

1.厚労省が新設する女性支援室
厚生労働省は、困難に直面する女性への対応を手厚くするための「女性支援室」を4月に新設することが明らかになりました。
現在、生活困窮に苦しむ母子家庭の女性の問題などについては、厚労省の子ども家庭局に所属する職員3人が中心となり対応しているのですけれども、ドメスティックバイオレンス(DV)や性被害、アダルトビデオ出演の強要といった被害に遭う若い人が増えてきたなどの実態を踏まえ、4月以降、母子家庭への支援の中心がこども家庭庁に移るのにあわせて、社会福祉を担う社会・援護局に別途、「女性支援室」を新設して問題に総合的に対処。専任の担当を10人確保するとしています。
2.困難女性支援法の問題点
困難女性の支援については、昨年5月に「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(通称:困難女性支援法)」が成立し、政府でこの法に基づく国の基本方針づくりが行われています。昨年11月に厚生労働省が、有識者会議の初会合を開いて、基本方針の骨子案を提示。2024年4月の法施行に向け、今年3月に決定する予定となっています。都道府県には、基本方針を踏まえて施策の実施計画を作る義務があり、市町村には努力義務があるそうです。
現在、この法に関するパブリックコメントが行われているのですけれども、昨今のColabo問題に関連して、この法案に基づく仕組みも「公金ちゅーちゅースキーム」なのではないかとネットの一部で、注目されています。
その中に「日本の風通しをよくする会」というツイッターアカウントの方が困難女性支援法に関する意見をパブコメで提出したそうで、その内容をnoteに纏めてアップされています。
それによると、困難女性支援法の第15条について、最も問題があると指摘しています。
件の困難女性支援法第15条は次の通りとなっています。
(支援調整会議)この困難女性支援法第15条は、支援を行うために設けられる「支援調整会議」なるものを規定しているのですけれども、先述の「日本の風通しをよくする会」は次のように指摘しています。件のnoteから引用します。
第十五条 地方公共団体は、単独で又は共同して、困難な問題を抱える女性への支援を適切かつ円滑に行うため、関係機関、第九条第七項又は第十二条第二項の規定による委託を受けた者、困難な問題を抱える女性への支援に関する活動を行う民間の団体及び困難な問題を抱える女性への支援に従事する者その他の関係者(以下この条において「関係機関等」という。)により構成される会議(以下この条において「支援調整会議」という。)を組織するよう努めるものとする。
2 支援調整会議は、困難な問題を抱える女性への支援を適切かつ円滑に行うために必要な情報の交換を行うとともに、困難な問題を抱える女性への支援の内容に関する協議を行うものとする。
3 支援調整会議は、前項に規定する情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるときは、関係機関等に対し、資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる。
4 関係機関等は、前項の規定による求めがあった場合には、これに協力するよう努めるものとする。
5 次の各号に掲げる支援調整会議を構成する関係機関等の区分に従い、当該各号に定める者は、正当な理由がなく、支援調整会議の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
一 国又は地方公共団体の機関 当該機関の職員又は職員であった者
二 法人 当該法人の役員若しくは職員又はこれらの者であった者
三 前二号に掲げる者以外の者 支援調整会議を構成する者又は当該者であった者
6 前各項に定めるもののほか、支援調整会議の組織及び運営に関し必要な事項は、支援調整会議が定める。
■「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」、通称「困難女性支援法」において最も問題であると思われる第十五条について、問題点の指摘と改善すべき点要するに、支援調整会議の構成や中身は不透明だといっているのですね。筆者も15条を一読して、「ブラックボックスじゃないか」と思ったのですけれども、確かに透明性に欠けると思いますし、なにより、不透明なままで、「補助金の用途や金額、新規参入団体の選定」をこの支援調整会議に決めさせるのは、例のColabo問題が明るみになった手前、また同じことになりかねない危険を孕んでいるといえます。
第十五条において定められている「支援調整会議」について、参加者の素性や協議内容に関する不透明性が高いにもかかわらず権限が強すぎる。
会議構成員は、公的機関だけではなく、公的機関から委託を受けた事業者、その他民間の団体や「支援従事者」、「関係者」というあいまいな語句で定義される者も構成員になると表記されている。
このような者が会議構成員に任命されることを考えた場合、以下のような問題が考えられる。
【支援調整会議で議論される内容の重要性、及び会議構成員の任命基準に関する不透明性】
「支援調整会議」内で決定される事項は、「困難な問題を抱える女性への支援の内容」と定義されている。
