

1.日本を真の軍事大国にしたいと望んでいる
5月11日、岸田総理の記事を掲載したアメリカのTime誌に対し、外務省が見出しと中身が異なっているとして異議を伝えたことが明らかになりました。
これは、12日発売のTime誌5月22日・29日号の表紙を岸田総理が飾っているのですけれども、そこに「日本の選択」の題し、「岸田氏は数十年にわたる平和主義を捨てて、日本を真の軍事大国にしたいと望んでいる(Prime Minister Fumio Kishida wants to abandon decades of pacifism and make his country a true military power)」と説明書きをつけているのですね。
これにはネットでも注目され「日本国民はそんな選択していません」、「軍事大国に突っ走っているのは岸田自民党だけ」「軍事大国化?冗談ではない」と批判の声も上がっているようですけれども、やっていることを外からみれば、そう見えるということだと思います。
政府関係者によると、「修正を求めたわけではないが、見出しと記事の中身があまりに違うので指摘した。どう変えるのかはタイム誌の判断だ」と説明していますけれども、10日午前のTime誌電子版の見出しは「岸田首相が平和主義だった日本を軍事大国に変える」だったのが、11日午後の時点で「平和主義だった日本に、国際舞台でより積極的な役割を与えようとしている」に一応差し替わっています。

2.彼はインスピレーションを与えるリーダーではないかもしれない
このTime誌の特集記事は4月下旬に総理公邸で行われたインタビューを元に書かれたものですけれども、筆者が目についたところをピックアップすると次の通りです。
・岸田氏はもっと地球的な問題に夢中になっている。日本では、再分配政策を通じて中間層を成長させるための「新しい資本主義モデル」を立ち上げた。海外では、韓国との歴史的不満を和らげ、米国などとの安全保障同盟を強化し、国防費を50%以上増やすなど、東アジアの外交関係の革命に着手した。増大する中国の影響力を牽制する有力なパートナーを熱望するホワイトハウスに後押しされて、岸田氏は世界第3位の経済大国を、それに匹敵する軍事的存在を備えた世界大国に戻すことに着手した。このようにTime誌は、「岸田氏は世界第3位の経済大国を、それに匹敵する軍事的存在を備えた世界大国に戻すことに着手した」とし、更に岸田総理が、”ステルス”で法案を成立させる力を持っていることに言及しているものの、問題となった見出しにある「日本を真の軍事大国にしたいと望んでいる」とストレートに受け取れる文章は見当たりません。
・岸田首相は5月19日から21日までG7首脳を広島に迎えるが、その際岸田首相は広島の悲劇的な歴史を利用して、ますます好戦的になるロシアの権威主義的脅威に集団的な決意でしか立ち向かうことができないことを世界の最も強力な民主主義国に説得したいと考えている。中国も北朝鮮も。東京はキエフから8,000マイルの距離にあるかもしれないが、ウクライナ戦争は日本に、より危険な世界への警告を与えている。とりわけ、日本は依然としてロシアとの陸海領土紛争に巻き込まれており、北朝鮮の弾道ミサイルが上空を頻繁に飛んでいるのを目撃しているからだ。日本にとってさらに憂慮すべきは、中国の台湾侵略である。、権威主義者の習近平国家主席が繰り返し崩壊させると誓ったこの自治島。昨年夏、中国政府がナンシー・ペロシ米下院議長の台北訪問に抗議して軍事演習を開始した際、中国海軍の艦艇や航空機が定期的に侵入する日本の排他的経済水域の海域にミサイル5発が落下した。
・こうした状況を背景に、岸田首相は12月、第二次世界大戦以来最大規模の日本の軍備増強を発表したが、これは日本と同様に戦争で打撃を受けたドイツを含む欧州全体の国防費の増加を反映したものである。この約束により、2027年までに防衛費がGDPの2%に引き上げられ、日本は世界第3位の防衛予算となる。そして、これまでの日本の指導者たちが国際制裁の発動をめぐって迷っていた一方で、岸田氏は米国主導の措置に機敏に参加した。
・これは、同じ右派の自由民主党(LDP)に所属し、7月の選挙活動停止中に暗殺された日本の安倍晋三元首相によって長らく喧伝されてきた変革である。しかし、安倍首相のタカ派的評判が意見を二分する一方で、岸田首相はハト派的な性格のおかげで、大きな反発を受けることなく安全保障改革を成立させることができた。
・それでも、日本の軍事的復興には議論がないわけではない。この国は平和主義憲法を持っており、批評家らは、その軍備増強がすでに燃え上がっている地域の安全保障情勢に油を注ぐと主張している。そして、中国が日本の最大の貿易相手国であることを考えると、岸田氏が経済報復に意欲的なアメリカの超大国のライバルをねじ伏せながら、野心的な国内政策にどのように資金を提供できるのかは不透明だ。もっと根本的には、日本の再軍備は核のない世界を目指して努力するという岸田首相の長年の公約と衝突する、と考える人もいる。首相は、自分の唯一の目標は広島のような悲劇が再び起こるのを防ぐことだと述べ、「今日のウクライナは明日の東アジアになる可能性がある」と語った。
