

1.翔太郎秘書官更迭
5月29日、政府は岸田総理の長男の翔太郎首相秘書官(政務担当)が6月1日付で辞職し、後任に山本高義元首相秘書官を充てる人事を発表しました。事実上の更迭となります。
これは、5月24日、『文春オンライン』が、2022年末、翔太郎氏が総理公邸で忘年会を開いたことを報じたことが引き金です。報道では、岸田家の親戚10人以上が集まり、翔太郎氏のいとこが、赤じゅうたんの上に寝そべっている写真などを、翔太郎氏が悪ノリで撮影に興じていたことが発覚したことから内外から批判が集まっていました。
岸田総理は、29日午後、記者団に対し、「公邸の公的なスペースにおける昨年の行動が、公的立場にある政務秘書官として不適切であり、けじめをつけるため交代させることといたしました」、「当然、任命責任は私自身にあり、重く受け止めている」、「国民の皆様の声に耳をすませ、先送りできない課題一つひとつに答えを出していくことに邁進することで、職責を果たしていきたい」と交代の理由を説明しましたけれども、報道直後は、翔太郎氏には「厳しく注意を行った」とする一方、「緊張感を持って対応してもらいたい」と更迭を否定していました。
ところが急転直下の更迭となったのは、批判の声がどんどん膨らんでいったからです。
2.橋下徹のどっちもどっち論
件の報道後、立憲民主党の田名部匡代参院幹事長は「公私混同も甚だしいと思いますよ。やはり厳しく対処すべきではないでしょうか、更迭すべきではないですか」と追及。公明党の石井啓一幹事長は「大変遺憾であります。自覚と緊張感を持って、職務にあたっていただきたい」と注文をつけ、自民党の世耕弘成参院幹事長は「2回注意を受けたわけですけども、3度目がないように努めていただきたい」と苦言を呈しました。
ある自民党関係者は「1回秘書官を辞めさせて、ゼロからやり直さないと。何をしたら悪いのか本人もわかってない」と実に手厳しい批判をしています。
一方、翔太郎氏を庇う声もあることはあります。橋下徹・元大阪市長です。
橋下氏は「僕は許せる派。というのは、私的スペースでもあるし、公的なスペースっていうんですけど、例えばですけどね、知事室、市長室に僕も子供が来た時には、そこで知事の椅子に座らせて写真撮ってますよ。自分がやってるから許せる派になってしまうんですけど……例えばですけど、首相公邸というと凄い特別な場所に感じますが、国会も僕らからしたら特別な場所。国会議員は自分の支援者を国会に呼んできていろんな場所で写真撮ってます。だから公的なスペースで自分の関係者の写真を撮るってことが、もし国民の皆さんが全部だめだって言うんなら僕も悪いことをやってたし、今国会議員がワーワー騒いでる国会内の写真も全部やめにしないといけません……あとは態度が悪いというのだったら、態度なんて分かんないから公的スペースで関係者の写真撮るなってするんだったら僕も謝らないといけないし、国会議員も以後やめないといけない。それが許されている現状だったら僕は許されると」と見解を述べました。
ただ、橋下氏の論は「どっちもどっち論」に過ぎず、厳密には擁護ではありません。要は庇い様がないということなのでしょう。
政治アナリストの伊藤惇夫氏は翔太郎氏の行動を「あきれるほかない……政治経験のほとんどない息子を秘書官にしたことがおかしかった。能力を疑問視する見方は就任時からあり、更迭は『今更か』という印象だ」と切り捨て、「こうした不祥事に有権者は反応しやすく、政権運営にはマイナスだ。微妙な時期であることも判断に影響したのではないか」と、巷で取り沙汰されている衆院解散を視野にいれてのことではないかと指摘しています。
ある政治ジャーナリストによると、辞職は、翔太郎秘書官が自ら申し出たようで、「翔太郎秘書官が『もう辞める!』と言ってきかなかったそうです。岸田首相は更迭については否定していましたが、本人の心が折れてしまっており、『もう仕方がない』と辞職を認めたそうです」とコメントしています。
3.下落する内閣支持率
今回の翔太郎氏の問題は、内閣支持率に大きく影響しています。
日本経済新聞社とテレビ東京が26〜28日に行った世論調査では、内閣支持率は47%と4月の前回調査から5ポイント急落。共同通信の調査では支持率は横ばいでした。
読売新聞が22日朝刊で報じた世論調査では内閣支持率は9ポイント増の56%、毎日新聞が23日朝刊で報じた調査でも支持率は9ポイント増の56%と、思いっきり、サミット効果があったことを考えると、翔太郎氏問題によってサミット効果が打ち消された形です。
先週まで広島サミットは成功したと盛り上がっていたのが、たった1週間で岸田内閣をめぐる風向きは大きく変わってしまいました。
