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1.スナクの孔子学院閉鎖撤回
5月17日、イギリス政府報道官は「我々は孔子学院を通じた高等教育分野への海外からの干渉に対する懸念を認識しており、学術界が直面するリスクを定期的に評価している……我々はイギリスの孔子学院から政府の資金提供をすべて排除する措置を講じているが、現時点では孔子学院を禁止するのは不当であると判断している……イギリスで活動する他の国際機関と同様、孔子学院も透明性と法律の範囲内で運営し、公開性と表現の自由という私たちの価値観を全面的に尊重して運営する必要がある」と述べ、イギリス全土の大学に付属する30の孔子学院を禁止するのは「不当」であるとし、その上で、孔子学院側には運営の透明性を順守するよう求め、英政府系資金の提供は今後、「いかなる形でも実施しない」としました。
孔子学院は日本を含む世界各国の大学などと提携し、中国語や中国文化の普及を目指す教育機関と表向きはなっていますけれども、裏では、中国共産党によるスパイ活動やプロパガンダの拠点になっているとも指摘されています。
スナク氏は、2022年7月、保守党党首選の際、孔子学院が中国のソフトパワーを促進するツールとして機能していると主張し、孔子学院すべてを閉鎖すると公約に掲げていました。
昨日のエントリーでは、リズ・トラス前首相が、台湾を訪問したことを取り上げましたけれども、トラス前首相は、台湾での講演で、「昨夏、現イギリス首相は中国を『イギリスにとって最大の長期的脅威』と表現し、孔子学院は閉鎖されるべきだと述べた。彼の言うことは正しかったので、我々はこれらの政策を早急に施行する必要がある」と語り、かわりに台湾や香港出身者による語学サービス実施を提案していました。
スナク首相の今回の判断について、当然ながら党内からは「公約を破った」との批判が起きています。
BBCによると、対中強硬派のダンカンスミス元党首もは孔子学院について、「語学教育とは関係なく、中国人学生や香港人学生らを監視するために存在している」と述べ、閉鎖を撤回したスナク首相の判断を「ばかげている」と非難しました。
リシ・スナク政権は今年3月、ジョンソン元首相が21年に打ち出した外交・安全保障政策の基本方針「統合レビュー」の改定版文書を発表しています。この文書の中でイギリス政府は、ウクライナに侵攻したロシアを「イギリスにとって最も深刻な脅威」と位置付ける一方、中国については脅威とまでは呼んでおらず、気候変動対策などでは協力する姿勢も示しています。
筆者は今年1月のエントリー「リシスナクのシナリスク」で、スナク首相の公約が腰砕け、あるいは、骨抜きになってしまう可能性について指摘しましたけれども、なにやらリシスナク首相の「シナリスク」が顕在化してきたように見えなくもありません。
2.スナクの孔子学院泥沼化
5月19日、イギリスのスペクテイター紙は「リシ・スナクの孔子学院の泥沼化」という記事を掲載し、今回の孔子学園閉鎖撤回を批判しています。
その記事の概要は次の通りです。
・リシ・スナクがトーリー党首選に立候補した際、英国の大学にある孔子学院を閉鎖すると約束したことは、良いアイデアに思えた。しかし、残念なことに、それは思慮不足であった。自由民主主義国家では、政府の命令で気に入らない組織を閉鎖することは難しい。したがって、今週、彼がこの約束を反故にしたことは、予想できたことであり、理解できることでもある。孔子学院のスタッフは「政治的信頼性を慎重に審査され、中国共産党の機嫌を損ねるようなことは言わないように言われている」とか、報道官が述べた「法の範囲内で行動し、表現の自由を尊重する」という言及は、何の意味もない、と厳しく指摘しています。
・しかし、残念なことに、彼が選んだ方法は、誤った判断によるひどいものであった。この点で、トーリー党の右派が彼を非難するのはまったく正しい。