・18か月前に就任したとき、彼は堅実だが刺激に欠け、スキャンダルには無縁だが大きな成果に欠ける政治家だと思われていた。彼の父親と祖父は両方とも議員であり、彼は幼少期の一部を米国で過ごし、クイーンズの公立学校に通いました。クラスにはさまざまな文化的、言語的背景を持つ子どもたちが集まり、岸田さんはコミュニケーションが「非常に難しい」と感じたという。しかし、そのおかげで「人の意見をよく聞くことの大切さを改めて感じた」と語る。「子供の頃、私はアメリカをアメリカたらしめているもの、それは自由の尊重と豊富なエネルギーにインスピレーションを受けた。」
・岸田氏は銀行業界でキャリアを積んだ後、1993年に政界入りした。さまざまな閣僚を歴任し、2012年に外務大臣に任命され、日本記録となる5年間その職を務めた。彼はさまざまな派閥と協議することで裏部屋で政策を調整し、合意形成者としての評判を築いた。側近らによると、岸田氏はアドバイスを受け入れるが、一度決めたら揺るがなかったという。
・首相として、彼は驚異的な労働者であることを証明した。岸田首相は就任以来、16回もの海外訪問を行っている。官邸のアーチ型天井の大広間でタイム誌の記者会見を行った翌日、彼はアフリカ4カ国歴訪の旅に出た。側近らによると、同氏は自分のための時間をほとんど取れていないという。「(議会が)終わった後、時間があればゴルフができればと思っています」と笑顔で言う。
・「彼はインスピレーションを与えるリーダーではないかもしれない」と東京のテンプル大学アジア研究部長ジェフ・キングストンは言う。「しかし、彼は自分の政策を推進するという点ではかなり効果的であることが証明されています。」
・それは野心的なものだ。日本は世界で2番目に教育水準の高い人口を擁し、平均寿命が最も長く、殺人率が最も低く、失業率が低く、政治的移行が異常にスムーズであることを誇っている。しかし、世界で最も低い出生率、成長の停滞、人口の高齢化が深刻な国でもある。1980年代後半、日本人はアメリカ人よりも多くの収入を得ていた。現在、彼らの収入は平均して40%減少している。岸田氏の使命は日本を立ち直らせることだ。同氏は抜本的な近代化推進に乗り出し、最近では国内初のカジノや、物流の要衝である新東名高速道路の自動運転専用レーンにゴーサインを出した。
・岸田氏の国内政策は、家計の収入を増やすための漠然とした「所得倍増計画」にかかっているが、彼の大きな問題は、富裕層を疎外せずに再分配の費用をどのように支払うかである。日本の公的債務の対GDP比は256%(米国の約2倍)に達しており、岸田首相には借り入れを続ける余地はほとんどない。彼が株式譲渡と配当に対する増税の考えを持ち出したとき、日本の証券取引所は暴落した。岸田氏は主要な右翼の支持を維持するためにかなり慎重になる必要がある」と東京の早稲田大学教授で元日本の国会議員の中林美恵子氏は言う。
・岸田氏はまた、より多くの女性と高齢者を有益な雇用に就かせたいと考えている。世界経済フォーラムの2022年のジェンダーギャップ報告書では、日本は146か国中116位と先進国の中で最下位にランクされた。しかし、岸田政権は2030年までに大企業の女性役員の割合を30%にするという目標を掲げているが、「目標を達成するために実際にどのような行動計画が必要になるのかは明確に述べられていないと思う」とサントリー食品インターナショナルCEOの小野真紀子氏は言う。
・広島のG7を占拠するのは、これとは異なる種類の存亡の脅威だ。広島ではサミットを宣伝するポスターが街中の看板や自動販売機を飾り、洞窟のような主要鉄道駅構内にはカウントダウン時計が設置されている。国連安全保障理事会の理事国入りを拒否された日本は、アジア唯一の加盟国である経済グループを常に重視してきた。岸田氏の側近らは、G7を岸田氏の故郷に迎えることが「生涯の夢」の実現になると語る。岸田氏にとって、日本を真の世界的リーダーシップに押し上げる最高のチャンスであるだけでなく、国内の支持の回復を議会を解散して新たな任務を求めるための基盤として利用する可能性もある、と中林氏は言う。
・岸田氏は1月、自身の政策への支持を高めるため、加盟国の英国、フランス、イタリア、カナダ、米国を訪問した。また、インドのナレンドラ・モディ首相と韓国の尹錫悦大統領もオブザーバーとしてG7出席するよう招待した。賭け金は高い。「ウクライナと台湾が目立つなど、国際秩序の非常に不透明な状況を考慮すると、G7は一歩踏み出す必要があり、そうしなければ無関係になってしまう危険がある」とキングストン氏は言う。
