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1.日米欧3割超がSNS懸念 「民主主義に悪影響」
5月10日、共同通信が「日米欧3割超がSNS懸念 『民主主義に悪影響』」という記事を掲載しました。
その記事は次の通りです。
約50カ国の計5万人余りを対象に、民主主義の現状を分析した世界最大の年次調査「民主主義認識指数(DPI)」の2023年版が10日公表された。先進国では交流サイト(SNS)などソーシャルメディアのマイナス面に対する懸念が強く、3割以上の日米欧の市民らが「自国の民主主義に悪影響を及ぼしている」と回答した。と、記事の中味を読むと、世界ではソーシャルメディアは、おおむね「自国の民主主義に好影響を及ぼしている」と評価していて、日米欧に限っても、好影響は4割、悪影響は3割と好影響が優勢です。にも関わらず、見出しは「日米欧3割超がSNS懸念 『民主主義に悪影響』」です。マイナーな方の結果を見出しに使う何か特別な理由でもあるのでしょうか?
調査によると、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や途上国はソーシャルメディアの影響に関し、おおむね「自国の民主主義に好影響を及ぼしている」と評価。世界全体でも「好影響」59%、「悪影響」26%だった。
これに対し「悪影響を及ぼしている」と答えた米国人は「好影響」と並ぶ43%。欧州では「好影響」(46%)が上回ったが、3人に1人(35%)は「悪影響」と回答した。日本人は「好影響」41%、「悪影響」30%。
SNSへの評価が先進国とグローバルサウスで異なる理由や、民主主義に及ぼす影響の具体例には触れていない。
民主主義への脅威としては経済格差を挙げた人が最も多く、民主諸国で平均69%に上った。
2.米国と欧州はソーシャルメディアが民主主義に与える影響をより警戒
では、共同通信以外の新聞社はどうかと見てみると、見事に横並び。まぁ記事元が共同通信ですから、そこの記事を買った新聞社は同じになるのも分からないではないですけれども、マイナーな3割ではなくメジャーの4割の方、すなわち、「好影響」を見出しに使うのが自然だと思います。
ただ、国内メディアでも海外向けの英字新聞では、もう少し情報があります。
毎日新聞英語版では「US, Europe more wary of social media's impact on democracy: poll(米国と欧州はソーシャルメディアが民主主義に与える影響をより警戒:世論調査)」という記事を配信しています。
その記事は次のとおりです。
東京(共同通信) -- 米国と欧州では、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアプラットフォームが民主主義に悪影響を及ぼしていると考える回答者が他の地域に比べて多く、その割合は30%を超えていることが水曜日の大規模な国際調査で明らかになった。こちらでは、ソーシャルメディアの影響力を地域別に出し、欧米はアジアやラテンアメリカよりもソーシャルメディアの影響力に対して批判的であるなど、国内向けメディアのそれと比べて、相対的な記事となっています。見出しも「米国と欧州では……ソーシャルメディアプラットフォームが民主主義に悪影響を及ぼしていると考える回答者が他の地域に比べて多く……」など、相対的なものになっています。
人々が民主主義をどのように認識しているかに関する世界最大の年次調査である民主主義認識指数の2023年版では、53の国と地域の回答者の59パーセントがソーシャルメディアが民主主義にプラスの影響を与えていると見ており、26パーセントはマイナスの影響があると見ている。
しかし、西側諸国では自分たちの影響力について懸念を抱いている人の割合が著しく高く、その数字は米国で 43 パーセント、欧州で 35 パーセントとなっています。
これらの地域では、選挙への影響や世論操作といった政治的、経済的、またはイデオロギー的利益を目的としたソーシャルメディアプラットフォームでの自動化された「計算プロパガンダ」の使用を含むフェイクニュースの蔓延に対する懸念が高まっている。
報告書は結果を要約し、「強い地域格差があり、ヨーロッパと米国の人々はアジアやラテンアメリカよりもソーシャルメディアの影響力に対してはるかに批判的である」と述べた。