すなわち実際に行われる具体的な支援内容がここで話し合われるということであり、本法律の定義する「困難な問題を抱える女性への支援」事業の根幹をなす事項を決定する最重要の会議と捉えられる。
にもかかわらず、支援調整会議の構成員に任命される経緯や基準等が一切定義されておらず不透明である。
国が主導して行う重要な事業の実施要領を決定づけるという最重要の会議であれば、その構成員に相応しいかどうかは、客観的に評価できる基準をもって判断すべきであると考えられる。
仮に、これまでの若年被害女性等支援事業において功績を上げた者が任命されるとした場合、どの程度の功績を上げたかについて、具体的な数字を伴う記録により評価されるべきであると考える。
【会議構成員の利害関係に関する不透明性】
支援の内容を調整するということはもちろん投入される補助金の金額もその内容により上下するものと思われるため、もし補助金が支給される対象の団体が構成員に含まれていた場合、金額を増大させる目的での恣意的な調整が行われる危険性を潜在的に孕んでいる。
会議の構成員については、本法律で規定される補助金の支給先の団体、人員は除くとすべきである。
【会議の内容、及び運営方針に関する不透明性】
先述のように、本会議は実際に行われる具体的な支援内容が協議するものであり、投入される補助金の金額もその内容により上下するものと思われる。
したがって、決定に至るまでの経緯や、現状に即した妥当な施策であるかどうかについては、第三者による客観的な評価がなされなければならないと考える。
にもかかわらず、「正当な理由がなく、支援調整会議の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。」、「支援調整会議の組織及び運営に関し必要な事項は、支援調整会議が定める。」という規則が設けられ、会議内容や運営方針が非常に秘匿性の高いものとなっている。
公金の投入規模を決定づける重要な会議に関して、客観的な妥当性が確保できないなどという規則は、納税者である日本国民への報告義務を蔑ろにするものと言わざるを得ず、言語道断であると考える。
以上をまとめると、このままの内容では、事業内容の有効性、妥当性が不透明な団体が、公金の用途や総額(上限なし)を自由に決定し、同事業に新規参入する団体の選定も行えるという非常に強力な権限を持つことになり、極めて悪用されやすい法律であると言える。
これらの不透明性を排除し、困難な状況に陥った若年者を助けるという本事業の本来の目的に沿った活動を行うため、以下の方針とすべきであると考える。
・補助金の用途や金額、新規参入団体の選定を直接決定するのはこのような不透明な会議内でなく公的機関が行い、第三者にも確認可能な内容とする。
・上記運用に関してもし公的機関が意見を求めることが必要であれば、その対象は認定NPO法人や公益財団法人など、客観的に見て信頼性が高いと評価できる団体に絞るべきである。
(一般社団法人や通常のNPOは省庁の監督がなかったり、事業運用の十分な監査が行われていないため国家事業の運営を左右する意見を聞く対象としては不適切であると考える)
3.機能していない役所のチェック
この新設される女性支援室について、また、公金の拠出の在り方について、1月25日放送のニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演した嘉悦大学教授の高橋洋一氏が次のように解説しています。放送でのやり取りは次の通りです。
飯田)現在は厚労省の「子ども家庭局」に所属する職員3人が中心となって対応していますが、それとは別に、社会福祉を担う社会・援護局のなかに「女性支援室」をつくる。10人体制になるということです。高橋教授によると、数千万円という金額は役所のなかでは低くて、下の係長で終わってしまい、チェックが効きにくい上に、数が多すぎてチェックしきれない、というのが現状なのだそうです。そのくせ、NPO関係の補助金の仕組みをつくりたがり、行政に監視を頼らず、より多くの国民の目でチェックする方向で提案すると「ものすごい勢い」で潰してくる。
高橋)方向性としてはいいのでしょうけれど、都道府県などで実際に政策へ下ろしていくときは、いろいろな補助金を出します。その補助金はどう使われているのか。最近、一般社団法人「Colabo(コラボ)」の件が話題になっています。
飯田)公金をどう使っているのか監査されている。
高橋)あまり使い方がよくないと思われる場合は住民監査請求がありますが、住民監査請求は95%が門前払いで、「こんなものは請求に値しない」と終わってしまうのですよ。
飯田)95%が。
高橋)でも、Colaboに対する住民監査請求は2月末までの再調査になっています。とても珍しい例ですね。
飯田)今回のColaboの件は。
高橋)私も監査請求を見ましたが、その付け方がすごいのです。「これはひどいな」という感じでした。東京都の福祉保健局が対応しないといけないのだけれど、おそらくコロナの影響などで見切れないのです。この手の話が大きくなり、NPOが対応して補助金を出したりすると、目配せと言うか監視と言うか、モニタリングできないような状態になると思いますよ。すごく数が多くなると思うので、行政では多分対応できなくなると思います。
飯田)行政では。
