モスクワへのドローン攻撃と終盤戦のシナリオ

今日はこの話題です。
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1.ドローン攻撃されたモスクワ


5月30日早朝、ロシアの首都モスクワでドローンによる攻撃が発生しました。ロシア国防省はメッセージアプリ「テレグラム」での投稿で、ウクライナ政府が少なくとも8機のドローンを使った「テロ攻撃」を行ったと説明、「うち3機は電子戦で制圧され、制御を失って意図した目標から逸れた。また、5機のドローンがモスクワ地域の地対空ミサイルシステム『パンツァーS』によって撃墜された」と全てのドローンを撃墜したとし、この攻撃により、いくつかの建物に軽い被害があったとコメントしています。モスクワのセルゲイ・ソビャーニン市長によれば、重傷者は出ていないようです。

モスクワが大規模なドローン攻撃の標的になったのは、ウクライナ侵攻以来初めてのことです。

これについて、元産経新聞モスクワ支局長で、大和大学の佐々木正明教授は、5月30日放送のMBSテレビ「よんチャンTV」にて、キャスターの質問に次の様に答えています。
---大和大学の佐々木正明教授の解説です。たった今入ってきた情報、モスクワでドローン攻撃があったということです。モスクワ州のボロピヨフ知事はモスクワの近郊で複数のドローンが迎撃されたと発表しました。また独立系メディアのバザーは、およそ25機のドローンが今回の攻撃に関与していて、爆発物を搭載したものも含まれていたと報道。モスクワへの攻撃は現地時間30日の早朝で、確認されているのはドローン25機ということですが、これをどう見ていますか。

佐々木正明教授:この事案、戦況を変える大きな出来事になる可能性があります。現場は緊張が高まっている状況です。モスクワが攻撃されたという状況にプーチン政権がどのような反攻に出るのか。今後注目されることになります。そして私が今状況を把握しているのは、25基のうちモスクワに届いたのは8機。そのうち5機が撃墜され、3機はもしかしたら住宅に当たっている可能性があります。現地時間朝5時半にドローン攻撃があった。思い返すと、5月3日にクレムリンのドローン攻撃がありました。そのときはドローンがウクライナ国境から飛んできたのか。もしくはモスクワ近郊から飛ばされたものであったかというのは判明していません。当局はおそらく情報は掴んでるはずです。このドローンがどこから飛んできて、誰が飛ばしたのか。どのような意図を持っていたのかということが注目されますが、今後また第2波、第3波の可能性もありますので、緊迫した状況にあるということをお伝えしたいと思います。25機というのは、おそらく途中で撃墜されたものも含むドローンだと思います。モスクワで撃墜された、もしくは爆発音を聞いたモスクワ市が確認したのは8機ということが、私が現地から見た情報でそのような状況になっています。

---以前クレムリンの上で爆発ドローンがありましたが、あれはもしかしたら「自作自演なんじゃないか」という話もありましたが、今回の事案はどうなんでしょうか?

佐々木正明教授:クレムリンへの攻撃は、自作自演説がどんどん薄れていっているような状況です。その後のプーチン政権の反応。もしくは今、ロシアに越境攻撃をしているウクライナの義勇軍、もしくは自由軍団というのがあってその一味がドローンを持ち出して攻撃した可能性もあるとも言われております。もしくは、ウクライナ側はクレムリンへの攻撃については否定をしていますが、果たして、反転攻勢が始まる時期において、モスクワへ攻撃を連動した場合、ウクライナ正規軍がどのように関わっているのかということも見なくてはいけないと思います。"

---ウクライナ軍の反転攻勢は間近かというそんな話がありました。ゼレンスキー大統領のコメントもありましたけども、このあたりどう見たらいいんでしょうか?

