北の大陸間弾道弾と官邸の危機意識

今日はこの話題です。
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1.北朝鮮が発射したICBM


北朝鮮が立て続けにミサイルを発射しています。

2月18日夕に発射した大陸間弾道ミサイルは、北海道渡島大島の西方およそ200キロの日本のEEZ(排他的経済水域内)の日本海に落下したと推定されていますけれども、北朝鮮がICBM級の可能性がある弾道ミサイルを発射したのは、去年11月18日以来で、今回が11回目。また北朝鮮の弾道ミサイルが日本のEEZの内側に落下したのも去年11月18日以来です。

同日防衛省は、「北朝鮮のミサイル等関連情報」として、次のように発表しています。

北朝鮮が、本日17時21分頃、平壌近郊から、1発のICBM級弾道ミサイルを、東方向に発射したことを受け、防衛省・自衛隊は、航空自衛隊第2航空団所属のF-15、航空救難団所属のU-125A、海上自衛隊第2航空群所属のP-3Cを発進させ、被害情報の収集を行いました。
その際、F-15は、今般発射された弾道ミサイルに関連していると推定されるものを空中で確認しました。

防衛省によると、今回のミサイルは通常より高角度の「ロフテッド軌道」で発射され、66分間にわたり飛行したとのことで、浜田防衛相は18日午後8時ごろ、記者団に対して説明を行っています。

それによると、18日発射のミサイルについて「飛翔軌道に基づいて計算すると、弾頭の重量などによっては、1万4000キロを超える射程となりうるとみられ、その場合、アメリカ全土が射程に含まれる……国際社会全体への挑発をエスカレートさせる暴挙であり、こうした一連の行動は、わが国や地域、国際社会の平和と安全を脅かすもので断じて容認できない」と述べ、北京の大使館ルートを通じて北朝鮮に厳重に抗議し、強く非難したと説明しました。

浜田防衛相は、北朝鮮の発射の意図を断定的に答えることは困難だとした上で「北朝鮮は累次にわたってアメリカの脅威に対抗して体制を維持するため、独自の核抑止力が必要だと主張している。核兵器の運搬手段である弾道ミサイルの開発や運用能力の向上に注力しているものと考えている」と述べています。

防衛省幹部は「昨年はミサイルの発射が相次いだが、今年に入り頻度が低くなっていた。発射の意図を丁寧に分析する必要がある」としています。

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2.突然の発射命令


北朝鮮自身も発射の事実を公表しました。

2月19日、北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは、首都平壌近郊の順安(スナン)にある国際空港で、ICBM級の「火星15型」の発射訓練を18日午後に行ったと報じ、発射の映像を公開しました。

北朝鮮がICBM級の発射訓練の実施を明らかにしたのは初めてで、朝鮮中央テレビは「致命的な核反撃能力を構築するための戦略核武力を示した」とした上で、朝鮮労働党の中央軍事委員会がすべてのミサイル部隊に対し戦闘態勢を維持するよう指示したと強調していて、3月中旬に定例の合同軍事演習を控えたアメリカと韓国を強く牽制するとともに、実験段階から実戦配備の段階に入ったと誇示するねらいがあるとみられています。

訓練は、金正恩総書記が、事前に計画を伝えずに18日午前8時に命令を下し、新設された「ミサイル総局」の指導のもと、ICBM運用部隊の中でも経験豊富な部隊によって実施されたとしています。

発射は、「ロフテッド軌道」で行われ「最高高度5768.5キロまで上昇し、989キロの距離を1時間6分55秒飛行した」としており、防衛省の発表と一致しています。


3.経済制裁解除を懇願


18日のICBM級ミサイル発射について、翌19日、朝鮮中央通信は、金与正労働党副部長の談話を発表しました。

その談話の内容は次の通りです。
金与正・朝鮮労働党中央委員会副部長の談話 
朝鮮中央通信主幹112(2023)年2月19日号

真に朝鮮半島地域情勢を懸念し、平和と安定を望むなら、すべての国々が国際平和と安全保障の重大な責任を持つ国連安全保障理事会を彼らの極悪な対朝鮮敵視政策実行機関に転落させようとする米国の強権と横暴を絶対に許してはならない。

