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1.安全保障能力強化支援のための無償資金協力
昨年12月27日、林外相は定例会見の質疑で、従来の政府開発援助(ODA)とは別に、安全保障能力強化支援のための新たな無償資金協力の枠組みを設けることを明らかにしました。
その質疑は次の通りです。
【パンオリエントニュース アズハリ記者】
日本のメディアは、外務省が、20億円の資金を安全保障能力を強化する目的で同志国に供与すると報じています。これらの同志国には、中東の国々も含まれ、安全保障能力強化のために日本の資金を得ることができるのでしょうか。
【林外務大臣】我が国が、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に置かれる中で、力による一方的な現状変更抑止をしまして、特に、インド太平洋地域における平和と安定を確保し、我が国にとって望ましい安全保障環境を創出するためには、我が国自身の防衛力の抜本的強化に加えまして、同志国の安全保障能力・抑止力、これを向上させることが不可欠でございます。
こうした目的を達成するため、開発途上国の経済社会開発を目的とするODAとは別に、同志国の安全保障上のニーズに応えて、資機材の供与等を行う、軍等が裨益者となる新たな無償による資金協力の枠組みを導入することにしておりまして、そのための経費として、令和5年度外務省予算に20億円を計上したものでございます。 対象国等の詳細については、予算が成立した暁には、相手国のニーズ等を踏まえて、政府部内で更に検討を進めていくということになっております。
この支援事業は昨年12月16日に閣議決定された「国家安全保障戦略について」に盛り込まれたもので、「総合的な防衛体制の強化のための取り組みの1つ」と説明されています。
「国家安全保障戦略について」から該当部分を引用すると次の通りです。
Ⅵ 我が国が優先する戦略的なアプローチこのように、政府は、民主主義などの価値観を共有する「同志国」との安全保障上の協力を深化させるためとして、相手国の軍に防衛装備品や物資の提供を行う新たな国際協力の経費20億円を初めて盛り込むとしています。
我が国は、我が国の安全保障上の目標を達成するために、我が国の総合的な国力をその手段として有機的かつ効率的に用いて、戦略的なアプローチを実施する。
【中略】
キ ODAを始めとする国際協力の戦略的な活用
FOIPというビジョンの下、自由で開かれた国際秩序を維持・発展させ、国際社会の共存共栄を実現するためにODAを戦略的に活用していく。具体的には、質の高いインフラ、人材育成等による連結性、海洋安全保障、法の支配、経済安全保障等の強化のための支援を行う。
そのことにより、開発途上国等との信頼・協力関係を強化する。また、FOIPというビジョンに賛同する幅広い国際社会のパートナーとの協力を進める。
そして、人間の安全保障の考え方の下、貧困削減、保健、気候変動、環境、人道支援等の地球規模課題の解決のための国際的な取組を主導する。これらの取組を行うに当たり、我が国企業の海外展開の支援や、ODAとODA以外の公的資金との連携等を強化する。さらに、国際機関・NGOを始めとする多様なステークホルダーとの連携を引き続き強化する。
同志国との安全保障上の協力を深化させるために、開発途上国の経済社会開発等を目的としたODAとは別に、同志国の安全保障上の能力・抑止力の向上を目的として、同志国に対して、装備品・物資の提供やインフラの整備等を行う、軍等が裨益者となる新たな協力の枠組みを設ける。これは、総合的な防衛体制の強化のための取組の一つである。
何を供与するかについて、林外相は「同志国の安全保障上のニーズに応えて、資機材の供与等を行う」と述べていますけれども、メディアは「防弾車や沿岸監視用レーダーなどが検討されている」と報じています。
これは、昨日のエントリーで取り上げた「防衛装備移転3原則」に関係するのですけれども、政府は、この3原則に「国際紛争との直接的な関連が想定しがたい分野に限る」という条件をつけたうえで、今後、実施方針を定めるとしています。
