武器輸出三原則の見直しとプーチンの脅し

今日はこの話題です。
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1.政府の武器輸出検討


昨年12月28日、政府がウクライナなど武力侵攻を受ける国に対し、殺傷能力がある防衛装備の無償提供を可能とする法整備を行う方向で検討に入ったことが明らかになりました。

政府は、1月召集の通常国会に自衛隊法改正案を提出する方針としています。

自衛隊法第116条3項では、防衛装備品を他国に無償提供することを認めているのですけれども、弾薬を含む武器は対象外となっています。自衛隊法第116条3項は次のようになっています。
(開発途上地域の政府に対する不用装備品等の譲渡に係る財政法の特例)
第百十六条の三 防衛大臣は、開発途上にある海外の地域の政府から当該地域の軍隊が行う災害応急対策のための活動、情報の収集のための活動、教育訓練その他の活動(国際連合憲章の目的と両立しないものを除く。)の用に供するために装備品等(装備品、船舶、航空機又は需品をいい、武器(弾薬を含む。)を除く。以下この条において同じ。)の譲渡を求める旨の申出があつた場合において、当該軍隊の当該活動に係る能力の向上を支援するため必要と認めるときは、当該政府との間の装備品等の譲渡に関する国際約束(我が国から譲渡された装備品等が、我が国の同意を得ないで、我が国との間で合意をした用途以外の用途に使用され、又は第三者に移転されることがないようにするための規定を有するものに限る。)に基づいて、自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度において、自衛隊の用に供されていた装備品等であつて行政財産の用途を廃止したもの又は物品の不用の決定をしたものを、当該政府に対して譲与し、又は時価よりも低い対価で譲渡することができる。
自衛隊法改正案では殺傷能力のある防衛装備も提供可能とし、更に防衛装備移転三原則の運用指針を書き換えることも検討するとしています。

防衛装備移転三原則とは、従来の武器輸出三原則等に代わるものとして、2014年4月1日に国家安全保障会議及び閣議決定され、同時に、その運用指針も決定されています。

現在の防衛装備移転三原則は次の通りです。
1 防衛装備移転三原則の内容
(1)移転を禁止する場合の明確化(第一原則)
防衛装備の海外への移転を禁止する場合を、①わが国が締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合、②国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合、又は③紛争当事国への移転となる場合とに明確化した。

(2)移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開(第二原則)
移転を認め得る場合を、①平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合、又は②わが国の安全保障に資する場合などに限定し、透明性を確保しつつ、仕向先及び最終需要者の適切性や安全保障上の懸念の程度を厳格に審査することとした。また、重要な案件については国家安全保障会議で審議し、あわせて情報の公開を図ることとした。

(3)目的外使用及び第三国移転にかかる適正管理の確保(第三原則)
防衛装備の海外移転に際しては、適正管理が確保される場合に限定し、原則として目的外使用及び第三国移転についてわが国の事前同意を相手国政府に義務付けることとした。ただし、平和貢献・国際協力の積極的な推進のため適切と判断される場合、部品などを融通し合う国際的なシステムに参加する場合、部品などをライセンス元に納入する場合などにおいては、仕向先の管理体制の確認をもって適正な管理を確保することも可能とした。
この第一原則で防衛装備の海外への移転を禁止する場合を定めているのですけれども、その③で「紛争当事国への移転となる場合」と明言しています。このままだとウクライナは思いっきり紛争当事国になりますので、防衛装備の海外移転は出来ません。

ところが、その運用指針を見ると次のようになっています。
1 防衛装備の海外移転を認め得る案件
防衛装備の海外移転を認め得る案件は、次に掲げるものとする。

【中略】

(2) 我が国の安全保障に資する海外移転として次に掲げるもの(我が国の安全保障の観点から積極的な意義がある場合に限る。)

ア 米国を始め我が国との間で安全保障面での協力関係がある諸国との国際共同開発・生産に関する海外移転
イ 米国を始め我が国との間で安全保障面での協力関係がある諸国との安全保障・防衛協力の強化に資する海外移転であって、次に掲げるもの

【中略】

(オ) 国際法違反の侵略を受けているウクライナに対して自衛隊法第116条の3の規定に基づき防衛大臣が譲渡する装備品等に含まれる防衛装備の海外移転
このようにウクライナを「米国を始め我が国との安全保障面での協力関係がある諸国との安全保障・防衛協力の強化に資する海外移転」の範疇として認めています。

それでも、自衛隊法第116条3項に基づくとなっていることで、弾薬を含む武器は輸出できなかった訳です。

つまり、ウクライナに武器弾薬輸出できるようにするためには、自衛隊法第116条3項を改正しなければならない訳で、今回これに着手するという訳です。

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2.アメリカはウクライナに送る武器を使い果たしているか


今回、この自衛隊法の改正案が成立すれば、政府はウクライナ政府と協議の上で提供可能な防衛装備を検討する方針としていて、政府内では、アメリカ政府がウクライナに供与している地対空ミサイル「パトリオット」の提供を検討するよう求める声もあるようです。