朝日新聞の世論調査でも、この件について「大いに問題だ」が44%、「ある程度問題だ」が32%と合わせて76%に上っています。
支持率の急落について、ある政治評論家は「サミットなどの外交より庄太郎氏の問題の方が国民には分かりやすい。広島サミット成功で会期末解散の可能性も高まっていたが、岸田総理の独断で解散を決められる状況ではなくなった」と指摘。別の政治ジャーナリストも「短期間で支持率が上下するのは岸田内閣に岩盤支持層が存在しないことを示している」と指摘しているようです。
4.解散はやりにくくなった
解散が難しくなったことについては、嘉悦大学教授の高橋洋一氏も指摘しています。
5月29日、高橋洋一氏は、現代ビジネスのコラム「あれほどツイていた岸田首相、息子の写真と公明党のせいで「解散」はさすがに無理か」で次のように述べています。
先週の本コラムで、広島サミット直後に「惑星直列」状態になったと書いた。高橋教授によると、総理秘書官は役人の感覚では、各省事務次官よりはるかに偉く、大臣級として接する相手なのだそうです。それが総理公邸でふざけてしまう。あまりにも公人の自覚に欠けていたといわざるを得ません。
(1)ゼレンスキー訪日もあって、(2)広島サミットが大成功し、(3)支持率が爆上げした。(4)株価が3万円台となり、(5)コロナも五類。6月に解散すると、(6)7月の安倍元首相の一周忌に総選挙投開票、(7)勢いのある維新は準備不足、(8)6月に公表される骨太方針がそのまま公約になり増税が表向き隠せるし、(9)国会審議が厄介なLGBT法案を審議しないですむ、という滅多にない好条件になり「惑星直列」と例えたのだ。
となると、6月に解散、7月に総選挙の公算が高まっているという状況になる。
ところが、政界の一寸先は闇だ。先週5月25日木曜日、「惑星直列」を一気に破壊するような出来事があった。
一つは、岸田総理の長男秘書官が総理大臣公邸で親戚と忘年会の写真流出だ。二つ目は、次の衆議院選挙に向けた自民・公明両党の候補者調整で東京では公明党は自民党の候補者に推薦を出さない方針の決定だ。
これらのインパクトは大きかった。日本経済新聞社は26~28日に世論調査をしたが、岸田文雄内閣の支持率は47%で4月の前回調査から5%ポイント下がった。同時期の共同世論調査で岸田内閣の支持率は47.0%と前回に比べて横ばいだった。
なお、サミット直後の世論調査での政党支持率は、読売新聞9%ポイントアップ、毎日新聞9%ポイントアップだった。
これらは、同じ調査ではないが、25日の事件が大きく関係し折角のサミット成功での支持率アップを帳消しにした可能性がある。また、サミット後にでてきた少子化対策での社会保険料引き上げなどの方向も影響したのかもしれない。
まず、総理大臣公邸の私的利用はこれまでにも度々問題になった。鳩山政権の時には、夫妻で韓流スターを招待した。安倍政権でも、昭恵さんが芸能人を招いた。こうした行為のどこまでが問題になるかの線引きは難しいが、筆者は公人としてどこまで関与しているかを問題視している。
鳩山由紀夫氏の場合、首相なのだから夫妻で公邸を使ったら公的な利用だろう。実際、2010年3月23日の参院予算委員会で自民党の山本一太氏が、鳩山由紀夫首相の幸夫人が17日夜に韓国人俳優のイ・ソジン氏を首相公邸に招いたことを取り上げている。なお、当時の首相動静には、何も記載されていない。
【中略】
安倍夫人の場合、明らかに私人だ。私人でも一定の制約があると言う考えもあろうが、安倍氏が関わっていなければ問題視することもないだろう。
今回、岸田文雄首相の長男、岸田翔太郎氏は公人である。首相政務秘書官は、国家公務員法第2条により特別職の国家公務員だ。岸田翔太郎氏の年収は1300万程度だが、役人の感覚から言えば、各省事務次官よりはるかに偉い。大げさに聞こえるかも、各省役人は大臣級として接するだろう。
筆者の感覚からいえば、公人たる岸田翔太郎氏が関与した公邸忘年会の写真流出は、考えれないほど不適切だ。松野官房長官も、不適切だと会見で言わざるをえなかった。
当日(昨年12月30日)の首相動静をみると、岸田首相の行動としては何も書かれていない。
《午前10時現在、公邸。朝の来客なし。
午前中は来客なく、公邸で過ごす。
午後2時19分、公邸発。
午後2時34分、東京・日本橋兜町の東京証券取引所着。同35分から同44分まで、脚本家の三谷幸喜氏、清田瞭日本取引所グループ(JPX)最高経営責任者(CEO)ら。同3時1分から同22分まで、大納会に出席しあいさつ。
午後3時24分、同所発。
午後3時32分、東京・銀座のリラクセーションサロン「クイーンズウェイ銀座並木通り店」着。マッサージ。