2.同志国と台湾
日本が「同志国」に防衛装備品や物資の提供を行う方針を打ち出した訳ですけれども、そうなると、注目されるのは台湾です。
ここで、筆者が注目しているのは、日本が防衛装備品や物資の提供を行う相手国として、同盟国でも友好国でもなく「同志国」としている点です。「同志」というからには、民主主義などの価値観を共有する国を指している訳で、これは、互いに平和的で協力的な関係を保った外交が実現されている”友好国”であっても価値観が違っていれば対象にはならないということです。
日本は、令和3年3月30日現在、「防衛装備品・技術移転協定」を、次の10ヶ国と結んでいます。
アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、イタリア、ドイツ、インド、フィリピン、マレーシア、インドネシアこの中で、インドネシアとは10ヶ国目として、2021年3月30日に締結したのですけれども、その際の共同記者発表で当時の岸防衛相は、「両国の防衛協力をさらに促進するものだ」と高く評価。共に海洋国家で、自由・民主主義・法の支配といった基本的価値を共有する両国が「戦略的パートナー」として、インド太平洋地域の平和と安定のために緊密に連携していく重要性を強調しています。
つまり、基本的価値を共有する国が対象になるということです。
中国は「一つの中国」を掲げて、台湾は自分のものだとしていますけれども、日本と基本的価値観を共有してはいません。けれども、台湾は価値観を共有しています。つまり、「同志国」という表現によって、中国と台湾を分けて扱うことが出来る可能性があるということです。筆者はこの表現によって、将来、台湾に防衛装備品の提供を行えるように含みを持たせたのではないかと見ています。
3.日台関係基本法
一昨年4月、アメリカのカート・キャンベル・インド太平洋調整官が、日米首脳会談直前に極秘来日し、北川・国家安全保障局長ら政府当局者に対し、米台湾関係法に倣い日本も台湾に兵器・兵器技術供与を可能にする枠組みである”日本版台湾関係法”を導入するよう要求したといわれています。
現在、日本には、台湾との基本的関係のあり方を定めた台湾関係法のような法律がありません。台湾と断交後、日米ともに民間団体を相互に設置し、非政府レベルの実務的関係を維持しています。
日本版台湾関係法の制定については、2016年5月、当時、みんなの党に所属していた江口克彦・元参議院議員が質問主意書を提出しています。件の質問主意書と答弁書は次の通りです。
日台関係及び「日台関係基本法」の制定に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
平成二十八年五月十一日
江口 克彦
参議院議長 山崎 正昭 殿
日台関係及び「日台関係基本法」の制定に関する質問主意書
米国が必ずしも「世界の警察」としての機能を果たしきれているとはいえない現在、我が国をとりまくアジア情勢にも変化が生じてきている。世界経済に及ぼす中国の影響の増大、南シナ海における中国の進出、北朝鮮の一層の独裁強化と核大国への邁進といった事態は、その典型的なものである。加えて、我が国に米軍駐留経費の全額負担を求め、核保有を容認する米国大統領候補の出現といった予想外の事態もある。
こうした状況において、我が国の平和と安全及び経済の発展を日米安保体制だけに委ねてよいのか疑問がある。
そこで、日本列島と台湾海峡の地理的関係、歴史的経緯、現代における文化経済の交流の実態等を踏まえ、台湾との関係についても、改めて整理し、我が国と台湾との外交に法的根拠を与えるなどの必要な措置を講じる必要があるのではないか。
以下、台湾に関する政府の認識を確認するとともに、我が国と台湾との外交の法的根拠となる「日台関係基本法」の制定について質問する。
一 我が国と台湾との関係及び我が国の台湾に対するスタンスについて、現在の政府の見解を明らかにされたい。