また、正当な主権国家の自衛権を放棄させようとする米国とその追従勢力の悪質な行為を黙認してはならず、それが無駄な努力であることを知らしめなければならない。

今回も私たちの敵は根拠もなく、共和国の自主権に対する露骨な侵害行為を行った。

昼夜を問わず、いかなる脅威に備えるという口実を掲げて拡張抑止、連合防衛態勢を口走り、米国と南朝鮮が朝鮮半島地域で軍事的優勢を獲得し支配的な地位を占めようとする危険な過欲と祈りを露骨化していることは、各地域の安定を破壊し、情勢をさらに危うくしている。

米国は世界を欺き、朝鮮民主主義人民共和国に対して敵対的ではなく、対話に開放的であるというデタラメを捨て、対話の場で時間を稼ごうとする愚かな策略を放棄し、わが国の安全を脅かす一切の行動を中止し、共和国のイメージに泥を塗ることをやめ、自己の将来的な安全のためにも常に熟慮しなければならない。

南朝鮮の連中も、今のようにあたかも『勇敢無双』であるように、無分別に振る舞っていては結局にどんな災いを自ら招くようになるのかを考えてみる方がよかろう

愚か者であることに気づかせてやるが、大陸間弾道ミサイルでソウルを狙うことはないだろう。

私たちはまだ南朝鮮のものを相手にする気がない。

委任に基づき、最後に警告する。

敵の行動の一挙手一投足を注視し、私たちに対する敵対的なものには必ず相応し、非常に強力な圧倒的対応を行う。
相変わらずの物言いですけれども、中身は、アメリカに対し、経済制裁を止めてくれ、と懇願するかのような内容となっています。

実際、北朝鮮は深刻な食糧難に襲われているという話もあります。


4.餓死者続出


2月18日、韓国大統領府はこの日に開催した国家安全保障会議(NSC)で「北朝鮮では深刻な食糧難で餓死者が続出している……政権が住民の人権を無視して大規模な軍事パレードや核・ミサイル開発に執着している」と非難しています。

そして翌19日、韓国統一省関係者は、北朝鮮について「最近、餓死者が続出するなど深刻な食料難にある」との認識を示した上で、金与正党副部長の談話に対し「現在の情勢悪化の原因が自らの核・ミサイル開発にあるという点を忘れ、韓米に責任転嫁している……住民の生活と人権を度外視して挑発と脅しを続ければ、国際社会からの孤立を深めるだけだ」と批判しました。

2月6日には、韓国の聯合ニュースが北朝鮮情報筋の話として「北朝鮮の中では生活水準が比較的高いとされてきた南部の開城市で、餓死する人が続出しているようだ……近ごろ開城では毎日数十人の餓死者が出ている。厳寒も相まって暮らしが立ち行かず、自殺者も多い……金正恩国務委員長が先月2度も幹部や側近を現地に派遣し、実情を把握するとともに人々の不安をなだめようとしたが力不足だった……北朝鮮が今月後半以降に朝鮮労働党中央委員会総会を開いて農業対策を話し合うのも、こうした状況が背景にあるとみられる」と報じています。

また、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」は、北朝鮮内部情報筋の話として、中国との国境に接し、国内最大の貿易都市の新義州(シニジュ)でも、2年以上続いた国境封鎖で飢えに苦しむ人が増えているとし、新義州や道内の各地では、一家全員が飢えに苦しむ家が増加。ある人民班(町内会)では、3軒に1軒は食糧の調達が困難となっていると伝えています。

例えば、市内の石下洞(ソッカドン)の人民班では、不況で充分な収入が得られなくなったところに、度重なる勤労動員を強いられた末、5つの家族全員が意識を失った状態で発見されたなどしているとのことです。

不況の原因は、先日まで行われていた中国の極端なゼロコロナ政策で貿易がストップしてしまった影響で、当局が市場に対する締め付けを強化したことにあると見られているようです。


5.アメリカの返答は共同訓練


当然ながら、北朝鮮のミサイル発射という軍事挑発にアメリカが黙っている筈もありません。

19日、アメリカ軍と韓国軍は、空軍による共同訓練を実施したと明らかにしました。韓国の聯合ニュースによると、訓練に参加したのは、米韓両軍のあわせて10機余りで、アメリカ軍のB1爆撃機も参加。朝鮮半島西側の黄海から日本海の上空に向けて飛行し、韓国南部も通過したようです。