午後5時34分、同所発。
午後5時46分、公邸着。
午後10時現在、公邸。来客なし。》(2022年12月30日 時事通信首相動静)
しかし、松野官房長官は「総理も私的な居住スペースでの食事の場に一部、顔を出し、あいさつしたと聞いている」と答えている。
ここからは筆者の邪推だ。問題の週刊文春では、赤絨毯の敷かれた階段で12名の男女が並んでいるもの、寿司やケータリングの料理、缶ビールなどを並べた宴会、若い男女が〈Prime Minister of Japan〉のプレートの付いた演説台での会見ごっこ、赤じゅうたんの階段に寝そべる男、大ホールでの大臣ごっこ、官邸だった頃は閣議が行われた円卓の6枚の写真がある。
宴会が行われたのが昨年12月30日。親族の間で共有されていたが、その後12名の誰かが自慢したいために他の人に漏らしたのだろう。
今回文春に出された6枚の写真は、あえてサミット後のタイミングを狙ったのかもしれない。また、岸田翔太郎氏を中心とするものばかりだが、忘年会の写真として6枚は少ないと思う。まだ他の写真もあり、それに岸田首相が写っている可能性もあるのではないか。
となると、最悪の場合、岸田首相の写真も流出していると考えたほうがいい。もしそうなら、岸田首相が、長男翔太郎秘書官を更迭できないのは当然であり、注意にとどめざるを得ない。
岸田首相と長男翔太郎秘書官の関係を、アメリカのバイデン大統領と息子の不祥事と似ているという人もいるが、息子が公人と私人の違いがある。安倍首相は、実弟の岸信夫氏を自分の政権のときには大臣にしなかった。公私のけじめをつけるためだ。
岸田首相の場合、長男を官邸の政務秘書官に任命してしまったので叩かれる。形式的には、岸田事務所の公設秘書も特別職国家公務員、官邸の政務秘書官も特別職国家公務員で同じだが、官邸という政務秘書官という「偉すぎるポスト」に就けすぎた。
長男問題の帰趨がはっきりしないうちは、なかなか解散しにくくなったのではないか。万が一、首相の写真流出となれば目も当てられないことになるからだ。
次に、自民党と公明党がギクシャクしている。
この背景には、維新の統一地方選での大躍進が関係している。実は、大阪市議会で維新は不可能とも言われた過半数を制した。それまで大阪市議会運営で維新は公明党の協力を受けていて、その見返りで国政選挙で公明党候補のところに維新候補を立てなかった。
しかし、もう大阪市議会での公明党の協力は不必要になったので、国政でも公明党候補のところも維新は白紙としている。もし維新が立つと最大6つも公明党は議席減となる。そこで、今回10増10減の区割り調整があるが、議席増となる東京で公明党は議席増を狙っているのだ。
東京で、公明の支援があるかどうかは、1~2万の票に関係するとされる。これで影響をうける自民党議員も少なくない。
この自民党と公明党のギクシャクは、政権支持率の変化には影響しないだろうが、もめている間は、解散をやりにくくなったという見方が多い。
以上のように、政治では一寸先は闇だ。
高橋教授は、忘年会の写真の中には岸田総理が移っているものも含まれている可能性があり、それが流出したら大変なことになると指摘した上で、長男問題の帰趨がはっきりしないうちは、解散しにくくなったのではないか、と述べていますけれども、ジャーナリストの門田隆将氏は「7月中の投開票有力と言われていた衆院選の風向きがおかしい。東京28区を巡る公明党との確執もそうだが、長男・翔太郎氏の公邸ドンチャン騒ぎの余波を岸田首相が恐れているかだ。朝日の当日の首相動静によれば公邸に午後5時46分に帰っていた首相。本人のどんな写真が流出しているか次第」と意味深なツイートをしています。
一部には、今回の翔太郎氏更迭は、早期の解散総選挙を考えているからだ、という見方もあるようですけれども、もしかしたら、今回の翔太郎氏問題は、思ったより尾を引くかもしれませんね。
安倍氏1周忌の7月中の投開票有力と言われていた衆院選の風向きがおかしい。東京28区を巡る公明党との確執もそうだが、長男・翔太郎氏の公邸ドンチャン騒ぎの余波を岸田首相が恐れているからだ。朝日の当日の首相動静によれば公邸に午後5時46分に帰っていた首相。本人のどんな写真が流出しているか次第 https://t.co/LQTPGP7p5u pic.twitter.com/6XO6QIsNL4
— 門田隆将 (@KadotaRyusho) May 29, 2023
この記事へのコメント
詠み人知らず
三角四角
岸田翔太郎氏を叩き過ぎだと思う。
彼を叩くなら、もっと叩かなければいけない人がいるでしょうに?