二 本年一月十六日の台湾の総統選挙及び立法院選挙の結果について、政府の認識を示されたい。また、我が国と台湾との関係、台湾と中国との関係、ひいては我が国と中国との関係への両選挙の影響についてどのような分析を行っているか、明らかにされたい。
三 台湾からは、東日本大震災当日に支援の申入れをいただき、翌日には馬英九総統が「日本政府の要請に応じ早急に救援隊を派遣する」と表明された。また、政府民間合わせて六十三名の救援隊、世界で二番目に多い百億円を超える義援金、五百トン以上の支援物資など多くの支援をいただいた。また、今般の平成二十八年(二〇一六年)熊本地震に際しても、最初の震度七の地震の翌日には馬英九総統から安倍総理宛に見舞い状が届き、熊本県に対し、台湾当局から一千万円の義援金が、台湾民進党から約三百四十万円の義援金が、それぞれ寄附されたほか、多くの支援の申出があったという。
政府は、こうした台湾からの支援にどのように謝意を伝え、今後もこのような友好関係が維持されるよう、どのようなメッセージを送ったのか。
四 台湾では我が国のアニメ、アイドル、ファッションなどが絶大な人気を博すなど文化・音楽の交流が盛んである。また、観光による人の往来や貿易も盛んなことから、我が国と台湾との関係は益々強くなっていくものと考えるが、政府の今後の日台関係に関する方針を示されたい。また、安倍外交における台湾の位置づけを明らかにされたい。
五 平成二十五年に、「日本李登輝友の会」が、我が国が外交交渉相手として台湾の地位を法的に明確に規定する必要性を踏まえ、平等互恵を原則とする日台関係の発展を目的とする「日台関係基本法」の早期制定を求める「政策提言」をとりまとめ、安倍総理はじめ関係大臣等に提出したと聞いている。
1 政府がそうした政策提言を受け取った事実はあるか。
2 前記五の1について、政策提言を受け取った事実があるのであれば、その概要を明らかにされたい。
3 前述の日台関係基本法のような台湾との外交の法的根拠となる法律の制定の必要性について、政府の見解を明らかにされたい。
4 前記五の3で示した法律の制定につき、これまでに検討したことがあるか、ある場合にはその内容を含め示されたい。
右質問する。
これに対する答弁書は次の通りです。
答弁書このように、当時の政府は「法律の制定を検討したことはない」と否定しています。
答弁書第一一一号
内閣参質一九〇第一一一号
平成二十八年五月二十日
内閣総理大臣 安倍 晋三
参議院議長 山崎 正昭 殿
参議院議員江口克彦君提出日台関係及び「日台関係基本法」の制定に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
参議院議員江口克彦君提出日台関係及び「日台関係基本法」の制定に関する質問に対する答弁書
一、四及び五の3について
台湾との関係に関する我が国の基本的立場は、昭和四十七年の日中共同声明第三項を踏まえ、非政府間の実務関係として維持するというものである。政府としては、このような基本的立場に基づき、我が国との間で緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーである台湾との間においてこのような実務関係が着実に発展していくことを期待している。
二について
本年一月十六日の台湾総統選挙及び立法院選挙が円滑に実施されたことは、台湾において民主主義が深く根付いていることを示すものとして評価しているが、お尋ねのような分析については、相手国・地域との関係もあることから、お答えを差し控えたい。
三について
東日本大震災に際しては、内閣総理大臣の感謝メッセージを、財団法人交流協会(当時)のホームページ上で発信し、台湾からの支援等に対して謝意を表明した。また、平成二十八年熊本地震に際しては、公益財団法人交流協会を通じ、台湾側に対して日本政府からの謝意を伝達した。
五の1及び2について
御指摘のような政策提言は受け取ったが、その概要については、政府としてお答えする立場にない。
五の4について