調査によると、日本では41%がプラスの影響、30%がマイナスの影響を及ぼしていると回答したが、ソーシャルメディアが民主主義に与えた影響の例は挙げられていない。
世論調査によると、アジア、アフリカ、ラテンアメリカなどの新興経済国や発展途上国では、回答者の多くがソーシャルメディアが自国の民主主義にプラスの影響を与えていると回答している。
この調査では、ソーシャルメディアが民主主義に与える影響についての認識が西側諸国と発展途上国で異なる理由についての分析は提供されていない。
民主主義への脅威について尋ねたところ、「経済的不平等」が最大の課題として認識されており、43の民主主義国の回答者の平均69%が回答した。
来年大統領選挙が行われる米国では、回答者の60%以上が不公平な選挙に対する懸念を挙げた。
世界の主な課題についての質問では、ロシアのウクライナ侵攻を含む「戦争と暴力的紛争」が最も多く、45%が選んだ。
このオンライン調査は、北大西洋条約機構の元事務局長アンダース・ラスムッセン氏と調査会社ラタナ社が設立した非営利団体「民主同盟財団」が2月7日から3月27日まで実施し、計5万3970人から回答を得た。
調査結果は月曜と火曜のコペンハーゲン民主主義サミットで議論される予定で、参加者には米テクノロジー大手グーグルの元最高経営責任者エリック・シュミット氏や元米下院議長ナンシー・ペロシ氏などが参加する。
3.Democracy Perception Index 2023
では、実際の「民主主義認識指数(DPI)」の2023年の年次調査ではどうなっているか。
この調査は非営利団体「Alliance of Democracies」とLatana社が共同で行っているものですけれども、その2023年版の報告書「Democracy Perception Index 2023」のエクゼクティブサマリ部分を引用すると次の通りです。
■エグゼクティブサマリーこれを読むだけで、共同通信をはじめとする国内メディアが大々的に報じた「SNSの影響」など、数ある調査項目のほんの一部にすぎず、さらに、民主主義の脅威として人々が捉えているのは「経済的不平等」と「公平な選挙」であり、SNSはその次で、しかもその評価が割れているとしているのですね。
民主主義認識指数(DPI)は、世界中の人々が自国の民主主義の現状と今後の主要な課題をどのように認識しているかを理解することを目的としている。この調査は、世界人口の75%以上を占める53カ国を対象に、人々の民主主義に対する認識について毎年行われる最大の調査である。
民主主義への信頼は過去5年間、世界中で高い水準を維持しており、84%が自国に民主主義があることが重要だと答えている。民主主義の主要な構成要素に関しては、その結果はさらに明確で、90%以上が言論の自由、公正な選挙、平等な権利を自国に持つことが重要だと答えており、この結果はほとんどの民主主義国、非民主主義国で同様である。
しかし、政府は国民の民主的な期待に応えているとは見られていない。私たちが行った世論調査では、自国の民主主義の状態に満足している人は、わずか半数強(57%)だった。この不満は非民主主義国に限ったことではなく、アメリカやヨーロッパなど民主主義の長い伝統を持つ国でも非常に多くみられる。
経済的不平等は、依然として世界の民主主義に対する最大の脅威であると認識されており(69%)、次いで汚職(68%)、グローバル企業の影響力(60%)である。民主主義国、非民主主義国を問わず、世界中の人々の約半数が、自国の政府が一部の人々の利益のためだけに行動していると感じている。
不公平な選挙に対する恐怖は、米国で最も劇的に増加した(49%から61%)が、経済的不平等は依然として認識されている脅威のトップである(61%から69%へ)。
ソーシャルメディアプラットフォームが民主主義に与える影響については、人々の意見は分かれています。ヨーロッパと北米では、大多数の人々がソーシャルメディアプラットフォームが民主主義にネガティブな影響を与える、あるいは複合的な影響を与えると見ている。しかし、他の多くの国では、人々はより肯定的な見解を持っている。
全体として、戦争と暴力的な紛争は、現在最も重要な世界的課題であると考えられている。ヨーロッパとアジアでは、人々は主に戦争と紛争を懸念しており、その他の地域では、貧困と飢餓を懸念している。
