アメリカはウクライナに戦争の重要な局面を迎えていると警告している

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2023-02-18 201400.jpg


1.NATOも同盟国も紛争当事者ではない


2月14、15日の両日、ベルギーのブリュッセルでウクライナ防衛に関するコンタクトグループ定例会合が開かれました。

NATOのストルテンベルグ事務総長は、記者会見でNATOはウクライナの紛争の当事者と見なされるのかどうか質問されると「NATOも同盟国も紛争当事者の1つではない。我々はウクライナを支持している。ウクライナは自衛しているのだ……我々はウクライナの自衛権行使を支援する権利がある」と答え、キエフへの軍事支援は紛争の進展と一体に変化している、最初はジャベリンATGMの供給が重要で、次に大砲、その後にパトリオット防空システム、その他の兵器が重要だと列挙しました。

そして「ウクライナが受け取った兵器によって、領土を返還し、解放することができることを確認しなければならない……我々は今、兵站競争の段階にある。ロシアが戦場で主導権を握る前に、弾薬、燃料、スペアパーツといった重要なニーズがウクライナに届かなければならない」と付け加えました。

まぁ、NATO自身が紛争当事者と認めてしまえばロシアと戦争になってしまいますからね。意地でも当事者ではないことにしたいのでしょうけれども、こんな質問を受けること自体、当事者ではないかと疑われる程、がっつりと噛んでいるという証左ではないかと思います。


2.ロシアは敗北した


また、アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長とオースティン国防長官は、コンタクトグループ定例会合で、ウクライナへの支援について協議していますけれども、ミリー統合参謀本部議長は、記者会見でプーチン大統領が戦争を終わらせるまで、国際社会は、防衛に必要な装備と能力でウクライナを支援し続けると述べていますから、支援を継続することを確認したのだと思われます。

もっとも、オースティン国防長官は、ウクライナへの戦闘機供与について、「航空機の問題について。私はそれについて何の発表も持っていない」と述べています。ただ、アメリカはウクライナへのあらゆる軍事物資の問題において、ポーランドを拘束することはないと強調したところを見ると、ポーランドがウクライナに航空機を供与することを妨げることはしないようです。

オースティン国防長官は、戦闘の状況において、”我々”はどこにいるのかと質問されると、「バフムートでは、非常に激しい戦闘が見られている……適切なタイミングで勢いをつけ、戦場の状況を自分たちに有利な方向に変えたい」と考えていると述べていますけれども、これだけ聞くと、今の戦況は自分達に有利ではない、と聞こえなくもありません。

一方、ミリー統合参謀本部議長は「プーチンはウクライナを迅速に撃破して、NATOの同盟を崩壊させ、罰を受けることなく行動できると考えていた。彼は間違っていた……つまり、ロシアは敗北したのだ。彼らは、戦略的、作戦的、戦術的に敗北した。ロシアは戦場で多大な代償を支払っている」と指摘しました。

ミリー統合参謀本部議長によると、コンタクトグループ会合に54ヶ国の代表が集まり、うち11ヶ国はウクライナに戦車を、22ヶ国は歩兵戦闘車両を、16ヶ国は大砲と弾薬を、さらに9ヶ国は対空設備を提供する意向を表明したと述べ、NATOはかつてないほど強力になり、ロシアは世界の除け者になったと指摘しました。

そして、ミリー統合参謀本部議長は、ロシアはウクライナより長く紛争を「持ちこたえる」ことはできないので、アメリカとその同盟国からの支援は止むことはないだろうと述べています。

ただ、ミリー統合参謀本部議長は「ロシアが軍事手段によって政治的目的を達成することはほとんど不可能だろう。ロシアがウクライナを追い越す可能性は低い。それは起こらないだろう……今年、ウクライナがロシア占領下のウクライナからロシア人を追い出すことは非常に困難だ……あり得ないと言っているわけではない。……しかし、それはとてつもなく難しい。それには本質的にロシア軍の崩壊が必要になるだろう」と、ウクライナ、ロシアどちらも軍事的目的を達成する可能性は低いと指摘しています。

ミリー統合参謀本部議長はかねてからこの認識を示していて、昨年11月16日には「ロシアがウクライナ全土を征服するという戦略目標を実現できる可能性はゼロに近い。ただ、ウクライナが軍事的に勝利することも当面ないだろう……ロシア軍は大きなダメージを受けており、政治的判断で撤退する可能性はある……交渉は、自分が強く、相手が弱い時に望むものだ。政治的解決は可能だ……戦術的な戦闘が鈍化すれば、政治解決に向けた対話の開始もあり得る」と述べています。


