ウクライナを極秘訪問したバーンズCIA長官の裏の裏

今日はこの話題です。
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1.ウクライナ政府の汚職摘発


2月1日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、国防省や税当局の汚職や不正行為をめぐって司法、治安当局が一斉捜査に入ったとし、「成果を上げた1日だった」などと述べました。情報機関であるウクライナ保安局(SBU)は、この日、戦略企業である石油2社をめぐる横領、脱税を摘発したと発表。関税庁トップらが更迭されました。

摘発を発表されたのは石油採掘、精製の国内大手で、ゼレンスキー政権は昨年11月に戦時体制法にもとづいてこれらを接収していました。ウクライナ保安局は横領や脱税の規模は400億フリブナ(約1400億円)に及ぶとしています。

ゼレンスキー大統領は演説で特に軍関係の装備調達に触れ、「国防省、軍の浄化は特に重要だ」と述べていますけれども、政界の汚職摘発は先月から始まっていました。

1月24日には、キリロ・ティモシェンコ大統領府副長官、ヴャチェスラフ・シャポヴァロフ国防副大臣、オレクシー・シモネンコ副検事総長、イワン・ルケリヤ地域開発・領土担当副大臣、ヴャチェスラフ・ネゴダ地域開発・領土担当副大臣、ヴィタリー・ムジチェンコ社会政策担当副大臣、ドニプロペトロウシク、ザポリッジャ、キーウ、スーミ、ヘルソンの5州の知事が辞任しました。

ティモシェンコ大統領府副長官はゼレンスキー大統領の側近で、アメリカから供与されたSUV車を私物化し、高価なスポーツカーを複数台使用していると非難されていました。また、シャポヴァロフ国防副大臣は、比較的無名の会社から軍用食料品を高値で購入することを監督していたとされています。

シャポヴァロフ国防副大臣の汚職疑惑について、汚職告発サイト『ナシ・グロシ』創設者のユリー・ニコロフ記者は「侵略が始まった当初は恐怖を感じて汚職が減っていたが、しばらくするといつもの習慣、従来の活動に戻ってしまった……戦争が終わったかのように今までやっていた悪行に戻ろうとする国防省の官僚がいると2022年の秋ごろから情報が入るようになった。大きな不満を感じた関係者から契約書のコピーが提供された。……2022年末の時点で国防省の食料調達契約の価格はスーパーの価格とほぼ同じ。それが2023年1月1日からの契約書の購入価格は2倍、項目によっては3倍も高くなっていた」と、高額契約のキックバックを告発しています。


2.戦車供与は取引材料


1月19日、アメリカのワシントンポスト紙はアメリカ中央情報局(CIA)のバーンズ長官がウクライナを極秘訪問し、ゼレンスキー大統領と会談していたことを報じました。

会談では、ロシアが春までに着手する可能性が取り沙汰されている大規模な攻撃計画に関する情報を提供したとのことですけれども、バーンズ長官は、元駐露大使でロシアの事情に精通しており、ゼレンスキー政権の信頼も厚いとされています。

会談では、アメリカからの軍事支援の見通しについて意見交換したそうですけれども、ウクライナ側は「米欧からの支援がいつまで期待できるのか」との懸念も示していたとのことです。

1月25日、アメリカは、米軍主力戦車「M1エイブラムス」をウクライナに供与すると発表しましたけれども、これについて、ウクライナ財務大臣アドバイザーの田中克氏は、次のようにコメントしています。
対外的にはCIAの長官が来たことは明らかにされておらず、翌週に明らかになった。何が話されたかと言うと…戦争が始まってウクライナの汚職がいったん止まっていた。ところが支援物資や支援金やドネーション(寄付)が入るようになって汚職がまた蔓延し始めた。

アメリカの下院がそれを非常に問題視した。共和党が多数派となった下院が、今後ウクライナの支援について自分たちの支援が彼らの賄賂とかに使われるのは見逃せないと…。CIA長官の極秘訪問でそれをストレートにゼレンスキーに伝えたらしい。ゼレンスキーは断固たる態度を取ると言った。言うだけじゃダメなんで、解任したり辞任に追い込んだり…。それを受けて、戦車の供与が発表されたので、取引材料だったんじゃないか…
この指摘に、防衛研究所政策研究部長の兵頭慎治氏は「これですべて辻褄が合うというか、目から鱗といいますか、ドイツも戦車供与を渋っていたし、その中でアメリカが25日のタイミングで供与ということになったが、なぜその前に汚職で高官が処分されたのか、今それがつながってきた」と述べています。確かに繋がります。