・岸田氏はタイム誌に対し、世界的な非核化に尽力しており、政府は「核武装について議論するつもりはない」と語った。そして、間違いなくG7の出席者は、広島の平和資料館と原爆ドームを訪れる感動的なツアーになるだろう。原爆ドームは、爆発後に現存した数少ない建物の一つで、今も壊れたレンガとねじれた鉄の桁でできた瓦礫が散乱する外郭が残されており、その縁は鉄骨で縁取られている。
・それでも、ロシアが岸田氏の唯一の焦点であるかのように振る舞うのは不誠実だろう。同氏の意図は、ウクライナがアジアの問題であるのと同様に、台湾も欧州の問題であるということを伝えることであり、4月に台湾について質問された際、欧州は「我々のものではない危機に巻き込まれてはならない」と述べたフランス大統領エマニュエル・マクロン氏の感情に反論するものである。」岸田氏にとって、「ロシアのウクライナ侵略は、遠く離れたところで起こった出来事ではない」と言う。「世界のどこで起きようとも、力によって一方的に現状を変更しようとする試みは許されない」
・中国の挑戦について問われると、岸田氏は外交的な姿勢で、11月の習氏との首脳会談で築かれた「前向きな勢い」をさらに高める必要があると述べた。しかし、同氏は「中国の現在の対外姿勢と軍事動向は重大な懸念事項である」と認めている。
・彼の政権内の他の人々はもっと大胆だ。ロシアや北朝鮮ではなく、「大きな脅威は中国から来ている」と日本の外務大臣と防衛大臣を務めた河野氏は言う。「私たちは、台湾や他国に対する彼らの軍事行動だけでなく、経済的威圧にも備える必要がある。」
・ワシントンも同意する。ここ数カ月間、バイデン大統領は日本、韓国、フィリピン、オーストラリアとの軍事協力を強化することを約束した。岸田氏に対し、防衛問題だけでなく中国への技術移転阻止にも協力するよう圧力をかけるつもりだ。
「世界3位の経済大国に見合った軍事力を持つことに着手した」を「日本を真の軍事大国にしたいと望んでいる」とイコールで繋げるのは流石に無理があると思います。
このTime誌のインタビュー記事について、松野官房長官は、「インタビューの中で岸田総理大臣は、日本の置かれた厳しく複雑な安全保障環境に加え、防衛力強化や経済政策など幅広い課題について政府の立場を説明し、結論部分では、世界の分断を防ぐ歴史的な役割を担う指導者との論調となっている」と述べています。
3.原稿チェックできない覚悟あったか
今回のTime誌表紙騒ぎについて、5月11日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」でキャスターの辛坊治郎は、次のように述べています。
タイム誌のこの見出しは、いかんです。問題なのは、表紙にある「日本の選択」という大見出しの下の小見出しです。「岸田首相は何十年も続いた平和主義を捨て、日本を真の軍事大国にすることを望んでいる」とあります。この見出しは、まずいですよ。
日本のメディアは、取材相手に忖度して記事を作ることがあります。また、独占インタビューなどの際には、ゲラチェックを取材相手にさせることもあります。しかし、欧米メディアは倫理上、そうしたことをしないという立場を取っていますから、記事が表に出るまで何が書かれているかは取材相手にも分かりません。日本のメディア取材に慣れている岸田首相は、そうした覚悟も含めてインタビューに慎重に答えたのでしょうか。そうでなかったのであれば、岸田首相は不用意だったということになります。
今回のタイム誌の手口は、よくないです。とはいえ、岸田首相はタイム誌に抗議しても無駄です。掲載誌の発売前ですから、記事の中身を読めていないので、はっきりとしたことは言えませんが、記事自体は見出しとは異なっていると思われます。ですから、記事の中身が見出しと異なっていた場合、もしくは記事の中身もインタビュー内容と異なっていた場合、岸田首相としてはタイム誌に抗議したという事実を世界に向けて発信する必要があります。
辛坊氏は掲載誌の発売前なのではっきりしたことはいえないとした上で「記事自体は見出しとは異なっていると思われる」を断じています。欧米メディアは忖度もゲラチェックもさせないという立場だそうですけれども、発売前の段階で「見出しと中身が違う」と言えるということは、岸田総理が日本を軍事大国にしたいとは考えていない、ということを半ば常識として認知されているということの表れでもあるのではないかと思います。
実際、記事の中味と見出しは違っていて、外務省が抗議し、電子版の見出しは差し替えられました。けれども、印刷した紙のTime誌は回収・差し替えなど無理でしょうから、問題の見出しは、やはり世に出回ることになります。
