アメリカを侮辱した尹錫悦大統領

今日はこの話題です。
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1.ペロシ・尹錫悦電話会談


8月4日、韓国の尹錫悦大統領は、訪韓したアメリカのペロシ下院議長と電話会談しました。

約40分間の会談の中で、ペロシ下院議長は「米韓同盟はさまざまな観点から重要な意味があるが、道徳的な側面からも必ず守らなければならないものがある」として、「数十年にわたり多くの犠牲の下、守ってきた平和と繁栄の約束を守る義務がある……今後も米韓が自由で開かれたインド太平洋の秩序を守っていくことを望む」と呼びかけました。

これに対し、尹大統領は5月にソウルで開かれた米韓首脳会談に言及し、「バイデン大統領とグローバルで包括的な戦略同盟を発展させることについて、米議会とも緊密に協力することを約束した」と述べ、ペロシ下院議長一行が南北軍事境界線上にある板門店の共同警備区域(JSA)を訪れることは対北朝鮮抑止力の証しになると強調したようです。

会談では外交・国防や技術協力、気候変動など諸懸案に関する意見交換が行われたそうですけれども、マスコミ記事では、ペロシ下院議長が「自由で開かれたインド太平洋の秩序を守っていくことを望む」と明らかに対中包囲網を意識した発言に対し、尹大統領は、「グローバルで包括的な戦略同盟を発展」とぼかし、ペロシ下院議長らが板門店を訪れることは「対北朝鮮抑止力の証」と今一つかみ合ってない印象を受けます。

まぁ、マスコミの断片情報で、それぞれの都合の良いところを切り取っただけかもしれませんけれども、であればなお、双方にとって何が都合が良くて何が都合が悪いのか分かるというものです。

要するに、アメリカは韓国に対中包囲網に参加しろと迫り、韓国は明言せず逃げたということです。


2.アメリカに対する侮辱


そもそも、今回の会談そのものからして、尹錫悦政権は逃げ腰でした。

ペロシ下院議長は大統領継承順位が副大統領に次ぐ2位であることを考えると尹錫悦大統領が会っておかしくありません。第一、日本も含め、ペロシ議長が訪問したすべての国が政府首脳との会談を行っています。

ところが尹錫悦大統領は当初、「休暇中」との名目で面談を拒絶。朴振(パク・ジン)外交部長官も海外出張中で、国会議長だけが会談に応じることになりました。

韓国ウォッチャーの鈴置高史氏によると、この尹錫悦大統領の態度に韓国保守から非難が噴出。最大手紙で保守系の朝鮮日報は8月4日の社説「ペロシに会わない尹、米中に誤った信号を送りかねぬ」で、次のように警告したそうです。
・(尹錫悦大統領は)NATO首脳会談の演説では自由民主主義国家の間の協力を強調し「自由と平和は国際社会の連帯によってのみ保障される」と述べた。
・こんな尹大統領がソウルに居るにもかかわらず「事前に了解を求めた」としてペロシ議長に会わないのは、中国の顔色を見たのではないか、との解説も一部にある。文在寅(ムン・ジェイン)政権のように屈従的な姿勢では歪んだ関係が続くだけだ。
すると、この記事が載った8月4日の朝、韓国大統領府は「休暇中の尹錫悦大統領がペロシ議長と電話する」と発表し、電話協議を行ったというのですね。

電話協議を行ったことについては、金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第1次長が記者会見で明らかにしたのですけれども、記者から大統領室関係者は中国の反発を意識し、尹大統領がペロシ氏と面会しなかったと指摘されると、「尹大統領の休暇計画を決めた状況でソウルに来ると難しいということで2週間前に了解を得た……ペロシ氏の台湾訪問は約1週間後に決まった。中国を意識したためではない」と述べ、「電話で挨拶したいという意向を今朝伝えた」と電話会談が行われた背景を説明しています。

けれども正直言って、かなり取って付けたというか、苦しい言い訳に聞こえてしまいます。

当然ながら、韓国のこの対応に、アメリカは激怒しました。前述の鈴置氏によると、アメリカ国務省が所管するVoice of America(VOA)は直ちに「韓国よ、舐めるな」と言わんばかりの記事を載せたと指摘しています。

件の記事「専門家ら『ペロシ議長が訪韓し「米韓関係拡張」を再確認…尹大統領との会同は不発、中国のためなら大間違い』」では、アメリカの外交専門家らの談話を引用しているのですけれども、鈴置氏は元国務省政策企画局長のM・リース氏の対韓非難発言を紹介しています。それは次の通りです。
・ペロシ議長がソウルに到着した際に大統領が会わないと決めたのは韓国大統領府の二重の誤りだった。私は米韓関係に対する侮辱(insult)と考える。
・ペロシ下院議長は韓国の外側でその必要があった時、韓国の自由と民主主義を求める人々の声をしばしば代弁し、長きに亘り人権を護持してきた。
・面談を断った意図が中国をなだめるためであったなら、その効果はまったくない。
「米韓関係に対する侮辱」とは、もうボコボコです。これについて鈴置氏はリース氏の本音は「米国に対する侮辱」との憤懣でしょう、と指摘している程です。


3.韓国人にとって「台湾」は人ごと


なぜ、韓国はここまで中国を恐れるのか。

これについて鈴置氏は次のように述べています。
中国封じ込めに乗り出したアメリカが、韓国に次々と踏み絵を迫っています。中韓が結んだ「3NO」を破棄して日米韓の合同演習に参加せよ、半導体分野での中国包囲網「chip4」に加われ……