佐々木正明教授:ウクライナのメディアはウクライナ軍に不利な情報情報を流してはいけないんです。つまりウクライナのメディアは、反転攻勢についてあまり語られていないような状況にあります。ただロシア側のブロガーだったりとか、ロシア側のインターネットの情報によりますと、ザポリージャ州のリトジャというところの上の付近に、どうやらこの反転攻勢で新しく部隊を作ったというような状況があるんですね。それはアメリカの流出文書で明らかになっていますが、そこにドイツやアメリカ、NATO諸国から供与された新しい武器が、部隊が集まっているという状況があります。つまりゼレンスキー大統領が「もう決定が下された」と言いましたので、今は突破口を探している状況。ルハンシク州からヘルソン州まで1500キロぐらいあり、ザポリージャ州の上のところに大部分が集まっていますが、果たしてヘルソン州の方から、陽動作戦として突破をする可能性もありますし、突破口を探している状況で、今日、今にも開戦する可能性はあると思います。

---以前、ゼレンスキー大統領はウクライナ国内でロシアが納めているところを取り返す戦いだということを繰り返し言っていると思います。ロシア国内は攻撃しないという発言でしたが、今回のモスクワの攻撃はどう捉えたらいいのでしょうか?

佐々木正明教授:もしウクライナ正規軍が関わっていれば、もしくは義勇軍とか反プーチン派の一派にウクライナが武器を供与したということが明らかになりますと、2014年にロシア側が陰の部隊を使って、クリミア州、ドンバス地域に多くの部隊がやってきて、内戦のようなことが起こした。この逆のパターンになるという形になります。となるとウクライナ側がロシアに越境攻撃をした。支援してるという形になるので批判される、非常にウクライナ政権にとってはまずい状況になる。アメリカ側が禁じ手ということで、最初から禁止していましたが、これが明らかになりますと、今度の武器供与にも大きな影響が出る可能性もありますので、今日のドローン攻撃もしくはクレムリンへの攻撃。ロシアの影響攻撃がされている状況ですので、この動きが果たして、本当にウクライナ政権がやったものなのか。弾薬ミサイルはどのようにして実行部隊がやったものなのか、ここも注目です。そして連動して、ウクライナの正規軍の反転攻勢がどうなるかというのは注目だと思います。

---今週、ロシア軍は首都キーウに最大規模の攻撃をしたという内容が入ってきています。ウクライナ軍の高官は28日未明の大規模攻撃でロシア軍のイラン製ドローン少なくとも40機を撃墜したと発表しています。佐々木教授はロシア軍がウクライナ軍の対空ミサイルを枯渇させようとしているとの分析もある。たくさん迎撃をさせて弾を消費させようということです。そして5月28日は建都を記念するキーウ市の日ということで、連日鳴り響くアプリの空襲警報であったり、都市空襲のミサイルやドローンが市民の精神にダメージを与えていると。だからロシアはキーウへの攻撃を強めているということなんですね。

佐々木正明教授:キーウだけではない、ウクライナ全土です。私3月にキーウへ行ったときに、僕警報アプリをスマホにダウンロードして今も、空襲警報アプリのサイレンが鳴っています。つまり5月、今週も毎日のようにウクライナ時間未明に、日本時間の朝にアプリが鳴るんですね。そして今、子供たちが逃げています。3月の状況とは明らかに違う。岸田首相が、キーウを訪問していた状況とは明らかに違う。緊張した状況にあります。ゼレンスキー政権は「これはテロである」。プーチン政権がテロリストの国家であるというような言い方もして、この反転攻勢をするにあたって、強い言葉で批判をしている状況です今日も朝ありましたので、…今後はミサイルによる攻撃がどうなっていくのか。犠牲者が出ていきますので、これも注目したいと思っています。


このように佐々木教授は、現地では緊張が高まり、プーチン政権の反応によっては、今回のドローン攻撃は戦況を変える大きな出来事になる可能性があると指摘しています。


2.挑発に乗ったロシアエリート層


今回のドローン攻撃について、5月30日、アメリカ国務省報道官は「アメリカは一般論としてロシア領内への攻撃を支持しない。われわれはウクライナによる領土の奪還に向け、装備や訓練を提供することに注力してきた」と述べ、ロシア領内への攻撃を支持しない立場を明確にしました。

