ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
1.岸田総理のビデオメッセージ
5月3日、東京・砂防会館で「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が主催する「第24回公開憲法フォーラム」が行われました。
「国難迫るー急げ、憲法に国防条項、緊急事態条項の明記を!」をテーマに掲げたフォーラムには、自民党憲法改正実現本部副本部長の柴山昌彦氏、公明党憲法調査会事務局長の濱地雅一氏、日本維新の会・政務調査会会長の音喜多駿氏、国民民主党の玉木雄一郎代表らが出席しました。
フォーラムでは、岸田総理からのビデオメッセージが上映され、憲法改正への意欲が示されました。
その岸田総理のビデオメッセージの内容は次の通りです。
会場にお集まりの皆さま、また、YouTubeでライブ中継をご覧の皆さま、自由民主党総裁の岸田文雄です。第24回公開憲法フォーラムの開催を心からお慶び申し上げますとともに、憲法改正の実現に向け、それぞれのお立場で精力的に活動されている皆さまに心から敬意を表します。このように岸田総理は「憲法改正は国会が発議するものだが、最終的には主権者たる国民が国民投票で決めるものだ。国民の理解を深めていかなければならず、社会が大きく変化する今だからこそ、われわれは挑戦し続けなければならない」と憲法改正への意欲を重ねて示しています。
さて自民党は、立党以来、憲法改正を党是としてまいりました。言うまでもなく、国民主権、基本的人権の尊重、そして平和主義という基本理念は、今後も決して揺らぐことはありません。
その一方で、現行憲法も施行から75年が経過し、時代にそぐわない部分、そして不足している部分については、改正していくべきではないかと考えております。
例えば、新型コロナへの対応、あるいはロシアにおけるウクライナ侵略を受け、緊急事態への備えに対する関心が高まっています。大地震等の緊急時において、国会の機能をいかに維持していくのか。国家や国民はどのような役割を果たしていくべきなのか。
有事における迅速な対応を確保するため、こうしたことを憲法にどのように位置付けるかは、極めて重要な課題です。国民の命と安全を守るため、真剣に議論を深めていかなければなりません。また、自衛隊は、大規模災害や新型コロナ対応にも懸命に対応しており、国民の皆さまから感謝され、支持されています。それにもかかわらず、自衛隊を違憲とする声があることも事実です。
自民党では、自衛隊の明記をはじめ、緊急事態対応、合区解消および教育の充実の4項目について、憲法改正のたたき台素案を取りまとめ、お示ししています。いずれも極めて現代的な課題であり、早期の実現が求められると考えています。
国会では2月10日、今国会初めての憲法審査会が開催されました。衆議院で予算が審議されている中での憲法審査会の開催は9年ぶりのことです。その後も、憲法審査会において、憲法改正に関する議論が重ねられていることを歓迎したいと思います。
しかし、国会における議論と同時に、憲法改正に関する国民的議論を喚起し、国民の皆さまの理解を深めていかなければなりません。
憲法は日本の法典の中で唯一国民投票が規定されている法典です。憲法改正は国会が発議するものでありますが、最終的には主権者である国民の皆さまが国民投票で決めるものです。すなわち、憲法改正の主役は国民の皆さまなのです。
自民党では、憲法改正実現本部が中心となり、全国各地できめ細かに研修会、対話集会を開催していくこととしています。憲法改正の議論に国民の皆さまが主体的に参画する機会を積極的に設け、憲法改正に向けた機運をこれまで以上に高めていきたいと考えています。
憲法改正への挑戦は決して容易なものではありません。これまでも多くの先達が挑みながら到達できなかった道です。しかし、社会が大きく変化する今だからこそ、われわれは挑戦し続けなければならないのです。
本日のフォーラムが、多くの国民の皆さまが憲法改正について自らの問題として考え、大いに議論し、理解を深めていただく、そうした機会となることを心から期待しています。皆さん、共に頑張ってまいりましょう。
2.先送りできない課題
岸田総理は憲法改正について、4月19日に行われた産経新聞のインタビューでも意欲を見せています。
岸田総理は、インタビューで、「現行憲法は時代の流れの中でそぐわない部分、不足する部分が生じている。先送りできない課題だ」と2024年9月までの総裁任期中に改憲を実現することへの「強い思いはいささかも変わりない」とする一方、国民投票の実施に向けては、国会で発議に必要な「3分の2の合意を得るべく議論を深め、賛同する人を増やしていくことが重要だ」と語りました。
