予防と国防

今日はこの話題です。
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1.支持されない防衛増税


5月6日、共同通信社は安全保障に関する全国郵送世論調査の結果を公表しました。

岸田総理が表明した防衛力強化のための増税方針について「支持する」は19%で「支持しない」が80%を占めました。2023年度から5年間の防衛費を従来の1.5倍超の43兆円に増やす方針は「適切ではない」が58%。中国が台湾に軍事行動を起こし有事となる可能性を「大いに懸念する」「ある程度懸念する」が計89%に上っています。

また、他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力の保有は賛成が61%で、反対は36%。また防衛力を巡る岸田総理の説明は「十分ではない」が88%に達しました。これらの結果からは、安保環境の厳しさから一定の防衛力強化はやむを得ないが、大幅な防衛費増額や増税までは望まないという意思が示された形です。

また、増税を支持しない人に理由を聞くと「今以上の税負担に国民が耐えられない」が48%で最多。東日本大震災復興財源の一部を防衛費に転用する方針は反対が73%となっています。

共同通信は、4月29、30日に全国電話世論調査を行っていますけれども、少子化対策の財源確保のため社会保険料を増額することに「反対」とした回答は56.3%に上り、「賛成」は38.8%という結果となっています。

これらを見る限り、世論の増税に対する反発の高さが窺えます。


2.国会に届いたパワーワード


世論がこれ以上の増税に反発するのも、税負担が限界に達しているからだという指摘もあります。

4月19日、参院本会議で、一定以上の収入がある75歳以上の医療保険料引き上げを盛り込んだ「健康保険法」改正案などが審議入りしました。この中で質疑に立った維新の会の東徹議員が「上がったものといえば税金と社会保険料といった国民の負担です。国民負担率を見れば30年前が36.3%で直近では47.5%。まさしくいまや『五公五民』であり、まるで江戸時代に戻ったかのようです。政治は結果責任だとよく言いますが、この30年の結果を見れば、まさしく政治の怠慢にあたるという認識が総理にありますか?」と質問しました。

筆者は今年1月22日のエントリー「五公五民が呼んだ暇空仕事人」で、今の税負担は「五公五民」だと述べたことがありますけれども、2月になると、ツイッターで「五公五民」がトレンド入り。そして4月には国会にまで「五公五民」のパワーワードが上がりました。それだけ国民が税負担に耐えかねているということです。

この東議員の質問に対し、岸田総理は「国民負担率については、少子高齢化による社会保障給付の増大にともなって負担も増加し、給付と負担の両面において、上昇傾向が続いているものであり、受益と負担を考慮していない、江戸時代の年貢と同列に論じることは不適当であると考えています」と、それとこれでは話が違うと答えました。

この答弁に、ネットでは、「岸田さんが120%正しい」と賛同する声がある一方で、「問題はその公的サービスの中身」、「江戸時代並に国民負担率が高くても教育とか老後保障とかにきっちりと回してくれれば誰も文句言わないんだよ」、「社会保障と考えられる全てでどうみても削減されてんだけど」と、「国民負担率」が上昇しているにもかかわらず、社会保障給付が削減されたり、偏ったりしていることに不満を抱く声が多くあがりました。

4月20日には、日本経済新聞が「大企業健保、赤字5600億円超で過去最大 23年度見込み」という記事を掲載、全国およそ1400の健保組合を合算した経常収支は、2023年度に5623億円の赤字となる見通しとし、その原因として、高齢者医療への拠出金の増大があると報じています。

もっとも、これについてもネットでは、「若いうちに払っておけば高齢になった時に安く医療を受けられるはずなんだけど、今の若者世代が高齢になった時にこの制度をちゃんと維持できてるの?」、「病院に滅多に行かない人、病院嫌いな人はひたすら他人のために保険料払ってます。本当に医療が必要な方はいいんです。何の不服もありません。安心して医療を受けるべきと思います。無駄な医療、不必要な医療がたくさんあるんじゃないんですか?」など、保険給付が偏っていることを批判する声も多くあがりました。


3.限界にきた増税


防衛費や社会保障費がなぜ増大する一方なのかというと、平たく言えば、国民の生命維持に必要なコストが増大しているからです。防衛に必要となる武器や装備は年々進化し、それに対応した新しい武器装備が必要となります。また、社会保障費も高齢化によって医療費を中心に増大していくことは避けられません。

