中間圏の米中覇権戦争

今日はこの話題です。
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1.物体は円筒形


またしても「謎の気球」が北米で撃ち落されました。

2月12日、アメリカ国防総省のライダー報道官は声明で、アメリカ軍が中西部ミシガン州とカナダの国境にあるヒューロン湖の上空で飛行物体を撃墜したと明らかにしました。飛行物体の国籍は明らかにしていませんけれども、飛行物体が2月に北米で撃墜されるのは4つ目となります。

ライダー報道官はバイデン大統領の命令を受け、F16戦闘機が空対空ミサイル「サイドワインダー」で高度2万フィート(約6000メートル)を飛行する物体を撃墜したと説明。飛行ルートや高度が民間機に対してリスクになると判断したとしています。

アメリカ軍は2月4日に中国の偵察気球を、10日にアラスカ州の上空を飛行していた物体を撃墜していたのですけれども、今回、11日にはカナダのトルドー首相がカナダ領空を侵犯した物体の撃墜を命じ、アメリカとカナダの防衛組織が撃ち落としました。4日に撃墜された気球以外の飛行物体の正体は不明とのことですけれども、12日、チャック・シューマー米上院院内総務は、ABCテレビの取材に応じ、カナダとアラスカ上空で撃墜された2つの飛行物体について、サリバン大統領補佐官から説明を受けたとしてが気球だったという認識を示しました。一方、飛行物体の国籍については言及しませんでした。

ホワイトハウスの高官はシューマー院内総務の発言後に記者の質問に対し「中国の気球よりも大幅に小さく、全く似ていない」と述べ、残骸を回収し、分析を進める考えを示しています。

また、カナダのトルドー首相も「回収チームは地上で物体を見つけて分析しようとしている……まだ知るべきことは多い。この物体の分析は非常に重要だ」と述べています。


2.アメリカ軍の威信をかけたミッション


4日に撃ち落された気球は中国のものであることは明らかになっていますけれども、この撃墜作戦は意外にもアメリカの威信を掛けたものだったようです。

撃墜作戦には、主役となった戦闘機F-22のほかにも、空軍のF-15戦闘機や、海軍から1万トン級のタイコンテロガ級ミサイル巡洋艦「フィリピン・シー」、9500トン級のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「オスカー・オースチン」」、16000トン級のハーパーズ・フェリー級ドック型揚陸艦「カーター・ホール」などの艦艇が支援部隊として参加しました。

気球を撃墜したF-22のパイロットには、第一次世界大戦時の米陸軍の撃墜王の名前からとった「フランク01」のコールサインが付与されたそうですから、その意気込みが分かります。

この撃墜ミッションの後に、アメリカ国防総省は、この気球がトランプ前政権時代にも複数回、米本土上空を飛行していたことや、中南米、東アジア、南アジア、欧州など5大陸の各地域でも飛来が確認されている、という事実を明らかにしています。

4日の撃墜も、今回12日の撃墜にもアメリカ軍は「サイドワインダー」空対空ミサイルを使用しています。

これは一発47.2万ドル(米空軍発注額:約6230万円)にもなる高価なもので、多寡が気球一つを落すのに大袈裟ではないかという声もあります。

けれども、たとえば機銃掃射などで気球を打ち落とすのはそう簡単な話ではありません。1998年にカナダ空軍のF/A-18「ホーネット」が制御不能となった気象観測用気球の撃墜を試みたのですけれども、2機で1000発以上の射撃を行ったにも関わらず、その場で完全撃墜することはできませんでした。

撃墜失敗の理由は、気球と戦闘機の速度差がありすぎたため、逆に照準が難しかったことと、機銃弾が命中しても表面に穴が開いてガスが抜けるだけで気球自体を直接破壊することができなかったからだとされています。


3.宇宙の隙間を狙った中国


4日の中国のスパイ気球について、自民党の青山繫晴参院議員は自身の動画で興味深い指摘をしています。

というのも、中国は「宇宙の隙間」の支配を狙っているというのですね。

大気圏は地表から順に、対流圏、成層圏、中間圏、熱圏の4つに分けられます。「対流圏」というのは、地表から約10kmの高度までを指し、一般の雲が存在する範囲です。対流圏の上に、「成層圏」があり、対流圏界面から高度約50kmまでになります。成層圏にはオゾン層があります。

成層圏の上が「中間圏」と呼ばれるもので、高度約50kmから80kmの範囲になります。中間圏の大気の密度は地表付近の大気の1万分の1程度になりますけれども、大気組成はほぼ同じで、この組成を持つ大気は空気と呼ばれます。

中間圏の更に上にあるのが「熱圏」です。高度約80km以上から数百kmの範囲で、大気密度は極端に小さく、高さ450kmで地表の1兆分の1、高さ800kmでは100兆分の1です。熱圏の大気組成は空気の組成とは異なり、分子よりも原子の形で存在しています。オーロラは熱圏の最下部(高度90km~130km)で、大気の原子に太陽から飛び出した荷電粒子(陽子や電子)が衝突して発光する現象です。

