偵察気球撃墜と中国包囲網

今日はこの話題です。
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1.中国の偵察気球であることが強く推定される


2月14日、防衛省は「過去に我が国領空内で確認されていた特定の気球型の飛行物体について」という声明を出し、2019年から2021年にかけて、日本の領空内で3度にわたり確認された「気球型の飛行物体」は中国の偵察気球であることが強く推定されるとを発表しました。

その声明文は次の通りです。
1.2019年11月、2020年6月及び2021年9月のものを含め、過去に我が国領空内で確認されていた特定の気球型の飛行物体について、更なる分析を重ねた結果、当該気球は、中国が飛行させた無人偵察用気球であると強く推定されるとの判断に至りました。

2.これを受け、本件について、外交ルートを通じて、中国政府に対して、事実関係の確認を求め、今後このような事態が生じないよう強く求めるとともに、外国の無人偵察用気球等による領空侵犯は断じて受け入れられない旨を申し入れました。

3.気球であっても、我が国の許可なく領空に侵入すれば、領空侵犯となることから、防衛省としては、今後とも、外国政府の無人偵察用気球を含め、気球に対して、これまで以上に情報収集・警戒監視に努めてまいります。
更なる分析の結果中国の云々といっていますけれども、初めて見つかってからもう3年以上たっています。何を今更感が満載ですけれども、実際はとっくに分析が終わって正体が分かっていたのが、アメリカが撃墜してくれたおかげで公に発表できるうようになったところではないかと思います。


2.領空侵犯した飛行物は撃ち落せる


当然日本でも、領空内に侵入した中国の偵察気球が撃ち落せるのか話題になっていますけれども、一応政府は撃墜できるという見解を示しています。

2月7日、浜田防衛相の会見でその質問が出ています。該当部分を引用すると次の通りです。
Q:アメリカ軍が、本土上空などで飛行していた中国の気球を撃墜した件でお伺いします。自衛隊法84条では、領空侵犯に対する措置が定められていますが、日本の領空に仮に許可なく外国の気球が侵入した場合、防衛省・自衛隊としてどう対応するお考えでしょうか。また、アメリカのように撃墜する可能性があるのかも含めてお願いします。

A:外国の気球であっても、我が国の許可なく領空に侵入すれば、領空侵犯となることは変わりありません。また、国際法上、国家は領空に対して完全かつ排他的な主権を持つため、領域国は、この主権を確保するため、領空侵犯した航空機に対して、必要な措置を採ることができます。そして、対領空侵犯措置の任務に当たる自衛隊機は、自衛隊法第84条に規定する必要な措置として、武器を使用することができるというのが、従来からの政府の考えであります。個別具体的な状況にもよることから、一概にお答えすることは困難でありますが、一般論として申し上げれば、国民の生命及び財産などを守るために、必要と認める場合には所要の措置を採ることが可能と考えております。

Q:所要の措置という中には、撃墜も含まれるということですか。

A:それは今、お話にあったことでありますけれども、所要の措置を採ることが可能ということでありまして、我々その今の御指摘の点についてはですね、当然のごとく我々その生命と財産を守るためにはですね、必要なことであれば、それは実施するということだと思います。
このように浜田防衛相は自衛隊法84条に基づき武器を使用できると述べています。

ちなみに自衛隊法84条では次のように規定されています。
(領空侵犯に対する措置)
第八十四条 防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。
このように「外国の航空機による領空侵犯」に対し、自衛隊が着陸又は退去させるための「必要な措置」が取れるとなっています。

気球問題については翌週14日の会見でも質問がありました。その時のやりとりは次の通りです。
Q:アメリカが撃墜した中国の気球関連でお伺いします。仮に日本に対し飛来した場合ですね、法律上撃墜が可能かどうかというのは先週の会見でやり取りあったと思うんですけれども、技術的に可能かどうかですね、アメリカは、F-22を撃墜に使ったようですけれども、自衛隊の今の装備でですね、撃墜が可能とお考えでしょうか。

A:対領空侵犯措置の任務に当たる自衛隊機は、自衛隊法第84条に規定する必要な措置として、空対空ミサイルを発射することも含め武器を使用することができます。我が国の領空に許可なく侵入する外国の気球については、一般論として申し上げれば、国民の生命及び財産を守るために必要と認める場合には、所要の措置をとることができます。この措置をとるにあたっては、具体的な状況に即し、適切な装備品を用いることとなります。なお、今般の米国による事例においては、米軍は戦闘機から空対空ミサイルを用いて対応したものと承知をしております。
今度は領空侵犯した気球を今の自衛隊で撃ち落せるのかと質問したのですけれども、浜田防衛相は、「適切な装備品」で対応すると明言を避けました。