一方、モスクワの住宅がウクライナ侵攻開始後初めて攻撃を受けたことに関しては、実際に何が起きたのか情報を収集中だと語りつつも、ロシアは30日に今月17回目となるキーウへの空爆を行ったと指摘し、「このいわれのない戦争をウクライナに仕掛けたのはロシアだ。ロシアがウクライナの都市や国民に対する残忍な攻撃をやめ、軍を撤退させれば、いつでも戦争を終わらせることができる」と強調しています。

他方、同じく30日、イギリスのクレバリー外相は、訪問先のエストニアでの会見で、イギリスメディアの記者から、ウクライナがモスクワへ反撃する正当な権利を有すると考えるかとの質問に「一般論」とした上で、「国境を越えた軍事目標は、国家の自衛権の一部として正当であると国際的に認められている……ウクライナには当然、自国内で自衛する正当な権利があり、ウクライナに向けられるロシアの軍事力を弱めるために、国境を越えて武力を示威する権利も有している」とも述べる一方で、モスクワで起きた集合住宅へのドローン攻撃については詳細を知らず、推測で話すつもりもないとして、コメントは避けました。

では、渦中のロシアはというと、当然ながら、ウクライナによる攻撃と主張しています。

プーチン大統領は、全ロシア国営テレビ・ラジオ会社(VGTRK)に対し、「彼らは私たちを挑発し、同等の反応を引き出そうとしている。どうするかについては、これから検討する」と述べ、5月30日朝のドローン攻撃はウクライナによるもので、ロシアの反撃を誘う意図があると語りました。

攻撃をうけたことで、ロシアのエリート層は激怒しているようで、民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は、自身のテレグラムページで「くさい卑怯者ども! おまえたちはいったい何をしているのだ?! こそこそ隠れていた戸棚から出てきて、この国を守れ! おまえたちは国防省だ! おまえたちは、何も物事を前進させていない! どうしたらモスクワに無人機(UAV)の侵入を許せるのだ?!……ドローンがルブリョフカの自宅まで飛んできて、家を燃やそうとするのを許すなんて。爆弾を搭載したUAVが自宅に突入したら、一般市民はどうすればよいのだ? 私は一市民としてものすごく怒っている。卑怯者どもは平然と、高価なクリームを塗りつけた太った尻で椅子に座っているのだ。ロシア国民には、極悪人どもにこのような質問をする完全な権利がある」と怒りに満ちた音声メッセージを公開しました。

また、軍事専門家のコンスタンチン・シフコフ氏は、ロシア国営テレビチャンネルのトークショーで、モスクワへの攻撃について「私は、今回の攻撃は私たちにとって非常に有益だったと確信している。理由はシンプルで、社会を動かすためだ。私たちがどのような状況に置かれているかを、社会が自覚し始めるためだ……今回の攻撃は、(軍事的な)影響はゼロだった。しかし、社会政治的な影響はとても重大だ。人々はこれで理解するはずだ。私たちの敵が本気であること......そして、自分のアパートの入り口も吹き飛ばせることを」と、これでロシア社会も奮い立つとコメントしています。

プーチン大統領が「私たちを挑発し、同等の反応を引き出そうとしている」と比較的冷静な分析をしているのに対し、ロシアエリート層がまんまと挑発に乗っているように見えなくもありません。


