破壊されたカフホカダムと干上がるクリミア

今日はこの話題です。
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1.カホフカダム決壊


6月6日、ウクライナ南部のロシア支配地域にあるカホフカダムが破壊され、周辺で洪水が発生しました。

ネットでは、ダムの周囲で激しい爆発が相次いでいる様子が映った動画や破壊されたダムから水があふれ出している動画が出回っています。

カホフカダムは、高さ30メートル、長さ3.2キロ、18立法キロメートルの貯水池を持ち、カホフカ水力発電所の一部としてソ連時代の1956年にドニエプル川に建設されました。2014年にロシアに併合されたクリミア半島や、同じくロシア支配下にあるザポロジエ原子力発電所にも水を供給しています。

ロシアのタス通信によると、今のところザポロジエ原発に「重大な危険」はないとのことで、国際原子力機関(IAEA)は、原発に安全上のリスクは当面ないが状況を注意深く監視していると表明。ザポロジエ原発の責任者も現時点で原発に対する脅威はないとしています。

ダムを破壊したのが誰かについては、分かっておらず、ウクライナ、ロシア共に相手がやったと批判しています。

ウクライナ軍はロシア軍がダムを爆破したと非難。ゼレンスキー大統領は「ウクライナの土地からロシア軍を完全に追放しなければならないことを全世界に知らしめた」とメッセージアプリの「テレグラム」に投稿。7日に公開した動画では「ロシアの占領軍はウクライナの土地で、ここ数十年で最大の生態系破壊の罪を犯した」と厳しく非難しました。

一方、ロシア側は、ロシア軍が任命した南部ヘルソンの当局者は、ウクライナがダムを数回にわたって攻撃したとし、水力発電所の水圧弁が破壊されたが、ダムが完全に破壊されたわけではないと説明。プーチン大統領は7日、トルコのエルドアン大統領と電話会談し、ダムはウクライナ側が破壊したと主張、「ゼレンスキー政権は西側の支援のもと情勢をさらに緊張させようと、公然とテロの手段を用いてロシア領内で破壊工作を行っている……その明らかな例がカホフカ水力発電所のダムを破壊する野蛮な行為であり、環境的・人道的な大惨事を引き起こした」とウクライナ側を非難しています。

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2.ケルソンの地形を大きく変化させている。


どちらがダムを破壊したのかはともかく、現場の被害は深刻なようです。

いくつかの町はすでに浸水しており、より下流の地域で暮らす人々はバスや電車での避難を余儀なくされている。

ウクライナのテレビによると、ウクライナのヴィクトリヤ・リトヴィノヴァ副検事総長が、ドニプロ川の西側のウクライナ領で1万7000人、東側のロシア支配地域で2万5000人が避難の必要があると説明。イホル・クリメンコ内相は、これまでに約1000人が避難し、24の集落で浸水被害が出ていると述べたそうです。

アメリカのシンクタンク、戦争研究所は、6月7日付のレポートで、ダム破壊の被害について次のように述べています。

オレシキー、ホラ・プリスタン、コザチャ・ラヘリ、ドニプリャニのほぼ全域が浸水し、一部の地域では水位が平屋の建物の高さまで上昇している。ダム破壊の影響を修復するために設立されたウクライナ本部は、6月7日現在、29の集落が部分的または完全に浸水しており、そのうち19はウクライナ支配地域にあり、10はロシア占領地にあると報告した。ロシアの情報筋は、ノヴァ・カホフカで水が後退し始め、30センチメートル下がったことを示す映像を公開した。ロシアの情報筋はまた、一部の地域では水位が最高10メートルから3〜4メートル低下したと主張した。近くのムィコラーイウ市の水位は、6月7日の時点で 70cm上昇したと伝えられています。洪水は今後72時間で悪化し、ケルソン州の地理をさらに変える可能性がある。