それらを解決する一つの方法は、国民の生命維持に必要なコストが増大する以上に経済成長させることです。要するに収入を増やすという方法です。失われた30年、という言葉を使うまでもなく、日本はそれに失敗しました。そこで政府は経済成長ではなく、増税でそれをカバーしてきました。

けれども、増税に対する国民の反発を見る限り、もはや増税による収入増も限界にきたとみてよいのではないかと思います。

収入が増えなければ、次にやるべきことは支出を減らすことですけれども、昨今は、これに無駄や偏りがあるのではないかと指摘され始めてきました。つまり、あまりの税負担の重さに、ようやく国民の目がここに向けられるようになってきたのではないかと思うのですね。

昨年11月、立憲民主、維新、国民民主3党は、国会議員に月額100万円支給される「調査研究広報滞在費」(旧・文書通信交通滞在費)の使途公開や未使用分の返納を含む改革を実現するための歳費法などの改正案を国会に共同提出していますけれども、その議論は遅々として進んでいません。

その理由は、自民党が実質的な収入減少につながるのを恐れて及び腰なためだと指摘されています。

「調査研究広報滞在費」は派閥活動や事務所経費への流用もあるとされ、実態は「第2の給与」とも言われています。あるベテラン議員は「領収書を添付すれば、ふさわしくない使い方が明らかになり、手取り減につながりかねない」と漏らしたそうですけれども、今の状況で「増税するが支出はノーチェック」なんてのが通用する筈もありません。

Colabo問題で明らかになってきたように、行政の無駄な支出が世の中に曝露され、注目され、叩かれています。この流れは強まりこそすれ、弱くなることはないと思います。それだけ、日本社会に余裕がなくなってきている。政治家はその実態から目を逸らしてはいけないと思います。


4.保健医療の三つの問題点


2016年11月、安倍元総理は、官邸で開いた「未来投資会議」で、「団塊の世代が75歳を迎える2025年は、すぐそこに迫っています。これに間に合うように『予防・健康管理』と『自立支援』に軸足を置いた新しい医療・介護システムを2020年までに本格稼働させます。本人が望む限り、介護が要らない状態までの回復をできる限り目指していきます」と「介護予防」という考えを打ち出しました。

介護予防とは、軽度の介護が必要な高齢者に運動や筋トレをさせて重度になるのを防ぐことで、自立支援に結びつけるというものです。

介護支援者数が減れば、その分、社会保障費も減る訳ですから、これがちゃんとできていれば、社会保障費の増大にも多少なりともブレーキがかかる筈です。

これについて、月刊誌「サライ」は、2018年3月の記事「なぜ予防医療が注目?日本の医療制度が抱える3つの深刻な問題【予防医療の最前線】」で3つの問題点があるとして次の様に述べています。
■問題点その1:医療費・社会保障費の確保が難しくなりつつある
日本では、医療や年金・介護などの財源となる「社会保障制度」は基本的に賦課方式を採用しています。これは、いま現役の人が払い込んだお金を、現在の医療に支給する仕組みです。そのため、少子高齢化による人口構造の変化に伴い、この制度を維持できる社会保障費の確保が難しくなっていきます。厚生労働省の推計によると、年金を含む社会保障給付費総額(自己負担は除く)は、2025年に150兆円に迫る見通しで、社会保障制度を維持していくには給付と負担のバランスの見直しが喫緊の課題となっています。

■問題点その2:保険医療で「予防」はほとんどカバーされていない
また、日本の医療保険制度のもとでは、提供される医療サービスは「診断」と「治療」にほぼ限定されており、予防や維持期へのサポートはほとんど整備されていないのが現状です。実際に、予防医学へは、医療費全体のほんの数%程度しか使われていません。

今後、医療費が増加していくことを考えると、このままでは予防医学や維持期の医療サービス拡大は期待できないでしょう。

■問題点その3:日本の医療が作った「世界一の寝たきり大国」
わが国の高齢者医療を取り巻く状況を端的に示すキーワードは、「寝たきり」と「社会的入院」です。

寝たきりとは一日のほとんどをベッド上で過ごしている状態とされ、厚生労働省の推計によると、寝たきりの高齢者やその予備軍は、2025年には約490万人に達すると考えられています。寝たきりは、病気や障害によって必然的にもたらされるものではなく、「寝かせきり」がいちばんの原因であることが指摘されています。これは高齢者に対する適切な介護やリハビリテーション、介護人員が不足していることを反映しているものと考えられます。

寝たきりの患者がほとんどいないとされるデンマークでは、介護施設の入居者より介護職員の数の方が多く存在します。人員不足の日本と、マンパワーで勝るデンマークの医療・介護サービスを比較すると、質・量ともに差は歴然としています。日本で寝たきりが増えてしまうのは至極当然の結果なのです。

