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1.岸田内閣支持率最低の26.5%
1月13~16日に時事通信が実施した1月の世論調査で、岸田内閣の支持率は前月比2.7ポイント減の26.5%と政権発足後最低を更新。4ヶ月連続の20%台となりました。不支持率は最高の43.6%(前月比1.1ポイント増)で、防衛力強化に伴う増税方針の表明や一段と進む物価高などが影響したとみられています。
昨年12月下旬まで続いた4閣僚辞任を巡る岸田文雄首相の対応について尋ねたところ、「評価しない」が56.4%で、「評価する」の18.7%を大幅に上回った。これも支持率に響いた可能性がある。「どちらとも言えない・分からない」は24.9%。
政府の武漢ウイルス対応については「評価する」40.9%(前月比1.7ポイント減)、「評価しない」31.2%(同1.7ポイント増)でした。
政党支持率は自民党が前月比1.8ポイント増の24.6%、立憲民主党が2.5%(前月比2.5ポイント減)、維新3.6%(前月比0.2ポイント減)、公明党3.4%(前月比0.3ポイント減)、共産党1.8%、国民民主党1.5%、れいわ新選組と参政党が0.7%、NHK党0.4%、社民党0.1%。「支持政党なし」は58.7%となっています。
50%を割ると政権が持たないといわれる、いわゆる青木率でみると岸田政権は51.1%とギリギリです。ただ、野党第一党の立憲民主がなんと支持率半減の2.5%と維新、公明の後塵を拝しています。
2.楕円の理論
岸田内閣の支持率の推移をみると、昨年7月までは50%前後と比較的安定していたのですけれども、8月以降に急落しています。参院選を終えて、それまで続けてきた安全運転の政権運営から解放された途端にこれです。
奇しくも、昨年7月は安倍元総理が暗殺された月です。筆者には安倍元総理がいなくなったのと、岸田政権の支持率が急降下したのが連動しているように見えなくもありません。
これについて、双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦氏は、自民党の楕円の焦点の一つが失われたからだ、として次のように説明しています。吉崎氏は「安倍さんが党内保守勢力の声を代表し、官邸に要求を突きつけるけど、岸田首相が決定を下したら、今度は仲間をなだめる側に回る」という役割分担を行うことで政権を安定させていたのが、その軸が失われ片肺飛行になったことで自民党の右の支持者も左の支持者も離れてしまったというのですね。
あらためてNHKの世論調査グラフを見ると、支持率は2022年7月の59%を頂点に急落していることがわかる。7月8日に安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから、急に政権が不安定化していることがわかる。安倍「国葬」の是非をめぐって国論が割れたから、というのが大方の理解であるけれども、実際は構造的な問題なのではないかと思うのである。
自民党には「楕円の理論」と呼ばれるものがある。もともと1955年に保守大合同があり、吉田茂の自由党と鳩山一郎の日本民主党が合併してできたのがいまの自由民主党である。
前者はリベラル、経済重視、軽武装のハト派であり、後者は保守、安全保障重視、自主憲法制定のタカ派であった。楕円のように2つの焦点があるからこそ、自民党は長期安定政権を維持してきた。ひとつの内閣が行き詰まったら、今度は党内の反主流派が政権を担う、という形で「疑似政権交代」を行うことができたからだ。
そして今日、旧自由党(党内左派)の伝統を継ぐのが宏池会(岸田派)と平成研(茂木派)、旧日本民主党(党内右派)の衣鉢(いはつ)を継ぐのが清和会(安倍派)ということになっている。
現在の岸田内閣は、党内第4派閥である岸田派を、第3派閥の麻生派と第2派閥の茂木派が支えることで成立している。だから麻生太郎副総理、茂木敏充幹事長がキーパーソンとなるわけだ。
そして第1派閥を率いる安倍さんが、岸田首相の「ライバル兼相談相手」となることで、2つの焦点に調和がもたらされてきた。
安倍さんが党内保守勢力の声を代表し、官邸に要求を突きつけるけど、岸田首相が決定を下したら、今度は仲間をなだめる側に回る、という役割分担である。政権発足当初はそれがうまく機能していた。岸田内閣の支持率も一貫して5割を超えていたのである。
7月8日に安倍さんが凶弾に倒れたことで、自民党の「楕円」は片肺飛行になってしまった。「安倍ファン」の右の支持者は岸田離れしてしまい、「安倍に好き勝手をさせないために」岸田さんを応援していた左の支持者も離れてしまった。だから内閣支持率は低下したが、自民党の支持率はそれほど下がっていない。まして野党への支持も広がらない。
そして岸田さんは、誰に相談したらいいかわからなくなった。安倍派の後継者はなかなか決まりそうにないし、決まったとしても保守派を統合するような強いリーダーにはならないだろう。「サミット花道論」で岸田さんが政権の座を降りたとしても、この構図は変わらない。つまり2023年の国内政治は、安定が望み薄ということになる。