なぜ、このような話になったのかというと、アメリカが武器弾薬をウクライナに大量に供与しまくった結果、アメリカ軍自身の武器弾薬が底を尽きかけてきたという事情もあるのではないかと思います。

アメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)は、昨年9月16日、「Is the United States Running out of Weapons to Send to Ukraine?(アメリカはウクライナに送る武器を使い果たしているか?)」という記事で、アメリカは兵器をウクライナに大量に供与した結果、「ハイマース」「ジャベリン」「スティンガー」「M777榴弾砲」「155㎜砲弾」が在庫不足(Limited)になっていると報告しています。

CSISは、これら在庫不足の武器について次のように説明しています。
HIMARSランチャー
米国の総生産量は約450基のHIMARSランチャーであり、2021年までに生産はほぼ終了したが、米国は現在生産を増やしている。したがって、ウクライナに多数を与えることは困難だ。米国は、一部の同盟国が行っているように、HIMARSの代わりに追尾型 MLRSの一部を送ることも出来るが、これらのシステムも限定的だ。ただし、MLRSの説明で述べたように、ロケット弾の入手可能性が制約になる可能性がある。限られた数の誘導ロケット弾を発射するために多数のロケットランチャーを用意して、競争させても意味がない。

ジャベリンミサイル
伝えられるところによると、米国はその在庫の約3分の1をウクライナに提供しており、軍が他の紛争に十分な量を保有することについて懸念を表明しているという報告が上がっている。驚いたことに、8月19 日の武器パッケージには、在庫が少ないにもかかわらず、さらに1000発のジャベリンが含まれている。現在の生産量は年間約1000本。国防総省はそれを増やすために取り組んでいるが、在庫が完全に補充されるまでには何年もかかる。

スティンガーミサイル
これは、赤外線センサーで標的を追尾する歩兵携帯型の対空ミサイルだ。1980年代初頭から米国に配備されているが、何度かアップグレードされている。米国は在庫の3分の1をウクライナに渡したと思われる。生産ラインは小規模の海外販売で維持されているため、米国は数システムしか追加製造することができず、そのための資金も追加されている。しかし、国防総省は失われた在庫を一対一でスティンガーに置き換えるのではなく、後続のミサイルを取得することを考えている。

M-777 155mm砲兵榴弾砲
これは米国の牽引砲システムであり、歩兵ユニットによって使用される。アメリカ海兵隊は、「Force Design 2030」の一環として砲兵ユニットを大砲砲からロケットおよびミサイル発射装置に変更したため、約100の余剰システムがあった。それらは、間接活動から絞り出された少数の追加の榴弾砲とともにウクライナに送られた。総生産数は約1000システムで、米陸軍と海兵隊の間でほぼ均等に分割された。生産は何年も前に終了しており、既存の部隊の榴弾砲の数を減らさない限り、これ以上の数は望めそうにない。代わりに、米国は M119/105mm榴弾砲を送るが、これは、多くの部隊がより重い 155mmに切り替えたため、既存の在庫から入手可能だ。あるいは、米国は保管中の古い 155mm榴弾砲 M198を送ることも可能だ。

155mm弾薬
これはNATO標準の中口径弾薬だ。米国は、ウクライナに150万発以上の発射体を供与しており、これはおそらく、米国が自国の戦闘能力を危険にさらすことなく供与しようとしている限界に近いものだ。2023会計年度に、米国は基本的な高火力弾(M795)を2万9000発しか購入する予定がなかった。調達能力は年間28万8000発で、48ヶ月のリードタイムが必要だ。しかし、これはNATOの標準弾薬であるため、十数ヶ国がこの弾丸を供給できる。そのため、世界市場を考えれば、ウクライナへの移転が制約されることはないだろう。
ハイマースやジャベリン、M777/155㎜榴弾砲は、ウクライナ戦争で大活躍している兵器です。ゆえに在庫が枯渇しているともいえるのですけれども、これらがまったく供給されなくなれば、ウクライナにとって大打撃であるのはいうまでもありません。

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3.プーチンの脅しに震え上がった韓国


こうした事情から、バイデン政権は武器弾薬の供与について同盟国に支援を要請しています。

昨年12月13日、アメリカ政府は韓国から大量の弾薬を購入する方向で調整に入ったと米韓両政府の関係者が明らかにしました。

対象となる弾薬は155mm砲弾で、約10万発の受け渡しを検討しているとのことです。

消息筋によると、アメリカは当初、購入した弾薬をウクライナへ提供する方針だったのですけれども、韓国政府が強く反対したため、アメリカ軍の弾薬をウクライナに提供し、その分を韓国の軍事メーカーから購入することで決着したとしています。

