台湾武力侵攻慎重論と戦争確率

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2023-05-10 185500.jpg


1.四正面戦を警戒する中国世論


先月末あたりから、中国のネット上で台湾武力統一慎重論が登場して話題になっています。

この論説は、匿名で発表されたものの、各ポータルサイト上に転載され、微妙に中身を修正され、見出しのトーンもどんどん強まっていきながら拡散しているようです。

その中の一つ「台湾海峡での戦争が始まれば、中国は「四正面戦」に直面する可能性があり、我が軍は警戒しなければならない!」という論説の内容は次の通りです。
台湾と中国本土との関係は、現在の台湾当局の指導者が政権をとってから、徐々に悪化している。台湾海峡を挟んだ両者の関係は、今や矢面に立たされた状況となっている。

台湾の独立勢力は、1992年に成立したコンセンサスを認めようとしない。台湾当局の指導者は、リーダーとして、これらの行為をそもそも止められないばかりか、強く支持し、推進さえしてきた。さらに言語道断なのは、台湾当局の指導者が、台湾の人々に悪口を書き連ね、台湾海峡の両岸に対立を作り出し続けていることだ。私的に米国を訪問し、親米的で米国に頼ろうとさえしている。台湾当局の指導者の行動は、徹底的にその本性を現した。

親米になるために、台湾当局の指導者は台湾を大陸の対極へと導いたが、これはまさに米国の思う壺である。アメリカは、台湾を利用して中国の進行を封じ込めようとしてきた。米国は、中国の領土を「分割」するために、多大な労力を費やしてきた。米国高官と台湾当局の指導者との会談を実現しただけでなく、米軍高官を台湾に派遣し、台湾軍に軍事訓練を施すことさえある。

台湾と米国との間のますます攻撃的な振る舞いは、間違いなく中国の底力を試す「クレージーなテスト」である。今、台湾当局の指導者は、米国に頼って台湾を祖国の抱擁から引き離したいと考えている。これは、どの中国人も同意できないことである。

そこで、台湾の内部独立勢力と米国を牽制するために、わが軍は台湾海峡近海で、海・陸・空・ロケットなどの軍事力による大規模な軍事演習を実施した。多くの軍事専門家は、中国が軍事力で台湾を統一する気満々であることを指摘している。

しかし、中国が武力で台湾を奪還しようとする意図は、以前から聞かされていたことなので、信じて疑わない人もいるに違いない。現在の台湾の軍事力も大陸より劣っており、台湾の奪還は必至なのに、なぜそうしないのか?

台湾を取り戻す過程では、消極的な事態に直面することもある。現在、いくつかの国が台湾を気にしているので、我々の準備不足に乗じて一部の潜在的な敵対国が噛み付いてこないよう、状況を総合的に考えることが重要である。何事にも備えを怠れば、すべてを失い、さらに大きな損失を被る可能性がある。

したがって、わが軍があらゆる面で敵に対処し、圧倒することができるようになって初めて、躊躇することなく台湾の復興に尽力することができるのだ。今日の国際環境において、わが軍は4つの面で極端な戦場状況に直面する可能性がある。

〇台湾海峡方面:
台湾を回復するための中国の主要な方向として、台湾海峡は再び中国本土と台湾の間に位置する。

現在、台湾海峡は米国、日本、韓国を含む多くの国が注目している。中国が軍事行動を起こした場合、台湾軍の反撃に加え、アメリカ、日本、韓国がすべて巻き込まれる可能性がある。

軍事的な準備という点では、わが国軍はすでに「リムパック」軍事演習に多数の戦闘可能な軍隊とエリート戦闘部隊を投入している。空軍だけでも、J16、J10C、Su30の戦闘機を台湾の周辺に配備している。これは、わが国の東部戦域の戦闘態勢が完全にアップグレードされたことを示すものである。

それに比べて、台湾の陸軍は装備の大きさ、技術的優位性の点で明らかに不利である。しかし、沖縄、日本、韓国に駐留する米軍、そして米第7艦隊が侮れない軍事力であることは特筆に値する。これに加えて、日本と韓国は米国に近い。日本は台湾海峡に介入して中国の台頭を阻止しようとしているため、台湾海峡の戦争に巻き込まれることになる。