しかも、安倍元総理程の「右の軸」がない今の自民党では、ポスト岸田に誰がなっても、この不安定構造は続くと指摘しています。確かに党内力学でみればその通りなのかもしれません。
3.ラポート・トークが欠如している岸田総理
岸田内閣の支持率が急落しはじめた策ね9月初頭の段階で、岸田総理のトーク力に問題があると指摘する声がありました。
政治家の演説を言語学の視点から分析した著書で知られる、アメリカ・ユタ大学の東照二教授は、岸田総理の昨年8月31日の記者会見と9月8日の衆院閉会中審査の質疑応答を分析した結果として「ラポート・トークの要素が全くない」と述べています。
東教授によると、言葉の使われ方には、情報の伝達を目的とする「リポート・トーク」と、感情や心の動きを伝える「ラポート・トーク」があり、法律や政策に関わる政治家は前者を本分とする場合が多く、国会議員としてのキャリアが長い岸田首相も、リポート・トークを得意とする政治家なのだそうです。
けれども、国民の理解を得るには、それだけでは不十分で、話し手からの一方通行ではなく、聞き手との間でつながりをつくる必要があり、そのためには、感情や情緒に訴えるラポート・トークの要素が不可欠となるのだそうです。
東教授は「岸田さんは具体的な政策の中身をリポートする力は高い。官僚の前で話すのならそれでいいが、語り掛けているのは国民だ……かつて小泉純一郎首相は郵政解散で『国民に聴いてみたい』と問い掛けた。こういう直接的で情緒に訴える言葉が全くない」と指摘しています。
その代わり、岸田総理は「丁寧な説明」というフレーズを多用したと東教授は指摘します。印象的なフレーズの繰り返しは、スピーチの説得力を高める効果があるのですけれども、東教授は「要するに『説明する』と繰り返しているのだが、その中身が何なのか、いまひとつぴんとこない……既に多くの人が知っている情報を、紋切り型の表現で繰り返している」とコメント。
東教授は、「丁寧な説明」は多くの政治家が用いる紋切り型の言葉であり、聞き手の感情に訴えるものではないと解説しています。
筆者には、「丁寧な説明」よりも「検討する」、「検討を加速する」というフレーズを多用している印象があるのですけれども、紋切り型という意味では同じです。要するに「検討する」と繰り返しているのだが、その中身が何なのか、さっぱり分からないからです。
4.岸田さんが個人の話をしているところを聞いたことがない
東教授は、安倍元総理の国葬の時も、岸田総理が読み上げた弔辞について「長々と安倍さんという他人の実績を説明するだけで、自分の思いを全く話していない」と指摘。その一方、友人代表として弔辞を述べた菅前総理について「官房長官として安倍さんと長く付き合った思い出や、焼き鳥屋で3時間も話して心のつながりをつくったというストーリー構成になっている。聞き手はそこに共感した」と分析しています。
岸田総理は自分の長所として「聞く力」を挙げていますけれども、東教授は「『聞く力』がどのくらいあるのか疑問だが、まず必要なのは『話す力』のトレーニングだ。このままでは長く続かない……岸田さんが個人の話をしているところを聞いたことがない。それでは駄目だ」と述べ、「個人的な経験を語る」「物語にして語る」ことが必要だとアドバイスしています。つまり、自らの経験を加え、聞き手の想像を刺激するストーリーを語れば、共感を得ることができるというのですね。
更に、東教授は、「情緒ばかりでは飽きられる。情緒と情報のスイッチの切り替えが重要だ……この二つをいかに交わらせていくかだ。『説明します』の繰り返しではなく、個人的な意見を入れるべきだ」と「リポート」と「ラポート」を切り替えながら話す「コード・スイッチング」を採り入れることで、語り手と聞き手の心理的なつながりを生み出すことができるとコメントしています。
昨年11月9日のエントリー「岸田内閣への支持を繋ぎとめる方法」で、筆者は、自民党の西田昌司参院議員が、岸田内閣支持率低下の原因は「国民に自分の気持ちが伝わっていないからだ、官僚答弁を止めよ」と述べ、もっと自分をさらけ出して、本心を言葉にすべきだと苦言を呈したことを紹介しましたけれども、西田参院議員のこの指摘も東教授が指摘する「ラポート・トーク」の重要性に通ずるものがあると思います。
岸田内閣の支持率低迷が、自民党の「楕円の理論」が崩れたことによるものであれば、安倍元総理の穴を埋める軸をつくるか、離れていった右ないし左の支持者を取り戻さなければなりません。安倍元総理の存在が大きすぎて埋める人材がいないのであれば、あとは支持者を取り戻すしかなくなります。
そのためには、やはり、東教授や西田参院議員の指摘するとおり、岸田総理は自分をさらけ出す「ラポート・トーク」をしないと厳しいのではないかと思いますね。
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