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1.ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場
2月24日、ロシアのウクライナ侵攻から1年に合わせ、中国政府は「ウクライナ問題の政治的解決に関する中国の立場」を発表しました。
その声明は次の通りです。
1. 国家の主権の尊重 国連憲章の目的と原則を含む公認の国際法は厳格に遵守されるべきであり、すべての国の主権、独立、領土保全は効果的に保護されなければならない。 すべての国は、その規模、強さ、弱さ、富、貧弱さにかかわらず平等であり、すべての当事者は、国際関係の基本的規範を守り、国際的な公正と正義を守るために協力しなければならない。 国際法は平等かつ一律に適用されるべきであり、二重基準は採用されるべきではない。具体的な停戦条件というよりは、停戦自体を呼びかけるというもので、これだけを持って停戦交渉を行う云々とはいえないと思います。
2.冷戦的な考え方を捨てること。 一国の安全保障が他国の安全保障を犠牲にして損なわれることはなく、地域の安全保障は軍事ブロックの強化や拡大によってさえも保証されることはない。 すべての国の正当な安全保障上の利益と懸念は、真剣に受け止められ、適切に対処されるべきである。 複雑な問題には単純な解決策はない。 我々は、共通、包括的、協力的かつ持続可能な安全保障の概念を堅持し、世界の長期的安全保障に焦点を当て、バランスのとれた、効果的かつ持続可能な欧州安全保障アーキテクチャの構築を促進し、他国の不安に国の安全を基づかせることに反対し、陣営間の対立の形成を防ぎ、アジアと欧州の平和と安定を共同で維持するべきである。
3.戦争を止め、停戦する。対立する戦争に勝者はいない。各当事者は合理性と自制を保ち、火に油を注ぐことを控え、対立を激化させず、ウクライナ危機のさらなる悪化、あるいは制御不能に陥ることを避け、ロシアとウクライナが互いに歩み寄ることを支持し、できるだけ早く直接対話を再開し、情勢の緩和・沈静化を徐々に促進し、最終的に全面停戦を達成することである。
4.和平交渉の開始。対話と交渉は、ウクライナ危機を打開する唯一の実行可能な方法である。危機の平和的解決に資するあらゆる努力を奨励し、支援する必要がある。 国際社会は、平和を説得し、話し合いを促進するという正しい方向を堅持し、紛争当事者が危機の政治的解決への扉を一刻も早く開くのを助け、交渉を再開するための条件を整え、プラットフォームを提供する必要がある。 中国は、この目的のために建設的な役割を果たし続けることを望んでいる。
5.人道的危機を解決することである。 人道的危機の緩和に資するすべてのイニシアチブを奨励し、支援する必要がある。人道的行動は中立・公平の原則を遵守し、人道問題の政治化を防止しなければならない。民間人の安全を効果的に保護し、紛争地域から民間人を避難させるための人道的回廊を確立すること。関連地域への人道支援を増やし、人道状況を改善し、より大きな人道危機の発生を防ぐために、迅速で安全かつ妨げられない人道的アクセスを提供すること。紛争地域への人道支援における国連の調整役を支援することだ。
6.民間人および捕虜を保護すること。 紛争当事者は国際人道法を厳格に遵守し、民間人および民間施設への攻撃を避け、女性、子どもおよびその他の紛争被害者を保護し、捕虜の基本的権利を尊重する必要がある。中国はロシアとウクライナの間の捕虜交換を支持し、すべての当事者はこの目的のためにより有利な条件を作り出すべきである。
7.原子力発電所の安全性を維持すること。 我々は、原子力発電所のような平和的な核施設への武力攻撃に反対する。 私たちは、すべての当事者に対し、原子力安全条約を含む国際法を遵守し、人為的な原子力事故を断固として回避するよう求める。 平和的原子力施設の安全・安心を推進するために、国際原子力機関(IAEA)が建設的な役割を果たすことを支持する。
8.戦略的リスクを低減すること 核兵器は使用してはならないし、核戦争も行ってはならない。 核兵器の使用や使用の威嚇に反対すべきである。 核拡散を防止し、核危機を回避する。 いかなる国においても、いかなる状況下でも、化学兵器および生物兵器の開発および使用に反対すること。
9. 食料の対外移動を保護すること。 すべての当事者は、ロシア、トルコ、ウクライナおよび国連が署名した黒海食糧輸送協定の完全かつ効果的な実施を均衡させ、この目的のために国連の重要な役割を支持すること。 中国が提案する国際食糧安全保障協力構想は、世界の食糧危機に対する実現可能な解決策を提供する。
10.一方的な制裁をやめること。 一方的な制裁と極端な圧力は、問題を解決できないだけでなく、新たな問題を生み出すことになる。 私たちは、安保理で承認されていないいかなる一方的な制裁にも反対する。 関係国は、他国に対する一方的制裁と「ロングアーム司法権」の乱用をやめ、ウクライナの危機を冷却する役割を果たし、途上国が経済発展し、生活向上するための条件を整えること。
