中国トップがコントロールしていない「試探」とブチ切れるアメリカ

今日はこの話題です。
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1.中国の気球船団


2月8日、アメリカのジャンピエール大統領報道官は記者会見で、アメリカ本土や世界各地に飛来したとされる中国の偵察気球について「監視活動のために開発された中国の気球船団の一部だ」と述べ、アメリカ政府が同盟・友邦諸国と連絡を取り合っていると明らかにしました。

また、国防総省のライダー報道官も記者会見で、気球について、アメリカの基地を含む戦略施設の監視・偵察を目的に数年間にわたり運用されてきた大規模な偵察気球計画の一部だとし、「民間の気象研究用」とする中国政府の主張を改めて否定しています。

あるアメリカ政府関係者は「中国が行ったことは、信じられないほど古い技術を取り入れ、基本的に近代的な通信と観察能力と結びつけて、他国の軍隊に関する情報を得ようとしたことだ」と述べていますけれども、中国の偵察気球は、日本、インド、ベトナム、台湾、フィリピンなど中国が戦略的関心を持ち始めた国や地域の軍事資産に関する情報を収集してきたそうで、これらの偵察気球は、中国空軍によって一部運用されており、5大陸上で目撃されているとのことです。

先日、アメリカ本土に飛来した偵察気球は2月4日、アメリカ東海岸沖の上空で米軍機が撃墜。アメリカ政府は回収した残骸を分析し、能力や収集情報の解明を急いでいます。


2.同盟国とパートナー諸国は大きな関心を寄せている


2月6日、ウェンディ・シャーマン国務副長官は約40ヶ国の大使館から約150人を集めて中国の偵察気球に関するブリーフィングを行っており、また国務省は、共有可能な中国のスパイ行為に関する「詳細な情報」を、すべての同盟国・パートナー国のアメリカ大使館に送付したそうです。

更に、これとは別に、アメリカ当局は日本など、北京に軍事施設を狙われた国の当局者と具体的な情報を共有しはじめています。

ある政府高官は、「同盟国やパートナー諸国は、このことに大きな関心を寄せている。彼らの多くは、自分たちも脆弱であったり、影響を受けやすかったり、中華人民共和国の関心の対象である可能性があることを認識している」と述べています。

また、当局者によると、中国の長距離監視のほとんどは、軍事衛星によって行われているが、中国人民解放軍(PLA)の計画者たちは、6万から8万フィート以上の高度を飛ぶ気球を使って、民間ジェット機が飛ぶ高度の大気圏から監視を行う機会だと考えていると指摘しています。

2月4日、国防総省の高官は記者会見で中国人民解放軍(PLA)のプログラムについて西半球の他の場所で気球が運用されていることを指摘。更に、ある防衛当局高官は、「これらの気球はすべて、他国の主権を侵害した監視作戦を行うために開発された中国製(PRC)の気球群の一部である」と述べ、気球は、コースを外れた気象観測気球であるという中国の主張に対し、「それは嘘だ……中国の監視気球だ。この監視気球は意図的にアメリカとカナダを横断している。我々はそれが敏感な軍事施設を監視しようとしていたと確信している」と反論しています。

国務省高官の説明によると、アメリカ軍偵察機U2が飛行中の気球を撮影した高解像度画像を分析した結果、気球は地表の交信を傍受するアンテナを備え、「電波信号の傍受による情報収集を行う機能」を搭載。搭載装置は「明らかに諜報活動を目的としたもの」で「気象研究用」とする中国側の主張と矛盾するとしています。

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3.衛星では得られない持続性がある


これら国防総省のコメントについて、中国特別委員会の議長であるマイク・ギャラガー下院議員は、「この気球の実際の情報収集能力について悲観的に考えている人たちは、中国人民解放軍(PLA)が情報・監視目的、あるいは兵器用のプラットフォームとして気球を使うかもしれないという創造性を過小評価していると私は考える」と述べています。

ここ数年、ハワイ、フロリダ、テキサス、グアムで少なくとも4つの気球が目撃されており、4件のうち3件はトランプ政権時代に行われたものとのことです。もっとも、中国の偵察気球であることが確認されたのはごく最近のことでした。