また、戦争研究所はこの日のレポートで、重要なポイントとして以下を挙げています。
・カホフカ水力発電所(KHPP)ダムの破壊は、ウクライナ南部のケルソン前線地帯の地理・地形を大きく変化させている。
・ウクライナ当局は、ウクライナ軍が東岸(左岸)ケルソン州に上陸することを恐れ、ロシア軍がKHPPダムを破壊したと非難し続けていた。
・ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、工学および軍需の専門家が、6日のKHPPダムの崩壊は意図的な爆発が原因である可能性が高いとみていると報じた。
・ロシア軍と占領当局は、ケルソン州の洪水に対して非常に無秩序に対応しており、それによって占領地域の民間人への被害を悪化させている。
・ワグナーグループ傘下のロシア軍幹部は、注目される軍事イベントに乗じて、プーチン大統領にアピールするために、有能な指揮官としてのポーズを取り続ける。
・テプリンスキー支持派のインタビューは、ロシア国防省(MoD)を弱体化させることを目的とした情報作戦の一環であると思われる。
・ワグナー系指揮官の反応的な広報活動は、戦場の現実から目をそらすには十分ではないかもしれない。
ロシアとウクライナの当局者はそれぞれ、ハリコフ州を通るアンモニアパイプラインを損傷し、アンモニア漏れを起こしたと相手国を非難した。
・ロシア軍はクレミンナ周辺で地上攻撃を継続した。
・ウクライナ当局は、6月7日現在、ウクライナ軍がBakhmut方面で攻撃作戦を展開していると指摘した。
・ロシア軍は、Avdiivka-Donetsk Cityの線に沿って限定的な地上攻撃を継続した。
・ロシア側の情報源は、ウクライナ軍が6月7日にドネツク州とザポリツィア州の行政境界線上で地上攻撃を行ったと引き続き主張している。
・ロシア軍とウクライナ軍は、ザポリツィア州西部で小競り合いを行ったと報告されている。
・ロシア当局は、兵役対象者の海外渡航を引き続き制限している。
・ロシア当局と占領地当局は、占領地をロシアに統合するため、ロシア地域と占領地との間で後援プログラムを引き続き確立している。




3.ロシアの連隊は全員が洪水に巻き込まれた


戦争研究所は今回のカホフカ水力発電所(KHPP)ダムの破壊は、ウクライナ南部のケルソン前線地帯の地理・地形を大きく変化させたとしていますけれども、ロシア軍にも大きな被害を出しているようで、次のように報告しています。
KHPPダムの破壊は、ドニプロ川東岸のロシア軍陣地に影響を与えている。 この洪水により、ロシア軍がウクライナの攻撃を防ぐために使用する予定だったロシアの第一線野戦要塞の多くが破壊された。急速な洪水により、オレシキとホラ・プリスタンにあるロシアの主要集中地点にいるロシア人員と軍事装備は撤退を余儀なくされた可能性が高い。

ロシア軍は以前、これらの陣地を利用してヘルソン市やヘルソンの西(右岸)の他の集落を砲撃していた。 ウクライナ南部作戦軍のナタリヤ・フメニュク報道官は、ロシア軍は人員と軍事装備を洪水地帯から5~15キロメートル離れた場所に移転しており、これによりロシア軍はドニプロ川の西(右岸)の一部の集落の砲撃の射程外に置かれることになると述べた。

この洪水は海岸沿いのロシアの地雷原も破壊し、洪水の中で地雷が爆発する様子を映した映像もあった。しかし、ヘルソン州占領局長ウラジミール・サルドは、KHPPの破壊はウクライナの川越えの進軍を困難にするため、ロシアの防衛にとって有益であると主張した。サルドの状況評価は、ロシアの準備された要塞の第一線の喪失を無視している。洪水の最初の24時間で失われたロシアの重機の量も不明だ。
ロシアの野戦要塞が破壊され、撤退を余儀なくされた、と報告しています。川を氾濫させるといういわゆる「水攻め」は昔から戦ではよく使われた手とはいえ、実際それを目の当たりにすると、やはりとんでもないことが分かります。

CNNは、ダム破壊による洪水でロシア軍の兵士らが流され、ドニプロ川東岸から退避する様子をウクライナ軍将校が目撃したと、伝えています。

CNNの取材にウクライナ軍のアンドレイ・ピドリスニイ大尉は、ダムが決壊した際、「ロシア側で逃げられた者は皆無だった。ロシア側の連隊は全員が洪水に巻き込まれた」とし、ロシア軍が意図的にダムを攻撃したとの認識を示した上でウクライナ軍による今後の攻勢を混乱させるためだったと述べています。