このように、わが国の東部戦域は、台湾海峡の四方で敵と対峙しているような状態だ。


〇朝鮮半島方面:
我が軍が台湾問題の解決に乗り出している間に、韓国と北朝鮮が朝鮮半島の情勢を変える機会を得る可能性は排除できない。現在の朝鮮半島情勢が安定しているのは、米国の侵略に抵抗し朝鮮を援助する戦争中に設定された国際秩序によるものである。

しかし、韓国の尹錫烈(ユン・ソクヨル)氏が就任して以来、韓国と北朝鮮との関係がおかしくなった。現在の韓国は、常にアメリカや日本に接近している。

米軍は日本に第7海軍艦隊を配備しているだけでなく、韓国にも陸軍を配備している。朝鮮半島と中国は海で隣り合っているため、米軍は強力な陸上戦力で中国や北朝鮮を抑え込みたい。そのため、韓国には第8軍集団が配備されている。在日米軍に比べ、韓国に駐留する陸上部隊ははるかに強力だ。

したがって、わが軍が台湾海峡で戦争になれば、韓国は米軍の力を借りて朝鮮半島に攻勢をかけるかもしれない。しかし、これに対してわが軍は、軍改革直後から東北地方に集団部隊を配備しており、これが米軍に対する最終兵器となる。


〇インド洋方面:
インド洋方面の紅海、スエズ運河、地中海の海路は、中国にとって重要な海外貿易ルートである。いったん戦争が始まれば、米国が戦争規模の拡大を主張し、国際道徳を無視すれば、戦争が拡大し、中国の海上エネルギールートが寸断される可能性がある。その上、毎日マラッカ海峡を渡る船のうち、一番多いのは中国だ。シーレーンが遮断されれば、長期的な貿易封鎖に直面することになる。また、中国の国内石油埋蔵量は限られているため、資源封鎖に直面することも指摘されている。

こうしてみると、経済に大きな影響を与えることは必至だ。


〇中印国境方面:
インドは、わが国にとって常に避けて通れないテーマだ。中国とインドの歴史を振り返ると、わが国が台湾海峡の問題から離れられなくなった時点で、このタイミングでインドが攻めてくるに違いないと考えがちだ。

インドのナショナリストは、常に中国を敵対視してきた。17年の東朗でのにらみ合いでは、インドが事態を拡大しないように、最前線の国境部隊を作戦準備状態に転換させたのはわが軍であった。また、インドと中国は国境巡視所や国境ポストが連動しており、武力衝突が頻発し、大規模な武力衝突も多数発生している。

このため、ここ数日、インドと中国が軍事責任者レベルの国境協議を行い、中印国境に関する紛争地が調べられている。

このように軍部とインドが対立している時に、もし軍部が台湾を武力で奪還することを表明すれば、軍部の注意が散漫になった時にインドが攻撃を仕掛けてくるかもしれない。


〇まとめ
台湾の問題は、遠大な問題である。中国は軍事力、経済的な進歩は著しいが、十分な準備もなく軽々しく手を出すべきではない。そのため、領土を統一しようという話も出ているが、軍隊は不活発なままだ。

しかし、わが軍は常に臨戦態勢にあり、戦う準備はできている。中国人民解放軍の台湾奪還への決意を信じ、近い将来、台湾が祖国の抱擁下に戻ってくることを信じている。
このように、中国軍の戦力は台湾軍より勝っているのに侵攻しないのは、そうした場合、台湾海峡、朝鮮半島、インド洋、中印国境と4正面作戦になる可能性があり、確実な勝利が約束できないからだというのですね。


2.台湾紛争抑制法案の衝撃


中国の習近平主席は台湾への武力行使を放棄せずと明言し、国際社会でも台湾有事は近いと見做されてきました。また、特に習近平政権になってから厳しい言論統制が敷かれていることは広く知られているところです。にも関わらず、習近平主席にとって都合が悪い筈の台湾武力統一慎重論が広まっているのか。

