ブリンケン発言と中国を挟んだ米露和平交渉

今日はこの話題です。
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1.ブリンケン・王毅会談


2月18日、アメリカのブリンケン国務長官は、中国で外交を統括する王毅政治局委員と訪問先のドイツで約1時間の会談を行いました。

アメリカ側の発表によると、会談でブリンケン国務長官は中国の気球はアメリカ本土の上空を飛行し、アメリカの主権を侵害したという認識を伝えた上で「このような無責任な行為は2度と起こしてはならない」と改めて非難した一方で、「アメリカはわれわれの価値観や利益のためには断固として立ち上がるが、中国との衝突は望んでおらず、新たな冷戦も目指していない」と、両国が対話を維持する重要性を強調しました。

一方、中国外交部は、会談はアメリカから望んだことだとした上で、王毅政治局委員は、アメリカの行為は典型的な武力の乱用であり、国際慣習と国際民間航空条約に明らかに違反しているとして、強烈な不満と厳正な抗議を表明。更に、アメリカこそが世界最大の監視・偵察国家であり、高高度気球はたびたび違法に中国上空を飛行しており、中国を中傷し、おとしめる資格はないと批判したとしています。

また、ウクライナ侵攻については、中国とロシアの関係は独立国の主権の範囲内のことだとして、アメリカの口出しや脅迫・抑え込みは受け入れないと主張。台湾についても、アメリカは「台湾独立」を支持しないという立場を実行に移すべきと要求しました。

これだけ聞くと、米中双方とも自分の主張を言い合って終わっただけのように見えます。


2.中国はロシアへの武器供与を検討している


ブリンケン国務長官は更に中国を追い立てます。

2月19日、ブリンケン国務長官はCBSに対し、中国は現在、「弾薬から兵器自体に至るまで、殺傷力のある支援を提供することを検討している……それが米中両国と米中関係に重大な問題をもたらすということを、我々は彼らに非常に明確に示した」とロシアに武器提供を検討していると批判しました。

更に、ブリンケン国務長官は同じく19日に出演したABCの番組で、バイデン大統領が、昨年3月に、ロシアに武器を供与しないよう中国の習近平国家主席に警告していたことを強調しています。

これについて、23日、NATOのストルテンベルグ事務総長がロイター通信のインタビューで、「中国からロシアへ殺傷力のある支援はまだ見られていないが、中国が検討、計画している兆候を確認している……だからこそアメリカや他の同盟国が明確に警告している。中国はロシアによる違法な戦争を支援してはならない」と呼びかけました。

また、ウクライナのゼレンスキー大統領も19日、イタリアメディアの取材に中国がロシアに武器を提供すれば重大な結果を招くと指摘。中国は「中立ではいられなくなる」として、平和実現に向けウクライナを支持すべきだと警告しています。

これに対し、中国は反発。中国外務省の報道官は20日の定例記者会見で「戦場に武器を提供し続けているのはアメリカであり中国ではない……中ロ関係についてアメリカの指図は受けない……アメリカは虚偽の情報を広めるのはやめるべきだ」とも主張しています。

3.ブリンケン発言は停戦させないため


このブリンケン国務長官の中国によるロシアへの武器供与検討発言がなぜされたのかについて、中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏は次のように述べています。
なぜブリンケンがこのような発言をしたかに関しては、ミュンヘン会議後のゼレンスキーの言葉から推測することができる。

2月20日の「ドイツの声」や、SCMP(South China Morning Post)によれば、ゼレンスキーは複数のメディアの取材に対して、以下のように回答しているという。

●中国がロシアの戦争行動を支持しないようにすることがウクライナにとって非常に重要だ。本当は中国にウクライナ側に立ってほしいが、現時点ではその可能性は低いことは承知している。

●しかしもし、中国がロシアと同盟を結ぶならば、第三次世界大戦が起こるだろう。中国はそれを分かっているはずだ。

●90年代に署名されたブダペスト備忘録に、中国も署名している。そこにはウクライナの領土保全を保証するという文章がある。したがって中国は、現在のように単に中立を維持すべきではない。

●もっとも、ロシアに対する中国の軍事援助の兆候は見られない。中国はロシアの最も重要な支援国とみなされているが、北京はこれまでのところロシアに軍事的支援を提供していないと思われる。(ゼレンスキーの回答の概略は以上)