今回の偵察気球について、バイデン大統領は、すべての機密拠点をスパイ行為から守るよう指示したのですけれども、国家安全保障会議戦略通信調整官のジョン・カービー氏は「気球の航路を追跡し、その周辺で機密活動や暗号化されていない通信が行われないようにすることができたので、これは簡単だった……同時に、中国を逆手に取り、気球に対して収集することで、中国の能力と技術についてより多くを学ぶことができた」と述べています。

一部からは、なぜ見つけ次第すぐに撃ち落さなかったのだ、という声も上がっていましたけれども、どうやら、中国の偵察気球からの通信をブロックしつつ、わざと泳がせてやって逆に偵察気球についての情報収集をしていたようです。

撃ち落された偵察気球は既に回収されていますけれども、アメリカ政府当局者によると、気球の中には電気光学センサーやデジタルカメラが搭載されており、解像度によっては非常に精密な画像を撮影することができ、無線信号や衛星通信の機能も備えていたそうです。

アメリカ軍の退役空軍中将チャーリー・ムーア氏は、気球について、「非常にゆっくりと動いている気球があれば、衛星では得られない持続性がある」と指摘していますけれども、偵察衛星は猛スピードで地球を周回するため、特定のポイントを数分しか撮影できないのに対し、気球は何時間も上空に留まることができる利点があります。


4.中国はヤバい国


今回の偵察気球事件を受け、アメリカのブリンケン国務長官は予定していた訪中を延期しましたけれども、アメリカ政府関係者は、「中国外務省は驚き、悔しがったようだ」と分析。別の政府関係者も、中国が当初、飛行船が誤って米国に迷い込んだことを遺憾に思うとの声明を発表したことについて「北京が気球の米国横断に困惑し、論争を鎮めようとしていることの表れだ」と語っています。

これら中国の反応について、防衛研究所の高橋杉雄氏は「冷戦期にはソ連もアメリカも領空侵犯をやっていた。高高度を飛ぶアメリカの偵察機が撃墜されたこともあった。それは覚悟を持ってやっていて、もちろん“てへぺろ”じゃ済まない話だ。今回、中国にはどうしても取りたい情報があったのだと思う。すぐに言い訳できるよう、準備していたはずだ。だから反応が早かった。『見つかったらヤバい』とある程度わかった上でやっていた。ただ、これまで大騒ぎになると思っておらず、油断していた部分もあると思う」とコメントしています。

更に、高橋氏は「アメリカ議会がブチ切れ状態だ……共和党と民主党の超党派から非難声明も出ている。中国が嫌がる下院議長・マッカーシー氏の台湾訪問も早い段階で行われる可能性が高まった。もう1つは、普通のアメリカ市民の中国に対する感情を変えていく可能性が高い。元々の情報はSNSだったが、その後テレビでも撃墜するまでリアルタイムで流れていた。例えとしていうと、日本の『寿司テロ動画』『特集詐欺事件のルフィ』のような感じで、気球を見ている。これまでは気にしていなかった人たちも『中国はヤバい国だ』と思うようになっている。感情は一度嫌いになってしまうと、なかなか好きには戻れない。中国自身が後になって事の重大さに気づくことになるだろう」と指摘しています。

実際、2月8日9日に行われたホワイトハウスのジャン・ピエール報道官の記者会見でも、中国の偵察気球についての質問が度重なり、アメリカ国内での関心も高いようです。

中国外務省の報道官は、アメリカが気球を打ち落としたことに対し、声明を発表。気球が「民間の無人機」であるとした上で、「アメリカ側に冷静かつ専門的、抑制的な方法で適切に対応するよう求めてきた……こうした状況の下、アメリカ側が頑迷に武力を用いたのは明らかな過剰反応だ……中国側は関連する企業の正当な権益を断固守るつもりであり、しかるべき反応に踏み切る権利を留保する」と反発しています。

これについて、アメリカ政府関係者は「中国の外交政策は常に影響力を求めており、ほとんどの状況で十分な機会がある。しかし、今回の件では、ほとんどないように見える。だから、中国が冷静沈着さを訴えるとき、彼らはほとんど選択肢を失っていると考えていい」とコメントしています。

