ロシア軍の36時間停戦と罠だったミンスク合意

今日はこの話題です。
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1.ロシア軍の36時間停戦


1月5日、ロシアのプーチン大統領はショイグ国防相に対し、6日午後6時から8日午前6時(日本時間)までの36時間、ウクライナの前線全域での停戦を命じました。

ロシア大統領府は声明で「総主教キリル法王の演説を考慮し、ロシア連邦の国防大臣に対し、2023年1月6日12時から1月7日24時まで、ウクライナの接触線全域に停戦を導入することを指示する。敵対地域に多数の正教徒が居住しているため、ウクライナ側に対し、クリスマスイブとクリスマス当日に彼らが教会の礼拝に出席できるよう停戦を宣言するよう要請する」と述べ、ロシア正教会トップの訴えを聞き入れたためとしています。

ロシア正教会はユリウス暦に沿って、1月7日にクリスマスを祝うのですけれども、この日はロシアもウクライナも祝日となっています。

今回の停戦について、政治アナリストのタティアナ・スタノヴァヤ氏は、「プーチンは正教会のクリスマスに同じことを繰り返したくないと心から思っている」とし、ロシアの重要な祝日にこれ以上、大きな犠牲が出ないようにしたいと、ロシア政府が望んでいる可能性があると指摘しています。

一方、BBCは、ロシアの停戦は、主に国内向けに発せられている「ロシア人は善人であり、ウクライナと西側諸国がロシアを脅かしている」という宣伝と合致していて、もし、ウクライナが提案を拒めば、ロシアはウクライナが信者たちを尊重せず、平和を望んでいないと主張できると述べています。


2.偽善は自分だけにとどめておけ


プーチン大統領の停戦要求について、ウクライナは早々に拒否。

ゼレンスキー大統領は、毎夜恒例のビデオ演説で、ロシアが休戦を言い訳に、東部ドンバス地方でのウクライナの前進を止めるとともに、人員と装備をさらに投入しようとしているとし、「それで何を得るのか。損失の総計が増えるだけだ」と述べています。

更に、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、これまでゼレンスキー氏が和平の提案をしてきたのに、ロシアは無視し続けたと主張。宗教的な祝日だろうとロシアは敵対行為を停止しないとし、昨年12月24日のヘルソンの砲撃や大晦日の空爆が、そのことを証明していると反論しています。

また、クライナのポドリャク大統領府長官顧問も、「まず、ウクライナはロシアのように他国の領土を攻撃しないし、民間人を殺さない……ロシアは占領地から出ていかなければならない。それから初めて『一時停戦』がなされる……偽善は自分だけにとどめておけ」と批判しています。

そして、アメリカのバイデン大統領も、ホワイトハウスで記者団に対し「プーチン氏の発言に反応するのは気が進まない」とした上で、「プーチンは一息つこうととしている」と、ゼレンスキー大統領と同じく時間稼ぎだとする見方を示しています。

この見方は専門家でも同じようで、1月6日、ロシア政治を専門とする筑波大・中村逸郎名誉教授は、フジテレビの情報番組「めざまし8」に電話出演し、「ロシア軍が崩壊寸前の状態になっているということが考えられる。そして、1日でも2日でもとにかく停戦することによって軍の態勢を整えて再出発したいというのがプーチン大統領の狙いです」との見解を述べています。


3.ミンスク合意は時間稼ぎだった


このようなロシアの時間稼ぎ説は、当たっているとは思いますけれども、そういうウクライナや西側諸国とて、ロシアに対して時間稼ぎをしたという話も出ています。ドイツのメルケル前首相です。

12月8日、ドイツのシュトゥットガルター・ツァイトゥング紙に掲載されたインタビューで、ミンスク合意はウクライナが防衛力を強化する「時間稼ぎ」だったと仰天発言をしています。

そのインタビューの概略は次の通りです。
・インタビューで、元首相は再び彼女のロシア政策を擁護したが、連邦軍の装備を無視したことを後悔している。

・散髪!アンゲラ・メルケルがこの国で最も強力な女性としてキャリアをスタートさせた当初でさえ、彼女の外見が完全に無意味だったことは決してなかった。彼女が政界を引退してから1年経った今でも、それは明らかだ。当時は東ドイツの美容ファッションから輸入されたポットカットのことで、今では存在しないポニーテールのことだ。

・1年間の引退を機に、メルケル首相は一連の会見を許可している。『シュピーゲル』、『シュテルン』に続き、今度は『ディー・ツァイト』に掲載された。この『ディー・ツァイト』では、彼女の政府時代の機密決定について、同僚には許されないような権威ある引用を1ページに渡って掲載することさえ許された。

・褒めようとしたところ、意外な反論をされたところから始まった。「相変わらずだな」と面接官から言われる。「ポニーテールで来ると思った?」とメルケル首相は反論する。一方、彼女は理事長のヘアスタイルと「友達」になったが、それ以外はほとんど変わっていない。2022年のメルケル首相は、政権を担っていた頃と同じで、「やや実用的なバージョン」というだけだ。また、「メイクに気を遣うことが少なくなった」という。

・しかし、『ディー・ツァイト』は美容雑誌ではない。インタビューの本当の理由は、メルケル首相の外見ではなく、彼女の記録に対する見方を変えたことにある。とりわけ、彼女のロシア政策は、今日、多くの人にとってほとんどナイーブに見えるか、少なくともクレムリンの支配者ウラジミール・プーチンに対して過度に配慮しているように見える。

・しかし、シュタインマイヤー連邦大統領とは異なり、彼女はこのことについて一切謝罪しようとせず、代わりに「私は当時、今でも理解できるような方法で決断を下した」と主張した。