3.第一列島線に配備される中距離ミサイル


果たして、今の自衛隊の装備で高度2万メートルを飛行する気球を撃ち落とせるのか分かりませんけれども、近いをされる台湾有事を睨み、中国への備えは進めるべきです。

そんな中、アメリカ政府は日本列島を含む第1列島線に配備を計画している中距離ミサイルについて、日本への配備を打診していることが明らかになりました。

アメリカが開発を進める長射程極超音速兵器(LRHW)や巡航ミサイル「トマホーク」の地上発射型が候補に挙がっているとのことで。日本が反撃能力として配備を計画しているスタンドオフミサイルと合わせて、日米で中国の中距離ミサイル網を含む「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略に対抗する構えです。

配備場所はまだ未定ですけれども、日本政府関係者は「九州などが想定される」と語り、配備方式についても、インド太平洋地域を巡回するローテーション方式も含めて検討を進める方向のようです。

今のところ、米軍は中距離ミサイル開発を進め、射程2700キロ超のLRHWは2023年までに配備され、海兵隊が配備を目指す射程1600キロの地上発射型トマホークは2026年までに約100発保有する見通しです。

ただアメリカはこれら中距離ミサイルを沖縄の在日米軍に配備することは見送るそうで、関係者によれば、基地周辺など「日本国内で世論の理解を得るのが難しい」との判断も働いたとしています。


4.フィリピンが巻き込まれないシナリオは考えにくい


台湾有事への備えにアメリカは日本だけでなくフィリピンの力も借りようとしています。

2月13日、フィリピンのマルコス大統領は、日本経済新聞とのインタビューで、台湾海峡で衝突が発生した場合、アメリカ軍に軍事基地を提供するかどうか尋ねられ、「フィリピンが巻き込まれないシナリオは考えにくい……紛争が起こらないことを祈る」とした一方で、「我々は最前線にいると感じている」と述べ、アメリカとの防衛協力強化協定(EDCA)は戦闘の勃発という事態を含んでいない」としながらも、「フィリピンにとって何が良いのかを見極める必要がある」と、軍事基地提供の可能性を示唆しました。

フィリピンの首都マニラがあるルソン島の北端から台湾最南端までは約350キロしか離れていませんから、確かに「巻き込まれないシナリオ」の方が考えにくいのは確かです。

フィリピンはアメリカと2014年に結んだ防衛協力強化協定(EDCA)によりアメリカ軍の巡回駐留を可能とし、米軍とフィリピン軍との共同訓練を実施したり、フィリピン国内で弾薬や燃料を備蓄したりできるようになっています。

ただ、フィリピンはアメリカと軍事同盟を結ぶ一方で、中国との通商面での結びつきも強くあります。マルコス大統領は中国を念頭に「挑発しないよう気をつけなければならない……誰も戦争は望んでいない。軍事的にではなく外交的なプロセスを通じて問題を解決する方法を見いださなければならない」とも述べています・

また、マルコス大統領は日本の自衛隊との「合同演習を強化する」とし、日本について「我々が領海を守ることができるよう船舶や装備などあらゆる資材を提供してくれている」と評価しています。

2月9日、岸田総理は来日したマルコス大統領と首脳会談を行っています。

会談後、日比共同声明が出されていますけれども、 防衛・安全保障協力として次の9項目が挙げられています。
(b) 防衛・安全保障協力
18. 厳しさを増す地域の安全保障環境を踏まえ、両首脳は、外務・防衛閣僚会合「2+2」、外務次官級戦略対話及び外務・防衛当局間協議を含め、あらゆるレベルの二国間協議を通じた防衛・安全保障協力を強化する意図を確認した。

19. マルコス大統領は、2022年12月に発出された新たな「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」に係る岸田総理大臣の説明及びこれらの文書の策定を通じた日本の透明性に感謝し、自由で開かれた法の支配に基づく国際秩序を維持・発展することへの日本のコミットメントを歓迎した。
20. 両首脳は、人道支援・災害救援活動に係る協力を強化・円滑化するための取組の一環として、自衛隊によるフィリピン訪問のための手続を簡素化する、フィリピンにおける自衛隊の人道支援・災害救援活動に関する取決めへの署名を歓迎した。両首脳は、防衛及び軍当局関係者の教育、訓練及び相互訪問を強化・円滑化する枠組み等を通じて防衛協力を更に進展する方途を引き続き検討することで一致した。