辛坊氏は「記事の中身が見出しと異なっていたら、タイム誌に抗議したという事実を世界に向けて発信する必要がある」と述べていますけれども、岸田政権は、軍事大国とは何かきちんと定義し、「世界3位の経済大国に見合った軍事力」は必ずしも「軍事大国」とはイコールでないということを説明できるようにしておく必要があると思いますね。
この記事へのコメント
三角四角
バイデン大統領はかつてオバマ大統領の副大統領だった時に以下の様に発言した。
「我々が(日本を)核武装させないための日本国憲法を書いた」
イギリスのオンライン新聞「インディペンデント」によると、トランプ氏が日本に対して核武装を容認する発言をしたことに対して、バイデン氏は以下のように言ったという。
核武装を禁止した日本国憲法を我々が書いたことを、彼は理解してないのではないか。彼は学校で習わなかったのか。トランプ氏は判断力が欠如しており、信用できない。核兵器を使用するための暗号を知る資格はない(注1)
【 日本国憲法
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
〔e-GOV 法令検索 日本国憲法〕
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION_19470503_000000000000000)
THE CONSTITUTION OF JAPAN
CHAPTER II RENUNCIATION OF WAR
Article 9. Aspiring sincerely to an international peace based on justice and order, the Japanese people forever renounce war as a sovereign right of the nation and the threat or use of force as means of settling international disputes.
In order to accomplish the aim of the preceding paragraph, land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained. The right of belligerency of the state will not be recognized.
〔CONSTITUTION and GOVERNMENT of JAPAN〕
(https://japan.kantei.go.jp/constitution_and_government/frame_01.html) 】
バイデン(副)大統領によれば、アメリカ人は学校で核武装を禁止した日本国憲法をアメリカが書いたことを学ぶそうである。
しかし、アメリカの雑誌「タイム」は、岸田総理大臣を表紙にした次の号の内容をウェブサイトで公開し「岸田総理大臣は自国を真の軍事大国にしたいと望んでいる」などと伝えた(注2)。
日本の軍事目的は、他国の日本侵略を阻止することであり、そのことは、日本国憲法9条を見れば分かる。
当然、アメリカの雑誌「タイム」の編集者の中に知っている者がいる筈である。
日本の最近の防衛力増強は、核実験やミサイル発射を繰り返す北朝鮮や、軍事力を増強し、日本固有の領土である尖閣諸島への領海侵犯を繰り返す中国から日本を護る為にある。
日本の防衛力増強は、世界の殆どの国に対して、些かの脅威にも成らない。
ただ、日本侵略を狙っている国のみ脅威になる。
アメリカの雑誌「タイム」の記事は、その意図の有無に関わらず、日本の正当な防衛力増強を阻止し、日本を侵略しようとする国を利する反日、滅日行為である。
アメリカの雑誌「タイム」は日本国の敵であり、中国・北朝鮮の友人である!
アメリカは誰の味方だ?
(注1)【 HUFFPOST 2016年08月17日 1時24分 JST
「日本国憲法はアメリカがつくった」 バイデン副大統領が明言
https://www.huffingtonpost.jp/2016/08/15/biden-japan_n_11538084.html
Part of HuffPost News. ©2023 BuzzFeed, Inc. All rights reserved. The Huffington Post 】
(注2)【 NHK政治マガジン 2023年5月12日
米タイム誌 表紙に岸田首相 “軍事大国化望む”と紹介も記述変更
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/99035.html
Copyright NHK (Japan Broadcasting Corporation). All rights reserved. 】