・彼女は、ミンスク合意や、クリミア併合後もプーチンと対話しようとする姿勢を「まさにそのような戦争を防ごうとする試み」と解釈している。メルケル首相は、「これが成功しなかったからといって、その試みが間違っていたということにはならない」と付け加えた。

・ウクライナ東部の停戦闘争で、彼女はキエフの時間を稼ぎたかったのだろう。メルケル首相は、自分の正当性が証明されたと考えている。ウクライナは「今日見られるように、この時間を使ってより強くなることもできた」という。当時は「プーチンを簡単に買収できた」。

・また、メルケル首相は、欧米の同盟国の間で激しく論争されているガスパイプライン「ノルドストリーム2」の契約も間違いとは考えていない。「今日、人々はロシアのガス会社の製品をすべて悪魔であるかのように振舞うことがあります」と述べた。

・彼女は後悔の形容詞なしに「依存」という用語を使用している。しかも、疑わしいパイプライン プロジェクトは連邦政府ではなく、民間企業によって運営されていたというのだ。

・国家の拒否権発動は、彼女の歴史的解釈によれば、「私の考えでは、ロシアとの関係を危険なほど悪化させるものでした」。前首相は自己批判を惜しまない-彼女自身が語るようになり、多くの人がそれを待っているのだが。

・「そうかもしれませんが、多くの点で批評家の態度は私の意見と一致しません」彼女は以前の見解を反省するどころか、非常に頑固で傲慢に聞こえる。あの時よく考えた!心の平静を保つためだけに、そんなことを考えずに、ただ「ああ、そうか、今になって気づいた、それは間違いだった!」と言ったら、起訴されてしまう。

・しかし、彼女は自分から少しばかり自己批判をすることに成功している。「ロシアの攻撃性にもっと早く反応すべきだった」とメルケル首相はいう。ドイツは自国の経済生産の2%を自国の軍事に投資するという約束を、彼女の政権時代には決して守らなかったと言うのだ。「そして、私は毎日そのために炎のような演説はしませんでした」

・彼女は明らかに、自分の在任期間に対する最近の非常に批判的な反響に全く影響を受けていないわけではない。メルケル首相は、たとえ彼女がそれに気付かなかったとしても、「私の鼻の下で批判を抑える誰かが間違いなくいる」と語った。
筆者にはドイツの温度感はよく分かりませんけれども、メルケル前首相のプーチン大統領と対話しようとする姿勢は批判的に捉えられているようです。

メルケル前首相は12月1日にシュピーゲル紙のインタビューに応じ、ミンスク合意について次の様に答えています。
それは驚きではありませんでした。ミンスク合意は蝕まれていました。2021年夏、バイデン大統領がプーチンと会談した後、エマニュエル・マクロンと私は、EU理事会で生産的な交渉形式をまとめたいと考えていました。このアイデアに反対する人もいましたし、私がその秋にいなくなることは誰もが知っていたので、私にはもはやそれを押し通す力はありませんでした。私は、理事会の他のメンバーに尋ねました。どうして声を上げないの?何か言いなさいよ」と。ある人は、「私には大きすぎる」と言いました。もう1人は、「大国の問題だ」と肩をすくめただけでした。もし、その年の9月に再選を目指して立候補していたら、フォローしたでしょう。モスクワでのお別れの時も同じような話でした。パワーポリティクスはもういいんだな」という思いがひしひしと伝わってきました。プーチンにとって大事なのは権力だけです。
2021年夏の段階で「蝕まれていたミンスク合意」を何とかしたいと考えていたのはフランスとドイツだけで、引退を目前に控えたメルケル前首相には、それ以上交渉を進める力はなく、その他の国は手に負えないと匙を投げていたというのですね。

ドイツ中道左派の社会民主党(SPD)の元党首であるシグマー・ガブリエル氏によると、プーチン大統領は、ヨーロッパ最強の国を率いた女性として、そして何よりもロシアを深く理解する人物として、彼女に信じられないほどの敬意を払っていたと述べています。

また、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相も、昨年10月にベルリンを訪問し、ショルツ首相と会った後、記者会見で、メルケル前首相がまだ在職していれば戦争は起こらなかっただろうと述べたそうですから、その影響力の大きさが窺えます。


4.失意のプーチン


12月9日、プーチン大統領は、メルケル前首相の件の発言に「失望した」と語り、将来的にウクライナに関する何らかの合意を行う必要があるとしながらも、た「ミンスク合意」で裏切られたと感じていると述べていますけれども、それほど敬意を払っていたメルケル前首相からそのような発言が飛び出すとは、その失望の程は相当なものだったのではないかと思います。

今回のロシアの一時停戦について、筆者は水面下でウクライナとの停戦交渉が行われているのではないかと、若干期待していたのですけれども、ウクライナとアメリカの表向きの態度からはそんな雰囲気は全く感じませんし、メルケル前首相の「時間稼ぎ」発言も飛び出したとなると、プーチン大統領とて、西側諸国に対する不信感で一杯で、交渉は無理だと諦めたのではないかとさえ。

ただ、それで、このまま戦争が続くのかというと、ロシアもいよいよ弾薬が底をついてきたのではないかという観測もあるようです。

これが本当であれば、ロシアはいくら兵を徴兵したとしても、戦いを続けることは出来なくなります。

現状では、民間インフラを破壊したとて、ウクライナ国民が音を上げるというのも考えにくく、手詰まりになる可能性は高いと思います。

となると、起死回生を狙って、対象破壊兵器か、あるいは核を持ち出す可能性も否定できなくなります。

停戦が明ける8日以降に大きな動きがあるのか。注視したいと思います。


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