その理由について、評論家の石平氏は、3月15日、「現代ビジネス」への寄稿「実は一番痛いところを突かれたか、『台湾に侵攻したら共産党幹部とその親族の財産に制裁』の米法案に習近平政権ブチ切れ会見」で次のように述べています。
実は、この秦剛発言の1週間前の2月28日、米連邦議会下院金融委員会は台湾に関する3つの法案を圧倒的な多数で可決した。「台湾紛争抑制法案」「台湾保護法案」「台湾差別禁止法案」の3つである。いずれも中国の台湾抑圧に抗して台湾を支援し、中国の台湾侵攻を抑制するための法案であるが、その中で特に注目すべきなのは、「台湾紛争抑制法案(Taiwan Conflict Deterrence Act)」である。

というのはこの本案には、米国財務省に中国共産党幹部とその親族たちの在米資産の調査を求める条項と、米国金融機構に対し中共幹部と親族に金融サービスを提供することを禁じる条項が含まれているからである。

アメリカンボイスの中国語Webが報じたところによると、法案の提出者である下院議員フレンチ・ヒル氏は、その意図について「法案は中国共産党に次のことを知らせようとしている。台湾を危険に晒し出したら、彼らの財産状況が中国公衆の知るところとなり、彼らとその親族は厳しい金融制裁を受けるのであろう」と語っているという。

つまり、この「台湾紛争抑制法案」が成立すれば、中国共産党政権が台湾侵攻に踏み切った場合、共産党幹部とその親族たちの米国での隠し資産が白日の元に公開されてしまうだけでなく、その資産が制裁の対象となって凍結・没収される可能性もあるのである。そして、これを持って中国共産党の台湾侵攻を阻止する狙いの法案であろう。

もちろんそれは、中国共産党に対して大変な威力のある「戦争阻止法案」となろう。共産党政権を支える高官たちの大半(もっといえばほとんど)が米国に隠し資産を持っていることは「公開の秘密」でもある。それが米国の法律によって凍結・没収される危険性が生じてくると、共産党幹部集団にとっての死活問題となるからである。

2021年7月26日、中国の謝鋒外務次官は中国の天津でシャーマン米国務副長官と会談したが、その中で謝外務次官は、「やめて欲しいことのリスト」を米国側に手渡したことは明るみになっている。

そしてリストの筆頭にあるのは、実は「中国共産党員とその親族に対する入国ビザの制限」とのことである。共産党の幹部たちは米国に「虎の子」の財産を持ち、彼らと彼らの親族の米国入国に対する制限は政権全体にとっての大問題となっているからこそ、それは米国に「やめてほしいこと」のリストの筆頭に上がったわけであるが、このことは逆に、中国共産党政権のアキレス腱がどこにあるのかを暴露している。

したがって、前述の「台湾紛争抑制法案」が米国の国内法として成立すれば、中国共産党政権の高官たちは、自分たちの財産を守るために習主席の企む「台湾併合戦争」を、全力を挙げて妨害し、阻止しなければならない。それはまさしく「法案」の狙うところである。

もちろんそれでは習主席と習政権は大変窮地に立たされることとなる。法案が法律として成立した後で台湾併合戦争を強行すれば、軍幹部を含めた共産党政権の幹部集団のほぼ全員を敵に回してしまうし、彼らによる様々な形での妨害を受けることも予想される。極端の場合、幹部たちの集団的反乱を招く可能性もある。

しかし台湾併合をそのまま断念してしまえば、習主席にとっては歴史的な大敗退であって自らの権威失墜と政権の弱体化を招きかねない。まさに「進も地獄退くも地獄」なのである。

だからこそ、前述の法案が米国議会下院の金融委員会で可決された直後から、習主席自身と秦外相は激しい言葉で異例の対米批判し、「米国側がブレーキを踏まないで誤った道に従って暴走すれば、(米中関係は)必然的に衝突と対抗に陥る」との前代未聞の警告まで秦外相の口から吐かれたのである。

彼がここでいう米国側の「暴走」とは、まさに「台湾紛争抑制法案」の金融委員会可決と今後の法律化への動きであると理解できよう。
石平氏は、アメリカが成立を目指している「台湾紛争抑制法案」が成立すれば、中国が台湾侵攻した場合、共産党幹部とその親族たちのアメリカでの隠し資産が公開され、凍結・没収される可能性があるため、それが抑止力になっているというのですね。

