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1.戦狼外交官左遷
1月10日、中国政府は強硬派の趙立堅・外交部副報道局長から他部署に異動させたことが話題となっています。
趙立堅氏はこの3年間、メディア向けの説明会で西側を敵視する発言をまき散らし、「戦狼」外交官ともいわれてきました。
今回の異動は、書面上は降格に当たらないものの、事実上趙氏の発言権を奪う人事になるのですけれども、その理由は明らかになっていません。
これに先立ち中国は駐米大使だった秦剛氏を外相に起用し、アメリカとの関係改善を呼びかけています。このように、最近の中国は態度を軟化させる行動が続いていて、オーストラリア、日本、アメリカを含む主要貿易相手国との緊張関係を改善しようとしていると見られています。
もっとも、「戦狼」外交官達がいたずらに各国を敵視したことで出来た傷跡はそうそう簡単に癒えるものではありません。
2.オーストラリアとの関係改善を望む中国
たとえば、オーストラリアとの関係は全然よくありません。
2020年11月、当時の中国外交部報道官だった趙立堅氏はオーストラリア兵が血の付いた刃物を子どもに突きつけている合成写真をツイートして物議を醸しました。趙氏はツイートの中で、「オーストラリア兵によるアフガニスタンでの市民や捕虜殺害の事実にショックを受けている。こうした行為を強く非難し、責任を取るよう求めていく」と語り、オーストラリアを激怒させました。
当時のオーストラリアのモリソン首相は、「本当に不快で、非常に攻撃的で、全く憤慨している……中国政府はこの投稿に関して恥を知るべきだ。国際社会における中国の権威を低めるものだ……これは偽の画像であり、オーストラリア軍に対するひどい中傷だ……だが、こういうやり方ではだめだ」と指摘。他国がオーストラリアと中国の関係を注視していると警告しました。
この当時中国は、オーストラリアとの貿易停止やオーストラリア製品への追加関税など、経済的な打撃を加えました。
オーストラリア産石炭輸入が禁止され、習近平国家主席の「環境に優しい低炭素」政策を推し進めた結果、石炭不足が深刻化。中国北東部の電力難を引き起こし、一部地域では工場の稼動が停止。家庭用の電気供給も制限される事態となりました。
こうしたことから、中国輸入業者がオーストラリア産石炭の荷下ろしを始めるなど、なし崩し的に輸入を再開する羽目となり、関係改善に乗り出しています。
そして、今月10日、中国の肖千・駐オーストラリア大使は、中豪関係が改善する中、中国政府は国内企業に対し、オーストラリアとの貿易を拡大するよう「通知」を出すことが可能だと述べ、更に、オーストラリア産のワインと大麦に対する中国の関税を巡りオーストラリア側が世界貿易機関(WTO)への提訴を取り下げ、二国間で問題を解決する可能性について、ジュネーブで協議が進められていると明かし、「良いアイデアだ」と述べています。
既に、中国国家発展改革委員会は国内電力会社3社と鉄鋼メーカー1社に対し、オーストラリアからの石炭輸入の再開を許可。オーストラリア産石炭の禁輸を事実上解除しています。
3.あなた方を脅かす者
こうした中豪関係改善について、1月9日、日本の山上晋吾・駐オーストラリア大使は、オーストラリア紙のインタビューに対し「これは良い一歩だと思います。しかし、同時に警戒しなければならないのは、政策や戦略に関して言えば、彼らの側では基本的なことは何も変わっていないように見えるからです」と発言をしました。中国の融和姿勢などポーズに過ぎないという訳です。
10日、このことについて記者から質問された中国の肖千大使は、「キャンベラを拠点に第三国を批判するのは私の役割ではありません……オーストラリアが第三国と正常な関係を築くのを止めようとするのも、私の役割ではありません……ですから、日本の大使は自分の仕事をしていないのだと思います」と述べた後、「第二次世界大戦中、日本はオーストラリアを侵略し、ダーウィンを爆撃し、オーストラリア人を殺し、オーストラリアの捕虜を容認できない方法で扱った……日本政府はそれについて謝罪していない。これは間違っていると認識しているということだろうか?もし彼らが謝罪しなければ、それが間違っていることを認めていないことになり、歴史を繰り返すことになるかもしれない。あなた方を脅かす者は、再び脅かすかもしれない」と発言しました。
肖千大使は、これ以外にも、AUKUS安全保障協定はオーストラリアの納税者のお金の無駄遣いになるとし、北京はAUKUS加盟の3カ国を敵に回そうとしているわけではないとしながらも「この協定は中国との関係に悪影響を与える。何の問題解決にもならない」と述べています。