米韓両国は、2月22日に北朝鮮の核の脅威を想定した図上演習を行うほか、3月中旬に定例の合同軍事演習を実施することにしていて、北朝鮮に対する牽制を強めています。

また、日本の防衛省も同じく19日、航空自衛隊と米軍の航空機による共同訓練を日本海上の空域で実施したと発表しました。防衛省統合幕僚監部によると、訓練には空自のF15戦闘機3機とアメリカ軍のB1B戦略爆撃機2機、F16戦闘機4機が参加。各種の戦術訓練に臨み、あらゆる事態に対処する日米の強い意思と自衛隊と米軍の即応態勢を確認するとともに、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化したとしています。

北朝鮮が強く警戒するB1爆撃機を米韓、日韓共同訓練ともに繰り出し、しかも同日に行ったということは、日米韓の3ヶ国共同で当たるという明確なサインであり、ミサイル発射翌日に実施した/できたことは非常に重要です。


6.岸田政権の危機管理意識


ただ、筆者が気になるのは、日本の間の悪さです。

偶然かどうか分かりませんけれども、北朝鮮のICBM級ミサイル発射前日に発射予定だったH3ロケットは発射シーケンス途中で、異常検知により中止しています。その翌日に、北朝鮮がロフテッド軌道で打ち上げ、北海道から見えるくらいのところに落としてみせたのは、結果として、日本より技術は上なのだという対外的パフォーマンスにもなりました。(液体燃焼、個体燃焼それぞれの技術的困難さは別として、単純に外からみればそう見える)

そして、更に気になるのは、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した後、岸田総理が鼻の治療のため診療所を訪れていたことです。

なんでも、岸田総理は北朝鮮が弾道ミサイルを発射したおよそ20分後に、慢性副鼻腔炎の手術の経過観察などのため品川区の診療所に入りました。岸田総理は訪問先の岡山県で記者団に対し、最初にミサイル発射の報告を受けたのは、診療所に入る直前だったとしたうえで、「その後も逐次報告を受け続け、指示を行う態勢も整えていた。治療後直ちに総理大臣官邸に戻り、NSC(国家安全保障会議)の4大臣会合を開催した」と述べました。

岸田総理は対応に影響はなかったかと問われると「支障はなかったと考えている。手術後の措置をしてもらったということで、意識は絶えずしっかりしていたし、その間も横で報告を受け、私が話すことも可能だった」と答えています。

ただ、ミサイル発射20分後に報告を受けて、それでも診療所に入ったということは、入っても問題ないという判断があったということです。いくら指示できる態勢を整えていたとはいえ、日本領土に命中する心配がないと判明しない限り中々そうはいかないと思います。

浜田防衛相は、ミサイルについて日本の領域に落下したり上空を通過する可能性がなかったため、Jアラートは発出しなかったと説明していますけれども、発射後20分で日本に着弾する恐れがないと判断していたとするならば、日本にはその程度の情報収集能力があることを北朝鮮に知らせたことになります。

さらにもっと気になるのは、岸田総理が副鼻腔炎手術の経過観察に診療所を訪れる直前のタイミングで弾道ミサイルが発射されたことです。

もし、金正恩がわざとこのタイミングで発射を命じたとするのなら、官邸情報、しかも総理の行動予定が北朝鮮に筒抜けになっているということになります。

昨年12月、岸田総理は「年末キーウ訪問」を具体的に検討する極秘打ち合わせの一部が、外部に漏れたことを受け「なんで総理執務室で話した内容がすぐに外に漏れるんだ!」と怒りを露わにしたそうですけれども、総理の行動予定が北朝鮮に漏れている可能性について考えているのかどうか非常に気になります。

情報流出を考えると、そもそも、診療所から総理指示を出すなんてこと自体が問題であるようにも思います。安倍元総理や菅前総理であれば、こんなことは決してしないのではないかと思えてなりません。

政府には、危機管理体制はもとより、危機意識から見直す必要があるのではないかと思いますね。



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