ソレダール陥落と窮乏するウクライナ

今日はこの話題です。
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1.ソレダール陥落


1月13日、ロシア国防省は、激しい戦闘が続いていたウクライナ東部ドネツク州で、ウクライナ側の拠点のひとつバフムートの近郊の町ソレダールを12日夜に掌握したと発表しました。

ロシア国防省によると、軍の精鋭とされる空挺部隊が軍事作戦を展開したと述べ、「ソレダールを掌握したことで、バフムトでウクライナ軍の補給路を遮断し部隊を封鎖できる」と主張しています。

これに対し、ウクライナ軍の報道官は翌13日、地元メディアに対し「ロシア軍はソレダールを掌握していない。彼らの発表は事実ではない」と述べ、ロシア側の主張を否定しました。

これについて、アメリカのシンクタンクである戦争研究所は、1月12日の日次レポートで、ソレダールについて、次のように分析しています。
・ロシア軍が1月11日にソレダールを占領する可能性が高いことは、作戦上重要な展開ではなく、差し迫ったロシアによるバフムート包囲の予兆とはなりそうにない。
・1月11日と12日に投稿された位置特定された映像は、ロシア軍がソレダールのすべてではないにしても大部分を支配している可能性が高く、ウクライナ軍を入植地の西側郊外から追い出した可能性が高いことを示している。
・ウクライナ軍参謀本部は、ウクライナ軍がドネツク州のシルに対するロシアの攻撃を撃退したと報告した。
・ウクライナの参謀本部やその他の上級軍筋は、ウクライナ軍が1月12日のソレダールに対するロシアの攻撃を以前のように撃退したとはほとんど報告していない。
・ロシアの情報筋は、ロシア軍は1月12日現在、残っているウクライナ軍をソレダールから一掃していると主張している。
・ロシアのミルブロガーは、1月12日にワグナーグループの戦闘員がソレダールを自由に歩き回る映像を投稿し、ロシア軍と共に入植地を訪れたと主張した。
・ロシア国防省(MoD)は、ロシア軍がソレダールを占領したことを発表していないが、クレムリンのスポークスマンであるドミトリー・ペスコフは、入植地での攻撃作戦の成功に対してロシア軍を祝福した。
・入手可能なすべての証拠は、ウクライナ軍がもはやソレダールで組織的な防御を維持していないことを示している。
・ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の1月12日の声明で、ウクライナ軍がソレダールで陣地を維持しているというのは、ソレダールではなく近くの防御陣地に言及している可能性がある。
・ロシアの情報作戦は、ソレダールの重要性を誇張しすぎており、せいぜいロシアのピュロスの戦術的勝利にすぎない。
・戦争研究所は依然として、5.5平方マイル未満の集落であるソレダールを占領しても、ロシア軍がバフムートへの重要なウクライナの地上連絡線(GLOCs)を支配することも、短期的にロシア軍の都市包囲を有利にすることもできないと評価している。
・ロシア軍はバフムート付近での劣化したロシア軍の集大成を加速するであろう非常に消耗的な戦術的勝利にかなりのリソースを投入した後、ソレダールを制圧した可能性が高い。
・ロシア軍は、バフムート地域で一貫して速いペースでの攻撃を維持することを決定する可能性がある。
このように戦争研究所は解析映像から、ロシア軍がソレダールの大部分を掌握したものの「ピュロスの戦術的勝利」にすぎず、近々にバフムートを包囲することはない、と評価しています。


2.広報戦略上の勝利


戦争研究所からは戦略的には左程重要ではないと指摘されたソレダールですけれども、ロシア軍は昨年5月からソレダールを制圧目標に据えてきました。

ソレダールの制圧について、1月13日、ロシア国防省は「ドネツク州での攻勢作戦の継続に重要だ……ソレダールを支配することで、バフムートのウクライナ軍への補給を断つことが可能になる」と述べています。ソレダールはウクライナ東部に広がるドンバス地方の中心部にある人口1万人ほどの小さな街ながらも、より大規模な街であるバフムートの北東わずか数キロに位置しています。

バフムートは、ウクライナ国内1300キロにわたって伸びる前線の中で最も攻防が熾烈な部分で、今回の戦争でも有数の激しい戦闘の舞台となっています。ロシアにとって、バフムート掌握はウクライナ軍の兵站線を切るという意味で重要な街であり、ソレダール制圧はその橋頭保になるという訳です。

ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は、ロシア軍が新たな町を掌握するのは去年7月以来だと指摘していますけれども、ロシアにとっては久々の、そして数少ない戦果であり、実質的な成果というよりも、広報戦略上の勝利の意味合いが強いのではないかとも言われています。