3.大規模反転攻勢の決定が下された


一方、近く本格的な反転攻勢に出ると言われているウクライナですけれども、5月29日、ゼレンスキー大統領は、国民に向けた動画メッセージを公開しました。

ゼレンスキー大統領はこの中で「1日に何度もロシアのテロ攻撃があった。防空部隊のおかげで少なくとも数百人の命は救われた」と述べた上で、軍の参謀本部と会議を開いたことを明かし「砲弾の供給や部隊の訓練状況、戦術だけでなく、タイミングについても報告があった。タイミングこそが最も重要であり、いかに前進していくのか、決定が下された。すべての兵士や将校たちに感謝している」と、領土奪還を目指した本格的な反転攻勢を近く開始する考えを示しました。

この日、ウクライナ空軍は、未明から早朝にかけて、ロシア軍が合わせて75に上る巡航ミサイルと無人機による攻撃を仕掛け、このうち67のミサイルと無人機を迎撃したと発表。さらに現地時間の昼前には、ロシア軍が再びミサイル合わせて11発を撃ち、すべて迎撃したと発表しています。

ウクライナ空軍によると、撃ち落とされた無人機が、キーウ市内の24階建てのアパートの最上階付近に衝突して爆発し、1人が死亡し、3人がけがをしたということです。

また、商業施設が建ち並ぶ地区では、交通量の多い交差点で落下した破片が炎上し、近くで働く男性は「すぐ近くで爆発が起きたと思った。道路にも火が燃え移っていた」と話し、市当局はSNSに、「夜間の攻撃からわずか6時間後だ。市民が街頭にいる日中に平和な都市を攻撃した。ロシアは民間人を殺そうとしていることを、はっきり示した」と書き込んでいます。

このようなロシアの攻撃について、ゼレンスキー大統領は、通りを歩いていた子どもたちが大きな爆発音のあと、悲鳴をあげながら走って逃げる様子を写した映像とともに、「これがウクライナの子どもたちの日常だ」とSNSに投稿し、ロシアの攻撃を強く非難しました。


4.正邪が明らかな事例だ


では、決定か下されたとゼレンスキー大統領が明かした、ウクライナの本格的な反転攻勢は上手くいくのか。

これについて、アメリカ陸軍で40年近く活躍し、CIA長官も務めた経験のある、ペトレイアス退役将軍は、4月、「ラジオフリーヨーロッパ/ラジオリバティ」のインタビューに答え、ロシアのウクライナ侵攻は「我々が生きている間に見た中で、正邪が明らかな事例だ」と主張しています。

また、ペトレイアス退役将軍は、ロシアの軍事指導部の「驚異的な失敗」と失敗から学ぼうとしない姿勢、キエフの差し迫った「複合武器」攻撃の狙いと強さ、についても語っています。
 
件のインタビューの様子は次の通りです。
RFE/RL:ウクライナ戦争において、我々は今どのような状況にあるのでしょうか?

ペトレイアス: ロシアの冬期攻勢は、これまでのところ目的を達成しておらず、おそらく目的を達成することなく終結すると思われる。ロシア軍が最終的にバクムートを占領したとしても、その代償は大きく、賢明でない攻勢だったと言えるだろう。西側の戦車、西側の歩兵戦闘車、大砲、その他さまざまなシステムを導入し、訓練や部隊の育成を行うことで、ウクライナはこの戦争で初めて複合兵器の運用を実現することになる。

複合兵器作戦とは、戦車を歩兵と一緒に使って、敵の歩兵とその対戦車誘導弾を戦車から遠ざけ、大砲と迫撃砲で敵を制圧し、工兵と爆発物処理で障害物を減らし、地雷を除去し、戦車のすぐそばで防空して敵を戦車から遠ざけることを指しているのだ。

昨秋のハリコフでは、このような部隊が十分に存在しなかったため、1週間ほどで部隊の物理的な能力が限界に達したとき、今夏に見られるような突破力、活用力のある部隊は存在しなかったのだ。