11.産業チェーンのサプライチェーンの安定性を確保すること。 すべての当事者は、既存の世界経済システムを効果的に保護し、世界経済の政治化、道具化、 兵器化に反対すること。 危機の波及効果を緩和するために協力し、エネルギー、金融、食糧貿易、輸送における国際協力が混乱し、世界経済の回復が損なわれることを防止すること。
12.戦後復興を推進すること。 国際社会は、紛争地域の戦後復興を支援するための措置を講じるべきである。 中国は、この点において、支援を提供し、建設的な役割を果たすことを望んでいる。
2.中国と会いたいゼレンスキー
中国のこの声明を受け、ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、中国の習近平国家主席と、会談する予定であると明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は「中国はウクライナについて話し始めたが、これは良いことだと思う……しかし実際には、これらの言葉の後に何が続くのかという疑問がある。次のステップが重要だ」と述べています。
今回の中国の声明では、「すべての国の主権、独立、領土保全は効果的に保護されなければならない」と謳っているのですけれども、それがロシアやウクライナにとって何を意味するのかについては曖昧なままです。
ゼレンスキー大統領は、中国の声明について「同意できる部分もある」と述べ、習主席と会談する計画があると表明。その上で「中国による和平案ではないと思う。考え方を示しただけではないか……私は……これが私たちの国と世界の安全にとって有益であると信じている」とし、「中国と協力する……国際法や領土保全、およびいくつかの安全保障上の考慮事項に対応するアイデアがある場合に限る……しかし、それは何かだ」と述べています。
要するに、ウクライナにとって受け入れられる提案でなくてはならないと注文した訳です。
それでも、この日の記者会見で、記者団からトルコが仲介する和平交渉に出席するかどうか尋ねられると、ゼレンスキー大統領は、ノーと答え、「同じ男ではない……そこには話す相手がいない」とプーチン大統領との会談を拒否していますから、それよりはマシだとも言えます。
3.プーチンにビビる王毅
では、中国が仲介する和平案の具体的内容はどのようなものになるのか。
これについて、昨日のエントリーでも取り上げた中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏は次のように指摘しています。
2月22日、中国の外交トップ王毅氏はクレムリンでプーチン大統領と会ったが、まるで別人のようにビビっていた。そのビビリ顔からウクライナ戦争「和平案」の性格も見えるし、中露関係も見えてくる。
2月22日、中共中央政治局委員で中央外事工作委員会弁公室主任の王毅氏は、クレムリンでロシアのプーチン大統領と会談した。その時の様子は、この動画をご覧になると、つぶさに考察することができる。
ともかく第一印象は、「えっ?これが王毅?」というほど、卑屈というか、オドオドというか、もう、喩(たと)えようがないほど「ビビっている」のだ。その証拠に以下の表情をご覧いただきたい。
これを見ただけで、王毅がミュンヘン会議で「勇ましく」宣言した、習近平が提唱するところのウクライナ戦争「和平案」が、いかなる性格を持ったものであるかがうかがえるというもの。
筆者は王毅とは何度か会っており、会話も何度かしている。日本語が堪能なのだが、筆者の中国語を聞いた途端、「こんなに地道(di-dao)(本場の)中国語の発音を聞いたからには、私は日本語で話すのが恥ずかしい…」と言って、中国語で会話したことがある。したがって、王毅の表情に関しては、熟知しているつもりだ。そうでなかったとしても、普段からの、あの勇ましい表情は、どこに行ったのか? もう、会談内容など分析する必要もないほどだ。
動画をご覧になれば一目瞭然だが、プーチンが立て板に水のごとく、「自信満々に!」ひたすら喋りまくるのを、じっとオドオドしながら見ている王毅の表情を見て取ることができるだろう。
念のため写真の説明をすると、①は動画が始まってから「1:35」後のもので、②は「2:12」後のもの、③は「2:39」後のものだ。
いずれもプーチンがペラペラと喋りまくっているのを聞いているときの表情である。
①はジッと聞いているときの「自信なさそうな表情」。ポカーンとしている。
②は、プーチンが息継ぎをしたので、その間に何か一声、相づちを打とうとしたが、それが出来なかった時の表情。「あ、しまった」という表情。
③は、プーチンの喋りの中で、「そうだろ?」的な発言があったので、微笑み返そうとしたが、何せイヤホンから聞こえてくる中国語の通訳の声が、ワンテンポ遅れているので、タイミングが合わず、「お愛想笑い」になってしまった時の表情だ。
いずれにせよ、王毅はプーチンに面と向かった時に、「ビビっている」ということを如実に表しており、もう、何を話し合ったのかに関して分析する気にもなれないほどだ。