国別では、多くの人が自国政府に貧困削減、汚職、経済成長にもっと力を注いでほしいと考えている。しかし、優先順位には強い地域差がある:ヨーロッパの医療、気候変動との戦い、経済成長: ヨーロッパでは、医療、気候変動対策、移民削減が、アジアやラテンアメリカでは、汚職対策や成長促進がより重要視されている。
気候変動が世界のトップ3の課題のひとつであると答えた人が世界の32%に上るにもかかわらず、気候変動対策を政府のトップ3の優先課題のひとつにすべきだと答えた人は15%に過ぎない。
ウクライナ侵攻をめぐるロシアとの経済関係遮断への支持は、欧米では数回の制裁を経てもなお高い。しかし、それ以外の地域では、ほとんどの人がロシアとの経済関係を維持することを望んでいる。
また、中国が台湾に侵攻した場合の経済関係の切断について尋ねたところ、世界では中国との関係を切断している。この中には、中国の最大の貿易相手国である米国、日本、ドイツも含まれている。しかし、他のほとんどの国は、複雑な態度をとっているか、明らかに関係を維持することを望んでいる。
ほぼすべての国の人々が、EU、国連、米国に対して肯定的な認識を持ち、ロシアに対しては否定的な認識を持っている。ロシアに対する認識は、ほとんどの西側民主主義国で依然として圧倒的に否定的であるが、2022年春の戦争初期に比べれば、そのような傾向は弱まっている。
中国に対する認識に関しては、世界は分かれており、西側民主主義国、特に米国、欧州諸国、オーストラリア、日本、韓国は中国に対して否定的な見方をしているが、それ以外の国はより複雑または肯定的な見方をしている。
米国は、世界のほとんどの国、特にラテンアメリカ、アジア、ポーランドやウクライナなど東欧のいくつかの国から、世界の民主主義にプラスの影響を与えていると見られている。しかし、西ヨーロッパ諸国では、米国のグローバル・デモクラシーへの影響はより批判的に捉えられており、その態度はまちまちか、あるいはわずかに否定的である。
中国とロシアの国民意識は非常に肯定的で、互恵的である。両国の人々は互いの国に対して肯定的な見方をしており、大多数の人々が経済的関係を維持することを望んでいる。また、両国の人々は米国に対して非常に否定的であり、欧州連合(EU)に対して全般的に否定的な認識を持つ唯一の国である。
Covidに対する自国政府の対応に対する満足度は比較的高いものの、民主主義国でも民主主義でない国でも、世界全体で半数強の回答者が懸念を表明している(56%)。
ですから、国内メディアが、この「SNSの脅威」などとわざわざ見出しにしてまで報じるのは、やはり不自然であり、何らかの意図があると勘繰られても仕方ないと思います。
更に報告書原文から国内メディアの英語版、そして国内向け日本語版へといくにつれ、どんどん内容が削り取られていっています。もちろん、紙幅の関係がありますから、何でもかんでも記事に出来ないことは理解できますけれども、であればこそ、「何を記事にするのか」という編集意図の説明ないし、それを読みとれるかどうかは非常に大事になってくると思います。
今回、国内メディアは民主主義の脅威として「経済的不平等」でもなく、「公平な選挙」でもなく、「SNSの影響」を取り上げ、しかも、4割の「好影響」ではなく3割の「悪影響」を見出しに使いました。これだと、見出しだけをぱっと見した人に、「そうかSNSは危ないのか」、という印象を与えてしまいかねません。要するに、切り取りの仕方で、いくらでも、印象操作できてしまう危険があるということです。
筆者は「SNSが脅威」であるのは民主主義ではなく、既存メディアがそう感じているという”本音”が漏れただけではないかとも勘繰っているのですけれども、国内メディアは自身の「切り取り」の方が、余程「民主主義に対する脅威」になっているかもしれないということは頭の片隅に置いておいてよいのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
Sky
海外向けには、いい顔をして、国内向けには、俺の言う事聞け、と暴君の顔をする。
こんな事しても、今の時代、こう言う日本のメディアの扇動的な行為自体がばれるのに…
こうやって、情報の価値を棄損し、自分で自分の首を絞めている。
新聞もTVニュースも、自滅の道をまっしぐらに進んでいる様にしか見えない。