このようにゼレンスキーは、ブリンケンが指摘するような兆候は見られないとしつつも、中国に対して「もし、中国がロシアと同盟を結ぶならば、第三次世界大戦が起こるだろう。中国はそれを分かっているはずだ」というような「警告を発する」類の発言をしたことは初めてのことで、この変化を見てハッとした。

なるほど――。

ブリンケンはゼレンスキーに何を言えば、ゼレンスキーが中国を最も嫌うかを心得ていたのか…。ウクライナの国民を殺戮する武器支援を中国がロシアに提供しているとなれば、絶対に王毅がミュンヘン会議で習近平の考え方として提唱した「和平論」には乗らないだろう。つまり、ブリンケンの発言は、ゼレンスキーが習近平が唱える「和平論」に乗らないようにすることが目的だったにちがいない。
遠藤氏はウクライナ戦争に関し、停戦に向けた動きがでる度に、アメリカがそれを邪魔してきたと、これまでの事例を列挙して、アメリカは戦争を続けさせたいのだとし、ゼレンスキー大統領の発言の変化から、今回も同じだろうと述べています。


4.中国を間に挟んだ水面下の米露和平交渉


一方、アメリカは実は裏で中国と手を握って和平交渉に動き出しているという見方もあります。

2月22日、中国の王毅共産党政治局員は、訪問先のモスクワでプーチン大統領と会談しました。ロシア大統領府の発表などによると、プーチン大統領は会談の冒頭で「両国の協力は国際情勢の安定に非常に重要だ」とし、習近平国家主席の訪露を「我々は待ち望んでおり、合意している」と述べています。

中国外務省の発表によると、王毅氏は「中露関係は第三者からの干渉や脅迫を受け入れない。中国はロシアと戦略協力を強め、両国の正常な利益を守ることを望む」と応じたとのことです。

王毅氏はドイツ・ミュンヘンでの安全保障会議で18日に演説し、「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」と題した文書を近く発表すると明らかにしました。また、王毅氏とミュンヘンで会談したウクライナのクレバ外相は21日の記者会見で、「和平案」の概要を伝えられたと明らかにし、「慎重に検討する」と述べています。

この動きに関し、自民党の青山繁晴参院議員は、先日、アメリカのバイデン大統領はキエフへ電撃訪問したことに着目し、NATOかアメリカが直接介入しない限り、ウクライナからロシア軍を叩き出すことは難しいのではないかという状況認識があり、であるが故に、バイデン大統領が直接ウクライナに出向いたのではないかと述べています。

そして、仮にゼレンスキー大統領が、到底受け入れるとは思えない内容の交渉をロシアとアメリカが中国を間に挟んでやっているのだとすると、とても、ウクライナに言える筈もなく、それが故に、表向きは米中が対立しているように、「プロレス」して見せているというのですね。

2月4日のエントリー「引かないプーチンと及び腰のランド研究所」で取り上げましたけれども、ランド研究所がウクライナ戦争の長期化をさける提言を出してきたことを考えると、この青山議員の説はあり得ると思います。

また、中国にしても、アメリカと示し合わせて、和平交渉を纏めることができれば、今度はアメリカに半導体製造装置を始めとする制裁を解除しろ、と要求することができますからね。

肝心の和平案について、中国はその詳細を公表していませんけれども、王毅氏は領土保全の尊重に対する呼び掛けや原子力関連施設の保護、生物化学兵器使用への反対が盛り込まれるとしています。また、中国の和平案について知る欧州の当局者は、和平案には停戦やウクライナへの兵器供供与の停止が含まれる見込みだとしています。

もっとも、中国の和平案について、シンガポールのラジャラトナム国際学院(RSIS)の上級研究員で中国外交政策に関する共著もあるラファエロ・パントゥッチ氏は、「中国に和平実現に向けた意思があることは疑わないが、和平案は信頼性に欠けそうだ……信頼性を持たせるためには、中国は独立した仲介役であると見なされる必要があるが、この戦争で中国は明らかに一方に偏っている」と指摘。とても楽観できる状況ではないようです。

果たして真相はどうなのか。注目したいと思います。




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