そして、今国会で日本維新の会と国民民主党などが公表した緊急事態条項に関する条文案については、「建設的かつ真摯な議論をされている……発議に向け、野党と合意を得るべく議論を積極的に行っていく必要がある」と話しています。
岸田総理が建設的かつ真摯な議論をしているとした維新の会と国民民主が公表した緊急事態条項に関する条文案というのは、議員任期の延長に関して新設する規定のことで、3月30日に両党と有志の会が取り纏め合意したものです。
条文案では、「いかなる緊急事態においても国会機能を維持し、権力を統制・分立すること」を基本に、緊急事態における議員任期延長の実体要件、その認定手続き、効果等を定めています。具体的には、「武力攻撃」、「内乱・テロ」、「自然災害」、「感染症のまん延」、「その他これらに匹敵する事態」の発生を前提に「広範な地域において国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難であることが明らか」な場合には、内閣の発議と3分の2の国会議決を経ることを条件に、6ヶ月を上限に任期延長を認めること等を定めています。
産経のインタビューで、衆院解散・総選挙に踏み切り、改憲を争点にするかどうかを問われた岸田総理は、「先送りできない課題に一つ一つ答えを出すことに最優先で取り組みたい」と、現時点で選挙は考えていないと述べていますけれども、こればかりは字句通りには受け取れません。
改正発議には衆参両院の総議員の三分の二以上の賛成が必要になりますからね。一応、憲法改正に賛成する自民、公明、与党系無所属、日本維新の会、国民民主の議席を足すと三分の二を超えていますけれども、これら四党の賛成・承認を得るのが前提になります。
3.高まる憲法を改正するべきだという意識
仮に、会見発議までいけたとしても、国民投票で過半数の賛成が必要になります。では、世論は憲法改正についてどう考えているのか。
読売新聞が3月7日から4月11日に実施した世論調査によれば、憲法を「改正する方がよい」は61%と、2年連続で6割台。一方、憲法を「改正しない方がよい」は、33%と、昨年と比べて賛成派と反対派の差は28ポイントに拡大しています。
また、ウクライナ侵略が憲法改正に関する意識に与えた影響を聞くと、「憲法を改正するべきだという意識が高まった」が40%で、「今の憲法を守るべきだという意識が高まった」の21%を上回り、「変わらない」は32%でした。まぁ、ウクライナをみればそう考えるのが普通です。
更に、戦力の不保持を定める9条2項を改正する必要が「ある」は51%で、「ない」は44%。戦争放棄を定めた9条1項については、改正の必要は「ない」が75%で、憲法に自衛隊の根拠規定を明記する自民党案に「賛成」は54%と「反対」の38%を上回っています。
9条1項は改正不要で、2項は改正が必要だということは、国民は、自分から戦争を仕掛けることは駄目だが、自衛のための戦力は持つべきだと判断しているということです。実に素直な反応だと思います。
そして、大災害や感染症の拡大などの緊急事態における政府の責務や権限について、「憲法を改正して、条文で明記する」が55%、「憲法は改正せず、個別の法律で対応する」が41%とやや拮抗。緊急事態の際に国会議員の任期を延長できるように、憲法に特例規定を追加することに「賛成」は73%と「反対」の23%を大きく上回っています。
これなども、緊急事態に政府がやるべきことをちゃんとやってくれるのなら、憲法でも個別の法律でもどちらでも構わないということでしょう。
4.憲法改正草案は国民の基本的人権を奪う
ただ、自民党の憲法改正草案について、認知科学者の苫米地英人博士が重要な指摘をしています。
それは、憲法の最高法規規定に関するもので、現行憲法第十章(97~99条)、改正憲法草案第十一章(101~102条)です。
現行憲法の件の条文は次の通りです。
第十章 最高法規現行憲法では憲法を国の最高法規とし、天皇陛下含め、国会議員、裁判官その他公務員は憲法を尊重し擁護する義務があるとしています。
〔基本的人権の由来特質〕
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
〔憲法尊重擁護の義務〕
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
これに対し、憲法改正草案では次のようになっています。
第十一章 最高法規現行憲法第97条で規定されている「基本的人権の由来」が削除され、国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員が「尊重し、擁護する」としていたのが「擁護する」だけになり、「尊重する」のが公務員から国民に変っています。