高橋)しかし、Colaboのような話を住民監査請求に委ねるとしても、第三者が見るのにも限界があるでしょう。だから補助金などを配る。一説によるとネットでは「公金チューチュー」などという言い方もされています。やり方を考えた方がいいと個人的には思っていました。
飯田)行政が手間をかけて監査を徹底するのか、全体のスキームを変えるのか。
高橋)変えた方がいいと思います。実は役人のときにトライしたことがありました。数千万円という金額は役所のなかでは低くて、下の係長で終わってしまい、チェックが効きにくいのです。
飯田)低くて。
高橋)どうしたらいいかと思ったのですが、やり方の1つとしては、補助金は税金を吸い上げて役所が配る仕組みです。それであれば、直接NPOなどに寄付させるのです。寄付させて税額を控除する。税収はその分減るのだけれど、効果は一緒です。
飯田)税収が減るということは、その分を税金で補助したのと変わらないことになる。
高橋)まったく変わりません。この方法なら、寄付した人はより関心があるから、よりきちんと監査するのです。
飯田)自分の寄付したお金がどう使われているかをよく見る。
高橋)ある程度の金額になると、Colaboの話では「赤い羽根共同募金」にまで影響があり、公金の使い方が緩いのではないかと。
飯田)どこからお金が拠出されているかを調べると、いろいろな名前が出てくるところの一環に「赤い羽根共同募金」もあった。
高橋)そういう変な話になってしまうので、少額ではなく大きめの寄付をさせておいて、寄付した人が監視する。もちろんインターネット上で財務の話はきちんと公表するのが前提です。そうした方が監視は効くのですよ。
飯田)ある意味、より多くの人の目で見る。
高橋)行政に監視を頼らず、より多くの国民の目や、寄付した人の目で見る。そういう方がうまくワークするのではないかと思い、提案したことがあったけれど、ものすごい勢いで潰されましたね。「何なのかな?」と思いました。
飯田)やはり、補助金の差配のようなことがしたいのでしょうか?
高橋)そうなのでしょうね。このような仕組みをつくろうとする人はたくさんいるのです。官僚の方でも助成に限らず、NPO関係の補助金の仕組みをつくろうとする人はたくさんいます。
飯田)官僚のなかにも。
高橋)そういう意味で、私は官僚の補助金の仕組みをつくる人を「バサッ」とやってしまうではないですか。「こんなもの寄付金を出した人がチェックすればいいでしょう?」と言うから。そうすると官僚の出番が少なくなってしまうのです。
高橋)女性支援となれば、数が増えると思います。きめ細かくやらないといけないですから。
飯田)それを全部行政が対応するとなると、マンパワーも何もかも足りない。そこで専門性のあるNPO法人に頼もうという話になるけれど、監査を全部行政がやるのはまた非効率です。
高橋)数が多すぎて無理だと思います。きめ細かくやるから、いろいろなタイプのものがたくさん出るのですよ。行政の方で対応するのは難しいし、特にコロナ禍であれば対応しきれないですよね。
飯田)担当しているのは東京都の場合、福祉保健局になりますので、まさにコロナと正面で向き合っているところです。マンパワーも予算もそちらに割かれる。
高橋)できないでしょう。厚労省で別の組織をつくるということですが、いくら何でも全国の話をそこでチェックするのは無理だと思います。政策はいいにしても、公金を使うときには何らかの仕組みを考えなければなりません。
飯田)使うときの仕組みを。
高橋)あとで変な話が出ると、政策がうまくできなくなってしまうこともあります。「こんな公金の使い方はよくない」と言う人もいますからね。
飯田)「だからこの政策を全部やめてしまえ」となったら本末転倒です。
高橋)公金のチェックの仕組みを一緒に考えた方がいいと、私は思います。
今もこの体質なのであれば、まさに既得権益集団化しているとしかいいようがありません。
4.政府に是正する力はあるか
今回のcolabo問題に端を発し、1月23日の国会初日、維新の会の音喜多駿参院議員が、若年被害女性等支援・困難女性支援に関する質問主意書を提出し、一部で話題となっています。
主意書は4頁、29項目にわたるものですけれども、その中に公金の使い方とチェックに関する質問があります。それは次の通りです。
十九 本事業と都事業との関係のように、国からの補助を受けて自治体が実施する事業につき、自治体が民間事業者に事業を委託して実施する場合において、国が自治体に対し是正勧告等を行う制度は存在するか。また、本事業について、国が自治体に是正勧告を行う仕組みはあるか。音喜多参院議員は、この種の事業に対する「監督」する仕組みがあるのか、なかった場合、監督・指導する気があるのか、と問うています。
二十 本件監査結果を踏まえ、本事業につき、仮に制度が存しないとしても、実施自治体に対して委託費用の適切な執行を指導するべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
筆者も公金を投入する以上、その使われ方についてはきちんとチェックして、不適切な使途があれば是正指導すべきだと思います。
政府が音喜多議員の質問主意書にどういう回答するのか。前述の質問19、20に特に着目して見ていきたいと思います。
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