3.土地と引き換えに平和を


けれども、バーンズCIA長官のウクライナ訪問の目的はそれだけではなかったという指摘もあります。

2月3日、スイスのノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)紙は「オラフ・ショルツは熟考の末の決断として戦車派遣を選んだが、実際は不意を突かれたのだろう」と題した記事を掲載しました。

その記事の概要は次の通りです。
・ウクライナへの戦車派遣を決定した翌日、オラフ・ショルツは抜け目のない戦略家であることをアピールした。
・近視眼的で無知な反対派が繰り返し非難したような、躊躇や逡巡はなかったと、彼は説明した。むしろ、長期的な計画に基づいて、ワシントンやパリ、そしてベルリン連合のパートナーたちと信頼関係を築きながら進めてきたのだという。
・さて、この説明が正しくない可能性があるのは、3つの指摘があるからだ。むしろ、ショルツは最後までレオパルド2を出す気がなく、自ら窮地に陥ったようなものだ。
・その手がかりのひとつが、ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)と2人の有力な外交政策専門家(1人は連立与党、もう1人は野党)との極秘の会話にある。
・両者とも匿名にこだわっているのは、独自に発言した内容が衝撃的だからだ。彼らによると、ジョー・バイデン米大統領は1月中旬、CIAのウィリアム・バーンズ長官に、キエフとモスクワの交渉意欲を探るよう指示したという。
・キエフへの申し出は「土地と引き換えに平和を」、モスクワへの申し出は「平和と引き換えに土地を」であった。
・その「土地」は、ウクライナ領土の約20%と言われていた。それはドンバスの大きさに匹敵する。二人の政治家の報告では、両者ともこれを拒否した。ウクライナ人は領土を分割されることを覚悟していないからであり、ロシア人はどうせ長い目で見れば戦争に勝つと思い込んでいるからだ。
・これらの発言は、バーンズの出張当時のホワイトハウス内の見解を間接的に知ることができるという点で、極めて有効である。
・ドイツの外交専門家2人によると、バイデンはウクライナでの戦争の長期化を避けたいと考えており、国の一部を譲る用意があったという。
・もし、この話が本当なら、バイデンはワシントンで一人、このような態度をとることはないだろう。アメリカの著名なシンクタンクであるランド研究所の新しい研究("Avoiding a long war")は、米国にとってウクライナの「全領土の支配」を認めるよりも「長い戦争の回避がより優先される」と結論付けている。
・もしこれが本当なら、ウクライナ問題をめぐってアメリカの政権が分裂する可能性も指摘されることになる。
・一方は、ドイツ人議員2人が言うように、安全保障顧問のジェイク・サリバンとCIA長官のバーンズが立っていたのである。戦争を早く終わらせて、中国に注力できるようにしたかったのだろう。
・反対側には、アントニー・ブリンケン外相とロイド・オースチン国防相がいた。ルールに基づく平和秩序を破壊するロシアを許さず、ウクライナへの大規模な軍事支援を懇願した。
ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)によると、バーンズCIA長官はウクライナとロシアとの和平提案をしにいったというのですね。しかも、それは「土地と引き換えに平和を」、つまり、ウクライナはロシアに領土の20%を割譲するというものであり、それは昨日のエントリーで取り上げたランド研究所の「長期戦を回避するために」のレポートに沿ったものになっています。

実際、ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)の記事でもランド研究所の件の記事にもがっつり言及しています。


4.否定するホワイトハウスと否定しないクレムリン


このノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)の報道について、当然ながらアメリカは否定しました。

ホワイトハウスの国家安全保障会議副報道官のショーン・ダベット氏は、ニューズウィーク誌の取材に対し、ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)の報道は「正確ではない……CIAも同じことを言うだろう」と語り、CIA関係者も報道は「完全に誤り 」であると語っています。

一方、ロシアは国連常駐第一副代表であるドミトリー・ポリアンスキー氏は、ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)の報道について「興味深い」としながらも、「コメントできない」とコメント。ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は記者団に対し、ロシアとウクライナの交渉は 「形式上も事実上も条件が整っていないため、今は不可能だ」と述べています。

アメリカが全否定しているのに対し、ロシアは否定しないなどニュアンスが違っているところをみると、ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)の件の記事は、まったくの嘘ではないい可能性があると思います。

件の記事で、アメリカの領土割譲を条件とした停戦提案をウクライナとロシアが共に拒否したした理由として、ウクライナは領土を割譲したくないからだとし、ロシアはいずれ戦争に勝利するからだとしていますけれども、プーチン大統領は先月に行ったトルコのエルドアン大統領との電話会談で、ロシアに併合した4州をロシア領土だと認めることが交渉の条件だとの立場を示しています。