・ヨーロッパとNATOにおいて、スナクが今必要としているのは、非自由主義的な政権に甘いという評判である。
・孔子学院とは、英国の大学内に設置された、当該大学と中国政府の中央教育機関(多くの協定では、少し冷ややかな意味で「本部」と呼ばれている)との協定に基づく機関である。通常、北京と大学から資金援助を受けており、北京からオフィススペースと秘書のサポートを受けている。彼らの役割は、北京語を教え、講師を養成するだけでなく、情報提供や相談業務、多くの場合、本部の「承認と任命によるその他の活動」、あるいはそれに類するものを提供するという曖昧な任務を負っている。また、納税者であるあなた方から多額の報酬を得て、特定の州立学校で中国語のレッスンを行っているところも少なくない。
・彼らは厄介な存在だ。提供するサービスの品質管理は北京の手に委ねられている。ある協定(リーズ大学との協定)によれば、「学院は、教育の質に関する本部の評価を受け入れなければならない」。スタッフは政治的信頼性を慎重に審査され、中国共産党の機嫌を損ねるようなことは言わないように言われているそうだ。中国や香港の学生たちは、研究所が非公式なセンターとして利用され、彼らの言動を監視していると不満を漏らしており、彼らが教える内容に関して間接的に大学に圧力をかけているという話もある。
・今、何が起こっているのか。リシ・スナクの事務所は水曜日に簡潔な声明を発表した。政府は現在、彼らが「透明性があり、法律の範囲内で」運営され、「開放性と表現の自由という我々の価値観」にコミットしていれば、閉鎖は「不釣り合い」だと判断した。ただ、おそらく学校での北京語教育に対する政府からの資金援助はすべて打ち切られるというだけである。
・対価として受け取ったサービスが何であれ、納税者のお金が中国のような豊かで威圧的な外国のプロパガンダ部門に使われるのは、何か不愉快な感じがする。そのお金が直接、関係する学校に支払われることを期待しよう。しかし、この声明の残りの部分は懸念すべきものだ。法の範囲内で行動し、表現の自由を尊重するという言及は、何の意味もない。孔子学院が学術機関に潜り込んで、自分たちのためにあらゆる影響力を獲得し、北京のソフトパワーを獲得しようとすること、また、学生たちに、扇動などに関する中国の法律の要件について、友好的であっても強引な方法で伝えることに、違法性はない。そして、彼らは言論の自由、特に北京のプロパガンダを売り込む人たちに対する言論の自由の価値にコミットすることに満足しているに違いない。
・中国がどのようにこの問題を扱ったのか正確にはわからないが 、推測は可能だ。また、中国大使館からは、リシが経済関係を改善し、(中国からの留学生を含む)より多くの学生をこの国で学ばせようとする試みが、彼の不幸な計画に固執することで阻害されるかもしれないとの声も聞かれた。
・さらに、収入源を失うことを恐れている副学長や、政府がその代わりを務めてくれないかと考えている副学長から、大臣の耳元で静かな言葉が発せられると、もう頭痛の種を避けるために、疲れた政権が喜んで道を譲ることになるのは目に見えている。
・リシはどうすればよかったのだろうか。しかし、彼はもっと強力な超党派の対策を打ち出すことができたはずだ。例えば、政府資金を求める大学が、外国政府の支援を受けている団体に事務室や秘書を提供したり、そうした団体に金銭を支払うことを禁止し、大学の壁の外にある機関とは距離を置くようにするのはどうだろう。あるいは、そのような組織との取り決めをすべて開示することを義務付けるのはどうだろうか。現在、多くの組織は商業上の守秘義務という名目で隠蔽されているが、すべての支払いや寄付を公表するよう求めるのはどうだろうか。
・政府が考えを改め、このようなことをしても遅くはないだろう。このような措置は簡単に説明できるし、中国以外の不愉快な政権から資金を受け取っている大学に対する左派の批判にも答えることができるだろう。欧州や北大西洋条約機構(NATO)では、非自由主義的な政権に甘いという評判は、リシにとって最も避けたいことだ。また、国内では、北京のいじめっ子に立ち向かうという意味で、リシが本気であることをどれだけの人々に納得してもらえるかによって、選挙民の支持を得られるかどうかが決まるかもしれない。
