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1.ロシアの戦時経済体制移行法案
6月5日、ロシア下院は、ウクライナに侵攻したロシア軍の活動を支えるためとして、ロシア政府に「特別措置」を発動する権利を与える法案を審議しました。
法案は、政府が企業に指定した量と金額で物品を納入するよう義務付けることを可能にするほか、労働者の残業や夜間労働、休日出勤を政府が指示できると規定。欧米メディアは事実上の「戦時経済体制」への移行だと伝えています。
ロシア議会は法案審議に読会と呼ばれる段階をおいて法案の審議と採決を行い、第一読会から第三読会までの3回の段階を踏む三読会制を採用しています。
この法案は既に第1読会を全会一致で通過しており、今後、下院での第2、第3読会や、その後の上院での審議を経て、プーチン大統領の署名により近く成立する見通しです。
現在、ロシア軍は、依然として、ウクライナ東部で攻勢を維持しているのですけれども、イギリス国防省によると、ロシア軍は旧式のT62戦車を前線に投入し、対艦ミサイルも地上攻撃に流用するなど、兵器枯渇の兆候も出ています。
今回の法案はこうした状況を打開する方策の一つとみられています。
この日、軍需品の調達を担当するボリソフ副首相は法案について、精密部品などの対露輸出を禁じた欧米の制裁に対処するためのものだと説明。特別軍事作戦中だけの時限立法だと述べています。
また、国内で「24時間労働を強制される」との懸念が出ていることに対しては「大規模にならない上、追加の金銭が支払われる」と弁明しているようです。
焦点の特別軍事作戦がいつまで続くかについては、同じく5日、ショイグ国防相が軍高官らとの会議を開き、「作戦は最高指揮官が設定した任務の完了まで続く」と演説。ロシア軍が主目標とする東部ドンバス地域の掌握のうち、残るドネツク州全域を制圧するまでは少なくとも戦闘を継続する方針を示しています。
要するにプーチン大統領の胸一つということです。
2.今後ウクライナで想定される3つのシナリオ
では、今後ウクライナ侵攻はどういう展開になるのか。
これについて、読売新聞が「ウクライナで今後想定される3つのシナリオ」という記事を掲載しています。
それを次に引用します。
<1>占領地域の「編入」もこのように「占領地域の編入」、「有利な状況で停戦協議」、「数年にわたる長期戦」の3つのシナリオを挙げていますけれども、この中で一番可能性が高いのは長期化というのですね。
ウクライナ東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)の地上戦で露軍は態勢を強化し、10倍以上とされる火力を中心とした力押しで優位に立ちつつある。
米欧のウクライナ軍への支援が大幅に増強されなければ、露軍はドンバス地方全域の「解放」という侵攻目的を達成し、南部ヘルソン州やザポリージャ州の占領地域と合わせ、侵攻前に支配していた地域の3倍の領土を制圧する可能性もある。
20日、ウクライナ東部セベロドネツクで、パトロールを行うウクライナ軍兵士=ロイター
実現すれば、5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日の際には見送った、一方的な「勝利宣言」に踏み切るとの見方もある。ただ、ウクライナ軍は依然として士気が高く、抗戦をあきらめる可能性は、現時点では低い。これらの地域を一括してロシアに「編入」すると表明し、占領を既成事実化することもあり得る。
ロシアのプーチン大統領は、21年間にわたるスウェーデンとの北方戦争に勝利し、帝政ロシアを大国に押し上げたピョートル1世(大帝)に自身を重ね合わせ、帝国主義的な考えを隠そうとしない。最側近のニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記も、侵攻作戦には「特定の期限」を設けず、領土を拡大するまで戦争を続ける方向性を示唆している。
プーチン氏が強気を貫く背景には、米欧の支援が長続きしないとの読みがある。ウクライナへの軍事支援をリードする米国は11月に中間選挙を控える。国内問題に関心が傾けば、支援が息切れする事態も想定される。
米欧の関心が離れれば、露軍がウクライナ第2の都市ハルキウを攻略し、さらに首都キーウ(キエフ)を再び襲うことも考えられる。
<2>有利な状況で停戦協議
ウクライナ軍がドンバス地方での露軍の攻撃をしのぎ、米欧の高性能兵器が前線に十分に配備されれば、戦局が大きく動く可能性がある。
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特に米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)などは、露軍のシステムより精度が高く射程が長い。訓練を受けたウクライナ兵が使いこなせるようになれば、自軍の被害を抑えながら反転攻勢を進められそうだ。
ウクライナ軍は、南部クリミア半島と隣接するヘルソン州やザポリージャ州では、すでに反攻を始めている。軍と呼応するように、ロシアの占領統治に対するゲリラ活動も盛んになっている。露軍は徴兵された兵士が中心で士気が低く、露側が苦戦に転じた場合は部隊の統制が崩壊するとの見方もある。
ウクライナ軍は当面、2月24日の侵攻前の領土回復を目指すとみられる。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、侵攻開始前のラインまで露軍を撤退させれば「暫定的な勝利」だと表現している。2014年にロシアに併合されたクリミアの地位を巡る問題は先送りし、自軍に有利な状態で停戦協議に持ち込むのが現実的だろう。