また、ソレダールの周辺には大規模な塩鉱山があることから、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジン氏は、採掘で張り巡らされた坑道を防御手段や地下拠点として利用できるとしているようです。


3.バフムートを捨てて引き下がれ


現在、バフムートでは、ロシア・ウくらいなの双方が兵力をすり減らしながら消耗戦を続けているのですけれども、1月20日、アメリカのバイデン政権の高官は、バフムート防衛に注力すれば、南部で春にもウクライナ軍が実施するとみられている大規模攻撃の計画に支障が出ると指摘しています。

この高官によると、バフムートでは、長期戦になるほど兵力と兵器の数で上回るロシアが有利になるが、ロシア軍がバフムートで勝利したとしても、ウクライナ軍は要害に後退するだけで、大勢に影響はないとの見方を示し、ウクライナに対し、兵力を戦略的に重要ではない目標に割くのではなく、南部での反攻の際に高性能な兵器で重武装した部隊を組めるように、アメリカ主導の訓練プログラムに参加させるよう助言しているそうです。

高官は、春の反攻で使用される兵器はウクライナに続々到着しているものの、訓練には時間がかかるため、ウクライナはバフムートを捨てて、より戦略的な取り組みに備えるメリットを検討しなければならないと述べています。

ただ、バフムートを捨てて後方の要害に引き下がるというのは、要するにウクライナにとっては戦線の後退です。大勢に影響はないといっても、結局は、また押し返すことになります。たとえ大勢に影響がなくても、戦争の更なる長期化は避けられません。


4.我々には戦車が必要だ


そもそも、南部での反攻の際に高性能な兵器がどれだけ供与されるのかという問題もあります。

1月20日、ドイツ西部にあるラムシュタイン米軍基地で、アメリカなどおよそ50ヶ国の代表が参加してウクライナへの軍事支援について話し合う会合が開かれました。焦点となっているのは、ウクライナが供与を求めているドイツ製戦車の「レオパルト2」を出すのかという点でした。

これについて、ドイツのピストリウス国防相は「いつ判断をするか、どのような判断になるか、きょうは言えない」と、判断を先延ばしにしたことを明らかにしました。

これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は20日夜、公開した動画で、「我々は現代型戦車の確保に向けまだ戦う必要がある。ただ、我々は戦車に関する決定を下す以外の選択肢がないことを日々明確にしている……パートナー国は断固たる姿勢を崩していない。我々の勝利に必要なだけウクライナを支援してくれるだろう」と戦車の供与の重要性を強調しています。

ウクライナが現在使用する戦車の殆どは旧ソ連型で、その数や火力でロシア軍に劣っています。

これに対し、「レオパルト2」はウクライナにとって、形勢逆転につながる「ゲームチェンジャー」になる可能性があると考えられています。なぜなら、整備が容易なのに加え、ウクライナ侵攻に投入されているロシアのT-90戦車への対抗手段として、特別に設計されているからです。

けれども、ドイツの輸出法では、「レオパルト2」戦車の供与を表明しているポーランドやフィンランドなどの国々は、ドイツ政府の許可が出ない限り実際に供与することはできないことになっています。

欧州各地の倉庫には2000台以上のレオパルトが保管されていて、ゼレンスキー大統領は、そのうち約300台がロシアを倒すのに役立つと考えているようです。


5.兵士になりたいか、なりたくないかだ


1月14日、イギリス政府は数週間以内にイギリス軍の主力戦車「チャレンジャー2」14両をウクライナに供与する方針を発表しました。また「チャレンジャー2」の供与に続き、30両前後の自走砲AS90を投入することも検討しているとのことで、戦車などの使用に向け、ウクライナ兵らへの訓練を数日中に開始する予定としています。

ゼレンスキー大統領の求める300両には程遠いですけれども、もし300両といわずとも100両の戦車があれば形勢逆転できるのか。

これについて、ポーランドの元陸軍司令官のワイデマール・スクレプチャク将軍は、ポータルサイトwPolityce.plのインタビューで次のように語っています。
wPolityce.pl:ロシア軍は長い戦いの末、残念ながらソレダールを奪取しました。一般的な現場の状況はどうなのでしょうか?