政府として、御指摘のような法律の制定を、これまでに検討したことはない。
4.対中防衛の7ステップ
日本版台湾関係法について、2016年に質問主意書が出され、1昨年もアメリカから制定を要求された。台湾有事は日本有事。そろそろ、「検討したことはない」では済まなくなってきたように思います。
2021年6月のエントリー「地球上で最も危険な場所」で、筆者は日本戦略研究フォーラム上席研究員で元アメリカ海兵隊大佐のグラント F・ニューシャム氏が、日本が中国に対する防衛のために行うべき7つのステップを述べたことを取り上げました。
それは次の通りです。
1:現在のままの自衛隊では戦争ができないことを認識する。自衛隊は深刻な敵と実際に戦うための装備・編成を持っておらず、そのための訓練もされていない。中国は深刻な敵だ。驚く日本人(および米国人)が多いかもしれないが、これは本当のことだ。自衛隊は考え方をがらりと変え、この問題に取り組む必要がある。今、振り返ってみると、1,2は実現し、3はこの間決まりました。4~6は今後のテーマとして進む可能性が高いですし、7では、「日本版台湾関係法」の制定が謳われています。
2:陸海空の各自衛隊がともに行動できるよう、統合運用能力を開発する。これは実効性のある現代的な軍隊の必須条件だ。
3:防衛費を増額して賢く使う。防衛費は今後5年間、年10%ずつ増加させるべきであり、特に要員強化を最優先で行う必要がある。14年度以降、自衛官候補生の採用者数は計画数を下回っている。自衛隊員は献身的、専門的、勤勉であり、自国をきわめて大切に思っている。彼らは適切な俸給と処遇を受け、自衛隊に入隊することは誇るべきことであり、国民の尊敬の対象となるべきだ。さらに訓練予算も増やす。要員と訓練が充足されてはじめて、真に必要な装備に資金を振り向けるのがよい。装備は一貫性のある国防計画とは無関係な、ピカピカで高価なだけのものであってはならない。
4:米軍と自衛隊を完全に統合し共同で日本を防衛する。米軍と自衛隊の幕僚が日本と周辺地域防衛のために必要な活動を立案し実行に移す本部をすみやかに設置する。そして全体的な防衛計画の一部に台湾防衛を含める。
5:南西諸島防衛も日米間で完全に統合する。南西諸島全域、台湾近辺で訓練、演習、哨戒を共同で行い沖縄に統合本部を設置する。
6:米国・インド・豪州を合わせた「クアッド」およびパートナーの国々の軍とともに、自衛隊を定期的にインド太平洋全域に展開する。
7:台湾に関して以下の措置を講じる。台湾の事実上の独立は日本の安全保障上きわめて重要であり、少なくとも中国の軍事力や強制によって現状変更されないように日本は必要なことを行う、と宣言する「台湾関係法」を起草する。また、航空自衛隊と台湾空軍をグアムで一緒に訓練をさせ、海上自衛隊と台湾海軍が定期的な訓練活動を開始したり、ミサイル防衛活動および対北朝鮮制裁の違反監視活動に台湾を招く。あるいは中国空軍が威嚇のために台湾周辺を飛行した際、沖縄の航空自衛隊機を米空軍機などとともに護衛任務で台湾空軍機に合流させる。最近合意された米台の沿岸警備に関する作業部会に海上保安庁を参加させる。
このようにみてくると、昨年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略について」を含め、この7つのステップに沿って動いているようにも見えなくもありません。
問題は、中国が台湾進攻するまでに、これらが間に合うかどうかなのですけれども、もし、日本版台湾関係法の話がメディアや政府から出てくるようになると、これらを加速する必要があると判断されている可能性が出てきます。
もっとも、4で「全体的な防衛計画の一部に台湾防衛を含める」とありますから、一足飛びに7まで持ってこれなくても、最低限4は実現しておきたいという思惑はあるかもしれません。
ニューシャム氏が指摘した7つのステップと日本政府の動きがどこまで連動していくのか。注目したいと思います。
この記事へのコメント
mony
しているのであれば7ステップを踏んだところでダメな気もしますが。