLNG市場の年間100万トン、新たに供給するという効果がある」と、再稼働の効果を強調。原発設備の安全面について、「規制委の審査についても合理化、効率化を図りながら、審査体制も強化をしながら手続きをしっかり進めていき、どこまで再稼働ができるのかの追求をしていかなければならない」と語りました。
これをきくと、近いうちに原発再稼働に意欲を示しているようにも見えますけれども、原発は水素生産の一翼を担う可能性もあります。ピンク水素です。
2021年、茨城県大洗町の海沿いに日本原子力研究開発機構(JAEA)の大洗研究所で高温ガス炉(HTGR)の試験研究炉(HTTR)が10年ぶりに再稼働しました。
高温ガス炉(HTGR)は、水を沸騰させて熱や蒸気を取り出す現行の原発(軽水炉)とは構造が違う次世代炉の1つです。電気出力は最大30万キロワットと軽水炉型原発の3分の1程度なのですけれども、安全性は極めて高くなっています。
なぜ、安全性が高いかというと、ウラン燃料を耐熱構造にした上で黒鉛で覆うことで、従来炉では1200度を超えると溶け出してしまう燃料棒が2500度までの耐熱性を得て、福島第一原発事故のときの2倍程度の温度でも溶け出さないのだそうです。
更に「冷却材」には水ではなく、不活性ガスであるヘリウムを使うことで、化学反応を起こさず、水蒸気爆発もないというシステムとなっています。
実際、2010年にヘリウムガスをすべて止め、核反応が連続して起きる「臨界」をコントロールする制御棒を抜いた安全実験を行ったのですけれども、その状態でも原子炉が自動停止することが確認されています。
この高温ガス炉の試験研究炉からは、850~950度の熱を取り出せるのですけれども、この熱を使って、水にヨウ素と二酸化硫黄を混ぜて化学反応させた材料を分解してやることで水素を取り出せるのだそうです。
日本原子力研究開発機構(JAEA)の大洗研究所には水素を製造する巨大な試験プラントがあり、150時間の連続運転で一定量の水素を製造することに成功しています。そして2026~27年には高温ガス炉の試験研究炉と水素プラントを繋いで、商用機に近い形で水素生産に乗り出す計画を立てています。
岸田総理は単に既存の原発の再稼働だけでなく、次世代原子炉の開発・商用化を推進し、水素エネルギー活用の道筋も付けていただきたいと思いますね。
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