これらをみると、中国政府は今回の偵察気球について、高橋杉雄氏が指摘するとおり、「見つかったらヤバい」とある程度準備していたものの、予想外に大騒ぎになって慌てふためいているのが本当のところなのかもしれません。


5.株洲橡胶研究設計院


では、なぜ中国は「甘い見積もり」でアメリカに偵察気球を飛ばしたのか。

これについて、日経新聞編集委員兼論説委員の中沢克二氏は、中国の安保に詳しい人物による次のコメントを紹介しています。
安保を担う部門は、外交的に発信する対外的な緊張緩和のサインなどと全く無関係に、敵側の出方を試す『試探』と呼ばれる行動を定期的にとってきた。それはトップを含む最高指導部から直接、強い中止命令が出ない限り、各部門の判断で随時、実行される。今回もその可能性がある
つまり、中国政府のトップは、安保関係部門の全ての行動を把握し、命令・指示しているわけではなく、下々の組織が”定例業務”的にそのまま実行しているだけだというのですね。なるほど、中国外務省が慌てる訳です。

中国政府は偵察気球について、民間のもの(民用)だと強調していますけれども、中沢氏は「民用という表現は、中国軍に直接、所属している飛行船ではない、という意味にすぎない」と斬って捨てています。

中国では、気象観測気球の製造は国有の中国化工の子会社、株洲橡胶研究設計院が主に手掛け、気象当局が使用する高高度観測気球の75%を生産しています。

この株洲橡胶研究設計院について、中国出身の漫画家の孫向文氏は、「この企業は人民解放軍の軍需企業です 」とこの会社のHPの画像付でツイートしています。

現在、株洲橡胶研究設計院のHPには件の画像に相当する部分は消されているようなのですけれども、アーカイブには残っていたようで、そこにある企業紹介文は次のようになっています。
China Zhuzhou Rubber Research & Design Institute Co Ltd. (中国化工株洲橡胶研究設計计院有限公司) は 1964 年に設立され、以前は「化工省ラテックス産業研究所」として知られていました。中国で最初に変換された 242 の科学研究ユニットの 1 つとして、1999 年に企業に変換され、現在は中国化工股份有限公司の科学研究所の傘下にあります。

湖南省株州市新華東路 818 号に位置するこの研究所は、54,000 平方メートルの面積をカバーし、総資産は 4,800 万元以上、年間営業収入は 6,000 万元以上です。

この研究所は、ラテックス業界で唯一の専門研究機関であり、製品開発、研究および生産ユニットをサポートする国家ラテックス製品軍、国家ラテックス製品品質監視センター、技術情報センターおよび標準化技術中心、中国気象局および気象水文局参謀総長は気象観測気球を指定した研究および生産企業であり、中国で 2つしかない観測気球製造企業の 1つです。

国立ラテックス製品品質監督検査センター、湖南省ゴムおよびゴム製品品質監督検査認可ステーション、湖南省医薬品ゴム包装材料品質検査ステーションも研究所内にあります。

研究所は、主にラテックス製品、ポリマー複合材料、および主に気象観測気球用の特殊ゴム製品の研究、開発、製造、およびテストに従事しています。主な製品とサービスには、気象観測気球、金型セット、ゴム管、特殊ゴム製品、インフレータブル広告製品、ポリマー複合材料のさまざまな仕様が含まれます。ゴムおよびゴム製品の委託検査、調停検査、製品識別および科学的研究結果の検査、技術サービス、システム認証、必須認証、製品認証コンサルティング業務、およびゴム製コンドーム関連の検査機器の開発および開発。

研究所は、武器および装備の科学研究および生産ライセンス、武器および装備の科学研究および生産レベル2の機密資格証明書を取得しています。

主力製品の気象気球は、ISO9001 品質システム認証と軍事品質システム認証に合格し、東ヨーロッパ、西アジア、東南アジア、北米、およびその他の地域に輸出されています。

研究所には、ラテックス製品、特殊ゴム製品、合成材料、工学設計を含む4つの研究機関があり、100人以上の上級専門技術者を含む180人以上の科学技術人員と、8人が国家政府の手当を享受しています。