ただ、露軍が侵攻前のラインまで後退する事態になれば、威信に傷が付いたプーチン氏が事態をエスカレートさせる懸念も高まる。生物・化学兵器だけでなく、核兵器をウクライナで使用することも現実味を帯びてくる。
<3>数年にわたる長期戦
最も可能性が高いとみられているのは、露軍とウクライナ軍が都市の奪い合いを繰り返しながら、戦争終結に至る決定打を与えられず、長期化するシナリオだ。
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米国や北大西洋条約機構(NATO)は、プーチン氏が自ら戦争を終結させる可能性は低いとみており、「(戦争が)何年も続き得るという事実に備えなければならない」(イェンス・ストルテンベルグNATO事務総長)と長期支援も覚悟している。
戦況停滞の背景には、米国がウクライナに対し、ロシア領まで届く長射程の重火器供与を拒否するなど、軍事支援のレベルを抑えている影響もある。核を保有する軍事大国同士である米露間の緊張が高まる事態を警戒しているためだ。
米国の著名コラムニスト、トーマス・フリードマン氏は今月、米紙ニューヨーク・タイムズで、米露の「相撲」が始まったと表現し、「大きな力士同士が相手を土俵から投げ出そうとするが、どちらもやめないし、勝つこともできない」と指摘した。
長期戦になれば、関係国の消耗は増す。経済制裁が続くロシアは、戦争継続とともに、国民の不満解消にも目を配る場面が増えてくるだろう。米欧諸国も、制裁の副作用として発生した食糧やエネルギー価格の急騰に耐えられなくなり、ウクライナに停戦を促したり、支援を減らしたりする動きさえ出かねない。
3.ロシアは領土的野心を持ち続けている
これについて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシアは「領土的野心」を維持し、戦闘長期化に備えているとの見解を公表しました。
戦争研究所は、5日にパトルシェフ露安全保障会議書記がウクライナの非武装、中立化が達成されるまで軍事作戦を続けるとした発言などを基に分析した結果、ウクライナをロシアとNATOの間で「永遠の中立」とさせておくというロシア側の目標は変わっていないとしています。
更に、プーチン政権は最近のルガンスク州攻略では満足しておらず、さらに支配地域を拡大するため、「戦闘の長期化に備えている」とも分析。そして、ウクライナのゼレンスキー政権の転覆も依然として狙っているそうです。
また、イギリスメディアは、プーチン大統領が4日、ショイグ国防相に対し、ルガンスク州制圧に従事した兵士に「休息を与え、さらに戦闘能力を向上させるべきだ」と指示したとし、長期戦を念頭に置いた発言とみられると伝えています。
4.ロシアが世界に仕掛ける泥沼の消耗戦
先述した読売新聞の3つのシナリオのうち3つ目の長期戦シナリオでは、ニューヨーク・タイムズ紙の「大きな力士同士が相手を土俵から投げ出そうとするが、どちらもやめないし、勝つこともできない」とのコメントを取り上げていますけれども、がっぷり四つに組んだまま、ジリとも動かずにいればどちらも疲弊し、最後には力尽きてしまうことは明らかです。
のみならず周辺国もエネルギー、食糧問題などで消耗していくことになります。
7月6日、ロシアのメドベージェフ前大統領は、対話アプリ「テレグラム」で、先住民の殺戮や日本への原爆投下、ベトナムやアフガニスタンなどでの多くの戦争を例示し、アメリカは自らが関与して世界各地で2000万人の死をもたらした戦争で罰を受けていないにもかかわらず、ロシアを訴追する動きを主導していると非難。「アメリカの歴史そのものが、先住民の征服に始まる血みどろの壊滅戦だ」と指摘し、ウクライナでのロシアの動きを調査するために裁判所や法廷を使うのは無駄で、世界的な荒廃を招く恐れがあると主張しました。
ウクライナ侵攻このかた、ロシアは何かについて核兵器使用をちらつかせては、対露制裁やウクライナへの武器支援を止めろと牽制していますけれども、もしかしたら、それらを止めさせるというより、限定的な通常兵器の枠内での戦闘に止めさせようとする意図の方が強いのではないかという気がしています。
というのも、もしロシアが核兵器を使ったら、西側やNATOはロシアを攻撃する大義名分を得ることになります。すなわち核報復であるとか、たとえ核でなくても長距離弾道ミサイルを撃ち込むことだって考えられます。
要するに、ロシアが核を使ったら、西側はロシアを更なる悪者として、徹底的にやっつける構図が作れるという訳です。
逆にロシアは、そうした西側の「罠」を見破っていて、あくまでも通常兵器での戦闘からはみ出ないように西側牽制する必要があり、その為に事あるごとに「核」を口にしているのではないかということです。
つまり、核戦争にエスカレートさせてはいけないと、西側諸国にはロシア領に届かない「通常兵器」ばかりウクライナに支援させておくことで、ロシアはウクライナを果て無き泥沼の消耗戦に引きずり込み、援助する西側諸国をもエネルギー、食糧で締め上げる狙いなのではないか。
西側がウクライナに派兵しないとしている以上、精強で士気の高いウクライナ軍といえども、兵士が全て死に絶えてしまえば、それ以上戦うことはできなくなります。
昨日のエントリーでも述べたとおり、NATO諸国は「ウクライナ疲れ」もあり、政権も足元がぐらつき始めています。
このままウクライナ侵攻が2年も3年も続いたらどうなるか分かりません。
プーチン大統領がそこまで保つのかという話もありますけれども、もしかしたらプーチン大統領は西側を敵に回した我慢比べを仕掛けてきているのかもしれませんね。
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