(憲法の最高法規性等)
第百一条 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
(憲法尊重擁護義務)
第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。
苫米地博士はこの点に関して、自民党の憲法改正草案は「国が憲法を守るもの」から『国民が憲法を守るもの』という国民の自然権を奪う内容に変わっていると指摘しています。
確かにこの指摘は気になる点です。
自然権とは人間が生まれながらにして持っているとされる権利で、国家権力をもってしても奪うことのできない最も基本的な概念・原理であるとされています。
現行憲法では、第97条で基本的人権は憲法が保障するとしているのを改正案では削除しているのですね。基本的人権という「侵すことのできない永久の権利」を憲法で保障しないとしている訳です。
人権を尊重しないという意味では、よく中国が挙げられ、世界から批判されていますけれども、その中国の憲法第53条では次のようになっています。
中華人民共和国憲法 第五十三条思いっきり、中国人民に対し、憲法を守れ、とし、国民を縛る憲法になっています。
中華人民共和国公民は、この憲法及び法律を遵守し、国家の機密を保守し、公有財産を大切にし、労働規律を遵守し、公共の秩序を守り、並びに社会の公徳を尊重しなければならない。
この意味で、自民党の憲法改正案は中国の憲法と同じになっているともいえる訳です。
岸田総理は「第24回公開憲法フォーラム」に寄せたビデオメッセージで、「憲法改正の主役は国民の皆さま」などと言っていますけれども、その内容が「国民の自然権を奪う」ものであるのなら、筆者としては、改正に全く問題ないとはいえないと思います。
自民党の憲法改正草案は「国が憲法を守るもの」から『国民が憲法を守るもの』という国民の自然権を奪う内容に変わっている。つまり、憲法改正すると国民主権から国家主権に変わり、憲法と法律の両面から『国民を国家の支配下に置くことが可能になる』と苫米地英人博士が解説。pic.twitter.com/6GUiXlmjIu
— あいひん (@BABYLONBU5TER) May 3, 2023
5.内閣支持率という改憲のハードル
では、岸田総理が意欲を見せている2024年9月までの総裁任期中に改憲することは、政治日程的に可能なのか。
国民投票法では、国会が改憲を発議した後、60~180日の間に国民投票を行うとなっています。もし、岸田総理が自民党総裁任期満了となる、来年9月末までに、改憲の国民投票を行うとなると、事実上、来年の通常国会が発議のタイムリミットになります。
これを受けて、自民党は「年内に改憲原案策定に向けた与野党協議を始めたい」との考えているそうです。
昨年12月、衆院憲法審査会は、論点整理をしたのですけれども、自民、公明、日本維新の会、国民民主、衆院会派「有志の会」の4党1会派は、緊急事態下の議員任期延長を「必要」とする立場を鮮明にしています。
ただ、自民党は改憲原案づくりには踏み出さず、憲法9条改正による自衛隊明記の是非に議論の重点を置き始めているとの指摘があります。新藤義孝政調会長代行は4月27日の衆院憲法審で、「憲法9条の論点整理」と題した独自の文書を配り、「議論を詰めたい」と訴えています。
これに対し、立民は共産党とともに論議の進展に抵抗。立民の階猛氏はこの日の衆院憲法審で、国民投票法を巡るテレビCM規制などの議論を優先すべきだと主張。「この課題を放置したまま改憲の中身の議論だけを続けることは予定するものではない」と強調しています。
改憲を進めたい自公維国の4党と、それに抵抗する"立憲共産党”との対立の構図が出来つつありますけれども、維新の会の馬場伸幸代表は、先月末のNHK番組で、「気配りは結構だが、ぼちぼち本気になって改憲項目の取りまとめを主導してほしい」と注文し、国民民主の玉木代表も「議員任期延長に絞り、あまり拡散させず、合意形成を目指すべきだ」と自民党を突き上げています。
昨年秋頃、岸田内閣の支持率が低迷していたとき、自民党の若手議員からは「改憲に割くエネルギーは首相にない」との声が漏れていたそうですけれども、昨今の支持率は回復傾向にあることから、ある閣僚経験者は「首相はやる気だ」と語っているそうです。
逆にいえば、内閣支持率が高ければ、改憲に割くエネルギーが出てくるということであり、それだけの支持率を年末まで維持できるのかどうかは、改憲に向けたハードルの一つだと見ることも出来るのかもしれませんね。
この記事へのコメント
みどりこ
何を持って「緊急事態」とするか決める権限を持っているのも政府なのですし。