つまり、今がその状態なのだ。ロシアはキエフの戦いに敗れ、ハリコフの戦いに敗れ、スミー、チェルニヒフ、ケルソンの戦いに敗れ、冬の目標を達成できなかった1年を終えた。そして今、ドイツ、ポーランド、英国、ウクライナで訓練・装備されている新しいウクライナ軍による春と夏の攻勢に直面することになるが、ウクライナがやろうとすることは達成されると思う。

RFE/RL:そのようなウクライナの反攻の目的は何だとお考えでしょうか。

ペトレイアス: それは2つあると思う。一つは、ロシア軍がウクライナ南東部を通じてクリミアを増援したり補給したりできないようにすること、つまり、昨年の春と夏の攻撃で達成した地上連絡線を断ち切ることだろう。そして第二に、ロシア軍が昨年獲得したウクライナ領をさらに解放することで、ウクライナ南部のかなり広い範囲でロシア軍の崩壊をもたらすことだ。

RFE/RL: クリミアまで?クリミアを含みますか?どこで線引きするのでしょうか?

ペトレイアス: まあ、これは時間がかかるだろう。ひとつずつやっていくことになる。もちろん、アメリカが提供した多連装ロケットシステムに、より長距離の精密弾薬を追加提供することで、約150キロの精密な小口径爆弾を提供し、ウクライナ南部や南東部でロシア人を支援するために重要だったクリミア国内の多くの拠点を保持し...狙うことができる段階に達することが非常に重要だと思っている。つまり、空軍基地、司令部、後方支援拠点、予備兵力拠点などだ。

RFE/RL: バフムートについて具体的にお聞きします。アメリカ統合参謀本部議長のマーク・ミリー将軍は最近、ウクライナ人はここをロシア人の屠殺場にしてしまい、ロシア人はそこで打ちのめされていると述べました。いわゆるボトルネック戦術を用い、ロシアのマンパワーを浪費する、これは最初からウクライナ側の計画だったのでしょうか?

ペトレイアス:最初からそうだったのかどうかはわからないが、時間の経過とともにそうなっていったのは確かだ。初期には、ウクライナ人でさえ、バクムートには地理的な重要性がなく、他の場所にあるような鉄道や道路のハブにはなっていないことを認めていたはずだ。しかし、この特殊な釜の中に兵士を放り込み、ミリー将軍が言ったように兵士が打ちのめされるのを許すという、非常に非専門的な軍隊に対して、都市部を防衛することの価値を理解するようになったと思うのだ。損失は驚異的であり、利益は漸進的であり、信じられないほどのコストがかかっている。そして、ウクライナのゼレンスキー大統領も、ロシアに勝利やロシア軍の目標達成を示すようなものを与えないようにする必要性を、時間をかけてはっきりと認識するようになったのだと思う。

RFE/RL:ロシアがそれを継続した理由もそこにあるのでしょうか。ロシア軍の指導力不足という話もありますが、これが一種の罠として利用されていることは、彼らにもわかっていたはずです。

ペトレイアス:兵士を次から次へと投入したところで、問題は彼らに代替手段がないことだ。彼らはよく訓練された部隊を持たず、もはや装備の整った部隊を持たず、これらの部隊の集団訓練も行っていない。

この春から夏にかけての攻勢をリードするウクライナ軍は、今、ウクライナの最前線で活動しているわけではないことを、オブザーバーが認識することは非常に重要なことだと思う。彼らはドイツ、ポーランド、英国、ウクライナ、その他の場所で訓練を受けているだ。そして、攻勢を開始する前に、私が説明したようなさまざまな要素や能力、戦闘部隊や戦闘支援部隊が存在する状態で、時間をかけてコミットすることになる。

ロシアはそれを行っていない。彼らは基本的に、兵士を部隊に放り込んだだけだ。一貫性がない...本当の意味での組織化ができていないのだ。もちろん、彼らの中には元囚人もいる。6カ月間生き延びることができれば、刑務所から自由に出られるというチャンスを与えられた囚人たちだ。しかし、もちろん、ロシア軍が彼らを雇った方法で生き残る確率は低い。いろいろな意味で第一次世界大戦的だが、ウクライナ人の防御側の能力は、第一次世界大戦の塹壕戦で個人が遭遇した手強い相手よりもはるかに優れているのだ。