そして、石平氏は自身の動画で、中国共産党の幹部達は、この「台湾紛争抑制法案」に危機感を覚え、自身の財産を守るためにネットを利用して厭戦ムードを作り出すことで習近平主席の台湾戦争を内部から妨害する意図があるのではないか、と指摘しています。




3.ジレンマに陥いる中国当局


また、石平氏とは別に、中国共産党政府は、台湾武力統一に湧きたつ中国世論を沈静化させることを意図したのだという分析もあります。

日経新聞の編集委員兼論説委員の中沢克二氏は5月10日の論説記事「『台湾で戦争』と信じる中国民衆、戦狼効果に慌てる当局」で次のように述べています。
・武力統一慎重論はもはやタブーではない、というのが新しい。それどころか、長い間、削除されず残っていることから、検閲当局が容認しているのは明らか。いや、むしろ慎重論を一定の範囲で広げる意図が中国上層部にあるとみてもよい。
・プーチンのウクライナでの失敗を、中国共産党が絶対に放棄しない台湾武力統一での失敗の可能性に重ねているのだ。
・中国が今後、生きてゆく道を真剣に考えている官僚、そして中枢にいる軍人らの一部が「今すぐ台湾武力統一に踏み切るのは、極めて危うい」と率直に考えているフシがある。
・「米国との戦い」を吹聴する戦狼外交官らの勇ましい言葉もあって、中国内では、一般民衆の間でも「早期の台湾武力統一もありうべし」という世論が盛り上がりつつある。
・中国が放棄しない台湾武力統一という選択肢。これが簡単ではない、いや、極めて難しいと身をもって知っているのが、当事者たる中国の軍や安全保障の専門家らだ。ここは、ひとまず、あおられて必要以上に盛り上がった世論を鎮静化させる必要があった。
・このまま「戦時体制」の雰囲気が強まれば、習指導部にとっても戦略的な選択肢が狭まってしまう。成功に最も重要なのは、やるのか、やらないのか、そして、いつやるのか曖昧なままにしておくことでもある。意外性が重要なのだ。
・「戦争間近」の雰囲気が続けば、その真偽とは関係なく、外資の中国進出に歯止めがかかってしまう。中国から外への資産流出もあるだろう。その場合、再び先行きが不透明になった中国経済にも多大な影響が出る。
・この雰囲気を一時的に和らげるには、一定の理論的な説明も要る。その時、厳しい国際情勢の説明に効果的と考えたのが、「四面作戦」なる用語だった。こういう見方が成り立つ。
このように中沢氏は、これまでの宣伝が効きすぎて「いまにも台湾で戦争が始まる」と信じ始めた中国の一部民衆をみて、ビビった中国政府が、コントロール不能に陥る前に沈静化させようとジレンマに陥っていると指摘しています。


4.話あえば戦争を防げるデータはない


中沢氏によると、中国世論を宥めるために理論的説明として「四面作戦」なる用語を持ち出したと述べているのですけれども、果たして、この四正面作戦が台湾侵攻の足枷になるのか。

2022年10月、嘉悦大学教授の高橋洋一氏と、元経産官僚で政治・経済アナリストの古賀茂明氏が対談をしているのですけれども、これに関連した興味深い議論が交わされています。該当部分を引用・編集すると次の通りです。
――安倍政権の政治的レガシーとして、アベノミクスとともによく言われるのが安全保障・外交での成果です。一定の条件のもとでの集団的自衛権行使を可能とする安保法制の制定など、安倍元首相が成しとげた仕事は多い。ただ、こちらもアベノミクス同様、評価は人によってまちまちです。