自民党の二世政治家が、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と同党所属議員との関係が取り沙汰されていることについて「正直に言う。何が問題か、僕はよく分からない」と述べた。追及する野党やメディアを念頭に不快感も表した(共同通信)。
こっちの方が断然悪いでしょう。
一部の国民が搾取され苦しんでいるのに、全く他人事の様だ。
この様な人が総理になって、国民の幸せなんか眼中に無いみたいな政治をされたら、末恐ろしい。
この政治家への追及は通り一遍の癖に、翔太郎氏への追及は丸で小姑の様に陰湿でねちっこい。
『 ある自民党関係者は「1回秘書官を辞めさせて、ゼロからやり直さないと。何をしたら悪いのか本人もわかってない」と実に手厳しい批判をしています。 』
下らないダブルスタンダードな発言です。
言っていることに正当性が在りません。
安倍総理も2015年に公邸内の「西階段」で、お友達との「組閣ごっこ写真」を撮っていたのですよ!(注1・2)
ある自民党関係者はその時、絶対に安倍総理の行為を非難していない!
もし、非難していたら称賛します。
同じ行為をしながら、安倍総理はスルーして、岸田翔太郎氏は手厳しい批判ですか?
例えば、同じ法律が人によっては適用されたり、されなかったりしたら、国民の間で不信感を生みますよ。
法律を作る国会議員に相応しくないメンタルです。
ある自民党関係者は、国会議員に向いていなさそうだから、辞めて欲しいです!
これだから駄目なんだ!
日本は単独減点主義を止めて、加点主義を加えて併用すべきである。
単独減点主義を採るから、ミスをしないことが第一目標になって、小粒な人物が組織の頂点を占める様になる。
社会や国が行き詰まっても、組織の長は単独減点主義だから、新しい事をして失敗するより、何もしない方を選ぶ。
それから虐めも単独減点主義の一種かも知れない。
グループの空気から少しでも外れると、虐め倒す。
グループから外れた者は心に傷を負い、不幸な事件を起こす場合もある。
また、学校で虐めが無くならないのは、虐めが発覚したら、学校上層部にとって、減点の対象でしかなく、上手く解決しても、降格の対象になるから、出来れば、転任まで隠して置きたいからだ。
単独減点主義を止めて、減点主義と加点主義の二刀流で行けば、日本も明るくなり、経済も成長すると思う。
(注1)【 FRIDAY(フライデー) 2015.6.25
安倍首相 支持率急落中にお友達との「組閣ごっこ写真」流出!
https://friday.gold/article/46229
歴代内閣の組閣時に使われた「公邸西階段」
安倍首相 支持率急落中にお友達との「組閣ごっこ写真」流出! 画像1ギャラリーで見る
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2枚目の写真は今年3月上旬、首相の住まいである公邸内の「西階段」で撮影された一枚だ。
「西階段」は、この建物が官邸(首相の仕事場)として使われていた時代、新閣僚が記念写真に収まる場所として知られていた。 2015年07月10日号 2023 ©KODANSHA LTD. 】
(注2)【 日刊サイゾー 2015/12/05 10:00
小林よしのりAKB48別離宣言の裏に、秋元康との確執あった!?「原因は組閣ごっこ批判か」
https://www.cyzo.com/2015/12/post_25282_entry.html
「AKBサイドが小林さんの発言に激怒して謝罪を求めたところ、小林さんがこれに反発してモメたようだ」(芸能記者)
その発言とは、小林の秋元批判だ。秋元が安倍晋三首相や幻冬舎・見城徹社長らと首相公邸の西階段で組閣風に撮った写真が6月に写真誌「フライデー」(講談社)で「組閣ごっこ」と報じられた際、小林はこれを「恥ずかしくない?」と批判していたが、この発言が秋元を激怒させたというのだ。実際、秋元は“組閣ごっこ”を報じた写真誌の発行元、講談社に取材NGを突き付けるほど激高したといわれており、小林発言にキレた可能性は十分ある。一方の小林も、自分の主張に対する反発には引かないことで知られ、2人がこの件でぶつかったとすれば、小林のAKB離れの理由になるだろう。
(文=藤堂香貴) 株式会社サイゾー運営サイト copyright © cyzo inc. all right reserved. 】