3.プーチンとの対話はノーだ


では、ウクライナとロシアとで交渉の機会は訪れるのか。

会見で、モスクワとキエフ間の外交交渉の時期が過ぎたかどうか尋ねられたミリー統合参謀本部議長は双方が「彼らの目的のためにかなり熱心に掘り下げられ」、交渉することを望んでいないと述べています。

昨日のエントリーで、ウクライナのゼレンスキー大統領がBBCのインタビューで、ベラルーシがロシアの攻撃中継地になるのを許せば「大きな過ち」になると警告したことを取り上げましたけれども、ゼレンスキー大統領は、同じインタビューで、交渉について触れています。

ロシアの戦術について驚いたかと問われた、ゼレンスキー大統領は「まったく価値がない」ものだったと答え、「すべてを破壊するあのやり方。ロシア兵らがそのような命令を受けたなら、同じ価値観を共有しているということだ」と切り捨て、戦争の終わり方について、「今や私たちの生存は私たちの団結だ……ウクライナは生き残りをかけて戦っている……私たちはこの道を選んだ。安全保障を望む。領土問題でのいかなる譲歩も国家の弱体化を招く……譲歩そのものが問題なわけではない。恐れる理由などない。私たちは毎日、何百万回も譲歩しながら生きている……問題は誰にするかだ。プーチンにするのか。ノーだ。信頼できないからだ。彼と対話するのか。ノーだ。信頼できないからだ」と答えています。

マスコミの記事では、ゼレンスキー大統領は、ロシアとの和平協議が実現しても領土は割譲しない考えを示した、などという見出しが打たれていたりしますけれども、インタビューの中味をみると、領土を割譲することは国家の弱体化を招くとした上で、「譲歩」自体が問題ではなく、「プーチン大統領が信頼できない」からダメだと言っているのですね。

昨年10月3日のエントリー「ウクライナのNATO加盟申請とエスカレーション・ラダー」で、筆者はグラスルのエスカレーションモデルを取り上げ、「ロシアは、核攻撃をちらつかせる6段階目の脅迫戦略、ウクライナはロシアのいうことは何一つ信用できないとする5段階目の面目失墜にあり、当事者間で合意できる段階ではなくなっている」と述べましたけれども、やはり、現在もこの段階であるように思えます。


4.アメリカはウクライナに戦争の重要な局面を迎えていると警告している


グラスルのエスカレーションモデルでは、この段階でのエスカレーションを解除するには、「外部の専門家の仲介」または「自発的または強制的な仲裁」が必要とされています。

件のエントリーで、ウクライナとロシアを仲裁出来る存在があるとすればアメリカくらいだろうと述べましたけれども、アメリカは水面下で仲裁に動いているという話も出てきています。

2月13日、ワシントンポスト紙は「アメリカはウクライナに戦争の重要な局面を迎えていると警告している」とする記事を掲載しました。

その概要は次の通りです。
・ロシアによるウクライナ侵攻から1周年を迎えようとしている今、アメリカ当局はウクライナの指導者たちに、戦争の軌道を変えるための重要な局面に直面していると伝え、アメリカとその同盟国からの武器や援助が急増する中、キエフに戦場で大きな成果を上げるよう圧力をかけている。

・ここ数ヶ月のウクライナ東部での戦争は、どちらかが優勢になることなく、ゆっくりとした展開になっている。バイデン関係者は、ロシアが攻勢をかけ、ウクライナが失われた領土を取り戻すために反攻を開始すると予想されるこの春に、重大な岐路が訪れると考えている。

・ 今後数ヶ月の重大な出来事は、先月ウクライナを訪問したジョン・ファイナー国家安全保障副顧問、ウェンディ・シャーマン国務副長官、コリン・カール国防次官らバイデン高官がすでにキエフに明言したと伝えられている。

・さらに、これらの高官が訪問する1週間前に、ウィリアム・バーンズCIA長官がウクライナを訪問した。彼はウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領に、今後数カ月のロシアの軍事計画について説明し、その緊急性を強調した。

・バイデン政権は現在、キエフに対するさらなる100億米ドルの直接予算支援の承認に向けて議会と協力しており、来週にも大規模な軍事支援策を発表し、同時期にクレムリンに新たな制裁を課すとみられている。

・本格的な戦争から1年を前に、西側諸国はロシアの独裁者ウラジーミル・プーチンに対して、ウクライナへの支援は衰えていないとの意思表示もしようとしている。

・しかし、一部の専門家は、ロシアもウクライナも当面、軍事的に決定的な優位に立つことはできないと警告している。

・バイデン氏とその側近たちは、ウクライナをできるだけ長く、全面的に支援する決意だという。しかし、彼らは、ウクライナが現在の議会の支援策を使い果たした後、政策方針が厳しくなる可能性があると警告している(早ければ今夏にも実現する可能性がある)。