また、社会的入院というのは、医学的には入院の適応がないにも関わらず、社会的理由(家で経過を見るのが心配、ケアする人が近くにいないから、などの理由)により長期入院を続けたり入退院を繰り返す状態です。これは病院の介護施設化を招くだけでなく、医療費増大や寝たきり助長・増悪に加担しています。
このように、日本の社会制度が破綻しかかっていることに加え、「予防」は殆ど考えられておらず、介護人員不足による「寝たきり」の増大がある、というのですね。

「サライ」はこの記事で、日本は、予防医学という考え方において、世界に遅れを取っているとし、「自分の命は自分で守る」という「予防意識」を高めることが重要だと締め括っています。


5.予防と国防


日本の保険医療では、「予防」が殆どカバーされていないと紹介しましたけれども、これは国防にも似たようなことが言えます。

病気になってから医者にいって治療する、というのは、ある意味普通なことですけれども、これを国防に当てはめれば、攻撃を受けて被害が出たから(病気になったから)、反撃してそれ以上の侵攻を食い止める(病気の進行を止める)ということに当たるかと思います。けれども、これでは被害を受けることが前提となってしまいます。

これに対し、反撃能力を保持し、攻撃する予兆があれば事前に叩けるようにする、つまり「抑止力」を持つということは、攻撃されることを未然に防ぐという意味で「予防医療」に似ています。

今の日本が平和であったのは、アメリカといういわば超優秀な「医者」と専属契約(日米同盟)を結び、その医者が持つ「予防医療」に寄り掛かっていたからです。

けれども、日本単独では、病気になっても医者に掛かってはいけない(戦力の不保持)縛りや、薬も1日分しかない(継戦能力問題)という現実を考えると、病気になったら、重症化するリスクが非常に高いことは否めません。現実には自衛隊という看護師をあてがって、医療行為はしないが、医師(米軍)の手伝いをするという体で、誤魔化しているというのが現実です。

ですから、この看護師(自衛隊)を正式な医師(九条明記)にして、医療行為を出来るようにしよう、というのが憲法改正案に入っているのですけれども、「医師にする必要はない」、とか、「医師にしたら自分が病気になる(巻き込まれ論)」とか、「医師にしたら隣人を殺してしまう(戦争する国になる論)」、といって、あっち界隈の人達が反対している訳です。

けれども、看護師が医者になったら隣人を殺す、というのはロジックとして滅茶苦茶で、それは既に、医者でなく殺人鬼とでも呼ぶべきでしょう。


6.国防における予防医学的措置


5月3日、北大西洋条約機構(NATO)が、来年、日本に連絡事務所の設置を検討していることが明らかになりました。

計画では、連絡事務所にNATO職員1人が常駐するとし、これによりNATOが日本や韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどの同地域の主要なパートナーと定期的に協議するのが可能になるとしています。

NATOは、ニューヨークの国連、ウィーンの欧州安全保障協力機構、ジョージア、ウクライナ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モルドバ、クウェートに同様の連絡事務所を持っていますけれども、日本もその列に肩を並べることになります。この事務所開設案は、今年1月末にNATOのストルテンベルグ事務総長が訪日した際に岸田首相との会談で初めて議論され、その後、NATO全加盟国に事務所の開設プロジェクトが伝えられたそうです。

これも「予防医学的」な切り口でいえば、日本がNATOというアメリカ以外の医師と予防診療契約を結ぶようなもので、病気にならないための備えを着々と進めている訳です。なんとなれば、仮に病気になったとしても「薬(弾薬)」くらいは多少融通してくれるかもしれません。

これに対し、中国外務省の毛寧報道官が翌4日の定例会見で、「アジアは協力と発展のための有望な土地であり、地政学の戦いの場であってはならない……NATOがアジア太平洋で東方拡大を進め、地域の問題に干渉し、地域の平和と安定の破壊を試み、ブロック対立を推進することについて、地域各国は高度の警戒が求められる」と、強く牽制しました。それだけ、日本の国防における予防医学的措置が効いているということです。

冒頭に取り上げた世論調査で、8割が防衛増税に反対し、9割近くが岸田総理の説明が不足していると答えたことを考えると、政府は国防について、医療でいう「治療」だけでなく「予防」という切り口でも、なにがそれで、なぜ必要になるのかをそれこそ「丁寧に説明」する必要があるのではないかと思いますね。


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