

1.老害化する前に集団自決
アメリカのイェール大学アシスタント・プロフェッサーの成田悠輔氏の集団自決発言が波紋を呼んでいます。
これは昨年2月1日、成田氏がホリエモンこと堀江貴文氏と対談したYouTube動画『【成田悠輔×堀江貴文】高齢者は老害化する前に集団切腹すればいい?成田氏の衝撃発言の真意とは』で、成田氏から飛び出した発言です。
成田氏は世代交代についての議論の際、「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」とし「(高齢の偉い人々を)1ミリも尊敬していないかのような雰囲気をみんなが醸し出すようになると、やっぱり誰しも周りに必要とされていない感をガンガン出されるとつらいと思うんで、少し世代交代につながるんじゃないか」と発言したのですね。
成田氏はこのときだけでなく、2021年12月の『ABEMA Prime』で「結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなのしかないんじゃないか。僕はこれを大真面目に言っていて、やっぱり人間は引き際が重要だと思う。別に物理的な切腹ではなくて、社会的な切腹でもいい。過去の功績を使って居座り続ける人がいろいろなレイヤーで多すぎる」と発言していますから、持論としてリスクを承知の上で発言しているのだと思います。
1年以上前の発言をなぜ、今になって騒ぎ出すのかよく分かりませんけれども、成田氏の発言を受け、SNSでは「「集団自決」発言も知ってるけど、これ「年寄りは死ね」って意味じゃなくて70代80代にもなって重要ポストにしがみつき若者の成長の芽を摘むような社会に将来はない、世代交代が必要ってことでしょ」などの肯定的意見や、「こういう乱暴で非常識なことを言う人は、まず自分が高齢になったら率先してやりますという約束してから言うべきですね」などと批判する意見など賛否両論の論争を呼んでいるようです。
この騒ぎにアメリカの『ニューヨーク・タイムズ』紙が、2月12日付の記事で、成田氏の「集団自決」「切腹」発言について「この上ないほど過激」と報道するなど海外にまで飛び火しています。
2.人の寿命は38歳
人はいくつになったら老人となるのかの定義については人によってそれぞれでしょうけれども、生物学的には意外と早く訪れることが分かってきました。
2019年12月12日付の科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」で、動物が年を取るにつれてDNAがどのように変化するかを調べたところ、DNAの変化は寿命と関連していることを突き止めたとする研究が発表されました。
今回の研究では、これまでの研究で解析され、オンラインデータベースで公開されている252のゲノム(DNAの全塩基配列)を使用し、これらのゲノムを、別のデータベースにまとめられている既知の動物の寿命と比較しました。
研究では、42の遺伝子でDNAの特殊な変化(DNAメチル化)が起きる場所に着目すれば、脊椎動物の寿命を推測することが可能だとし、世界で最も長寿な哺乳類と考えられているホッキョククジラの寿命は268年と推定。ガラパゴス諸島のピンタ島に分布していた絶滅種ピンタゾウガメの寿命は推定120年と算出しました。
実際、1971年に発見されたピンタゾウガメ最後の個体ロンサム・ジョージは、2012年に推定112歳で死亡したと記録されています。
この手法を使い、現生人類の絶滅した近縁種であるネアンデルタール人とデニソワ人の寿命を算出したところ、なんとその最大寿命はたった37.8年だったのだそうです。
同じ手法で、現生人類の「自然」寿命をDNA分析したところ、こちらも38歳。この数字は、初期の現生人類に関する複数の人類学的な推定と一致しているとのことで、現代人は、38歳よりもずっと長生きしていますけれども、これは「自然寿命」に反し、医学や生活様式の進歩によって背伸びさせた結果だということです。
つまり、生物学的には40歳以降は「老害」どころか、死んで「いない人」だということです。
3.戦国時代の世代交代
では、人は老いると全て「害」になってしまうのかというと、もちろんそんなことはありません。その人ひとりひとり違います。
要は、その人が、「害」になっているのかいないのか、誰にとっての「害」であるのかが大事だということです。
ただ、「害」になるならないは、その人の問題だけでなく、時代や環境の影響もあることには留意が必要です。
たとえば、十年一日のごとき、変化がない平和な社会であれば、深い知識と経験、そして広い人脈があればあるほど、その人は有用になると思いますけれども、それらは年齢を重ねるごとに増え、拡がっていくものです。畢竟、年をとればとるほどその有用さは増す訳で、手足や頭が衰えて少しづつその「害」が顕在化してきます。
逆に、日進月歩、秒針分歩のような変化の激しい時代や社会となると、折角蓄えた知識や経験もすぐに腐って役に立たなくなりますし、築き上げた人脈も自らを守る既得権益と化してしまうことだってあります。この場合は、年齢に関係なく気がついたら「害」になってしまっていた、なんてことがあり得ます。
戦国乱世の戦場(いくさば)では、老人と若者のどちらが生き残るかというと、若者の方が生き残る確率は高いでしょう。実際、多くの戦国大名は、嫡男が20歳くらいになると隠居を表明し、家督を譲り渡したりしていました。家を守るためです。
実際は隠居しても、権力は握ったままということが多かったようですけれども、それでも家督を譲ることで、跡目争いを抑えることができましたし、譲られた嫡男も家を背負う責任と共に成長していきます。要するに「世代交代」が盛んにおこなわれていた訳です。
けれどもそこはそれ、戦国の世、「いつ死ぬか分からない」という時代背景も働いていたと思うのですね。
4.人生100年時代の死生観
では、現代人はいつまで生きることが出来るのか。
ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授はその著書「ライフシフト 100年時代の人生戦略」で、2007年生まれの子どもの半数が、日本では107歳まで生きうることと、平均寿命世界1位の国をグラフ化すると、寿命が2年ごとに平均2~3年のペースで上昇していることの2つを示しました。
グラットン教授は、「いま80歳の人は、20年前の80歳よりも健康だ」とも述べ、長寿命により、これまでの「教育・仕事・老後」という生き方が変化し、人は「マルチステージ」の生き方をするようになると指摘しています。
グラットン教授は人生100年時代が本当にやってくると主張したのですね。
その一方、今は変化の早い時代です。技術は進歩し、社会の在り方や価値観もどんどん変化していっています。また、ここ数年の武漢ウイルスパンデミックを切っ掛けとして、世界でも日本でも超過死亡が激増。いわば、家から一歩外に出れば武漢ウイルスがうようよしている戦場(いくさば)が広がっているようなものです。ある意味、戦国の世に近いと言える訳です。
戦場(いくさば)で生き残り易いのは、体力がある若者です。当たり前ですけれども、現実でも武漢ウイルスその他による死亡率は高齢者が高くなっています。
それに加え、ロシアのウクライナ侵攻や懸念される台湾有事など、物理でもいつどこが戦場(いくさば)になるか分かりません。
先述の「ライフシフト 100年時代の人生戦略」が出版されたのは2016年ですけれども、たった5年かそこらで「人生100年時代」から、ウイルスでいつ死ぬか分からない戦国の世へと様変わりしているのが今の現実ではないかと思うのですね。
こんな時代では、年齢に関係なく、誰もがいつのまにか「老害」になってしまっている可能性がある。逆にいえば、そうならないように新しいスキルを身に着けるなりして、時代の波を乗り越えていかなければならないということです。
成田悠輔氏は世代交代のために、高齢の偉い人々を「1ミリも尊敬していないかのような雰囲気をみんなが醸し出すようになると、やっぱり誰しも周りに必要とされていない感をガンガン出されるとつらいと思うんで、少し世代交代につながるんじゃないか」と述べていますけれども、これは、「周りからの圧で老害であることを自覚させよう論」といえるのではないかと思います。
けれども、筆者はそれよりも、死生観が鍵になるのではないかと思います。
というのも、人々が、それこそ戦国の世のように「いつ死ぬか分からないのだ」という認識を強く持つようになれば、早く子供や後継者に家督を譲って、家や会社を残すようにしようという考えに傾いていくはずだからです。
40歳から先は生物学的に「余生」であるけれども、本当に「余生」だと思って生きる人が増えていけば、自然に世代交代も進んでいくのではないかということです。
周りからお前は老害だ、と無言の圧を受けて、ショックを受けてから退くのではなく、早めに家督を譲って、”長い余生”を、新しい価値観を学びやスキルを身につけていきながら、出来る範囲で社会に還元していく。そちらのほうが、まだよい社会になるのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
未亡人
私も50overですので「未亡人」になります(笑)
飯米に追われる日々なので隠居はまだできませんが、若い人の邪魔にならないようにしているところです。
なかなか難しいですけど。
失礼しました。
みどりこ
すぐにその結果が出るかは別ですが。
名乗るほどの何者
日本男児