リシスナクのシナリスク

今日はこの話題です。
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1.日英首脳会談


欧州歴訪中の岸田総理は1月11日、3番目の訪問国であるイギリスを訪れ、スナク首相と会談を行いました。

冒頭、岸田総理は「日本とイギリスは特別な戦略的パートナーとしてともに力をあわせて国際社会の課題に取り組む責任を担っている。安全保障における協力の進展を含む2国間関係についても意見交換したい。ことし日本はG7議長国であり広島サミットを開催するが、それも念頭に置いた戦略的な議論を2人で行いたい」と述べました。

会談で両首脳は、二国間関係、G7広島サミットについて議論し、更に国際情勢について、次の主旨で議論が行われています。
両首脳は、ロシアによるウクライナ侵略への対応に関して、G7の結束を維持して、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続していく必要があるとの点で一致しました。また、岸田総理大臣から、唯一の戦争被爆国として、ロシアによる核の威嚇は断じて受け入れられず、ましてやその使用はあってはならない旨述べ、両首脳は、国際社会からの明確なメッセージが発出され続けることが重要であるとの認識で一致しました。

また、日本の当面のウクライナ支援として、約300台の発電機と約8万台のソーラー・ランタンの供与を順次実施し、更なる発電機の供与も検討している旨述べ、スナク首相から日本の断固とした対応に感謝する旨の発言がありました。

両首脳は、東アジア情勢についても意見交換し、東シナ海及び南シナ海における力による一方的な現状変更の試みへの反対を表明しました。また、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調しました。核・ミサイル問題や拉致問題を含む北朝鮮への対応において、国連安保理の場も含め、引き続き連携していくことを改めて確認しました。さらに、両首脳は、経済的威圧を含む経済安全保障上の課題についても一致して対応していくことを確認しました。両首脳は、安保理改革を含む国連の機能強化の重要性で一致しました。
特に東アジア情勢について、「東シナ海及び南シナ海における力による一方的な現状変更」に反対を表明。更に「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調したとのことですから、明らかに中国を意識した発言です。


2.日英円滑化協定


会談のあと、両首脳は、「日英円滑化協定」に署名しています。

「円滑化協定」とは、自衛隊と相手国の軍隊の相互訪問を円滑にすることを目的にした協定です。お互いの国を訪問して、共同訓練を行ったり、災害支援にあたったりする際の武器・弾薬の取り扱いや事件・事故を起こした場合の裁判権などについてあらかじめ取り決めておくもので、訪問のたびにルールを決める必要がなくなるため、部隊の活動がスムーズになります。

日英円滑化協定の主な内容は次の通りです。
日英の一方の国の部隊が他方の国を訪問して協力活動を行う際の手続及び同部隊の地位等を定める。
●訪問部隊、その構成員等が、接受国において接受国の法令を尊重する義務
●訪問部隊の船舶・航空機等によるアクセス、訪問部隊の構成員等の出入国時の手続
●輸入時や滞在中の資材等の取得・利用の際の課税の扱い(免税等)
●運転免許、資格、武器の携帯、武器の輸送等に関する取決め
●協力活動参加のための自国の費用の負担等
●環境、人の健康等の保護に適合する方法による協定の実施
●訪問部隊の構成員等が関係した事件・事故発生時の対応等
●合同委員会の設置
日米地位協定を除けば日本が「円滑化協定」に署名するのは去年1月のオーストラリアに続き、イギリスで2ヶ国目になるのですけれども、協定の発効には両国で条約の承認と国内法の整備が必要で、日本政府は今月召集される通常国会にオーストラリアとイギリス、それぞれの協定と関連法案を提出することにしています。

今回の日英円滑化協定署名について、岸田総理はイギリスで記者団に対し「今回の円滑化協定の署名はオーストラリアに続いて2番目だ。アジアおよびヨーロッパで最も緊密な安全保障のパートナーである日本とイギリスがこうした重要な文書に署名できたことは両国の安全保障や防衛協力を新たな高みに引き上げるものだ。自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた動きがさらに進展することも期待したい」と述べ、今回の欧州訪問について「3ヶ国を訪問し、率直で戦略的な意見交換ができた。ロシアによるウクライナ侵略といった厳しい安全保障環境や世界経済の下方リスクがあるという世界の現状認識について思いを共有した上で『G7広島サミット』に向けた協力を確認した……G7の議長国になってはじめてのヨーロッパの首脳との会談になったが、それぞれ信頼関係を深めることができたと感じているし『G7広島サミット』の成功に向けて手応えを感じる会談だった」と述べています。


3.防衛協力は仮想敵を作るべきでない


この日英円滑化協定に中国は早速反応しました。

1月11日、中国外交部の定例記者会見で、汪文斌報道官が、次のように記者の質問に答えています。
【記者】英国と日本が11日、英国軍の日本配置を許可することを含む重要な防衛協定に署名する見通しだと報じられた。日本は中国の挑戦に対処するためとしている。中国はこれについて英側と日本側に正式な申し入れを行う用意があるか。

【汪報道官】アジア太平洋は平和と発展が盛んに行われる場所であり、地政学的な争いが繰り広げられる競技場ではない。中国は各国にとっての協力パートナーであり、いかなる国に対しても挑戦ではない。関係国間の防衛協力は各国間の相互理解・信頼・協力の増進に資するものであるべきで、「仮想敵」を作るべきではないし、ましてやブロック対立という古い思考をアジア太平洋地域に持ち込むべきではない。
自己紹介乙、としかいい様の無い汪報道官の答えですけれども、記者が日本に抗議するか、と問われたことに対しては何も答えていません。日本の中国からの入国水際対策については、顔真っ赤にして報復するのとは大分トーンが落ちています。