第三国を批判するのは自分の役割ではない、といっておきながら、思いっきり「第三国」の日本や米英とのAukusを批判しています。日本が再びオーストラリアを攻撃するなどど、離間工作の積りなのでしょうか。流石に無理があります。
この肖千大使の発言に対し、日本の山上駐豪大使は公共放送ABCのインタビューで「当惑している。平和を愛好し、ルールを順守する戦後日本の歩みを皆分かっている……今の課題は、80年前に起きたことではなく、この地域にある威圧や威嚇にどう対処するかだ」と当然の反論をしています。
中国の融和姿勢などポーズだという、山上駐豪大使の鋭い指摘に、顔真っ赤にして、日本がオーストラリアを襲うと叫ぶ。荒唐無稽すぎて逆効果だと思います。
4.ステルス岸田の翼狩り
一方、世界では、日本の対中政策を評価する向きもあります。
1月13日、インドのムンバイに本社を構えるファーストポスト紙は、「日本は音を立てずに、中国の翼を微妙に切り取っている」という記事を掲載しました。
その概要は次の通りです。
・岸田文雄首相は、日本にとって最大の戦略的課題であると宣言した中国に対抗し、島国の防衛能力を強化するために、ワシントンをピークとするG7への弾丸ツアーに参加している。このように、日本の防衛力強化の方針は世界からは大きな方針転換だとして歓迎されているようです。しかもそれが、中国を刺激せずに、困らせているという点も評価しているのですね。
・岸田氏は、第二次世界大戦後の日本の平和主義政策からの転換を示唆しているが、国民からは圧倒的な支持を受けている。ただし、侵略を否定する日本国憲法の枠組みを引き合いに出している一部の人々は不満に思っているようだ。
・しかし、岸田氏の政策転換は、日本国憲法の粗暴なブルドーザーによる破壊や、地域的に中国に大きく傾いているパワーバランスに挑戦するための公然の脅しとは程遠いものだ。
・日本がアメリカ以外の長期的な同盟国に対し強気な働きかけをしていることを理解するには、アメリカの援助がここ数年で縮小しているという事実を踏まえて考える必要がある。日本は、中国との戦いに他国が必要であることを知っているのだ。
・日本の政策専門家は、ロシアのウクライナ侵攻によって、これまでベールに包まれていた地政学的・外交的断層が薄っすらと露呈した事実を十分に理解している。
・この議論の核心は、世界から単なる平和主義国家として見られるようになった日本が、時代のニーズと長期的な地政学的戦略に応じて、武装する先進国の一つとしての地位を正常化しようとしていることでもある。いわば日本は自らの現状を変えようとしているのだ。
・防衛正常化への第一歩は、2027年までに防衛予算を2%に引き上げ、NATO加盟国と同レベルにすることを決定したことだ。
・日本とオーストラリアは、次世代戦闘機の開発でイギリスやイタリアと提携したほか、これまで以上に情報を共有し、軍事協力を拡大することで合意した。
・米国との最新情報では、両国は宇宙にまで協力を拡大し、米国はより優れた軍隊を日本に配備することを発表した。
・イギリスでは、岸田氏の協定により、互いの国土に軍隊を配備する道を開くための法的枠組みが作られた。日本はすでにオーストラリアと同様の協定を結んでいる。
・しかし、先に指摘したように、岸田氏の動きは極めて微妙で、中国に表立って挑戦するのではなく、日本はこのままではいけないということを伝え、それによって中国に自らの侵略を二の次にせざるを得なくさせているのである。
・岸田氏の動きは、これまで得られてきた中国とのパワーバランスを崩すほど攻撃的でも効果的でもないが、中国を困らせるに十分なものである。
・日本は今年のG7のホスト国であり、多くのことが期待できる。これにインドを含むクアッドの協力体制が加われば、日本は中国を包囲することになり、世界中にあらゆる兵器があるにもかかわらず、中国は引き金を引く手が自由にならないかもしれないのである。
なるほど、岸田総理は持ち前の「ステルス」能力を、ここでも発揮しているといえるのかもしれません。
中国は、先日の「ゼロコロナ」から「フルコロナ」への転換のように、両極端に振れるきらいがあります。今回「戦狼外交」から「宥和外交」になったように見えたとしても、いつまた「戦狼」に戻るか分かりません。
その意味では、山上駐豪大使の指摘するように、中国の基本的戦略は何一つ変わっていないのだ、ということを念頭に置いて対処すべきかと思いますね。
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