そして、熱圏の上が宇宙空間になります。

青山参院議員によると、対流圏と宇宙空間はアメリカ軍が支配しているのですけれども、その間、成層圏より上の中間圏は、いわば隙間となっていて、アメリカ軍の支配の及ばない空間になっているというのですね。4日の気球は、高度1万8300メートルの中間圏を飛行していたのですけれども、中国はこの中間圏に気球と飛ばしてみせることで、この高度は中国が支配できるのだと示威行為をしてみせたのだ、と。

中国の気球はトランプ政権時代からやって来ていたとされていますけれども、そのとき撃ち落さなかったのは、正確な位置を掴めなかったため、撃ち落としたくても撃ち落せなかった。それに対して今回は気球の動きを最初からフォローしていて位置を掴んでいたために撃墜することができたのだそうです。

青山参院議員は4日の気球をF-22を出して撃墜したのは、アメリカは中間圏であっても支配できるのだ、と中国に見せつける意味があったのだと指摘しています。




4.中国も飛行物体の撃墜


2月12日、中国山東省青島市の海洋発展局は、山東半島南約60キロの海域で正体不明の飛行物体を発見して撃墜する準備をしているとして、周囲の漁船に危険回避のため注意を促す通知を出しました。漁船付近に物体が落下した場合、証拠として写真撮影するよう協力も要請したようです。

青島には、中国人民解放軍北部戦区の海軍司令部が置かれているのですけれども、市当局側は中国メディアの取材に事実関係を認めた上で「飛行物体の具体的な状況については情報に接していない」と述べてました。

なんとも都合のよく、正体不明の飛行物体なるものが中国側にも現れるものだと思いますけれども、もし、先述の青山議員の指摘が正しいとすれば、これは気球を撃墜された中国のアメリカに対するデモンストレーションの可能性が考えられます。中国も中間圏で作戦行動を取れるのだ、気球を撃墜する力はあるのだ、ということを見せておくということです。要するに、中間圏の支配権をめぐってアメリカと覇権争いをするぞ、という意思表示です。

そもそも、中国は、「超高高度の偵察型気球」を脅威と認識して、2019年にこれを撃墜する訓練を実施しています。

もっとも公開された映像にみられるパイロットの装備や背後の空の色などから、高度5万フィート(約16000m)以下と推定され、4日のアメリカ空軍の気球撃墜ミッションよりはるかに難度は低かったとされているようです。

今回の山東半島沖の飛行物体なるものとて、中国が自分で飛ばして自分で撃墜することもできる訳で、デモンストレーションであれば、自作自演でも十分です。そう考えると飛行物体の正体なんかよりも、どのくらいの高度で、どの戦闘機や武器を使って、どうやって撃ち落したかの方がずっと重要だと思われます。

もし、撃墜高度が高度1万8300メートルよりずっと低かったり、撃墜までミサイルを何発も使ったりするようであれば、中国空軍の技量はアメリカ空軍のそれ以下ということになりますから。


5.中間圏の覇権戦争は止めない


中国が山東半島沖の飛行物体を撃墜するとしたのがアメリカに対するデモンストレーションだとすると、10日以降に撃ち落された円筒形の飛行物体には何の意味があったのか。

もし、この円筒形の飛行物体が中国製だったとするならば、そこには中国の外交メッセージが含まれていると筆者は見ています。

それは、「中間圏の覇権を諦めた訳ではないが、今はアメリカと事を構えるつもりはない」というメッセージです。

先述の青山参院議員は、4日の偵察気球について、自民党の外交部会で防衛省が、気球のペイロードが5トンくらいある、と漏らしたことを自身の動画で紹介しています。

ペイロードとは、最大積載量のことで、4日の気球であれば、5トンくらいのものを運ぶことが出来るという意味になります。

青山議員はペイロードが5トンあれば、戦術核が4個くらいのせられると述べていますけれども、これが中間圏を使って本土上空に飛んでくるとなると十分脅威です。

10日以降に撃ち落された円筒形の飛行物体は軽自動車くらいの大きさで、高度も2万フィート(約6000メートル)とされています。

この大きさではとても5トンのペイロードはないでしょうし、またこの高度は対流圏で中間圏ではありません。つまり、戦術核を載せられないし、覇権争いしようと考えている中間圏でもなかった。つまり、「今は戦う意思はない」という意味だと捉えることができます。そのくせ気球だけはとばしたということは、同時に「中間圏の覇権戦争は止めない」という意思表示だと思います。

既に、宇宙の隙間を巡っての米中覇権戦争は始まっている。日本もその備えをしておくべきだと思いますね。


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