しかし、ウクライナ軍が今度の攻撃で何をするかというと、これは大きく異なる。ロシア軍は、ウクライナの国境にあるベラルーシとロシアに数カ月間配備され、この種の任務について訓練することができたにもかかわらず、当初でさえ達成できなかったのだ。私の考えでは、これはとんでもない失敗だ。もし司令官である私に、侵略のための訓練を数カ月も与えてくれたなら、もう少しマシな仕事ができたと思うのだが。

RFE/RL:あなたは侵攻の指揮について、他の誰よりもよく知っています。その観点から、この戦争でロシアが犯した大きな過ちは何でしょうか。

ペトレイアス:最も高いレベルでは、ウクライナの能力を完全に過小評価し、ロシアの能力を完全に過大評価したこと、そして、作戦を適切に設計し、その作戦を遂行するための兵力を準備することができなかったことだ。その上、近代的な通信システムも持たず、そのために将兵が殺され続けた。そしてまた、軍隊を訓練しなかった。我が軍の基幹部隊である下士官部隊のようなプロフェッショナルな下士官がいないことは、以前から分かっていたことだ。しかし、彼らが示した多くの、多くの、多くの欠陥は、予想されたものもあれば、やや意外なものもあった。

例えば、彼らの通信システムはシングルチャンネルなので、暗号化されていない平文でも簡単に見つけることができる。また、HF(高周波)なので、非常に広範囲に放送され、誰でも警察用スキャナーで拾うことができる。少なくとも暗号化されたそのようなシステムを持っていないということは、彼らが軍の近代化にどれほど投資してきたかを考えると、本当に驚異的だ。

RFE/RL:ロシア人は常に悪いスタートを切り、その後良くなっていくという不変の信念があります。2022年10月、あなたはプーチンが直面した戦場の現実は不可逆的であると述べました。あれから半年、ロシアがすべてを覆し、学び、適応するチャンスはまだあるのでしょうか。

ペトレイアス :ロシアの軍隊は、我々が軍隊を作ろうとしたような、学習する組織ではない。私がイラクやアフガニスタン、中東地域で軍を指揮する機会に恵まれたとき、我々 は明確に学習する組織となることを目指した。我々 は、教訓を得るためのセッションや、大きなアイデアや戦略、戦術などを練り直すために、私に決断を求める計画セッションを実施した。すべての司令官会議では、各司令官が他の司令官にも適用できるような教訓を1つか2つ共有することが義務づけられていた。つまり、学ぶ文化を築かなければならないのだ......。我々 は、NATO諸国のほとんどで、全員がそうしている。

この件に関しては、もうクレムリンがどう考えているかなんて気にする必要はないだろう。我々 は過去にクレムリンに肩入れし、それがプーチンを可能にし、ウクライナへの侵攻につながる条件を整えたのだ。

ロシアは明らかにそれを行っていない「彼らは学習する組織ではない」し、事前に欠陥を認識しなかったのだ。なぜなら、プロの下士官部隊を育成するには、何年もの訓練と教育、開発、経験を伴う大きな決断が必要だからだ。だから、私は彼らが学んでいるとは思えない。

しかし、ウクライナ人は学び、成長し、どんどん良くなっている。だからこそ、ロシア軍ができなかったこと、つまり武器による統合的な効果や作戦を実現することができるのだ。しかし、プーチンはまだ、ロシアが敵に勝てないとは思っていないようだ。彼はまだ、あなたが言ったように、歴史上、ロシアはひどいスタートを切り、ナチスに押し戻され、ナポレオン軍に押し出されたが、最後には勝利した、と考えている。そして、ロシア人がナポレオン軍やナチスに勝ったように、ウクライナ人、ヨーロッパ人、アメリカ人にも勝つことができると考えている。我々 は、ウクライナ人が彼の間違いを証明できるようにしなければならないのだ。