高橋 2015年にできた安保法制は大きい。日本が戦争を仕掛けられるリスクを確実に減らした。私の言い方で言えば、「戦争確率を減らした」と言えます。私がプリンストン大学で金融財政以外に学んだことがもうひとつあって、それが「国家が戦争する確率をどうすれば減らすことができるか?」というもの。その条件は大別すると、①仮想敵国が民主主義国であるかどうか、②自国が同盟を結んでいるかどうか、③仮想敵国との軍事的均衡がとれているかどうか、の3つです。民主主義国同士が戦争をする確率は低いし、同盟を結んでいると戦争を仕掛けられるリスクは減る。また軍事力が周辺国などとアンバランスになっていない状況では戦争になることは少ないという研究データがあるんです。それで私は「この3つの条件を整備して行けば、日本の安全の確率は高まりますよ」と、安倍さんに伝えた。同盟の要素のひとつが集団的自衛権で、その行使を可能にした安保法制によって日米同盟はさらに強くなった。強い国と組んでいれば、戦争を仕掛けられる確率は減ります。だから、安保法制はまちがいなく、安倍さんの功績でしょう。

古賀 ぼくの評価はまったく逆。たしかに、学問としてみれば、確率論的には高橋さんの言う通りでしょう。でも、それは一般論に過ぎない。ひとつひとつのケースには、それぞれ全く異なる事情があることを捨象している。例えば、同盟の相手であるアメリカがどんな国かという視点が抜け落ちている。アメリカって世界で一番戦争を起こしてきた国ですよ。それも湾岸戦争のように、時にはフェイクニュースまで流して戦争を仕立て上げてきた。ぼくは台湾有事を心配しています。米中が戦争になれば、安保法制によって自衛隊も参戦する可能性が高い。すでにそれを前提にした議論さえ始まっている。米中戦争になれば、中国も自衛隊や国内にある米軍基地を攻撃せざるを得ない。好戦的なアメリカと同盟しているからこそ、逆に日本を危険にしている。安倍さんがやったことはそういうことなんです。

高橋 だけど、ウクライナを見れば、やはり同盟は必要じゃないですか? だって、バイデンが「ウクライナには米軍を派遣しない」と明言した直後に、ロシアはウクライナに攻め込んだんですよ。アメリカがしっかりとウクライナにコミットメントすると宣言していれば、プーチンは戦争を決断しなかったかもしれない。仮にアメリカが戦争好きのイカれた国だったとしても、そこと組んでいれば、少なくともそのイケれた国に攻め込まれるリスクはなくなる。国際政治では善人なんて誰もいないと考えるべきなんです。どこの国も自国の利益が大切なの。それに世界で一番強いアメリカと同盟を組んでいれば、それだけで他国から攻められるリスクは減る。戦争に関する統計データでもそのことは実証されてますよ。安倍さんはリアリストだから、安保法制でアメリカとの同盟強化が日本の安全に寄与すると合理的に判断したんだ。「安保法制が戦争確率を高めるならどうしますか」と安倍さんに聞いたことがあるが、「高めるなら提案しない」といっていた。

古賀 高橋さんは同盟の強化が日本の安全につながると考えているようだけど、僕は別の手立てがあると考えています。台湾有事に限って言えば、それは中立。たとえば台湾有事の際に、中国が日本を攻撃しないと約束するなら、日本にある基地を米軍に使わせないとか、そうした中立的な立場を日本が堅持すると中国に信用させることができれば、日本が戦争になる確率はかなり減るはずです。中立だという相手に攻め込んで世界から批判されるようなことを中国がするはずはない。今、日本にとって必要なことはアメリカと一緒に戦うために防衛費を倍増させるのでなく、まずは外交力で「米軍に日本にある基地を利用させないで中立に徹するのであれば、絶対に日本に攻め込まない」と中国に約束させたり、バイデン米大統領を「日本は戦争だけは御免だ、日本が攻められない限り戦争には参加しない。台湾有事は起こしてはいけない」と粘り強く説得することじゃないですか。

高橋 日本が中立とはまさにお花畑論。話あえば戦争を防げるというデータはないし、リアルな国際政治の現場でそんなことを信じている人もいません。国際政治はお花畑論でなく、リアルなことが重要というのは過去データや現場では国際的に決着済み。今回のウクライナへのロシアの侵攻で、スウェーデンとフィンランドが従来の中立を放棄しNATO加盟を言い出したのはその証拠。安倍さんは国際外交の場では尊敬されていた。トランプ大統領とサシで話ができる数少ない国家首脳だったし、G7でも各国のトップが安倍さんを頼りにしていた。日本の総理大臣であんなに存在感のある人はこれまでいなかったと思うよ。
筆者は、高橋教授のいうとおり、古賀氏の論は、まさに「お花畑論」だと思います。「中立だという相手に攻め込んで世界から批判されるようなことを中国がするはずはない」だなんて、何処をみたらそういう見解になるのかさっぱり理解できません。