3.ロシアを上回る気候変動並みの脅威
中国の浸透工作については、昨年1月に情報局保安部( MI5)が英下院議長を通じ警告を行っていると在ロンドン国際ジャーナリストの木村正人氏がNewsWeek紙に寄稿しています。
件の記事の概要は次の通りです。
・女スパイを操っていると考えられるのは、国共合作や孔子学院の世界展開でも知られる中国中央統戦部。これはイギリスにとって、ロシアを上回る気候変動並みの脅威だと、MI5のマッカラム長官は言う。ここでも、女スパイを操っていると考えられている中国中央統戦部が、国共合作や孔子学院の世界展開でも知られる、と言及しています。
・国内での外国スパイの摘発、国家機密の漏洩阻止などの防諜活動を行う英情報局保安部( MI5)が13日、英下院議長を通じ、ロンドンを拠点に活動する中国人弁護士クリスティン・リー氏が中国共産党中央統一戦線工作部(中央統戦部)の意向を受け下院議員に近づき影響力を行使していると全下院議員に対し、異例の警告を行った。
・日米欧議員らが中国の人権弾圧を監視する「対中政策に関する列国議会連盟」設立を主導し、中国の制裁リストに加えられたイギリスの対中最強硬派イアン・ダンカン・スミス元保守党党首は「中国政府のエージェントと疑われるリー氏は英議会を狙って中国共産党のために議員や政治団体に関与し、政治的に干渉している」とツイートした。
・「私は中国政府から制裁を受けている。その国のエージェントが英議員と協力して議会のプロセスを妨げるために活動していることは非常に憂慮すべきことだ。中央統戦部に代わって政治的干渉に従事している外国の卑劣なエージェントが何もされずに活動できるのはどういうことなのか」とリー氏と親密な関係を持つ議員の調査をジョンソン英政権に求めた。
・保守党内で「中国研究グループ」を主宰する下院外交特別委員会のトム・トゥーゲントハット委員長も中国政府の制裁リストに加えられた。トゥーゲントハット氏は「わが国の情報機関は国家的脅威に焦点を当てているが、当然のことだ。北京の工作が増大しているのは明らかで、敵対活動から民主主義を守る必要がある」とツイートした。
・MI5の警告文書によると、中央統戦部は中国共産党の主張を広げる一方で中国共産党の政策に敵対する勢力に対抗するため、虚偽や賄賂、脅しなど硬軟織り交ぜた方法で相手国の政治家や有力者に近づいて親密な関係を構築する。手なづけた協力者に中国共産党の主張に沿った言動をさせたり、都合の悪いことには口をつぐませたりする部局だ。
・元陸上自衛隊幹部学校長(陸将)の樋口譲次氏は論文「海外に魔の手を伸ばす中国の『統一戦線工作』」の中で、中央統戦部は中華人民共和国建国 7 年前の 1942 年に設立されたと指摘する。最もよく知られた統一戦線工作は抗日民族統一戦線としての中国国民党と中国共産党による「国共合作」で、現在では中国文化を普及する孔子学院もツールの一つだ。
・樋口氏によると、習近平国家主席は2015 年 「統一戦線工作条例」を制定。中国共産党創設 100 周年の 21 年を中間目標に、建国 100 周年の 2049 年を最終目標に「中華民族の復興という中国の夢」実現のため「統一戦線工作」を通じて香港や台湾、チベット自治区、新疆ウイグル自治区、南シナ海、東シナ海問題に関して中国の身勝手な言い分を広めている。
・問題のリー氏は在ロンドンの事務弁護士で、在英中国大使館の首席法律顧問、国務院華僑事務弁公室の法律顧問、中国海外友好協会、下院超党派中国グループの幹事を務めたイギリスにおける中国人コミュニティーの代表的存在だ。しかし、その裏で中央統戦部と協力して元超党派議員グループなどを通じ英政界に影響力を行使していた。
・中国共産党の意向を受け、リー氏は現役議員や政治家の卵への献金を斡旋。献金は出所を隠すため秘密裏に行われていた。英紙によると、最大野党・労働党のジェレミー・コービン前党首に近いバリー・ガーディナー下院議員に50万ポンド以上(約7800万円)を献金していた。リー氏の子供はガーディナー下院議員の事務所で働いている。
・リー氏側から労働党の他の組織にも数十万ポンド、自由民主党にも5千ポンド(約78万円)を献金していたほか、与党・保守党ともつながりを持ち、「英中黄金時代」を宣言したデービッド・キャメロン首相(当時)と良好な関係を築いていたとされる。リー氏はその後、テリーザ・メイ首相(同)から表彰されている。
・前出のガーディナー氏は中国企業の原発建設計画への参画に理解を示すなど中国に有利な発言を行ってきたが、この日の声明で「リー氏については何年も前からMI5と連絡を取り合っており、私からも十分説明してきた」と釈明した。MI5の警告を受け、全下院議員は中国人や中国企業の接近や献金について注意するよう促された。
・イギリスは欧州連合(EU)離脱を選択した16年の国民投票で当時のキャメロン首相が辞任するまで親中路線をとっていた。地理的に遠く離れた中国は欧州諸国にとって安全保障上の脅威ではなく、経済的に大きな機会だった。ドナルド・トランプ前米大統領が貿易問題やコロナ危機であからさまに中国を攻撃するようになってから欧州の風向きも変わった。
・しかし共著『隠れた手 いかに中国共産党が新しい世界を形作るか』で中国の影響力ネットワークを暴いた中国研究者マハイケ・オールベルク氏はイギリスの親中ビジネスリーダーや政治エリートの集まり「48グループ・クラブ」は中国政府によって育成されていると指摘した。中国の「隠れた手」はあらゆる所に張り巡らされているのだ。
・史上最年少の40代でMI5長官に就任したケン・マッカラム氏は20年10月、中国とロシアの脅威を比較して「ロシアは悪天候だが、中国は長期的にはるかに大きな問題であり、気候変動のようなものだ。政治にも干渉し始めている」と警鐘を鳴らしている。中国の情報活動は気候変動のように日本にも押し寄せていることは疑いようがない。
4.我が国に設置された孔子学院に関する質問主意書
世界展開している孔子学園は、、当然ながら、日本にも思いっきり展開しています。
4月26日、参政党の神谷宗幣参院議員は、「我が国に設置された孔子学院に関する質問主意書」を提出し、5月12日に政府答弁を引き出しています。
件の質問主意書から質問部分だけ抜粋すると次の通りです。
一 現状等これに対する政府答弁書は次の通りです。
1 現時点で、我が国に存在する孔子学院の数と設置されている大学名を示されたい。
2 日本国内に孔子学院を設置するための手続を確認されたい。中国側と受入れ大学の協定のみで足りるか、政府への報告、届出、許可申請など政府の関わりが必要かを含めて明らかにされたい。
3 日本の大学が実質的に外国政府の統制下にある機関を政府の関与なしに設置するのは適切であるか、政府の見解を示されたい。
二 透明性と情報公開
1 政府は、「孔子学院を置いている大学に対して、組織運営や教育研究内容等の透明性を高めるべく、情報公開を促してまいりたい」(前記の萩生田光一文部科学大臣答弁)とのことであるが、透明性と情報公開促進に関する進捗状況及び結果として明らかになった内容を示されたい。
2 前記1の明らかになった内容に関して、孔子学院に関する諸懸念と問題を踏まえて、政府の評価を示されたい。
三 前記のとおり、複数の外国政府が、中国の宣伝機関である等の懸念と理由により、自国内の孔子学院の閉鎖を進めている。こうした政府の懸念や結果として閉鎖を決めた例が増加している国際動向に関して、政府の評価と見解を示されたい。
四 我が国の安全保障、学問の自由等にとって重大な懸念と問題のある組織が大学内に設置された場合、政府としていかなる対応が可能であるか。オーストラリアでは、大学が外国と結んだ協定を政府が破棄できる法律が制定されたと承知している。閉鎖を求めることなどを含め、我が国政府の対応にはいかなる選択肢があるかを明らかにされたい。
五 かような懸念と問題のある孔子学院に関して、透明性と情報公開を促すことに加えて、管理強化、閉鎖、設置抑制等の更なる措置が必要と考えられるが、孔子学院に関する政府の今後の対応方針を示されたい。
六 孔子学院と同様の機関(中国側の何らかの組織と日本の教育機関が合意して設置し、中国語や中国文化を普及する等の活動を行っている機関)が、「孔子学院」、「孔子課堂」、「孔子学堂」等の名称を問わず、日本の小中高校に設置されているか。設置されている場合は、その数、日本側の受入れ学校名、活動内容を示されたい。
一の1及び六について参政党の神谷参院議員は、質問主意書で主に、孔子学院という外国政府の統制下にある機関を政府の関与なしに設置するのは適切であるのか、今後どうしていくのか、と問い質しているのに対し、政府は、「孔子学院は学校ではなく、規制する法律もない。他に何か法令違反があれば対応する」と、孔子学院に対する評価は一切せず、既存の法令違反には対応するが、新しくなにか法律をつくるともいっていません。
お尋ねの「孔子学院」及び「孔子学院と同様の機関」については、政府として把握している限りでは、令和五年四月時点で、我が国においては、少なくとも十三校の「孔子学院」が設置されており、具体的には、立命館大学、桜美林大学、北陸大学、愛知大学、立命館アジア太平洋大学、札幌大学、大阪産業大学、岡山商科大学、早稲田大学、福山大学、関西外国語大学、武蔵野大学及び山梨学院大学において、「孔子学院」が設置されていると承知している。
一の2について
御指摘の「孔子学院」は、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校、同法第百二十四条に規定する専修学校及び同法第百三十四条第一項に規定する各種学校のいずれにも該当しないと考えられることから、同法においてその設置に係る手続は定められておらず、そのほかにも、その設置について規律する法令があるとは承知していない。
一の3について
御指摘の「実質的に外国政府の統制下にある機関」の具体的に意味するところが明らかではなく、お尋ねについて一概にお答えすることは困難であるが、法令違反があると認められる場合には、適切に対処してまいりたい。
二及び三について
御指摘の「孔子学院」については、諸外国においてその一部が閉鎖されていることは報道等を通じて承知しており、そのような報道等を踏まえ、文部科学省においては、大学の自主的・自律的な運営が妨げられることのないよう、「孔子学院」を設置する各学校法人が、その運営の透明性を確保する必要があると考え、当該学校法人に対して、その運営に関する情報を公開するよう働きかけているところであり、その結果、「孔子学院」の設置経緯、運営体制、教員の氏名、教育内容、予算及び決算の状況等の情報公開が進んでおり、「孔子学院」の活動等に関する事実の把握が進んでいると考えている。政府としては、引き続き、「孔子学院」を設置する各学校法人の動向を注視しつつ、継続的な働きかけを行ってまいりたい。
四について
御指摘の「我が国の安全保障、学問の自由等にとって重大な懸念と問題のある組織が大学内に設置された」の具体的に意味するところが明らかではなく、また、お尋ねの「政府としていかなる対応が可能であるか」については、個別具体の事案に即して判断すべきものであり、一概にお答えすることは困難である。
五について
政府の働きかけ等を受けて御指摘の「孔子学院」を設置する学校法人から公開される情報等を踏まえ、御指摘の「管理強化、閉鎖、設置抑制等の更なる措置」が必要な場合や、法令違反があると認められる場合には、適切に対処してまいりたい。
ただ、大学に設置された孔子学院および同様の機関について、早稲田大、立命館大、桜美林大、武蔵野大、愛知大、関西外国語大、大阪産業大、岡山商科大、北陸大、福山大、山梨学院大、立命館アジア太平洋大、札幌大の13大学に設置されていることを明らかにしています。
5.孔子学院の3つの危険性
この国内の孔子学院について、日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠氏は、ダイヤモンドオンラインに「国内13大学が『中国政府の宣伝工作拠点』に?“孔子学院”の危険な実態」という記事を寄稿しています。
件の記事の概要は次の通り。
・政府は5月12日に閣議決定した答弁書において、国内の少なくとも13大学に、中国政府による教育機関「孔子学院」が設置されていると明らかにした。このように稲村悠氏は、孔子学院の危険性として、「不透明な契約内容」「日本政府機関の審査などを経ていない」「プロパガンダ工作・スパイ活動の危険性」の3つを挙げています。
・日本で設置が確認されたのは、早稲田大、立命館大、桜美林大、武蔵野大、愛知大、関西外国語大、大阪産業大、岡山商科大、北陸大、福山大、山梨学院大、立命館アジア太平洋大、札幌大の13大学である。
・この孔子学院は、中国政府が世界各国の大学などに非営利教育機構として設置を進めていたが、中国共産党のスパイ・プロパガンダ(政治宣伝)機関との指摘が相次ぎ、文部科学省は運営の透明化を大学側に求めていた。
・米国においても2000年代後半~2010年代前半までに米国大学100校超のキャンパスにおいて開講されていたが、学問・表現の自由の侵害およびスパイ活動・知的財産窃盗などの可能性について連邦議会が懸念を表明、米国内では同学院の閉鎖が相次いでいる。だが、世界全体で見てみると、今も160以上の国や地域に550を超える孔子学院が存在するといわれる。
・孔子学院は、2004年に「外国における中国語・中国文化の普及」を目的として韓国に初めて設立された。
・その形態は、非政府組織(NGO)であるが、その実態は中国教育部(文部科学省に相当)傘下の国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢語事務局)が運営機関であり、背後で中国共産党指導部が意思決定をしている国家プロジェクトである。
・ちなみに、孔子学院には儒学の始祖「孔子」の名を冠しているが、儒学に関する教育機関では一切ない。
・日本で孔子学院を開校する際には、大学と漢語事務局との間で契約を結ぶ。法令による設置認可や届け出が必要ないため、文部科学省などの認可は不要である。
・そのため、孔子学院の運営に関しては、中国政府が設置先の大学に資金提供をし、教職員の採用方法などについても契約で自由に取り決めることができる。
・日本の大学からすれば、孔子学院設置費用や運営費は、中国政府が援助するため、大学側はほとんど負担することなく、中国語教育を安価で学生に提供でき、学生も併せて募集できるため、メリットが多い。
・上記孔子学院設置校のうち、★印を付けた3大学(立命館大、早稲田大、工学院)における孔子学院は要注意である(その1つである工学院大学孔子学院は21年3月末閉鎖)。
・まず、工学院大学と提携していた北京航空航天大学は、中国の軍需企業を管理する国家国防科学技術工業局に直属する国防七校の1つであり、同大は、大量破壊兵器であるミサイル開発の疑いがあるとして、貨物や技術の輸出時には経済産業省の許可が必要な「外国ユーザーリスト」に記載されている。
・また、立命館大学、早稲田大学と提携している北京大学は、準国防大学といわれ、国家国防科学技術工業局が管理している大学である。
・孔子学院の危険性は3点ある。
・一点目は、孔子学院と受け入れ大学側との契約内容が不透明であることだ。日本においても契約内容は文部科学省などが審査する構造になっていない状況となっている。
・二点目は、文部科学省をはじめ日本政府機関の審査などを経ずに、日本の大学内に中国政府の統制下にある機関(孔子学院)が設置されるため、大学および日本の自治に極めて重大な懸念があることである。中国共産党のスパイ機関・プロパガンダ工作を行うと世界から指摘を受けている孔子学院に対し、日本はその設置を許容したままとなっている。
・なお、一部メディアによれば、2010年に大阪産業大学の理事が孔子学院を運営する漢語事務局をスパイ機関と呼んだことで、キャンパス内の中国人留学生などから大きな反発を受けて謝罪して辞任し、この話が中国共産党機関紙の人民日報に掲載されたという。いずれにせよ、中国政府の統制の下、教育内容が管理され、教育の自由を侵害している。これが、後述のプロパガンダ工作につながる。
・三点目は、プロパガンダ工作・スパイ活動の危険性である。
・孔子学院によるプロパガンダ工作は「シャープパワー」と位置付けられている。シャープパワーとは、軍事力などの「ハードパワー」と、文化・教育・価値観といった「ソフトパワー」との中間に位置付けられている。
・一般的に、ソフトパワーによって相手国の世論に対し、自国に対する親近感や好感を醸成し、対象国の世論を味方につけて自国の利益に資するようにする手法をパブリック・ディプロマシーという。
・孔子学院はその手法の代表例であったが、中国のような権威主義国家ならではの強引・横暴な要素が大きいことから、シャープパワーとして批判されている。まず、孔子学院において、友好的な文化・教育交流として、中国の文化や言語に多く触れてもらう。そして、学生に中国の文化に親しみを持たせた上で、中国への留学や招待を実施し、親中派として育て上げる。注意すべきは、このプロセスにおいてウイグル人権問題や香港弾圧について触れず、台湾問題や尖閣問題などについては中国の主張をソフトに教育・浸透させていくのだ。
・中国に長く留学した私の知人(日本人)と会話した際、彼にウイグル人権問題の話題を投げかけても怪訝そうな顔を浮かべ、「留学して思ったが、そもそも証拠がないだろう。中国の現地では誰も問題にしていない」などとけむに巻こうとする。
・尖閣問題についても、「中国の主張も聞かなければならない。日本の主張ばかり聞いても仕方ない」と中国目線で答えるのだ。さらに、「中国に来ればわかる」とまで言われてしまった(私が中国に行ったら、おそらく反スパイ法で拘束されるだろう)。
・また、孔子学院の社会人学生として、例えばメディア関係の人間を中国旅行などに誘い、現地の“良い部分”の情報に多く触れ、親中派として育て上げる。同様の手法は企業幹部や政治家にも及ぶだろう。
・要は、孔子学院を経て中国に“都合の良い情報”のみを与え、可能であれば感化させ、親中派を孔子学院の設置国で拡大させていくプロパガンダ工作である。そして、こうした取り組みが、日本の有力な大学において、日本政府(文部科学省)が関知することなく行われているのだ。
・ちなみに、中国による工作はこれだけではない。例えば、日本国際問題研究所の桒原響子氏によれば、台湾有事における一つの想定として、中国は、日本と米国の分断を目指し、「台湾有事における在日米軍や自衛隊の活動により、日本は戦争に巻き込まれる」と訴えることで、日本の軍事アレルギーを刺激し、批判的なデモや抗議活動を活発化させようとしていると述べている。
・台湾有事に限らず、これに似た状況は、既に日本国内でも散見されているが、その背景に中国の思惑が働いていることは明白であろう。
・まず、孔子学院が設置されている大学が保有する研究情報などの知的財産に加え、中国人留学生のコミュニティー情報、有力人物の人脈等について極めて近くで触れられる環境にある。
・また、中国の「千粒の砂戦略」のように、中国はビジネスマンや留学生などのさまざまなチャネルを利用して技術情報の窃取を試みる。事実、中国人留学生による諜報事件は近年、日本国内でも幾度か検挙されている。
・特に悪質なのは、中国政府機関系の人間が善意の留学生に接触し、スパイ活動に加担させる点だ。
・2008年夏、北京五輪の聖火リレーが開かれた際、中国大使館などの指示を受け、中国人留学生学友会を主とした中国人留学生が全国から動員されたが(当時の報道によると、3000~5000人が集まったとされる)、善意の留学生であれ、中国政府の意向には従順である。したがって、中国政府が孔子学院を通じ、情報収集や工作活動を指示すること、または同活動にリクルートすることは当然想定される。
・さらに、3月初旬に、日本に留学していた女子留学生が香港に一時帰国した際、SNSで香港独立に関する情報を流したとして国家安全維持法違反の容疑で逮捕された件や、中国非公式警察による在日中国人コミュニティに入り込んだ監視活動を鑑みても、孔子学院がプロパガンダ工作を行うだけではなく、これら反体制動向の監視活動に関与、情報提供などの支援を行っていると推察することもできる。
・今回、参政党の神谷宗幣参院議員の質問主意書に答えた形で、報道において孔子学院がクローズアップされた。
・2021年には、参議院文教科学委員会質問において、自由民主党の有村治子参議院議員が孔子学院について取り上げ、萩生田光一文部科学相(当時)が初めて孔子学院への対応を明言した。また、過去には自由民主党の杉田水脈衆院議員が予算委員会(第四分科会)において、孔子学院について取り上げている。
・これまで、孔子学院について、各国が閉鎖などの措置を進める中で、日本においてはその対応が明確になされることはなく、前述の議員たちの行動によってクローズアップされては世間からの関心が薄れ…ということを繰り返している。この状況は、現在の厳しい国際情勢の中で日本の立場として懸念すべきではないだろうか。
・日本として明確な対応策を示す必要がある。そして、社会もこの問題について関心を高めるべきだろう。
・最後に断っておくが、中国の文化に触れ、中国の言語を学び、互いの理解を深めるのは素晴らしいことであり、筆者にも素晴らしい中国人の友人がいる。一方で、本稿において、それとは区別して孔子学院への懸念に対し、社会において改めて認識され、日本の対策がわずかでも進むことを期待したい。
6.在日中国大使館の出張所
契約内容が不透明で日本政府機関の審査もない機関が日本国内にある。まるで、在日中国大使館の出張所か何かのようです。孔子学院が一種の在日中国大使館の出張所だと位置づけるならば、接受国として、孔子学院のスタッフに対し「アグレマン(受け入れ承認)」を出すようにすべきでしょう。
また、「プロパガンダ工作・スパイ活動の危険性」についても、稲村氏は、孔子学院によるプロパガンダ工作は『シャープパワー』として、自分に都合のよい情報のみを与え、感化していく、と喝破しています。
筆者は2021年3月のエントリー「過去を教え現在を弾圧する中国」で、首都圏某大学の孔子学院に潜入取材をおこなっていたルポライターの安田峰俊氏の記事を取り上げ、半年講座を受けた安田氏が、孔子学院は「プロパガンダ機関」でも「スパイ養成機関」でもなかったと語っていたことを紹介。これに対し筆者は、孔子学院の狙いは、中国に「親しみ」を持ってもらうことと、中国語に触れる人を増やすことで、中国とのパイプを太くし、中国当局の工作をやりやすくするためであるとし、更に、その工作は、「老師が弟子に教えるだけで、弟子が老師に歯向かうことは許されない」という一方通行のものだ、と指摘しました。
前述の稲村悠氏が、中国のプロパガンダ工作のやり方として、中国に“都合の良い情報”のみを与え、可能であれば感化させ、親中派を孔子学院の設置国で拡大させていく、と述べていますけれども、筆者の指摘した内容もこれと軌を一にするかと思います。
こうして考えていくと、やはり政府は孔子学院に対し、稲村氏の指摘する3つの問題点「不透明な契約内容」「日本政府機関の審査などを経ていない」「プロパガンダ工作・スパイ活動の危険性」を解消すべく動く必要があるのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
インド辛え~