・同時に、このニュースによれば、ウクライナが今後数ヶ月の間にどのように資源を集中させるべきかをめぐって、欧米の緊張が根底にあるとのことだ。

・何カ月もの間、ウクライナはドンバス東部のバフムートの防衛に多大な資源と兵力を費やしてきたことが指摘されている。しかし、アメリカの軍事アナリストは、バフムートの防衛とロシアに一時的に占領された領土を取り戻すための春の反攻を同時に行うことは非現実的であると確信している。

・アメリカは土地の解放の方がより重要だと考えている。

・アメリカ当局は、ロシアが軍を派遣する先々でウクライナが戦い続ければ、それがモスクワに有利に働くと考えている。そのため、彼らはウクライナに対し、春の反攻のタイミングと実施を優先するよう促した。特に、アメリカと欧州は、すでに戦場に出現している最も高性能な兵器を使えるようウクライナ兵を訓練しているのだから。

・バイデン政権はまた、ロシアがバクムートを占領しても「戦場での重大な戦略的転換にはつながらない」と確信している。なぜなら、「彼ら(ロシア人)が並外れた量の血と財を費やした地図上の点だから」である。

・さらに、アメリカの情報当局は、厳重に要塞化されたクリミア半島の解放は、ウクライナ軍の能力を超えていると考えている。

・同時に、バイデンの側近は、ウクライナに今後数カ月の間にできるだけ多くの領土を取り戻す機会を与えてからプーチンと話し合うという、最善の行動にこだわっているという。
このようにバイデン政権は、ミリー統合参謀本部議長と同じく。ウクライナがロシアを追い出すことは非常に困難であると見ていて、今後数ヶ月の間に「出来る限り」多くの領土を奪還させてからプーチンとの交渉に当たらせようと考えているというのですね。

2月8日のエントリー「露ウ停戦合意交渉の裏と揺れるバイデン政権」で、水面下で停戦交渉の動きがあるのではないかと述べましたけれども、ゼレンスキー大統領の発言を聞く限り、プーチン大統領との直接交渉は難しいのではないかと思います。

仮にプーチン大統領以外の信頼できる交渉相手がロシア側に登場したとしても、全ては水面下の内に進み、停戦合意が出来たとしても、その瞬間まで表に出てくることはないのではないかと思いますね。


  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント

  • 金 国鎮

    韓国は最近ポーランドに大規模な軍事兵器の輸出に成功した。
    韓国がポーランドの政治に関係すれば韓国は逆に多くを失うだろう。
    それほどヨーロッパの民族問題は複雑だ。

    ウクライナ西部は戦前ポーランド領である、西部の住民は今でも自分はポーランド人であると
    考えているかも知れない。
    ウクライナ東部のロシア系住民にはロシア語しか話せない住民がいてロシアの軍事進攻によって
    彼らは追い詰められているそうだ。プーチンにはこれが見えているのかもしれない。

    西部の住民が住民投票によってポーランドに帰属することを今のポーランドの対応を見ていると
    ポーランドは期待しているのかもしれない。そうであればポーランドの対応は理解できる。
    これはロシアの対応と同じである。

    東部のロシア系住民がロシア語の教育を受けて、ロシア人として成長していくことをプーチンだけではなくて多くのロシア人が望んでいることが何故いけないのだろうか?
    ゼレンスキー政権は彼らに何をしたのだろうか?これはウクライナの領土内でできる道をウクライナは模索したことはない。俗に言われる自冶領である。
    これだけ多くのウクライナ人が亡くなっているのはロシアの軍事侵攻のせいであるというのは
    ウクライナの政治権力が言う理屈である。
    考えられるのはゼレンスキー政権が東部のロシア系住民に対して何か強い民族的偏見を持っているようだ。アメリカとNATOが言う自由と民主主義とは相いれない考えであり、プーチンが言うネオナチの考えである。
    アメリカとNATOはゼレンスキー政権と間もなく袂を分かつだろうが、私はプーチンに期待している。これを契機にプーチンがロシアをヨーロッパとアジアの間に立ちアジアの盾となることを。
    先般のウラジオストックの東方経済フォーラムの講演会の話を読んでプーチンにはその可能性があると睨んでいる。ただ大規模な社会インフラの整備には多額の資金が必要だ。

    日本がロシアに資金を提供して、韓国がロシアと軍事協力ができれば東部ロシアと漢人支配の中国との間にくさびを打ち込める。アメリカはいずれその方向に動くだろう。
    2023年02月19日 13:10