5.戦争確率を決める三つの条件


高橋教授は古賀氏との対談で、2015年にできた安保法制によって、日本が戦争を仕掛けられるリスクを減らした、すなわち「戦争確率を減らした」と述べていますけれども、高橋教授は、この戦争確率の研究で、過去250年分、5~600件にも及ぶ戦争についてのデータを調べたのだそうです。

その結果、「仮想敵国が民主主義国であるかどうか」、「自国が同盟を結んでいるかどうか」、「仮想敵国との軍事的均衡がとれているかどうか」の3つの条件が戦争確率に影響すると結論づけています。

まず、最初の「仮想敵国が民主主義国であるかどうか」ですけれども、戦争確率は、民主主義国と非民主主義国との組み合わせでそれぞれ異なっていて、「民主主義国」VS「民主主義国」の場合、戦争になる「確率が低く」、「民主主義国」VS「非民主主義国」の場合、戦争になる「確率が高く」なる。そして、「非民主主義国」VS「非民主主義国」の場合、戦争になる「確率が最も高い」のだそうです。

次に「自国が同盟を結んでいるかどうか」ですけれども、「同盟」があれば「正当防衛と同じ理屈」により抑止力が働き、戦争になる「確率が下がる」のだそうです。実際、日本は日米同盟を結んで以降、戦争になっていませんし、30ヶ国以上が「同盟」を結んでいる「NATO」も、過去一度も侵略されたことはありません。

そして、最後に「仮想敵国との軍事的均衡がとれているかどうか」ですけれども、高橋教授は、自国の防衛力が高ければ戦争確率は低くなり、相手国との「防衛力がアンパランスになると、戦争確率が高くなるとしています。一方の軍事力が圧倒していれば、負ける心配が殆どない分、戦争になりやすいというのは納得できる話です。

では、台湾について、この3条件の切り口で見てみると、台湾と中国は「民主主義国」VS「非民主主義国」で、戦争確率は高い、となります。また、台湾には同盟国はありませんし、中国との軍事的均衡も取れてはいません。つまり、戦争確率は高めだと見てよいかと思います。

ただ、アメリカは台湾関係法によって台湾と同盟に近い関係にありますし、日本も台湾有事では介入するのではないかと見られています。先日、蔡英文総統は訪米し結びつきを強めています。つまり、台湾は、同盟を結んでいるかどうかという条件の強化に努めている訳です。

また、台湾軍は長距離ミサイルの整備・配備を進めていますし、アメリカは台湾に米軍特殊部隊や海兵隊を派遣し、台湾軍を訓練しているともされています。中国との軍事的均衡を取ろうとしています。

台湾は台湾で戦争確率の3条件のうち、自国で出来る2条件を強化することで、戦争確率を減らそうとしている訳です。

日経編集委員の中沢克二氏は、中国の台湾進攻慎重論の理論的な説明として中国当局は「四面作戦」を持ち出したと述べていますけれども、これは戦争確率3条件の一つ「自国が同盟を結んでいるかどうか」に相当するでしょう。実際の同盟を結んでいなくても、台湾侵攻時に、日米韓印が介入するかもしれない、と思わせることだけでも戦争確率を減らすことになっている訳です。

付け加えるならば、もし中国政府が台湾進攻慎重論が国内で議論されることを意図的に放置しているとすると、中国は自身を「民主主義国家」に寄せていることになりますから、台湾と中国の「民主主義国」VS「非民主主義国」の関係を一時的に「民主主義国」VS「民主主義国」に変化させているとも言えます。その意味では中国の側からも戦争確率を減らしに掛かっているともいえます。

また、先述した高橋教授と古賀氏との対談で、古賀氏は、台湾有事には中立がよいなんて語っていますけれども、中国からみれば、4正面が3正面になりますから、戦争確率は逆に上がることになります。

戦争確率を決める3条件という切り口は、台湾有事の緊迫度を測る一つの指標になるかもしれませんね。



  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント