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1.組織運営のための特殊な負担金
5月17日、NHKは”受信料制度”をテーマとしたメディア関係者向けの説明会を実施しました。説明会では、受信料の契約条件や割引の対象者など、基本事項を紹介。NHKの公共的価値への共感と理解を改めて伝えると同時に、受信料は”視聴の対価”ではなく組織運営のための”特殊な負担金”であること、訪問だけに頼らない新しい営業活動などを説明しました。
NHKは、説明会の冒頭で、放送の体制と意義について次のように説明しました。
日本のテレビ放送はこれまで、受信料を財源とするNHKと、広告料等を財源とする民間放送事業者が切磋琢磨する”二元体制”とすることで、質の高いコンテンツを制作し、放送によってあまねく全国へ届けてきた。そして、放送法の下、各局が自らルールの策定や番組の編集、審議会等を設けることで自主独立と番組の適正性を確保。国民の”知る権利”に奉仕し、情報の多元性・多様性・地域性への貢献と健全な民主主義の発展に寄与してきたいろいろツッコミたい所だらけですけれども、建前では、このようになっているようです。
現在のNHKが作られたのは1950年。「全国にあまねく放送を普及させ、豊かで良い番組による放送を行なうこと」などを目的に、放送法に基づいて設立された特殊法人です。となっている。
放送法では、NHKがその使命を他者、とくに政府からの干渉を受けることなく自主的に達成できるよう、基本事項が規定されている。
NHKの財源となっている受信料制度は、NHKが公共放送としての業務を行なうために必要な経費を受信機の設置者に公平に負担してもらう、という考え方に基づいて設けられたもので、NHKの高度な自主性を財源面から保障するのが受信料制度だとしています。
従って、NHKの受信料は、一般の動画配信サービスのような、番組を視聴するために支払う”視聴の対価”とは性格が異なる。したがって「見ないから受信料を払う必要はない、ということにはあたらない」という訳です。
受信料の金額は、毎年3月に国会で行なわれる収支予算・事業計画の審議、承認を経て決定されており、たとえば、イギリスの公共放送BBCが受信料額を決定して国会に報告する方式とは異なる、と説明しています。
2.訪問営業をすべて辞めるわけではない
NHKがこの種の説明がいつもしているか分かりませんけれども、このタイミングで説明したということは、旧NHK党(現政治家女子48党)の活動がある程度以上効いていることの証左ではないかと思います。
旧NHK党の功績の一つとして、各家庭への戸別訪問による受信料徴収を止めさせたというのがあるかと思います。
NHKは、説明会でこれについて、基本的には、コロナ禍前のような巡回型の訪問営業スタイルからは転換する方針で、訪問営業に代わるものとして、インターネットでのデジタル広告や不動産会社や電力・ガス事業者など外部企業との連携を強化。さらに、受取人の氏名が記載されていなくても、受取人の住所や居所が記載されていれば、その住所や居所に郵便物を送付できる「特別あて所配達郵便」も活用。受信料制度の案内を、去年1年間で約1,200万通を送付しており、今後は徐々に発送エリアを拡大していくとしています。
それでも、「訪問営業をすべて辞めるわけではない」とし、「状況に応じて視聴者に直接お会いして、受信料制度の意義等を説明する機会も必要。視聴者と直接・間接の両面でコミュニケーションを図り、受信料の支払いに理解をいただけるよう取り組み、公平負担に努めていく」と説明しています。
訪問営業には、法人委託と個人委託(地域スタッフ)が存在し、法人委託の方は今年9月末をもって全ての契約を終了する予定で、残る個人委託の数は、600名弱になるそうです。
ただ、訪問営業に代わるものとして、外部企業との連携を強化としていますけれども、たとえば、家具家電付きの賃貸アパート契約かなんかで、部屋にテレビが設置されている場合、家賃の中に受信料を入れこまれるなんてことも考えられなくもありません。
実際、テレビが予め備え付けられた賃貸住宅「レオパレス21」の入居者がNHKを相手に受信料1310円の返還を求める裁判が行われています。
入居者は「テレビを設置したのは自分ではないのに、受信料の支払いを求められた」と主張。第一審では「入居時点でテレビが備え付けられており、入居者はテレビ設置者に当たらない」として、契約が無効と判断されたものの、それを受けてNHKが控訴。二審では、「入居者はテレビを占有して放送を受信できる状況にあり、テレビ設置者にあたる」と指摘され「入居者に受信料の契約を結ぶ義務がある」と判断されました。裁判は最高裁にまで持ち込まれたのですけれども、最高裁は上告を棄却し入居者敗訴が確定しました。
従って、レオパレス21のような家具家電付きの賃貸アパートに入ると自動的にNHK受信料支払い義務が発生する訳です。もちろん、人によってはそんなアパートを避ける人もいるとは思いますけれども、家賃の共益費かなにかに紛れ込まされてしまったら、気付きにくいと思います。おそらく契約時にNHK受信料云々の説明義務が課されるかとは思いますけれども、不動産会社など外部企業との連携を強化などと言われてしまうと、ついつい、そんな心配もしてしまいます。
3.インターネット時代における受信料制度の在り⽅
現在総務省では、「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」が開かれています。
これは、ブロードバンドインフラの普及やスマートフォン等の端末の多様化等を背景に、デジタル化が社会全体で急速に進展する中、放送の将来像や放送制度の在り方について、「規制改革実施計画」や「情報通信行政に対する若手からの提言」も踏まえ、中長期的な視点から検討を行うことを目的とする検討会で、次の内容について議論しています。
(1)デジタル時代における放送の意義・役割
(2)放送ネットワークインフラの将来像
(3)放送コンテンツのインターネット配信の在り方
(4)デジタル時代における放送制度の在り方
(5)その他
検討会には、「公共放送ワーキンググループ」というのが設けられ、ここで、インターネット時代における公共放送の役割や受信料制度の在り方が議論されています。
4月27日に行われた公共放送ワーキンググループ第7回では、インターネット活用業務の財源と受信料制度に関する議論が行われています。
配布資料から、その論点と議論の概要を引用すると次の通りです。
① インターネット時代における受信料制度の在り⽅ここの議論でも、NHKの受信料制度は放送の対価ではなく、受益者負担であるとなっています。
【論点】
我が国の公共放送の財源として、例えば、以下のような選択肢が考えられるが、現⾏の受信料制度以外の考え⽅も採り⼊れるべきか。
<議論の視点>
(1)視聴料(サブスクリプション)収⼊
(公共放送を⾒たい⼈だけが地上波等のチャンネル視聴に対して相応の対価を⽀払う⽅式)
(2)広告収⼊
(公共放送の財源の全部⼜は⼀部について、広告主からの広告料で賄う⽅式)
(3)税収⼊
(公共放送の財源の全部⼜は⼀部について、税収で賄う⽅式)
(4)受信料収⼊
(公共放送の財源の全部⼜は⼀部について、公共放送を受信できる環境にある者からの負担⾦で賄う⽅式)
【構成員等の主な意見】
・ 費用負担のあり方については今後丁寧な議論を尽くすべきであると考えているので、受益者負担という原則に立つならば、受益する者が平等な負担感を持つことが肝要。(第1回:三友主査)
・ 最高裁判決を踏まえ、受信し得る環境にある者に広く公平に負担を求めていくものが受信料であると認識しているが、ネット配信というのは現状、部分的であり、放送全部を見るものと同等の負担を課すのがよいのかということもある。(第1回:落合構成員)
・ PCやスマートフォンを保有するだけでは受信料を課さないことをもって、テレビ受信機に紐づく従来の受信料制度との整合性や、負担の公平性などの議論を先送りしてはならない。(第3回:民放連)
・ インターネット活用業務の必須業務化がなぜ必要なのか、任意業務ではできないが必須業務になるとできるようになることがあるのか、必須業務化に伴い、受信料制度の見直しが必要なのかどうか、よく分からない点が多い。NHKに期待する機能や役割の検討を先行して、NHKの将来像や受信料制度の見通しといった肝心かなめの議論が後回しになっており、視聴者には分かりにくい議論となるのではないかと危惧している。(第5回:民放連)
・ 受信料制度の在り方に関しては、インターネットに接続する機器を保有しているだけで受信料を払うというような制度をいきなり考えるというのは難しいのではないか。(第1回:山本主査代理、宍戸構成員、瀧構成員、長田構成員、林構成員)
・ 最近のテレビは違う部分もあるが、少なくとも当初、放送法ができて昭和、平成の中期ぐらいまでは利用用途が放送受信に限られていた一方で、スマートフォンやPCなどは必ずしもネット配信を見るためだけのものでないことが明らかなので、保持者をもって視聴者と捉えてよいかについても難しい問題がある(第1回:落合構成員)
・ スマホのアプリをインストールするような自らNHKを受信できる環境を整えようとする視聴者については、ある意味積極的に受信に関与しようとするのであるから、このWGで議論自体はしてもよいのではないか。(第1回:三友主査、林構成員)
・ 現行の受信料制度は放送の対価ではないが受益の観点も加味した制度となっており、この考え方を前提としても、無料にする、アプリをインストールした場合に有料とする、端末所有者に負担させるなど多様な選択肢があり得る。第2の選択肢が、受益の観点を加味するという考え方に親和性が高いと考えられるが、いずれも理論的に決め手はない。 (第2回:曽我部構成員)
4.NHKの放送は人の命に係わるか
NHKを見ても見なくても、テレビを設置した限り負担金を求められる、受益者負担という意味では、受信料制度は、国民皆保険制度と似ているともいえます。
国民皆保険制度とは、全ての人が公的医療保険に加入し、全員が保険料を支払うことでお互いの負担を軽減する制度のことで、通院回数が多い人でも、入院や手術により医療費が高くなってしまう人でも、定められた負担割合で医療を受けることができます。これによって、誰でも安価でレベルの高い医療を受けられることになり、諸外国と比べて優れている点だと指摘されています。
国民皆保険制度の下では、一度も医者に掛かったことのない人であっても、医療を受ける他の誰かのために保険金を支払っていることになるのですけれども、これについて、国民は受けいれてます。まぁ、人の命が掛かっていますからね。見殺しにするというコンセンサスはないということです。
過去を振り返れば、2016年元フジビテレビアナウンサーの長谷川豊氏が自身のブログに「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!(現在は「医者の言うことを何年も無視し続けて自業自得で人工透析になった患者の費用まで全額国負担でなければいけないのか?今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」に改題)」という記事を掲載し、騒ぎになったことがありました。
内容はタイトル通りで、年間500万円かかる透析患者の医療費を国民負担にするのはおかしい、というものなのですけれども、この記事が公開されたあと、コメント欄などで批判が殺到。全国腎臓病協議会が発言の撤回と謝罪を求める抗議文を長谷川豊氏に送る事態に発展しました。
この批判に長谷川氏は「余りの低レベルな言葉狩りに戸惑っています」と反論。全国腎臓病協議会の抗議文にも「全腎協が私の抗議文を送ったそうだ。結論から申し上げるが、謝罪と訂正を断固拒否する。というか『出来ない』」と謝罪を拒否しました。
けれども、というか当然というか、批判の声はなりやず、結果的に長谷川氏は担当していた全ての番組を降板することになりました。
このように、人の命に係わることであれば、国民全員で負担するのも止む無しというコンセンサスになっているのですね。
では、翻って、NHKの受信料はどうなのか。
勿論、NHKを見ても見なくても「命にかかわる」ことはありません。むしろ、先日のワクチン被害隠蔽報道など、害悪になっている面すらあります。それを深く反省し是正もしないまま、「視聴の対価ではない、組織運営のための特殊な負担金だ」なんていわれても納得できる筈もありません。
もし、NHKが受信料を、組織運営のための負担金だ、理解を求めるのであれば、医療と同じくらい国民にとって必要なものであることを示し、納得させる必要があるのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
三角四角
と問われれば、人の命に係わる時もあると答えることが出来ると思います。
一番人の命に係わる時が、地震、災害報道でしょう。
民放はスポンサーの意向を無視する訳には行きませんから、どうしても、災害報道の対応が遅れ勝ちになります。
又、民放は全国をカバーしていないので、災害情報を伝えられない地域が出て来て仕舞います。
しかし、NHKは違います。
行きなり、放送中の番組をぶった切り、直ぐに災害報道を始められます。
又完全全国ネットなので、日本中どこで起きた災害でもフォローすることが出来ます。
又、民放はコマーシャルを売って生計を立てています。
そのコマーシャルを売ってくれるのが電通です。
従って、民放は電通に頭が上がらないのです。
広告代理店の最大手・電通で起きた過労自殺事件。東大を卒業した新入社員の高橋まつりさん(当時24歳)が過労の末に自ら命を絶った出来事は、毎年、学生を社会に送り出す立場の大学教員としては胸が痛くなるものだった。
厚生労働省・東京労働局が本社ばかりか子会社にも立ち入り調査を実施するなどで「長時間労働が全社的に常態化」していた疑いなどの実態が明るみに出つつある。
そうしたなかテレビのニュース番組は民放を中心にどのチャンネルも「立ち入り調査」があったなどのストレートニュースを断片的に報じるものが大半で、
特に民放各社は腰が引けている印象を強く受ける。
電通という日頃、番組関わりが深い会社への遠慮からなのか、あるいは電通と同じように「サービス残業の常態化」が蔓延する会社がほとんどを占めるという後ろめたさからなのか、放送の形態からも明確なほど抑制的な報道に終始し、リアルな実態や背景に何があるのかを視聴者に伝えようとしない。
そうしたなか、電通の過労自殺事件について、ひとりNHKが積極的な報道を繰り返している。
ストレートの動きだけを報道する民放各社に対して、NHKは(2016年)11月に入ってから独自取材の豊富な映像を駆使して、長時間労働やブラック企業の問題を熱心に伝えている。
11月1日、朝のニュース「おはよう日本」で"隠れブラック企業"の存在を指摘。
11月2日(水)の『クローズアップ現代+』
まん延する"隠れブラック企業"~密着 特別対策班~
11月3日(木)の『ニュース7』。
電通では残業時間を過少申告している実態を社員が証言した。
11月5日(土)の『週刊ニュース深読み』の特集は「殺されても放すな」という電通の"鬼十則"を紹介。『週刊ニュース深読み』では高橋まつりさんの自殺について時間を割いて詳しく伝えた後で、若者と過労自殺の関係や長時間労働全般についてテーマを移してスタジオでゲストらが議論した。
村田英明・NHK解説員も
「今時の若い人には奨学金の債務を卒業と同時に抱える場合もあって、辞められない場合もある」
と自分の過去の経験から一括りに論じることの危うさに警鐘を鳴らした。
こうした議論、本来ならば、民放テレビ局も午前中やお昼などの情報番組でもっと扱って良いはずなのに、電通という重石があるせいか扱わない。そのなかでNHKが報道機関として公共的な役割を果たしていることは評価して良い(以上・(注))。
以上公共放送NHKの頑張りで「隠れブラック企業」の存在が炙り出され、電通も働き方改革に着手した結果、第二の「高橋まつりさん」は出現していない様である。
ささやかだが、NHKが人の命に係わったと評価しても良いかも知れない。
(注)【 HUFFPOST 2016年11月07日 18時23分 JST
THE BLOG ブラック企業 社会 過労自殺
電通に遠慮せず!光るNHK"ブラック企業"取材
水島 宏明 上智大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
https://www.huffingtonpost.jp/hiroaki-mizushima/nhk-5_b_12837610.html
(2016年11月5日「Yahoo!ニュース個人(水島宏明)」より転載)
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