21. 両首脳は、各国の防衛能力を強化し、相互の戦略的寄港・寄航、更なる防衛装備品・技術の移転、移転済みの防衛装備品に関する継続的な協力、能力構築支援による、安全保障協力全体を更に強化することを決意した。具体的には、両首脳は、警戒管制レーダーの移転完了と関連要員の教育のための取組を強化することを確認した。マルコス大統領は、日本の有用な防衛装備品の移転事業並びに連携、共同活動及び相互運用性を深化する可能性について言及した。

22. 両首脳はさらに、2022年12月の防衛次官級協議、同年7月の幕僚間協議、同年10月の日比防衛当局間協議を通じたものを含む二国間防衛交流の進展、米比共同演習「カマンダグ」及び「サマサマ」並びに比豪共同訓練「ルンバス」における人道支援・災害救援への自衛隊の参加、同年12月の航空自衛隊戦闘機のフィリピン共和国への派遣を始めとする航空自衛隊とフィリピン国空軍の交流を通じて、防衛上の関与が深化していることを歓迎した。また、両首脳は、日比米陸軍種ハイレベル懇談の開催を歓迎し、日比米幕僚間協議、日比米防衛実務者協議等の三か国協議や比米共同演習への自衛隊の参加を通じて、防衛交流を一層促進することにコミットした。

23. マルコス大統領は、安全保障協力を深化させることを目的とした、被供与国の軍等が裨益する新たな協力の枠組みを立ち上げるとの日本の意図を歓迎した。

24. 両首脳は、二つの海洋国家の首脳であり、インド太平洋の水域を引き続き安全で自由なものとすることへの重大な関心を共有し、南シナ海やスールー・セレベス海とその周辺の安定のため、海洋状況把握(MDA)及び国際法、特に国連海洋法条約(UNCLOS)に基づく海上法執行を強化するための取組の重要性を再確認した。両首脳は、海洋政策の調整及び事業や活動の効果的な追求のため、第五回協議が2023年第1四半期に予定されている日・フィリピン海洋協議を通じた定期的な二国間の意思疎通の重要性を確認した。

25. マルコス大統領は、海上保安に係る2017年1月の協力覚書の実施によるフィリピン沿岸警備隊に対する日本の支援を歓迎した。マルコス大統領は、フィリピン沿岸警備隊職員に対する訓練や奨学金、海上保安庁によるフィリピン沿岸警備隊の人材育成やJICA専門家の継続派遣について、岸田総理大臣に対して謝意を表明した。両首脳は、米国沿岸警備隊と連携して取り組む「サファイア」を通じたものを含む、日本の知見移転や日本のベストプラクティスの共有の強化にコミットした。
マルコス大統領は、日本製の97メートル級巡視船の母港となり得るフィリピン沿岸警備隊のスービック湾船艇支援拠点の整備、巡視船への衛星通信システム搭載といった海上法執行能力の強化のための具体的案件に満足の意を表明した。

26. 両首脳は、2025年のバンサモロ自治政府樹立に向けたミンダナオ和平プロセスの着実な実施がインド太平洋地域の平和と安定にとって重要であることを再確認した。マルコス大統領は、モロ・イスラム解放戦線(MILF)の兵士退役・武装解除、バンサモロ暫定自治政府の行政能力向上及び社会経済開発支援を含めた、和平プロセスへの日本の継続的な支援に謝意を表明した。岸田総理大臣は、和平プロセスの実質的な進展に応じて、生計向上のための職業訓練及び産業開発等の協力の促進に向けた日本の支援を強化していくことにコミットした。
結構がっつりと協力関係を深める合意内容だと思います。特に米比共同演習「カマンダグ」及び「サマサマ」や比豪共同訓練「ルンバス」に自衛隊が参加するなど、対中包囲網のフィリピンを組み込む流れです。

日本とフィリピンが台湾有事に備えるということは、台湾を北と南から挟み込む形で牽制することになりますし、第一列島線に中距離ミサイルを配備すれば、それこそミサイルの半包囲陣が出来上がります。

アメリカとフィリピンを味方に引き入れ、軍事バランスを取る。東アジアの平和維持には必要なことだと思いますね。


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