方針が定まっていないのか、あるいはこれ以上、日本との関係を悪化させないよう少し様子見しているのか。これはもう少し見てみないと分からないかもしれません。


4.最大の戦略的脅威


今回の日英円滑化協定については、イギリス側も好意的なようで、リシ・スナク首相は次のように述べています。

この12ヶ月の間に、私たちは日英関係の次の章を書きました - 私たちの関係を加速し、築き、深めました。世界に対する共通の見通し、直面する脅威や課題に対する共通の理解、そして世界における自らの立場を世界的な利益のために活用し、両国が次世代に繁栄をもたらすという共通の野心です。

この相互アクセス協定は、日英両国にとって非常に重要です。この協定は、インド太平洋地域へのコミットメントを強化し、経済安全保障を強化し、防衛協力を加速し、高度な技能を持つ雇用を創出する技術革新を推進するための日英の共同取り組みを明確にするものです。

この競争が激化する世界において、民主主義社会が肩を並べ、現代の未曾有のグローバルな課題に対処していくことは、これまで以上に重要です。

「インド太平洋地域へのコミットメントを強化」と述べています。まぁ、イギリスにとって、インドはかつての属領でしたから、この地域へ意識が向くのは自然なことかもしれませんけれども、「自由で開かれたインド太平洋戦略」は安倍元総理が提唱した日本発の国家戦略です。イギリスもこれに乗っかってきたとみてよいかと思います。

イギリスのデイリーエクスプレス紙は、今回の協定について次のように報じています。
英国と日本は、ますます攻撃的な中国、ロシア、北朝鮮を抑止するため、インド太平洋で共同軍事演習のプラットフォームを形成するための画期的な防衛協定に署名しました。英国と日本のリシ・スナク首相と岸田文雄首相は水曜日にロンドンで会談し、互いの国に軍隊を配備することを可能にする協定に署名した。岸田氏の報道官は、この合意を英国陸軍および英国海軍との合同軍事演習の開催を「よりスムーズ」にする「マイルストーン」と表現した。

彼女は、金正恩の挑発的なミサイル実験に狙いを定める前に、「残念ながら、中国とロシアが非常に頻繁に合同軍事演習を行っているのを見てきました」と述べた。
英国との合意は、日本が中国を「最大の戦略的脅威」、北朝鮮を「最大の脅威」、ロシアを「強い懸念」の源と表現した後に行われた。(The agreement with the UK comes after Japan described China as its "greatest strategic threat", North Korea as its "greatest threat" and Russia a source of "strong concern".)の部分は、おそらく防衛三文書のことを指しているかと思いますけれども、確か防衛三文書では、中国を巡る表現が公明党の反対で「脅威」から「挑戦」に後退したと記憶しているのですけれども、デイリーエクスプレス紙ははっきりと「threat(脅威)」と書いています。

イギリスからはそう見えるということです。

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5.リシスナクのシナリスク


ただ、イギリスのスナク首相は、筋金入りの対中強硬論者だったトラス前首相氏とは違い、対中姿勢に懸念があるという見方もあります。

スナク首相は、元々、中国に融和的な政治家でした。ジョンソン政権の財務相時代、スナク氏は、恒例のマンションハウス(ロンドン市長官邸)スピーチで、香港や新疆ウイグル自治区における人権侵害など英国の「価値観」に関わる問題では筋を通すと述べながらも、中国との経済的つながりの深さを強調し、「成熟したバランスの取れた関係」が必要だと主張していました。

もちろん、中国はこの発言を忘れませんでした。環球時報は、ジョンソン氏の後継首相を選ぶ保守党首選が始まったばかり頃、「大半の候補が中国に強硬な姿勢を取る中で、ただ1人、英中関係の発展に明確かつ現実的な見解を持つ候補がいる」として、スナク氏の首相就任に強い期待感を示したのですね。

スナク氏は、中国からの援軍は党首選に不利に働くと考えたのか、一転して、強硬な対中政策を一転して発表。そこでは中国を「英国と世界の安全に対する最大の脅威」と位置付けるとともに、「英国内30ヶ所にある中国の事実上の宣伝機関『孔子学院』を全て閉鎖する」、「英情報機関MI5を使って中国の産業スパイから英国を守る」「国際協力によりサイバー空間での中国の脅威に対処する」「英国のハイテク企業を中国に買収させない」などの公約を示しました。

更に、昨年11月28日の外交政策演説で、スナク首相は、「いわゆる『黄金時代』は終わったと断言する。貿易が社会・政治改革につながるという甘い考えも、もはやない……中国が英国の価値観や利益に組織的に挑戦していることを認識しており、中国が権威主義を強めるにつれて挑戦が激化している……無論、世界経済の安定や気候変動の問題など、世界情勢における中国の重要性を無視するわけにはいかない」とも述べ、自身の政権は現状維持に甘んじず、国際的な競争相手と現実的な方法で対峙する考えだと表明しました。

果たして、スナク首相がいう「現実的な方法」が対中融和になりはしないかという不安がなくもありませんけれども、今回の日英円滑化協定が「強硬な対中政策」の一環であるとはいえると思います。

ただ、掲げた対中強硬の「公約」が、腰砕け、あるいは、骨抜きになってしまうのなら、今度は日本が梯子を外される心配も出てきます。

筆者は「リシ・スナク」という字面を見ると、うっかり「シナ・リスク」と空目してしまうのですけれども、そんなことにならないよう、しっかりと連携していただきたいと思いますね。


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