

1.茂木幹事長の少子化財源基金創設案
5月4日、自民党の茂木幹事長は、訪問先のキューバで記者団の取材に応じ、少子化対策の財源について「既存の保険料収入の活用でできる限り確保したい……国民の負担増とならない新たな方策を考えたい」として、増税や国債で財源を捻出する考えがないことを強調しました。
また、既存の保険料収入を活用する場合、「会計上の区分をしっかりした方がいい」と、基金を新たに作り、そこに拠出し活用するのが望ましいとの考えを示しています。
このニュースが報じられると、ネットでは、「結局は社会保険料の増額で賄うことに変わりはない。社会保険料は海外では「税金」扱い。まるで増税しないかのような説明だが、間違いなく増税だろう」、「何度も言っているが、若者の負担を増やせば少子化はさらに進む。なぜ、今の予算のムダの見直しや組み換えに踏み込まないのか」、「新たな基金を作れば、そこで働く新たな人件費や設備投資が必要。今以上に余分な予算が必要になる。過去の自民党政権で何度も繰り返されてきた」、「まさに天下の愚策というよりほかない。税金が基金維持のために使われ、厚労省などの天下り職員が跋扈するだけ。無駄遣いも当然、スルー。財源がないのに、なぜ、新たな財源を必要とする組織を作るのかがナゾ」など怒りの投稿が相次ぎました。
共同通信社が4月29、30日に実施した全国電話世論調査でも、少子化対策の財源確保のため社会保険料を増額することに「反対」とした回答は56.3%と、「賛成」の38.8%を大きく上回っていることを見ても、基金にしようが何をしようが保険料増額の時点で反対といわれることは目に見えています。
少子化対策の財源に保険料収入を使うことについては、内閣からも反対の声が上がっています。
7日、加藤厚労相はフジテレビの番組で、医療や年金といった既存の社会保険料収入を少子化対策の財源とすることについて、「余地はない」と否定。財源を社会保険料方式で徴収するのか、税を用いるのか、色々な意見があると指摘した上で、「どういう政策を進めていくのかも含めて、よく議論させていただきたい」と述べました。
更に翌8日午前には岸田総理も「具体的な検討を深めているところであり、今の段階で個別の財源で何か申し上げられる段階ではない」と訪問先のソウルで同行記者団の取材に答えました。
2.こども未来戦略会議
岸田総理は少子化対策について、政権の最重要課題に掲げていて、それらは政府の「こども未来戦略会議」で議論されています。財源についてもここで議論されているのですけれども、4月27日に行われた「第2回こども未来戦略会議」では、「若い世代の所得を増やすこと」「社会全体の構造・意識を変えること」「全ての子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援すること」の少子化対策の3つの基本理念をテーマとし、財源についても議論しています。
財源議論の概要は次の通りです。
【こども・子育て政策に関する財源の在り方について】ここで、財源について、「社会保険料の負担増は、現役・子育て世代の可処分所得を直撃し、消費の冷え込みにつながる。さらに、事業者負担の増加は、企業による国内投資や賃金引き上げの原資に悪影響を与えるもの。中小企業の賃上げ努力やモメンタムに水を差す政策は避けるべき。また、事業主拠出金は、負担と受益の整合性を十分に勘案し、安易に拡大すべきではない」と、社会保障費、事業者負担の増加は避けるべきであり、事業主拠出金ですら安易に拡大すべきでない、と話されています。
○ 少子化対策の充実の費用は、幅広く国民全体で負担していくことが基本であり、少子化の傾向の逆転によって、労働力の確保や消費者数の増加といったメリットを最も大きく享受するはずの企業も含めた社会全体で負担していくべき。
○ 少子化対策のための財源に関わる負担の問題は、国家国民の長期的持続性にかかわる問題、長期的有事であり、いかなる形であれ、個人か企業かを問わず、幅広く連帯的に負担し、将来世代への責任を果たすべき。
○ 今後の人口構成を考えれば、医療・介護等の社会保障費そのものの抑制が必要。また、65歳以上の高齢者が14歳以下の若者を逆に支えるという発想の転換が必要。さらに、高齢者の働く期間を延ばせば、税や保険料の収入は増加し、医療費の抑制効果も期待できる。負担能力のある高齢者が多くおられるので、負担の議論については、高齢者も含め、全世代が応能負担で支えるという考え方を基本として、様々な税財源の組み合わせも検討すべき。
○ こども・子育てを社会全体で支えていくためには、その費用を国民が広く負担していくとの考え方に立ち、徴収しやすいところから徴収するのではなく、税や財政の見直しなど、幅広い財源確保策を検討すべき。
○ 財源について、社会保険料の負担増は、現役・子育て世代の可処分所得を直撃し、消費の冷え込みにつながる。さらに、事業者負担の増加は、企業による国内投資や賃金引き上げの原資に悪影響を与えるもの。中小企業の賃上げ努力やモメンタムに水を差す政策は避けるべき。また、事業主拠出金は、負担と受益の整合性を十分に勘案し、安易に拡大すべきではない。
○ 少子化対策の財源確保のため、企業にも負担を求めることには賛成だが、一律な負担ではなく、少子化対策に協力的な企業には負担率の優遇をする一方、少子化の克服に非協力的な企業には負担率を重くすることも検討すべき。
○ 国税の一部を目的税化して、こどものために支出することは考えられないか。例えば、酒税やたばこ税、贈与税、相続税などの一部を未来のこどもたちのために使うことも一案ではないか。