研究所の設立以来、研究所は産業によって研究所を設立し、科学技術によって研究所を発展させ、サービスによって研究所を強化し、効率によって研究所を豊かにするという目的を主張し、300以上の科学研究プロジェクトを完了しました。 60以上の国、省、大臣の賞を受賞し、国のラテックス産業と国防建設の発展に重要な役割を果たしました。その中で、75型レーダー較正気球は、全国科学会議重要貢献賞を受賞しました。750グラムの天然ラテックス音響バルーンの開発は、国家優秀新製品賞を受賞しました。軍事支援製品は、有人宇宙船「神舟V」に使用され、人民解放軍総装備部の表彰を獲得しました。研究所が独自に開発した「新しいタイプの音響気球」の独自開発は、中国のギャップを埋め、中国気象局の科学技術開発部門の 2 等賞を受賞しました。

私たちは、勤勉で、無私で、自己規律があり、洞察力のある人々が私たちに加わり、手を取り合って、一緒にビジネスを始めることを心から歓迎します!
「武器および装備の科学研究および生産ライセンス、武器および装備の科学研究および生産レベル2の機密資格証明書を取得」とか「国のラテックス産業と国防建設の発展に重要な役割を果たし」とか「軍事支援製品は、有人宇宙船「神舟V」に使用され、人民解放軍総装備部の表彰を獲得」と、あります。

今回の偵察気球を株洲橡胶研究設計院が作ったという確証はありませんけれども、もし、株洲橡胶研究設計院が作っていたとしたら、「民用」だという言い訳は世界では通用しないと思われます。なにより、アメリカ国務省高官が、気球は人民解放軍と関係を持つ企業が製造し、さらに自社サイトで気球を宣伝、アメリカの領空など過去に飛行した際の映像も流していたと明らかにしていますから、アメリカはそれなりに証拠を握っているものと思われます。

また、ネットでは、「中国国営テレビは2018年に高高度気球が極超音速兵器を投下する実験の映像を放送し自慢していました」という動画ツイートが上がっています。中国が気球を他国本土上空に飛ばすということは、そのまま爆撃されるリスクがあるということです。

今回の事件を受け、アメリカ政府は残骸の回収や分析などを続行し、中国政府に説明責任を求め、領空の偵察に関与した中国の団体に対する制裁措置を検討する方針のようですけれども、アメリカの世論が「中国はヤバい国」と認識し、「議会のブチ切れ」が加速するのなら、それこそ半導体装置のように、スパイ用機材、あるいは気球そのものを製造できなくさせるくらいの強力な制裁を課してくるかもしれませんね。




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この記事へのコメント

  • 金 国鎮

    中国は非常に単純に考えた方がいいような気がする。
    清朝が欧米と日本によって食い荒らされていた時期の中国は満州人が支配していた。
    多くの漢人は欧米・日本と満州人の支配に立ちあがったが,後者の問題が無視されている。
    孫文も毛沢東も満州人を追い出そうとしていた。
    中国共産党はその傍系にしか過ぎない。
    中国は漢人の国であってそれ以外の民族集団は中国の民族ではない。

    欲におぼれて多数の企業が中国に入っているが、彼らがこの先中国で迎える運命に同情はしない。
    今彼らはアメリカと衝突しているが、それはアメリカのドルを欲したにしか過ぎない。
    この先私は本当の危機が中国に起こるだろう、それロシアとの衝突だ。
    ロシアは共産党の支配する国ではない、大手メディアは過剰なまでにロシアを中傷しているが
    プーチンはロシア人に信仰の自由を許している、それがどれだけ多くのロシア人に支持されているかを知れば中露関係は長くは持たない。

    今の中国で漢人支配の中国に立ち向かえるのは再び中国東北の多民族集団だけである。
    彼らは中国東北の軍の中枢であり北朝鮮の人民軍ともつながっている。
    彼らが政治的に動けば漢人支配の中国は消えていく。

    勃興する韓国の産軍共同体が彼らと政治的・軍事的に和解できるのであれば東アジアは
    アメリカ抜きでもしかするとロシアの支援のもとに再び過去の歴史を繰り返すだろう。
    2023年02月11日 12:51