RFE/RL:現実の政治的な観点では、ロシアは2022年2月24日の本格的な侵攻前に比べて2倍のウクライナ領土を保有していることを考えると、この戦争に負けていると本当に言えるのでしょうか。しかも、そこはヨーロッパで天然資源的に最も豊かな土地であることも忘れてはなりません。

ペトレイアス:戦争はまだ終わっておらず、まだ進行中だ。ウクライナは、キエフ、スミ、チェルニヒフ、ハリコフ、ケルソンなどの戦いで素晴らしい勝利を収めたが、ご指摘のように、ロシアはまだ彼ら(ウクライナ人)の領土の20%近くを支配しており、その一部は地理的あるいは原材料、鉱物などさまざまな面で特に重要だ。だから、これはまだ続いているのだ。ウクライナ人は、自分たちが成し遂げたことを誇りに思うべきだ。我々も、彼らが達成したこと、そして彼らが達成できるようにしたことを誇りに思うべきだろう。

だが、これは非常に継続的な戦争であり、ウクライナ人だけでなく、彼らを支援する人々にとっても、継続的な支援と決意が必要だ。独裁的で強権的な政権が、隣国の存在する権利すら否定し、挑発もなく、特に残忍な方法で侵略し、戦争犯罪を防ぎ、起こるかもしれない時に対処するのではなく、戦争犯罪を犯すという文化を持っているのだ。

RFE/RL: 2月のミュンヘン安全保障会議で、秋に出版されるウクライナに関する本の発売までに戦争が終わることを望むとおっしゃっていたのを覚えています。その時までにウクライナが勝利することを期待するのは現実的でしょうか。

ペトレイアス:そうだね、希望は持つべきだと思うが、それが必ずしも可能性の高い結果とは言えない。春の終わりから初夏にかけてのウクライナの攻勢で何が達成されるかに大きく左右される。そして、ロシア軍が崩れ落ち、崩壊し、それが(さらに)広がることができれば、もしかしたら、交渉による解決が実際に達成可能な時点に達するかもしれない。しかし、そうでなければ、この事態はさらに1年か数年続くことになり、我々 はそれに備える必要がある。早期の撤退など求めてはいけない。ウクライナ人は、自分たちの生存と独立のためにこの問題に取り組んでいる。彼らは必要なことを行う決意を固めており、我々 も同じことを行う決意を固める必要がある。

RFE/RL:あなたの見解では、最も現実的な終盤戦のシナリオは何でしょうか。

ペトレイアス:ロシアがこの戦争が戦場でも国内でも持続不可能であることを認識したとき、欧米が膨大な内容のマーシャル的復興計画とNATOまたはアメリカが主導する安全保障を提供することを含む交渉による解決になると思う。あるいは、ある時点で新たな凍結紛争が発生する可能性もある。理想的には、正式な解決(または正式な交渉)が行われないまま、ウクライナがクリミアを含む全領土を解放した状態だが。

そして、我々 はウクライナに提供すべき(安全保障の)保証を与えられなかったことを認めるべきだろう。我々は、ウクライナがNATOに加盟することや、特に意味のある何らかの安全保障関係を持つことについてのモスクワの懸念に敏感だった--例えば、バルト三国に提供し、それらはかなりうまくいった--が、明らかにウクライナにはうまくいかなかった。だから、将来的にクレムリンがどのような配慮をするかという懸念は、完全に無視されるべきだ。