韓国国防省は声明で、ウクライナに殺傷兵器を提供しない韓国政府の方針に変更はないと強調し、「アメリカの155㎜砲弾の在庫不足を補うため、アメリカと韓国企業の間で砲弾の輸出交渉が行われている……アメリカがエンドユーザーという前提だ」と説明しています。

なぜ韓国政府がこのような対応を取ったのかというと、北朝鮮とロシアがその背景にあります。

10月30日のエントリー「プーチンは核の緊張を緩和したのか」で、筆者はプーチン大統領のバルダイ会議での演説について取り上げましたけれども、その際の質疑応答で、韓国のキム・フンジョン氏が、台湾、北朝鮮、核開発をめぐる中国と米国の緊張の高まりに対するロシアの立場について、プーチン大統領の見解を質問したのですね。

この質問にプーチン大統領は次のように答えました。
北朝鮮と台湾に関わることに関して、台湾が中華人民共和国の重要な一部であることは間違いない。私たちは常にこの立場をとっており、それは変わらない。

米国の高官が台湾を訪問する際、挑発的なジェスチャーをすれば、ロシアでは挑発以外の何ものでもないと受け止められている。正直なところ、なぜそんなことをするのかわからない。

ここにいる多くの人たちとは、何年も何年も前から知り合い、同じ言葉で話している。言ってみれば、家族ぐるみの付き合いだ。これが、ウクライナの悲劇なのだ。欧米諸国は、ウクライナに何十億という武器や弾薬を供給し、経済を破壊しようと、我々に圧力をかけてきている。彼らはロシアと戦っているのだ。

しかし、なぜ、同時に中国との関係を混乱させる必要があるのだろうか。彼らは普通の人なのか、そうでないのか?常識や論理に全く反しているように思える。なぜこの婆さんは、中国を刺激して何らかの報復をするために、自ら台湾に足を運ばなければならなかったのだろうか。ウクライナで何が起きているのか、ロシアとの関係が収拾できない時期に。こんなことはナンセンスだ。

その背景には、何か微妙な、深い思惑があるようだ。そこには、繊細さの欠片もないと思う。ナンセンスで独善的なものでしかない。これがどういうことかわかるか? このような非合理的な行動の背景には、傲慢さと免罪符のような感覚がある。

私たちの立場は明確であり、私はそれを表明した。

さて、朝鮮民主主義人民共和国の核問題に関してだが。

私の考えでは、この問題は、安全保障の分野も含めて、北朝鮮の利益に対して全く無礼な態度で、話し合おうとしないことにある。結局、事実上すべてが合意された、その瞬間があった。北朝鮮の指導者は、実際、核の要素を含むこの問題を解決する方法について米国が提案したことに同意した。

いや、最後の最後でアメリカ側が立場を変えて、事実上、北朝鮮の指導者に合意事項を破棄させたのだ。米国は追加制裁を行い、金融や銀行業務に制限を加えた。なぜか? それもあまり明確ではない。

ちなみに、この問題を解決するための進め方については、中華人民共和国と共同提言を行っている。これらの提案は、私たちの2つの文書で示されており、誰もがよく理解している。合意したポジションを遵守する。

ところで、人道的な問題やそれに類する問題については、北朝鮮の状況や一般の人々のニーズを理解し、見て見ぬふりをするのではなく、ある問題を人道的な根拠に基づいて解決することも必要だ。

私たちは韓国と非常に良好な関係にあり、韓国と朝鮮民主主義人民共和国の両方と常に対話することができた。しかし今、韓国がウクライナに武器・弾薬を供給することを決定したことがわかった。これでは、私たちの関係が壊れてしまう。もし、この分野で北朝鮮との協力を再開することになれば、韓国はどのように感じるだろうか。それで幸せになれるのか?

ぜひ注目していただきたい。
このように、プーチン大統領は、韓国がウクライナに武器弾薬を供与すれば、北朝鮮と軍事協力するが、それでもいいのかと述べたのですね。要するに、思いっきり脅してみせた訳です。

韓国は、このプーチン大統領の脅しに震え上がって、形式上、ウクライナに武器供与はしない体を取って、アメリカに155㎜榴弾を供与することにしたのだと思います。

ただ、この構図は韓国を日本に置き換えてもそのまま当てはまる可能性は十分にあります。北朝鮮のミサイルが日本に届く現状を考えれば、ロシアが黒幕になって北朝鮮を鉄砲玉になれば、日本にだって危険が及びます。

アメリカの要請を受けて、日本は武器弾薬をウクライナに送れるような準備を進める一方、韓国はウクライナへの直接供与しない体を取って危機回避を図った。果たして日本はロシアと北朝鮮が組んで日本の脅威となる危険にどこまで備えているのか。

このあたり、マスコミは全く報じていませんけれども、政府は国民に問題ないことを説明しておく必要があるのではないかと思いますね。


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