茂木幹事長の社会保障費の活用やら基金やらは全否定されています。
この会議には加藤厚労相や岸田総理も出席していますから、加藤厚労相の「余地はない」発言も、岸田総理の「申し上げる段階ではない」発言も、この「こども未来戦略会議」の議論をみれば宜なるかな、といったところでしょう。
3.フランスの家族手当金庫
5月8日午後、茂木幹事長は役員会後の記者会見で、少子化対策の財源について質問され、次のように回答しています。
記者 :朝日新聞です。少子化対策の財源について、外遊先で幹事長は新たな基金について案を示されたということですが、改めてになりますけれども、この基金の狙いや現時点での具体的なイメージ、こういった基金を創設することのメリット等をお伺いします。4日の時点では「既存の保険料収入の活用でできる限り確保したい」といっていたのが、「基金というのは一つの考え方」と発言が若干トーンダウンしています。財源を社会保障費で賄う案に対する風当たりの強さを受けたからでしょうか。
茂木幹事長:少子化対策について、「骨太方針」に向け、政府・与党が連携して、政策の詳細、更には優先順位、全体の実施スケジュールの議論を深めているところでありまして、これによって、当面の、また将来にわたっての予算規模も明らかになってくる、同時にその財源の在り方も検討を進めていきたいと思っておりますが、財源をどう管理して運用していくかと、こういう観点から基金というのは一つの考え方だと、そんな風に思っておりまして、私もフランスの「家族手当金庫」とこういった事例も紹介しているところでありますが、こういった基金を創ることによって財源が明確になるのと同時に財源確保にも資するものになるのではないかなと、こんな風に考えておりますが、いずれにしても、出来る限り国民の負担増とならない新たな方策を考えてみたいと思っております。
茂木幹事長は、フランスの「家族手当金庫」という事例云々と発言していますけれども、「家族手当金庫(Caisse d'Allocations Familiales:通称CAF)」とは、フランスの子育て支援の国策3本柱のうち「育児支援サービス」と「公的補助金」の2本を担当する公的機関です。国家戦略を司るトップオフィスをパリに、給付手続きを行う独自の地方窓口をフランス全土101県に展開し、3万人以上のスタッフが働いています。手掛ける支出額は年間10兆円を超えるそうです。
では、その財源は内閣府の資料によると、「フランスの家族政策の大部分を担っている全国家族手当金庫の事業は、事業主が負担する、「賃金の5.4%分に相当する社会保障拠出金」「ほとんどすべての個人所得を課税対象とした一般社会拠出金(家族手当分1.1%)」による、その財源の大部分が賄われている」と説明されています。
要するに、社会保障費と企業拠出金です。なんのことはない、茂木幹事長は、一つの考え方だと言い訳しつつ、「保険料収入の活用」という自身の持論を繰り返しているだけという訳です。

4.減税を議論する時には財源がなぜかなくなる
前述の「こども未来戦略会議」での財源議論で、一つ筆者が注目した部分があります。次の議論です。
「国税の一部を目的税化して、こどものために支出することは考えられないか。例えば、酒税やたばこ税、贈与税、相続税などの一部を未来のこどもたちのために使うことも一案ではないか」
筆者は1月8日のエントリー「衰退した中間層と異次元の少子化対策」で、相続税、贈与税をゼロにしてやれば、高齢者から若年層への所得移転が起こるのではないかと述べたことがあります。子や孫に資産を贈与、相続することで、若年層の可処分所得を増やしてやるということです。
贈与税、相続税を目的税として少子化対策の財源にする、というのは、「こども未来戦略会議」でも議論されている「子育ては社会全体で負担するものだ」という考えがベースにあるからだと思いますけれども、筆者は「社会全体で負担するだけ」、では物足りないものを感じます。
なぜなら、一律で税を取っていくという考えには、個人の努力や成果を奪っている面があるのではないかと思うからです。
その人が一生かけて頑張って生きていくなかで、「資産」という形となって詰みあがっていく、つまり、「資産」とはその人の人生を形にしたものと見ることも出来る訳です。従って、それを子や孫や誰かに「そのまま譲ること」というのは、その人の人生を認め、称えることになると思うのですね。
それを国が贈与税や相続税だと「奪って」いくことは、その人なりの成功を貶めているのではないか。自分の生涯が形になって、そのまま残していくことが出来る。その方がよほど頑張り甲斐があるのではないかと思います。
茂木幹事長のいう基金案にせよ、少子化対策の手当にせよ、新しく組織をつくれば、またぞろ「公金チューチュー」の温床になりかねません。
政治家女子48党の浜田聡参院議員は、2022年の国会質問で「補助金を配るのは一つの政策だと思うが、取って配ることが非効率。最初から取ることを止めて減税した方が効率的だ」と発言していますけれども、その通りです。こんなことをしているから「公金チューチュー」が起こるのだと思います。
また、浜田議員は「補助金や給付金をばらまく際には財源がなぜか存在して、減税を議論する時には財源がなぜかなくなる」とも指摘していますけれども、これは、削れる予算があるか、埋蔵金を隠しているかのどちらかです。
であれば、政府は増税を口にする前に、ばら撒く際になぜか存在する財源の正体を明らかにして「公金チューチュー」の余地を全く無くすことが先ではないかと思いますね。
この記事へのコメント
yoshi
蓮舫氏の事業仕分をし、国家予算の見直しをする必要があると思います。