RFE/RL:近隣諸国についてお聞きします。モルドバやグルジアのような国にとって、ここで何が問題になっているとお考えですか。

ペトレイアス: モルドバは大きな脆弱性を持っていると思う。アメリカやNATO諸国はこのことを認識し、政府を弱体化させ、倒そうとするロシアのさまざまな努力に耐えられるよう、さまざまな形で支援を提供しようとしていると思う。また、(分離独立した)トランスドニエステル地域にとどまらず、それを拡大してモルドバをロシアのベラルーシのような存在にしようと、できることなら考えている。しかし、モルドバ人はそれを望んでいないと思う。彼らの大多数はそれを望んでいない。ウクライナ人の能力を高めるだけでなく、モルドバ人の能力を高めることも必要なのだ。

脆弱で不安定なモルドバは、クレムリンの次のターゲットになるかもしれない。また、単なる目くらましになる可能性もある。ロシアはウクライナとモルドバを含む東欧に全力を注いでいるため、グルジアは少し異なる状況だ。これは他の地域でも見られることだ。コーカサスでも、ロシアの東部でも、ロシアがNATO諸国と境界を接している地域でも、このようなことが起きている。ウクライナと、少し程度は違うが、モルドバはその対象だ。

グルジアは少し余裕ができたと思う、それを最大限に活用する必要がある。そして、ここ数カ月の間に、彼らの国内政治力学の中で、ロシアに対する拒否反応が非常に大きくなっているのを見たのは、非常に興味深いと思った。(3月、トビリシでは、与党グルジア・ドリームが「外国の影響力」に関する法案の撤回を発表し、批判者がロシアの厳しい「外国人工作員」法になぞらえたため、抗議デモが発生した)。

RFE/RL:モルドバとは異なり、グルジアはNATO加盟の希望を抱いています。今回の戦争はその希望にどのような影響を与えようとしているのでしょうか?この戦争が起こる前と起こった今とでは、グルジアにとって最終的なNATO加盟はより現実的なものだったのでしょうか?

ペトレイアス:今は、ほんの少し現実的になっているのではないだろうか。ある時点で、NATOへの加盟が承認されたフィンランドだけでなく、スウェーデンも(NATOに)加盟することになると思う。そして、ウクライナも時間をかけて、最終的にはNATOの一員になると思う。もし、暫定的に何らかの要求があれば、それに対する安全保障が提供されるだろう。

この件に関しては、もうクレムリンがどう考えているかなんて気にする必要はないだろう。我々は過去に彼らを擁護し、それがプーチンを可能にし、ウクライナに侵攻するよう導く条件を整えた。そのような懸念は終わらせるべきであり、退けなければならない。そして今、我々 はウクライナが防衛的な同盟の一部になれるようにする必要がある。これは攻撃的な同盟ではない。それが実現すれば、グルジアのような国の願望も、過去に比べれば現実的なものになるのではないだろうか。
ペトレイアス退役将軍は、軍隊としてのロシア軍を「兵士を部隊に放り込んだだけだ」と、ボロクソにこき下ろしているのですけれども、それでも、ウクライナが勝利するかについては、「希望は持つべきだと思うが、可能性は高くない」と断じています。

そして、最も現実的な戦争終結シナリオとして「ロシアがこの戦争が戦場でも国内でも持続不可能であることを認識したとき」か「現状で固定(凍結)」した場合だと述べています。つまりロシアが諦めない限り、または満足しない限り終わらないと述べているのですね。

筆者は4月28日のエントリー「ウクライナの春季大攻勢という賭け」で、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙の記事を取り上げ、ウクライナの大規模反転攻勢が戦局を変えるなどとアメリカ政府ですら思っていないことを紹介しましたけれども、ペトレイアス退役将軍の指摘もこれと軌を一にしています。

また、戦争の凍結化についても3月4日のエントリー「プーチンが狙うウクライナの凍結と南半球の仲間達」で、取り上げたように、日本の識者も同様の見方をしています。

もちろん、実際にどうなるかは、これからのウクライナの反転攻勢の行方次第だとは思いますけれども、過度に期待できるものではないかもしれないことは覚えておいてもよいかもしれませんね。



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