スクレプチャク将軍:ロシア軍はソレダール・バクムート方面に全軍を投入しました。彼らはこれらの町をドンバスの門として扱っている。プーチンは昨年夏から秋にかけての敗戦を受け、戦略的目標を再定義した。今、彼の戦略的目標は、ウクライナ東部を占領することだ。プーチンは、ドンバスを占領すれば、ウクライナは経済的に発展できず、農業国になると確信している。残念ながら、ロシアは今、優位性を築いているから、その目的は達成されるだろう。その成功の鍵は今やっていることだ。ロシアは、「特別作戦」から離れ、ウクライナ軍に対して数倍の優位性を持つとされる本格的な戦争に備えつつあるのだ。ロシアはこれを達成するだろうし、残念ながら議論することは何もない。ロシアは北から作戦を展開する...。

wPolityce.pl:以前、私との会話の中で、この攻撃は天候やロシア軍の再建能力にもよりますが、1月下旬から2月上旬に行われるとおっしゃっていましたね。

スクレプチャク将軍:必ず実現する、時間の問題だ。ロシアはベラルーシ領から攻撃するのではという声もある。しかし、なぜそんなことをするのか。これには軍事的な正当性があるとは思えない。ある人は、ポーランドからウクライナ人の物流回廊を断つためだという。ウクライナ人は、ルーマニア、スロバキア、ハンガリー経由で同じ回廊を利用できるのだから、これは意味がないと私は考えている。だから、もしロシアがそのような理由でベラルーシから攻撃してくると言う人がいたら、それはおそらく地理的な問題があるのだろう。また、なぜロシアはウクライナ全体を必要としているのだろうか?プーチンは、ウクライナ人がロシアの占領軍を血で溺れさせるために、アフガニスタンの繰り返しを望んでいるのか?

ウクライナを占領するのに必要な軍隊の数を知っているか?少なくとも100万人、あるいはそれ以上だ。ウクライナ人は、アフガニスタンのムジャヒディーンよりもひどい運命をロシア人に与えることになる。だからクレムリンには、大嫌いなウクライナ人ごと占領しようというバカはもういないんじゃないかと思う。一部の専門家は目を覚ましているのだろうか。ロシアにウクライナを占領されることを想像できるのか?

wPolityce.pl:この場合、ロシア側に多大な犠牲と人的損失が出ることが知られています。

スクレプチャク将軍:ウクライナの抵抗は、ヨーロッパで、いや、世界で、かつてなかった種類のものになるだろう。なぜなら、ポーランドを含むすべての人々が、この抵抗を助けるからだ。そのため、プーチンはウクライナ東部を懸念している。すでにウクライナ人の人口が大幅に減少しているからだ。戦地から逃れた人もいれば、戦地に残った人も、ウクライナ人が支配しようがロシア人が支配しようが関係ない、という印象を受けている。結局、そこから脱出できるウクライナ人はすでに脱出し、残りはロシア人になだめられ、何人かは殺害されたのだ。ゲラシモフは、「特別作戦」ではなく、本格的な戦争になるように、ロシア軍の指揮を執った。今度の作戦は、この戦線におけるロシアの軍事的潜在力のすべてを投入することになる。欧米は、ロシアに勝る軍事力を構築するために、ウクライナを十分に支援することはできない。

wPolityce.pl:欧米はもはやウクライナを再軍備して、来るべきロシアの攻勢を食い止めることはできないのでしょうか。チャレンジャー2、レオパルド......欧米の重機がウクライナに納入されるという最初の発表があります。

スクレプチャク将軍:100両の戦車が戦争の運命を変えるなどという妄想を抱かないようにしよう。戦争に勝つチャンスはあったのに、そのチャンスを夏に無駄にしてしまった、と8月に言った。"ロシアを倒せ"、"2度目のチャンスはない "と。もう、今より弱くなることはない。南でも北でも攻勢はあったが、ロシア軍を叩き潰すような決定的な攻撃は行われなかったことが明らかになり、今に至っている。ロシアは潜在能力を再現している。欧米がどうするかはわからないが、戦車100台でも、ロシア軍がウクライナ軍に対して数倍の優位を築いている状況は変わらないだろう。ウクライナ人がレオパルド100両でロシア人を叩き潰すことはないだろう。

wPolityce.pl:率直にお聞きします。西側諸国は、軍備供給の量と質を抜本的に増やすことで、あなたがおっしゃるウクライナにとって不利な状況を変えることができるのでしょうか。