それでも念のため、何を話したのかをザックリと示すと、おおむね以下のようになる。まとめるに当たり、北京情報 およびクレムリン情報を参照した。
プーチン:
●ロシアと中国の関係は、計画通りに進んでいる。着実に進歩し、成長しており、新しいマイルストーンに到達している。特に経済プロジェクトについて言うならば、計画したよりも早く、二国間貿易の目標に達している。国際問題を解決する際には、このことが重要だ。
●現在、国際関係は複雑で、緊張が渦巻いている。しかし露中の協力関係は、国際情勢を安定させるために重要だ。われわれは、国連、国連安全保障理事会、BRICSおよび上海協力機構など、協力できることがたくさんある。
●中華人民共和国の習近平国家主席のロシア訪問に関して、私たち(プーチンと習近平)は以前に合意している。全人代(全国人民代表大会)など国内の政治的議題で、人事配置が決定したら、私たちは個人的な計画(習近平のロシア訪問)を進める。それは私たちの関係にさらなる推進力を与えるだろう。
王毅:
●現在の国際情勢は複雑で厳しいが、中露関係は国際情勢の試練に耐え、太山のように成熟し、粘り強く、安定している。危機と混沌はしばしば私たちの前に現れるが、挑戦と機会は共存している。
●新時代の調整のための中露包括的戦略パートナーシップは、第三者を標的にしたことはなく、第三者に干渉されるべきでなく、第三者に強制されてもならない。
●中国はロシアと協力して政治的相互信頼関係を維持し、両国の正当な利益を保護し、世界の平和と発展を促進する上で建設的な役割を果たす用意がある。
●対話と交渉を通してウクライナ問題を解決する意欲をロシアと再確認できたことに感謝する。中国は、この問題で建設的な役割を果たすつもりだ。
読者諸氏におかれては、「いやいや、お前、何言ってるんだ!」、「お前にそんなことを言う資格はないだろう!」と怒りに燃える気持ちが湧き上がっておられるであろうことは十分承知している。ここに書いたのは、プーチンと王毅が何をしゃべったかであって、筆者自身も「いやいや、違うのではないか?」と思うところは数多くある。しかし、ここはそれらをひとまず脇に置いて、この会話から中国が何をするかを読み取るという作業だけに留めておきたい。
ここから読み取れるのは以下のようなことだ。
◎中露は結局のところ緊密で、中国側はプーチンに畏敬の念を抱いている。
◎中国は本気で「和平案」を出そうとしている。
◎しかし、王毅のプーチンに対する迎合的な表情から見て、それはロシア側の言い分を反映した「和平案」になることが予測され、ウクライナ側やNATO側が納得するとは思いにくい性格のものになる可能性が高い。
このように遠藤誉氏は王毅氏の表情から、ロシア側の言い分を反映した「和平案」になるのではないかと指摘しています。
4.ウクライナが登った梯子の行方
実際、この中国の和平案についてロシア側は歓迎の意向を示しています。
24日、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、「中国の同志達が、平和的手段によるウクライナ紛争の解決に貢献しようとする真摯な姿勢を高く評価している……ロシアは、国連憲章の原則、人道法を含む国際法の規範、安全保障の不可分性を堅持しており、それに基づいて、一国の安全が他国の安全を損なって強化されるべきではない……中国の同志達と同様に、我々は国連安保理が許可しない制限的な措置は非合法であると考える 」とコメントしました。
ザハロワ報道官は、ロシアは政治外交チャンネルを通じて、特別軍事作戦の目的に対する解決策を模索する用意があるとし、「これは、欧米の武器や傭兵のウクライナへの供給の終了、すべての戦争行為の終了、ウクライナの非同盟状態への復帰、新しい領土の現実の承認を意味する」と、4地域の併合についての住民投票にも言及しました。
ザハロワ報道官は、ウクライナの非軍事化と非武装化を要求するほか、ロシア語を話す人々の権利の尊重を求め、ロシアに対するすべての国際的な制裁と訴訟の撤廃を要求し「我々は、この道を進むことが、完全で公正かつ安定した平和につながると確信している」と述べました。
ウクライナの非軍事化にドンバス4州の併合を認めよと、堂々と宣言しています。中国の和平案を聞いた上でこの声明が出たのだとすると、やはり中国の和平案は遠藤誉氏が指摘するように、多分にロシア側に寄った提案なのではないかと予想されます。
昨日のエントリーで触れましたけれども、もし中国の和平案が、アメリカ、ロシアと水面下で示し合わせた上で進められているとするならば、ウクライナはアメリカに梯子を外されつつあることになります。
停戦できることはよいことではあると思いますけれども、後始末の仕方によっては、アメリカの同盟国を始めとして世界各国に少なからず影響を及ぼすのではないかと思いますね。
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