ピドリスニイ大尉は「左岸(東岸)は右岸よりも低いので、より多くの水が流れ込んだ。川岸にあった敵の陣地も水にのまれた。敵の陣地とは塹壕だけでなく普通の民家もあって、彼らはそこで寝泊まりしている」と述べ、ドニプロ川周辺の地勢から、東岸に位置していたロシア軍はダムの決壊で深刻な影響を被ったとコメントしています。

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4.日干しになるクリミア


では、今回のダム破壊と周辺の水没は、ウクライナとロシアのどちらに痛手になるのか。

西側の軍事専門家らは、主に、大反攻を始めたウクライナの足を引っ張るだろうと分析しているようです。現在ロシアは南部クリミア半島から東部ドンバスに至る地域を占領していますけれども、ウクライナは、その中間に位置するカホフカ水力発電所のダムがあるヘルソン州やザポリージャ原発があるザポリージャ州などを奪還することで、ロシア占領地域およびロシア軍を分断。ロシア軍の重要な物流補給路を断つことで、クリミア半島をはじめとする南部のロシア占領地を孤立させる計画があったとも見られています。

けれども、カホフカ水力発電所のダム破壊で、ドニプロ川東側地域が主に浸水した訳ですけれども、これによりウクライナ機甲部隊の東側への進撃が難しくなったという見方です。

アメリカ予備役陸軍中将スティーブン・トゥイッティ氏は「ダムが氾濫すれば水が農地などに流れ込んで土地が泥沼になり装甲車が泥にはばまれ通過できなくなる」と説明。ウクライナ軍関係者も「直後は本質的にその土地は湿地になるだろう。上陸作戦計画があるならば当分絶対にしないだろう」とコメントしています。

更に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「ダム破壊はウクライナの選択肢を狭めることになった。ロシアはウクライナ軍の潜在的進軍経路を制限し防衛に向けた時間を稼げるようになった」と伝えています。

それでも、一部はロシアも痛手を負った筈だとの見方もあります。

アメリカ、シンクタンク海軍分析センターのマイケル・コフマン軍事分析家は「ダムが破壊されドニプロ川東側のロシアの第1防衛線が浸水した。この災害はロシアが占領した領土に最も大きな影響を及ぼすだろう」と述べています。

また、防衛省防衛研究所の長谷川雄之研究員は「ロシア側とウクライナ側のどちらが破壊したのかはっきりしないが、軍事的な側面では多くの集落を水没させることで、この地域全体に攻め込みにくくするねらいがある。また、ダムの破壊によってクリミア半島に水を送ることが難しくなるので、クリミア半島での水の確保に大きな影響を与えるだろう……ダムの破壊が戦況に与える影響は大きい。水没した地域に軍隊が入っていくのは難しいので、今後この地域でどのような戦い方が展開されるのか注目だ。また、この地域に注目を集めさせて実はほかのところを軍事的にねらっているという陽動作戦の可能性についても考える必要がある」

長谷川氏の見立てどおりであれば、この地域が水没したことで、両軍の進軍はストップして疑似停戦状態になる反面、長期的にはクリミア半島が水の確保に苦しむことになりますから、ダムが修復されるまでの期間が長ければながいほど、クリミア半島が文字通り「干上がる」ことになります。

この事態はクリミアを編入しているロシアにとって痛手の筈で、裏を返せば、ウクライナにしてみれば、ロシア軍がダムを修復するのを邪魔し続けるだけで、クリミア半島を「日干しにする」ことが出来る訳です。

その意味では、必ずしも今回のダムの破壊がウクライナに痛手になるとも言い切れないと思います。痛手になるのは、「大反攻作戦」を実施する場合であって、大反攻を無理に行わず、クリミア半島を日干しにして降伏させることだって考えられなくもありませんから。

そういう観点からみれば、ダムの修復をロシア、ウクライナのどちらが先に行い、それを邪魔するのかしないのか、そうした点にも着目していきたい思います。



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