スクレプチャク将軍:いや、軍事的にはもう手遅れだ。今のロシアには、政治的にも経済的にも息の根を止めるしかない。プーチンの政治的・経済的な縛りを強化する必要がある。このままでは、軍事的にウクライナの勝ち目はない。ロシアが軍隊を再建している以上、制裁が有効でないことは明らかだ。これからどうするのか?この戦争でウクライナ人が全員死ぬことに賭けているのか?欧米はウクライナを点滴方式でずっと武装させようとしている印象がある。これでは、ウクライナ人は戦うことはできても、勝つことはできない。繰り返すが、ウクライナ人は全員、戦場で死ねということか?欧米は助けるどころか、議論している。例えば、ウクライナへの愛国心についての議論に、どれだけの時間が浪費されたことか。

wPolityce.pl:ポーランド政府は、ウクライナにパトリオットを提供するというアイデアを最初から支持していたのですよ。

スクレプチャク将軍:自分のことは自分でやらせよう。最悪なのはこの戦争で政治資金を作ることだ。ウクライナ人は死につつあり、彼らの兵士はこの戦争に勝つために必要なものを持っていない。ロシアにはチャンスと時間が与えられた。ロシアの優位性を崩すために、今ウクライナに何ができるかはわからない。軍事的な観点からは、そのような選択肢はない。

wPolityce.pl:2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したとき、彼らもロシアを止められるとはほとんど誰も思いませんでした。しかし、それでも成功したのは、少なくともロシアの悲惨な指揮のおかげですよ。

スクレプチャク将軍:ロシア人はすでにウクライナ人から戦い方を学んでいるのだ。私は敗北主義者ではなく、ウクライナを助けることができたのに時間を無駄にし、議論を少なくしたことを後悔しているだけなのだ。奇跡を信じたいのなら、ウクライナがこの戦争に軍事的に勝つと信じるがいい。だが、私の考えでは、ロシアが作り出している優位性では、たとえ1日に500人のロシア人が殺されたとしても、彼らにとっては何でもないことなのだよ。

wPolityce.pl:では、欧米はやはりウクライナを軍事的に支援すべきだとお考えなのでしょうか。

スクレプチャク将軍:確かにウクライナに武器を供給することは必要だが、点滴のような方法ではダメだ。この援助も、すでに全く別の性質のものであるはずだ。NATOとともに、ポーランド、ドイツ、フランスで、ウクライナ軍の新編成の訓練を始めるべきだ。ここにいるウクライナ人を訓練し、動員し、訓練し、任命し、前線に送り出すべきだ。ウクライナにとってますます困難になってきているからだ。

wPolityce.pl:ポーランドでは、現在わが国に居住しているウクライナ人を動員し、訓練するべきだとお考えなのですね?

スクレプチャク将軍:なぜいけないのか?フランスでは、1939年と1940年に、移民や9月の敗戦後にポーランドから逃げてきた人たちで軍隊を作り、8万人の兵士を集めた。そして、そのようなウクライナ軍をポーランドで作って、戦線に送り込めばよいではないか。政府間協定を結べば済むことだ。待つ必要はない。

wPolityce.pl:ポーランドを含むNATO諸国に滞在しているウクライナ人にとって、前線で戦うことを希望していた人たちはすでにウクライナにいます。

スクレプチャク将軍:今こそ、彼らに「兵士になりたいか、なりたくないか」を問うことになるのだ。彼らは動員され、軍隊に徴兵される必要がある、それだけだ。こう言っては失礼だが、私たちが参加したウクライナがチャンスを無駄にしているのは、軍人として心が痛む。
日本のテレビで報じられているのとは随分ニュアンスが違います。スクレプチャク将軍によると、ウクライナは既にロシア軍に勝つチャンスを失った。戦車が100両あっても最早ゲームチェンジなどできないというのですね。

今のようなチマチマとして「点滴」を垂らすような支援では駄目で、ロシアを政治的にも経済的にも息の根を止めるしかない、としています。もし軍事的な手段があるとすれば、ポーランドを含むNATO諸国に避難してきたウクライナ人を徴兵・訓練し、前線に送りこむしかないと述べています。

けれども、wPolityce.plが指摘しているように、戦う意思を持ったウクライナの人はとっくに銃を持って前線で戦っています。折角、逃がした避難民を兵士として前線に送り込むことなど出来るのか。

仮にできたとしても、それは最終局面ではないのかという気がします。スクレプチャク将軍の見解は日本で報じられている内容とあまりにもギャップがあり、どちらを信じるべきなのかちょっと分からないですけれども、今の西側諸国のウクライナの支援が、スクレプチャク将軍のいう「点滴」程度なのであれば、文字通り「焼け石に水」であり、今後も延々と戦争が続く可能性があることも視野に入れておいた方がよいかもしれませんね。


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