ロシアが併合宣言したウクライナ東部・南部(ドネツク州、ルガンスク州、ザポリージャ州、ヘルソン州)の対象地域面積は約11万3000平方キロで、ウクライナ全土(603700平方キロ)の約18.7%です。

これは先のアメリカの和平提案で出されたウクライナの領土の20%とほぼ同じです。ロシアにしてみれば、アメリカの和平案が本当であれば、これに乗ってもよさそうなものなのですけれども、なぜ拒否しているのか。

もちろん、戦争に勝てば、面倒な和平交渉などせずともやりたい放題できますから、勝てると考えている限り拒絶するのは当たり前でしょう。あるいは、もっと有利な条件を引き出すための駆け引きかもしれません。


5.プーチンが戦争を終わりにしたらナチは我々を殺す


ただ、筆者としては、ロシアはウクライナの体制転換まで考えているのではないかという気もしています。

それは冒頭に述べた、ウクライナの汚職撲滅といった話だけではありません。

元々、ウクライナは賄賂大国だったとされ、軍事関連会社ともいわれるエンジンの会社「モトール・シーチ」の幹部が中国から賄賂を貰い、株を大量に手放そうとしていた事件があったと言われています。

この「モトール・シーチ」社は現在国有化されていますけれども、この「モトール・シーチ」が、去年の3月に秘かにロシアと取引していたことが発覚。その音声データまで公開されています。

その会話の内容は次の通りです。
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長:何台購入するか教えてくれ……今、別の電話を使っている。分かっているよな……部品はそちら(モスクワ)に送ることができるが……クロアチア経由がいいのかモンテネグロ経由がいいのか決めてくれ……よさそうな場所があったよね。
ロシア・モスクワ企業の社長   :クロアチア、カザフスタン、キルギスでもいい。
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長:総額を計算するのでどこ経由にしたいのか決めてくれ。
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長:水力発電所と原発があるのでウクライナ側は怖がっている。
ロシア・モスクワ企業の社長   :そうだね。怖がっているよね。あなたはゼレンスキー側の味方だよね。
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長:いやいやいや、ゼレンスキー側は去っていく。ゼレンスキーを押し出して去っていく……問題ないよ、キーウでは多くの人が死んだし、彼らはおとなしくなったし……プーチンが戦争を終わりにしたら、ナチは私たちを殺すぞ……うちの敷地内でイスカンデルミサイルが着弾したが、私達は特に怒っていない。状況を理解してるからね」
この『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長の発言は、ウクライナにしてみれば、とんでもない裏切り、売国発言です。ただ、筆者が気になったのは、この社長が発言した「プーチンが戦争を終わりにしたら、ナチは私たちを殺すぞ」というくだりです。

裏切者を処罰するのは当たり前のことですけれども、ゼレンスキーが、とか政権がとかではなく「ナチ」が発言しているのですね。これは、ウクライナに「ナチ」の勢力が存在するのみならず、あるいは、ゼレンスキー政権ですら、それを止めさせ、制御することができないことを匂わせます。

プーチン大統領は、2月2日のボルドグラード演説で、ナチズムとの戦いを強調していましたけれども、もし、ウクライナに「ナチ」の勢力が幅を利かせていたとするならば、プーチン大統領は、この「ナチ」勢力の一掃をも狙っているのではないか。ゆえにアメリカの和平提案を蹴って、ウクライナ政権が膝まづくまで、戦争を続けるのではないかと思われます。

プーチン大統領はトルコのエルドアン大統領に、ロシアに併合した4州をロシア領土だと認めることが交渉の条件だと話していますけれども、そこが停戦交渉の入り口であり、もし、停戦交渉に入ったとしても、プーチン大統領はさらにウクライナにおける「ナチ」勢力の撲滅を要求するのではないかとさえ。

仮に、プーチン大統領がそう目論んでいたとして、それをひっくり返すには、ウクライナは勝利するしかありません。

ただ、戦車を提供されるとしても、春以降の話です。戦車の提供が決まった後、ゼレンスキー大統領は、戦闘機の供与も要求しています。戦闘機もくれということは、戦車を貰ってもまだ足りないということです。つまり、戦車だけでは、ウクライナが勝利するかどうかまだ分からないということです。

長期化必須のウクライナ戦争ですけれども、停戦への道はまだまだ遠いと考えておくべきではないかと思いますね。





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