アメリカの言うことを聞けば、中国から激しく報復されることばかり。そのうえ、今度はペロシ訪韓。「台湾問題で中国と向き合え」との踏み絵でした。

韓国人とすれば、「これだけ中国との摩擦を抱えているのに、台湾の面倒まで見ていられないよ」と叫びたい心情なのです。証拠があります。

東亜日報の8月4日の社説「ペロシ氏の台湾訪問で一触即発の米中、試される韓国の外交手腕」(日本語版)は、一口で言えば「台湾問題に巻き込まれるな」との主張でした。

日本では「台湾が中国に侵略されれば、次は日本だ」との危機感が高まる。でも、韓国人にとって「台湾」は人ごとなのです。
日本は台湾の侵略は民主主義の危機と捉え、中国に対抗すべしという考えは割と自然だと思うのですけれども、これについて鈴置氏は次のように指摘しています。
日本の保守は米国とスクラムを組んで中国に対抗しようと考える。でも、韓国の保守は必ずしもそうではない。「韓国を窮地に追い込む命令ばかりしてくる米国」への反発もあるし、「中国の冊封体制下でそれなりに安定した時代を送った記憶」もある。

だから朝鮮日報も完全に米国側に立とうとは言わない。中央日報だって、いつまで中国に突っ張る姿勢を見せるかは分からない。米国から「侮辱」と叱責れることになろうが、尹錫悦大統領が面談を拒否したのも、そんなに不思議なことではないのです。
鈴置氏は、こういった韓国の心情を中国は知り尽くしていて、今後、「無理難題を言うアメリカ」に対する韓国の怒りをかきたてたり、アメリカ側に完全に付く日本よりもいい待遇を与えておだてたり、脅しを織り交ぜながら手練手管を駆使するだろうと予測しています。


4.五つの当然


8月9日、中国の王毅外相は山東省青島市で韓国の朴振(パク・チン)外交部長官と会談を行いました。

王外相は、2022年が中韓国交樹立30周年であることを踏まえ、両国関係について「相互に尊重、支持し合いそれぞれに成果をあげることは、両国および両国の人々に重要な利益をもたらすだけでなく、地域の平和と発展・繁栄にも安定をもたらすものだ」と評価した上で、次の30年に向けて、5つの要求を行いました。それは次の通りです。
(1)両国は独立して自主的で、外部の干渉を受けるべきではない、
(2)両国は隣国との友好を堅持し、それぞれの重大な関心事項に配慮すべき、
(3)両国は開放とウィンウィンの関係を堅持し、産業チェーン・サプライチェーンの安定を維持すべき、
(4)両国相互の平等・尊重と、内政不干渉を堅持すべき、
(5)両国は多国間主義を堅持し、国連憲章の趣旨と原則を順守すべき
王毅外相はこれらを「5つの当然」として提起しました。

確かに文言だけみれば、独立だの自主的だの、「当然」なことが並んでいるのですけれども、その「当然」には、「韓国は中国に従え」という「当然」が含まれていることがにじみ出ています。

韓国が「独立して自主的」に選択すれば、中国側に付くのは「当然」であるという意識が見て取れます。

会談で王毅外相は、現在はグローバリゼーションが「逆流」しているとの認識を示し、特定の国により、グローバルサプライチェーンの安定が脅かされているとした上で、「中韓はグローバルな貿易システムの受益者・建設者として、共同で市場ルールに背く行為に抵抗し、両国間およびグローバルな産業チェーン・サプライチェーンの安定を維持すべきだ」と述べたそうですけれども、これは明らかにアメリカの中国切り離し政策を意識した発言です。

中国外交部は、会談の中で、双方は中韓自由貿易協定(FTA)の第2段階協議を進めるとともに、産業チェーン・サプライチェーン安定に向けた対話実施に同意したとし、THAADミサイル問題についても、中韓がそれぞれの立場を述べ、両国は相互の安全保障に関する懸念を重視し、両国関係のつまずきとならないよう、適切に処理するよう努力するとの認識を示したとしています。

このように中国は着々と韓国を引きずり込もうとしています。


5.支持率30%


8月5日、世論調査会社の韓国ギャラップが5日発表した調査結果によると、尹錫悦大統領の支持率は24%と、前週の28%から更に4ポイント下げ就任以来最低を更新しました。

また、1日に世論調査会社のリアルメーターが発表した世論調査でも7月29日付調査で支持28.7%、不支持68.5%と、5月10日の大統領就任後わずか3ヶ月で30%を割り込む事態となっています。

朴槿恵元大統領の支持率が30%を下回ったのは就任から約2年後、文在寅前大統領は就任から4年後に30%を下回ったことを考えると、尹大統領の不人気ぶりはちょっと異常です。

韓国ギャラップは不支持の理由に関し、尹大統領が夏休みに入る直前の先月29日に政府が打ち出した小学校入学年齢の引き下げなど、さまざまなイシューがあったと指摘していますけれども、一説に、支持率30%はレームダック化の指標とされていることを考えると、尹大統領政権はスタートから崖っぷちに立たされています。

支持率が下がると決まって使ってきた「反日ブースト」も、最早その威力は影が薄くなってしまっています。

これからどう局面を打開するのか分かりませんけれども、米中対立に挟まれた尹錫悦政権が今後どう動くのかウォッチしていく必要があると思いますね。


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